美容皮膚科専門医に聞く、肌と飲酒の深~い関係
葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト
お酒を飲む量を減らすと、肌の調子が良くなることに気づいた、酒ジャーナリストの葉石かおりさん。飲酒と肌にはどのような関係があるのか、美容皮膚科専門医である銀座ケイスキンクリニック院長の慶田朋子さんに話を聞きました。すると、スキンケアとは無縁だった男性でも、あることを1週間続けるだけで、劇的に肌の調子が良くなると教わりました。そのあることとは……。
このところ肌の調子がすこぶるいい。
コロナ禍、緊急事態宣言が初めて出された3年前と比べると、しっとり感とツヤが全く違う。
最も違うのは、吹き出物ができなくなったことだ。マスク生活の影響かと思っていたが、一時は皮膚科回りをするほど肌荒れに悩んでいた。
だが今は吹き出物とは無縁。いったい何がよかったのだろう? マスクは相変わらずつけているし、思い当たるとしたら、家で酒を飲むことを基本的にやめたことしか考えられない。
これまで酒と肌の関係なんて考えたことがなかったが、やはり飲酒量を減らすと肌の状態が良くなるのではないだろうか。周囲にいる酒豪の男性方の肌を見ると、荒れ気味の人がかなり多い。ひどい人になると、粉ふき芋かと思うほどガッサガサなのだ。
気のせいかもしれないが、酒豪かつ愛煙家の男性ほど、シミ、しわが多く、肌の状態が良くないような……。
ここはしっかりと、世の酒好きな男性のためにも、専門家に事実を確認せねばならない。
美容皮膚科専門医として、美に関するアンテナの高い女性から絶大な支持を受けている、銀座ケイスキンクリニック院長の慶田朋子さんに、肌と酒の関係についてお話を伺った。
寝酒を1週間やめるだけで肌荒れは改善する
先生、肌にとって飲酒は良くないのでしょうか?
「はい、飲酒はお肌にとってメリットよりも、デメリットのほうが大きいと言えます」(慶田さん)
ああ、できれば信じたくなかったが、やはり酒と肌は関係があったのだ。ではいったい酒の何が肌に悪影響を及ぼしているのだろう?
「飲酒はお肌にさまざまな影響を与えます。お肌の健康にとって大切なのは、睡眠、食事、排せつ、運動習慣、ストレスコントロールの5つ。このうち最も重要なのが睡眠です。睡眠は肌の再生にとって欠かせないもので、睡眠の質の低下は肌荒れの原因になります。眠れないからと寝る前にお酒を飲む方がいらっしゃいますが、全くの逆効果です。寝酒はよく眠れるどころか、アルコールの覚醒作用によって、中途覚醒を招きやすくなり、睡眠の質が低下します。毎晩のように寝酒をあおっていると、お肌はボロボロになってもおかしくありません」(慶田さん)
酒飲みならほとんどの人が経験していると思うが、寝酒をすると寝入りばなは良いが、必ずといっていいほど夜中に目が覚める。確かに酒を飲まずに寝た夜は、中途覚醒がほとんどなく、目覚めもいい。肌もつややかで、しっとりとしている。質のいい睡眠は、高価な美容液に勝るとも言える。
若い頃ならいざ知らず、お肌の曲がり角をとうに迎えた年齢なら、寝酒による睡眠の質の低下は肌にダイレクトに悪影響を及ぼすのだろう。
「毎晩のようにお酒を飲む方で、肌荒れに悩んでいるのであれば、まずは1週間、寝酒をやめることをお勧めします。それだけで、びっくりするぐらい肌荒れは改善するはずです」(慶田さん)
なるほど。これまでスキンケアとは無縁で、肌が荒れるに任せていた酒豪のおじさまたちにも、「まずは1週間、寝酒をやめる」というのをお勧めしたい。
「男性でも、若い世代ではスキンケアは常識になりつつあります。それよりも上の世代で、これまでスキンケアとは無縁だったという方は、基本として、洗顔、保湿、そして紫外線対策から始めてみましょう。洗顔料をよく泡立てて顔を洗い、ジェルタイプで保湿効果の高い化粧水や乳液を塗って、外で活動するときは日焼け止めも忘れずに塗るといいですね」(慶田さん)
寝酒をやめて肌荒れが改善したおじさまが、さらなる一歩としてスキンケアに気を配り出したら素敵だと思う。
憎き「アセトアルデヒド」がしわ、たるみ、くすみの原因に
だがしかし、慶田さんによると、肌への長期的な影響を考えると、寝酒をやめることだけでなく、やはり飲酒量にも気をつけなければならないという。
「お酒は、お肌に直接的な悪影響も及ぼします。お酒を飲むと、アルコールは胃や小腸で吸収され、主に肝臓で分解されます。そして、アルコールの代謝により生成される『アセトアルデヒド』が問題なのです。通常、アセトアルデヒドはさらに分解され、無害な酢酸になるのですが、お酒を飲み過ぎるとアセトアルデヒドの分解が追い付かず、体に長い時間とどまってしまいます。これにより、お肌にさまざまな悪影響が生じるのです」(慶田さん)
アルコールの代謝能力には個人差があり、酒を飲むとすぐ顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドの分解が遅い。そのため、いわゆる下戸のほうが、肌への影響は大きいといえる。
それでは、アセトアルデヒドは肌にどのようにして影響を与えるのだろうか。慶田さんによると、体のコゲともいわれる「糖化」が関わっているのだという。
女性誌の美容特集や、日経Goodayの記事などで、老化を加速させる主因とまでいわれる「糖化」というキーワード。これが、アセトアルデヒドと関係があるのだ(涙)。
「糖化は、体内の余分な糖がたんぱく質と結びつく現象のことです。この糖化が進むと、AGEs(終末糖化産物)という物質が生成されます。AGEsは肌の弾力を奪い、シミ、しわ、くすみなどを引き起こします。実はアルコールの分解過程で生じるアセトアルデヒドもまた、たんぱく質と結合し、アセトアルデヒド由来のAGEsを生成します。つまり、お酒をたくさん飲んで体内にアセトアルデヒドが長く存在すると、糖化が進み、老化が加速してしまうのです」(慶田さん)
AGEsとは、体内に存在する糖とたんぱく質が体温で加温されることによって結合した物質
この連載でもかつて解説したように、実際に飲む頻度が高い人ほどAGEsが体内に多く蓄積しているという研究もある(詳しくは「老化の主犯!? 怖い「糖化」はお酒を飲むと加速する?」参照)。
慶田さんによると、AGEsによって肌のコラーゲンなどのたんぱく質が変性・劣化すると、皮膚は硬くなってハリを失い、しわやたるみ、くすみの原因になる。しかも、劣化した肌のたんぱく質は、「古くて伸びた輪ゴム」のようなイメージだという。しかも一度そうなってしまうと、「元に戻るのは難しい」というから恐ろしい。
「酒+タバコ」は肌へのダブルパンチ!
「AGEsだけでなく、お酒のお肌に対する影響はまだあります」と慶田さん。
「体内でアルコールが分解されるときに、ビタミンB1が大量に消費されます。ビタミンB1は、糖質が代謝されてエネルギーが産出される際に補酵素として働きますが、お肌のターンオーバー(新しい皮膚ができて古い皮膚がはがれ落ちること)にも関わるものです。それが不足することによって、お肌が乾燥し、代謝も低下。すると、お肌のきめが粗くなり、透明感が失われます。またアルコールによる利尿作用によって脱水が促進されることも、お肌の乾燥へとつながってしまいます」(慶田さん)
しかも、酒飲みかつ愛煙家は、さらに注意が必要だという。タバコは人体にさまざまな害を与えるが、それが顕著に表れるのが肌なのだ。例えば、タバコに含まれるニコチンの働きにより毛細血管が収縮し、体のすみずみまで栄養が届かなくなってくる。すると、肌の再生能力が弱まり、吹き出物が出るなどのトラブルが起きる。
「タバコには多くの化学物質が含まれています。タバコを吸うとそれらの化学物質が体に入ってくるので、それに対抗しようと体の中で活性酸素が大量に生まれます。すると、活性酸素は細胞の『酸化』を招き、コラーゲンの分解を加速させるため、しわやたるみができていくのです。副流煙にも同様の作用があります。居酒屋でお酒を飲みながら副流煙を浴びるのも肌の酸化を促してしまいます」(慶田さん)
今でこそ喫煙できる飲食店は少なくなったが、副流煙を浴びながら酒を飲む日が続くと、やたら化粧のノリが悪かった記憶がある。気のせいではなかったのかもしれない。
また、酸化は体の「サビ」といわれる。酸化は、体の「コゲ」である糖化と手をつないで老化を促進させるという。なんということだ。
アルコールをストレス解消の手段にしてはならない
慶田さんによると、美肌のためには、良質なたんぱく質やビタミンをとることも大切だが、そうした栄養をしっかりとったからといって、酒を飲み過ぎていいことにはならないという。
この連載では、かつて、日本酒には肌にも良いアミノ酸が豊富に含まれていると紹介した(参考記事「日本酒は酔える化粧水?! アミノ酸たっぷりで肌にもよかった!」)。また、日本酒やワインに糖化を抑える効果が期待できることも解説している(参考記事「日本酒やワインが、老化の元凶「糖化」を抑える!?」)。しかし、だからといって日本酒やワインをガブガブ飲み過ぎては、肌の老化が進んでしまい、本末転倒なのだ。
「飲酒が習慣化して、お酒を飲まないと1日が終わった気がしない、ストレス解消ができない、という人は、自分の考え方や行動を見直したほうがいいかもしれません」(慶田さん)
夕方になると当たり前のように、缶ビールのプルトップを「カシュッ」と鳴らしてしまう酒飲みにとっては、頭の痛い言葉だが、惰性でだらだらと飲んでいるのであれば、この機会に見直してもいいかもしれない。
「お肌の問題だけでなく、飲み過ぎはさまざまな病気につながる恐れがあります。年齢を重ねるとだんだんお酒に弱くなり、アルコールが体に与える影響も大きくなってきます。そこで、日頃からつい飲み過ぎてしまうという方は、お酒を飲むのが日常ではなく、『特別な日』だと考えるのはどうでしょう。つまり、お酒は『ハレの日』の飲み物というわけです」(慶田さん)
私事で恐縮だが、コロナ禍にアルコール依存症になりかけたのをきっかけに、家飲みをほぼやめてから、私にとって酒を飲む日=スペシャルデーになった。「酒を飲むのは外食時」と決めてしまえば、家ではノンアルコールビールやレモンテイストの炭酸水でも満足できるようになった気がする。
「日常的にお酒を飲むのではなく、飲むのが特別な日だと考え、お酒を買い置きしないようにして、安いお酒ではなく高いお酒を選ぶようにすれば、飲酒量は自然と減っていくでしょう。逆に、安くてアルコール度数が高いお酒は、どんどん飲めて深酒につながるので、肌にとって害悪でしかありません」(慶田さん)
また、慶田さんは、飲酒がストレス解消になっているという人には、皮膚科のアトピー外来での治療が参考になるかもしれない、という。
「アトピー性皮膚炎の患者さんは、ストレスがかかると皮膚をかいてしまい、症状が悪化します。それがエスカレートすると、かくこと自体がストレス解消になってしまうのです。そういう患者さんには、日記を書いてもらい、どういうときにイライラしてかきたくなるのかを明確にし、行動パターンを見直します。かきたくなったときに、かくという行動を、深呼吸したり、お茶を飲んだり、ガムをかんだり、好きなタレントさんの写真や動物などの癒やし系動画を見たり、といったほかの行動に置き換えることができれば、症状が劇的に良くなることがあります。こうした行動変容は、お酒にも応用できるのではないでしょうか」(慶田さん)
なるほど。どんなときに酒を飲みたくなるのかを日記に書くことで可視化し、飲むという行動を別の行動に置き換えることで、ストレス解消を別の方法で行うということだ。
古来より酒はコミュニケーションを円滑にするものだと言われているが、飲み過ぎは健康を損ない、肌にもダメージを与える。今一度飲み方を見直し、肌を整えることを一考してみてはいかがだろうか。
[日経Gooday]