夫婦共生涯労働こそが最強の老後対策。。。

 

最強の老後資産形成は
夫が家事・育児をやること?

先日、Twitterを眺めていたら、ちょっと興味深い“つぶやき”が目に入ってきた。その内容は「最強の老後資産形成は夫が家事・育児をやることである」というごく短いツイートである。一見、老後資産作りと夫の家事は関係ないように思えるのだが、要するにこのツイートが意図するところは「夫婦共働きのススメ」ということなのである。それも、いわゆる「106万円の壁」や「130万円の壁」などを意識してパートで限定的に働くのではなく、妻もフル タイムの正社員で働いていることこそが最強であり、そのためには夫婦が協力して家事や育児をやるべきだというのがツイートの趣旨だと思う。これは全くその通りで、筆者も以前から夫婦共働きこそが最強の老後対策だと考えているが、それには3つの理由がある。

専業主婦世帯は
2億円以上損をする?

まず最も大きな理由は、言うまでもなく「収入」それも「生涯年収」が大きく増えることである。労働政策研究・研修機構が2019年に出している資 料※1によれば、大卒で正社員の場合、男性の生涯賃金は平均で約2億6900万円、女性の場合で約2億1700万円となっている。残念ながらまだまだ男女 の賃金差は大きいのが現状なのだが、それでも夫婦が共働きの場合だと、夫一人が働いて妻が専業主婦になる場合に比べ、生涯賃金は2億円以上差がつくことになる。

一方、高校卒の場合は男性が2億1100万円、女性は1億5000万円である。仮に夫婦共に高校卒であったとしても合計すれば3億6100万円となるので、大卒で男性一人だけが働く場合と比べても1億円近く多くなる。

後述するが、この金額はいずれも退職金は含まず、60歳まで働いた場合のものなので、これに退職金および60歳以降の就労による賃金を加えると、「1人」対「夫婦」で稼ぐ総額の差はさらに大きくなるだろう。

共働きなら「老後資金2000万円問題」も
解決できる?

次に2つ目のポイントだが、将来受け取る年金額についてもその差は大きくなる。令和2年度の年金額改定によるモデル年金額は、夫婦2人の場合で月 間22万724円だ。これは妻が専業主婦、夫が平均標準報酬43.9万円で40年間就業した場合の数値である。これが単身の場合だと男性の場合で約15万6000円、女性の場合は12万7000円が平均となっている。

ここでも生涯賃金における男女差が反映されているのは残念だが、それでも夫婦共働きの場合はこの金額を合計すればいいので、その額は28万 3000円となる。夫1人で働き続けていた家庭の場合の22万724円と比較すれば月額6万円あまり増えることになる。昨年話題になった2000万円問題は収入よりも支出の方が5万5000円多いために5.5万円×12カ月×30年=1980万円が不足するという計算になっていた。

ところがここでも仮に夫婦共働きであれば、同じ30年間で2160万円増えることになるので、仮に2000万円不足という場合でも共働きをしてき たのなら一挙に解決することになる。つまり、生涯賃金で見ても、その後の年金額で見ても、夫婦共働きはやはり老後資産形成のためには最強の手段と言えるのだ。

リスクだらけの世の中だからこそ
共働きが最強

最後は3つ目の理由である。夫婦共働きは別の意味においても今後ますます必要になっていくと考えられる。それは何かと言うと、リスクコントロールである。

言うまでもなく、今回のコロナ禍の中で、飲食業や小売業においては多くの店が閉店や廃業に追い込まれることとなった。ケースごとに状況は異なるので一概には言えないが、いずれにしても突然、職を失うことになった人は多い。

さらにコロナの感染が収まったとしても、ここから経営状態の厳しい企業や商店が破綻するケースは出てくるだろう。さらに皮肉なことだが、ワクチン の開発やウイルス自体の終息に伴ってコロナ禍が収まってくると、公的支援も縮小されるかもしれない。そうなると経営状況の良くない企業にとっては、ますま す厳しくなることも予想される。

そんな状況の中で、収入源が一カ所しかないというのは明らかにリスクである。サラリーマンといえども、ある日突然、職を失うということが今後現実 的に起こりえるからだ。もちろん最近増えつつある副業もそれなりに必要なことだろうが、やはり夫婦がそれぞれ別の仕事を持つ、それもできれば異なる職種や 業種の仕事に就くのが理想だろう。

退職後の収入の大きさも考慮に入れると
「長く働く」ことも重要

また、「夫婦共働き」に加えて「長く働く」ということも重要なポイントだ。前述したように冒頭で紹介したレポートで出てきた生涯賃金はあくまでも 退職金を含めず、60歳まで働いた場合を基準としているため、60歳以降も働いた場合はさらに金額が増える。現時点で、サラリーマンが60歳以降に働く場 合、引退する年齢の平均は男性が68.8歳、女性が66.2歳である(総務省「国勢調査」から)。この年齢まで非正規、フルタイムで働いた場合の賃金の合 計は男性の場合で言うと、退職金を含めて4000万円となっている。

 女性についてのデータは掲載されていないが、引退年齢が早いことと男性に比べて生涯賃金がかなり低いことも合わせて考えると、男性の半分ぐらいではないかと推定される。それでも合計すれば6000万円ぐらいとなる。老後資金形成の方法として、最強なのは夫婦共働きだろうが、それに加えて、「長く働く」ということも重要なポイントであることがわかるだろう。

60歳で定年を迎えた後、68歳まで働くのは嫌だと思う人もいるだろうから、そういう人はもちろん働かなくてもよい。ただ、現在では男性の平均寿 命は81歳、女性は87歳となっている。かつて定年年齢が55歳だった昭和26年当時の平均寿命は、男性で65歳である。つまり仕事から完全引退した後、 残りの人生は10年ぐらいしかなかったのである。そこで、これを今の平均寿命81歳に置き換えて考えてみると70歳まで働いても別に不思議ではない。現に 高年齢者雇用安定法が今年の3月に改正され、来年(2021年)4月1日からは、企業に対して70歳までの就業機会の確保が努力義務として定められた。時 代はまさに「長く働く」方向へ向かいつつあるのだ。

世の中には老後の資産形成のために投資をすべきだという声は多い。筆者も投資は好きだし、それ自体を否定するものではないが、投資をするには自分でリスクを取る覚悟が必要だ。投資という不確実な手段を老後に備える方法の第一優先とすべきではない。やはり“夫婦共に”“長く働く”ということが最強の 老後資産形成法と考えるべきだろう。

(経済コラムニスト 大江英樹)

[DIAMOND online]

不安の根源は他者への依存従属心、、、まずは何より自らの健康、そして生活レベルの投資に基づく自営生涯事業の創設、弛まぬ調整と変化こそが自由への扉。。。

 

ジム・ロジャーズ「年金はますます目減りする」

逃げ切れると思っているなら大きな間違いだ

「日本は成長しないかもしれないが、年金もあるからなんとかなるはず」・・・。だが、ロジャーズ氏は「そういう人ほど痛い目に遭う」と言う。

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。今回は『ジム・ロジャーズ 大予測:激動する世界の見方(東洋経済新報社) 』から、海外投資と海外移住、子供の教育についてお伝えします。

もはや日本にいても、海外投資が不可欠

大投資家のジム・ロジャーズ氏は断言します。「残念ながら、これから日本は確実に貧しくなっていく。財政赤字が膨らんでいく一方で、日銀が金融緩和でお金を刷り続けている以上、将来、円の価値は確実に下がるからだ。円がいまの価値を保っているうちに、早急に海外に資産を移すことを勧めたい」

日本にいると、日々のニュースは「今日の新型コロナウイルス感染者は何人出たか」や「特別定額給付金はいつになったら届くのか」などの話ばかりのようですね。

しかし「その裏」では、英格付け会社のフィッチ・レーティングスがコロナの影響で邦銀を格下げしています。例えばみずほフィナンシャルグループとその子会社の存続性格付けは「BBB +」へと引き下げられました。これに対して私が今住んでいるシンガポールの3大銀行の同格付けは「AA -」と、日本のメガバンクよりも高格付けです。

日本人は依然として銀行の預金保険や保護される金額の範囲を気にする人が多いかもしれません。しかし、私は、そのような預金保護の話は、他の国の人からは聞いたことがありません。むしろそれよりも、フィッチのような会社が行っている銀行の格付けや財務基盤を見て、お金を預けるかどうか判断をしている人が少なくありません。

ロジャーズ氏はこう言います。「現在、多くの資産を持っている高齢者たちは、基本的には円高の時代を生きて来た人たちだ。円で資産を持っていれば、その価値は相対的に上がっていった。だから、現金を主体に貯金を増やしていくという行動は、大きく間違ってはいなかった」。

しかし、これからは円の価値が下がることを考えて行動しなければならないのです。ロジャーズ氏は警鐘を鳴らし続けます。「もちろんインフレにも警戒が必要だ。日本の財政はもはや危機的な状況にある。ここまで膨らんだ財政赤字を大きく改善することなどできないし、巨額の借金の返済などできるはずがない。歴史上、財政赤字で窮地に陥った例はたくさんあるが、いずれもきちんと返済できた例はない。結局はみな猛烈なインフレに襲われ、国民の資産価値は大きく失われることとなった」

年金がもらえても、円安とインフレで目減りする

すでに現役を退いている人はもちろん、現在50歳よりもちょっと上の世代も「自分たちの生きている間は大丈夫だろう」と思っている人が多いかもしれません。

しかし、ロジャーズ氏は言います。「日本円で保有する資産と年金をあてにしている人が多いのは想像できる。だが、そういう人ほど痛手が大きくなる。 額面通りの金額を受給できたとしても、円安とインフレで実質的な価値は大きく目減りしてしまうからだ。財政破綻した旧ソ連の年金が、猛烈なインフレでその価値をほとんど失ったことを知るべきだ」

現在、会社員と専業主婦の夫婦2人の標準的な年金額は月22万円程度です。仮に30年後も同程度の金額がもらえたとしても、その時のインフレ率や円の価値次第では、現在から生活水準が大きく下がってしまう可能性もあるのです。

日本人がインフレのことを考えないのは、「失われた30年」でデフレ状態に慣れ過ぎているからかもしれません。しかし、戦後のインフレなど日本でもインフレが酷かった時代も多くあり、今後も同じような状態が永遠に続くとは言い切れません。

しかし、海外投資をすることによって、成長をしている地域から配当を得ることができる可能性が高まります(日本への投資がまったくダメということではありません)。

「1980年代や1990年代には、一般人が海外に投資するのは、ややハードルが高かったかもしれない。しかし、いまでは普通に海外の口座がつくれる。そもそも面倒くさいことが嫌いな人は、海外の株や債券のETF(上場投資信託)に投資すればよい」

実際、SBI証券や楽天証券などのネット証券ではアジアやアメリカ株などの取引が簡単にできます。税金の申告は必要ですが、今では、海外のオンライン証券や銀行口座なども開けることができます。

さらに言えば、日本にいて将来を心配するだけではなく、いっそのこと日本脱出をしてしまうという手もあります。そのためには、やはり英語などの語学ができる方が有利です。実際、日本でも子供の英語教育がちょっとしたバブルとなっています。

子供に「稼げる外国語」を身につけさせる

ロジャーズ氏はアメリカ人ですが、今後はどこが世界の成長の中心となるのかを見極め、早くから行動していました。「私がアメリカを離れてシンガポールに移住を決めた理由の1つは、2人の娘たちに英語とあわせて中国語を習得してほしいと思ったからだ。いま世界の共通語は英語だが私は20年以上も前か ら、将来的には間違いなく中国語の影響力が大きくなることを確信していた」

実際、シンガポールのローカル校では英語と中国語のバイリンガル教育が行われています。また、シンガポールにある2つのアメリカンスクールでも、授 業の半分以上を中国語で行う特別クラスが複数用意されており、欧米人にとても人気が高いのです。英語が母国語の子供達でも、幼稚園など低年齢から中国語やスペイン語などの外国語を習います。

シンガポール人の銀行員の中にも、英語と中国語ができ、かつ日本語も話せるという人も決して少なくありません。英語と中国語ができるのは当然で、そ の他にもう一つ言語ができると優位性があるようです。母国語しか話せないという人は、これからの世界では、「絶滅危惧種」になっていくのかもしれません。

「長女が14歳の頃、私は彼女に『外に出て仕事を見つけてきなさい』といった。それまでは家の手伝いをすると小遣いをあげていたが、そろそろ外で働 く経験をしてもらいたかったからだ。私は、マクドナルドで時給8ドルのパートタイムの仕事を探してくるだろうと思っていたが、彼女はなんと中国語を教える時給25ドルの仕事を見つけてきたのだ」

すでにロジャーズ氏の長女は、シンガポールのローカル有名校を経て、今は英国のボーディングスクールで学んでいます。しかもインスタグラムでも得意 の中国語を活かしてオンラインレッスンを行うなど、精力的に活動をしているようです。実は、私たちがロジャーズ氏へのインタビューの際には、彼の次女も やってきて、英語、シングリッシュ(シンガポール訛りの英語)、普通の中国語などを流ちょうに話してくれました。

「当初はアメリカにいて、娘たちに中国語を学ばせようと考えていた。だが、それでは私が思うようなレベルには上達しないとわかった。だから、家族でシンガポールへの移住を決めた。中国をネイティブランゲージとする環境に身をおいたようがよいと思ったのだ。もうシンガポールに移住して10年以上になる が、いまでは娘たちは中国語を流ちょうに操るようになっている。同じように中国語圏に移住をするなら、カナダのバンクーバーや台湾も良い場所だと思う」

日本人が、ネイティブスピーカーが少ない日本国内で英語を学ぶのは困難です。ロジャーズ氏の娘もシンガポール訛りのシングリッシュを話すようになっ たので、旅行で香港に連れて行き、発音が通じるかどうか試させたそうです。今ではアメリカ英語、シングリッシュの両方と、中国語も流暢に話しますが、当時は訛りがあって海外で英語が伝わらなかったようです。

日本の金融機関も富裕層へのサービス強化が不可欠

5月1日の記事「ジム・ロジャーズ『必ず最悪の結末』が訪れる」でも触れましたが、今回、ロジャーズ氏のメインインタビュアーを務めたモンラッシェ・キャピタル社はシンガポールで「ファミリーオフィス」のサービスを行っています。

このサービスは富裕層の海外移住や子供の教育など、生活周りから資産運用や税務アドナイスなどまでを一括して行うサービス業を言います。同社も、住 宅のwi-fiのセットアップから子息の学校選びや願書の提出の支援まで行っていると言います。さらに言えば、シンガポールの銀行は自動車の売買仲介、新電力の契約斡旋、不動産の売買仲介なども行っているところもありますし、欧州系のプライベートバンクなどでも子供の願書の手伝いなどのファミリーサービスも行っているところもあります。

今後、少しでも収益構造を改善するために、邦銀もファミリーサービスなどに乗り出す流れになるかもしれません。ロジャーズ氏も収益環境の厳しい地方 銀行などは、例えば人材関連やその他のビジネスへの関与を高めていくようにするなど、生き残りのための工夫が絶対に必要だと主張します。

教育も金融サービスも、小さな島国の中だけで生活していると、どうしても自国でのサービスがすべてだと思いがちです。しかし、世界は広く、選択肢はたくさんあるのです。少なくとも、気づき始めた日本人の富裕層の間では、静かな「日本脱出」が流行り始めています。


花輪 陽子 : ファイナンシャルプランナー

[東洋経済ONLINE]

移住の現実

 

■広がるテレワーク移住 ほど良い田舎暮らしのシビアな現実

 

広がるテレワーク移住 ほど良い田舎暮らしのシビアな現実

 

新型コロナウイルス禍のテレワーク普及によって、郊外型の一戸建て住宅が見直されている。さらに“田舎暮らし”を真剣に考える人も増えているようだ。

ネット環境さえ整っていれば仕事ができる職種の人にとっては、感染者が増え続ける密集した都会よりも地方の方が安心して暮らせるし、生活コストを下げられるメリットもある。

そこで、都会からそれほど離れていない長野県、山梨県、静岡県といった“程よい田舎”が注目を集めているという。しかし、勢いに任せて移住すると、とんでもない目に遭う恐れもあるから注意が必要だ。移住に詳しい経済ジャーナリストの中村知空氏が言う。

「田舎暮らしはよそ者に冷たいとか、逆に近所付き合いが濃厚過ぎるといった人間関係の問題が指摘されます。ただ、見ず知らずの土地に行く場合、最も注意していただきたいのが立地です。昨秋の台風の被災地の中には旧河道だったところもありました。

私もテレワークにメリットを感じ、2011年から12年にかけて長野県小谷村の建坪80坪の一軒家を借りて暮らしたことがあります。移住した時期が春で、当初は広々した空間がうれしく、きれいな景色に酔いしれていましたが、冬場になると状況が一変。記録的な大豪雪の年と重なったこともあり、連日、2時間近く雪かきをしていました。こうなるともう仕事どころではありません。広い家は光熱費がかさむため、生活コストを下げることもかないませんでした」

中村氏は“お試し”で賃貸にしたため、別の場所に引っ越すことができたが、これが購入物件だとそうもいかない。新潟・越後湯沢駅から近い格安リゾートマンションでも売却に数年間かかることもあるという。

「そもそも、このままテレワークが定着するかも不透明です。日本の働き方はプロセス重視でテレワークと相性が良くありません。09年の新型インフルエンザの流行時や11年の東日本大震災後も普及すると思われたのに、いつの間にか戻っています。パソコン導入時にペーパーレス化が進むといわれながら、いまだに企業の会議で紙資料を使うことが多いのと同じです。たとえ交通アクセスが便利な“程よい田舎”であっても、テレワーク態勢が終わって通常勤務に戻った時に苦労することになるでしょう」(中村知空氏)

緊急事態宣言解除後、すでにテレワークと出社を交互に織り交ぜた“なし崩し出社”も増えている。移住を検討している人は、いま一度、胸に手を当ててじっくり考えるべきだろう。

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体が硬い男性に勧めたい驚異「1分ストレッチ」 “筋肉と腱が伸びる能力”は非常に大切

昨今、「体を柔らかくしたい」というニーズが高まっています。体が硬いとケガをする危険性も高くなりますし、柔軟性は高めておきたいものですが、「いい歳(とし)だからもう無理かな……」と諦めてしまっている人も多いかもしれません。

ですが、「どんなに年齢が高くても、体は柔らかくできる」というのは、フィギュアスケーターなどのプロアスリートから一般の人々まで幅広く指導を行うストレッチデザインの村山巧氏です。70代の高齢者もベターッと開脚できるようになるという、科学的で簡単な新ストレッチを教えてもらいました。

柔軟性が低いとケガをしやすくなる

私は、プロアスリートだけでなく、一般の方々にも柔軟クラスを開催していますが、とくに体の硬い方からのリクエストでは「前屈でベターっと手を床につけたい」というものがいちばん多いです。

柔 軟性を手に入れることは、「できた!」という達成感のためだけではありません。柔軟性、イコール“筋肉と腱が伸びる能力”は人間にとって非常に大切なものです。柔軟性が低く体が硬いと、ケガをしやすくなってしまいます。体が硬くなってしまったお年寄りにケガが多いのは、このことも大きな原因です。

ですが、「歳(とし)だから硬いのは仕方ない」かというと、そうではありません。体が硬くなる本当の原因は加齢自体ではなく、ストレッチ不足にあります。人間の体は使わない筋力や機能は年齢に関係なくどんどん退化するようになっています(難しい言葉では「廃用性萎縮」といわれます)。

例えば、足を骨折してギプスで固定し、1カ月間病院のベッドで寝たきりになると、筋力に自信がある20歳の男性でも驚くほど足が細くなってしまいます。逆に、80歳のおじいちゃんボディビルダーがいるように、日々鍛えていれば高齢であっても筋肉は成長します。

体の柔軟性も同じです。つまり、年齢に関係なくストレッチを日々の習慣にしていれば高齢者であっても体は柔らかくなりますし、していなければ若くても体は硬くなります。

実際に、クラスで私が指導する「PNF(脳科学)」×「筋膜リリース」の2つの科学的アプローチを掛け合わせた手法を実践していた75歳の女性が、ベターッと開脚できるほど柔軟な身体を手に入れています。

ストレッチを日々意識的に行わないと、日常生活の中では必要ない柔軟性がどんどん失われ、どんなに鍛えた人でも「普通の人」になっていきます。

前屈で手がベタっと床につくというのは、体の柔軟性を表す1つの指標です。

そこで今回は、前屈ができない参加者の皆さまから「魔法みたい」と言われる、簡単なエクササイズをご紹介します。

最短で効果を出す“トップギアストレッチ”

先述したとおり、私の確立したストレッチは、「PNF(脳科学)」×「筋膜リリース」の2つの科学的アプローチの観点を取り入れたものです。

PNF とは、もともとリハビリの世界で発達した筋コンディショニングの手法であり、筋肉を強く収縮させた後に弛緩させることで脳の運動系の神経を刺激し、短時間で筋肉や関節が本来持っている可動域を覚醒させるというものです。このPNFに基づくエクササイズを「脳科学アプローチ」と呼んでいます。

筋膜という名前は近年、よく耳にするようになりました。筋膜は全身を覆っている薄いボディスーツのようなイメージで、筋肉を保護したり、結合したり、円滑に動かせるようにする働きがあり、「第2の骨格」と言われるほど重要な役割を持っています。

こ の筋膜はずっと座っていたり、スマホを見続けたり、いつも右手でカバンを持って歩いたり、といった普段の生活のなかで一部の筋肉を使わずにいたり、逆に一部に負担をかけたりすることでどんどんゆがんでいきます。軽微な歪みは入浴・睡眠で解消されますが、ゆがみを放置すると次第に筋膜は固着して動きが悪くなってしまいます。

それが長年蓄積されると筋膜はいつしかガチガチにコリ固まり、筋肉や関節の可動域を制約するようになっていきます。

固着した筋膜のゆがみを正し、あなた本来の可動域を取り戻すエクササイズが筋膜リリースです。

前屈の際には頭から足裏まで体の後ろ側全体が伸びるのですが、ここでは経験上、とくに効果の大きい3カ所(足の裏/ふくらはぎ/ももの裏面)を取り上げます。

これらのストレッチは、最短で効果を出す“トップギアストレッチ”です。体の硬さには絶大な自信があった57歳の男性が、たったの8分のストレッチで床に指 がつくようになるといった例も多数ありますし、今では「柔軟王子」というありがたい愛称をいただいている私も、27歳まではガチガチの超合金のような体で した。

皆さんも、ご自身の体がどれだけ柔らかくなるかを確かめながら楽しく行ってみてください。

脳科学ストレッチによるアプローチ

脳科学アプローチでは、①短時間負荷をかけて抵抗し、②脱力する、という動きが特徴です。1、2で息を止めて力を入れる、3で大きく息を吐いて脱力、をリズミカルに繰り返します。「イチニ、サーン」と覚えてください。
<足の裏の脳科学ストレッチ>

手でつま先を反らすように力をかけ、足の裏の力で2秒抵抗したら、2足の裏を2秒脱力します。3回繰り返します。

 

<ふくらはぎの脳科学ストレッチ>

① ひざを手で押し下げ、それに抵抗してかかとを上げるようにふくらはぎに力を入れます。2秒抵抗します。

② ふくらはぎを2秒脱力します。3回繰り返します。

まず、エクササイズ前に立って前屈をし、手の指が床からどれくらい離れているのか、あるいはどれくらい床につくのか、はじめの状態を確認し、体の感覚を覚えておいてください。エクササイズ後に改めて前屈をしてみてください。ずいぶん体を倒しやすくなったことを実感できるでしょう。

<もも裏面の脳科学ストレッチ>

① 足首をつかんで上体に引き寄せ、もも裏側の力で2秒抵抗します。

②もも裏側を2秒脱力します。3回繰り返します。

※ひざが曲がると、もも裏側が伸びませんのでひざを伸ばして行いましょう。足首に手が届かない場合はハンドタオル等を足首に巻いて行ってください。

筋膜リリースによるアプローチ

それでは、筋膜リリースの手法に移りましょう。同じく「足の裏」「ふくらはぎ」「もも裏面」の3つにアプローチします。それぞれ1分を目安に行ってください。

<足の裏の筋膜リリース>

①手の指先で強めに足裏を押しほぐします。ゴルフボールやラップの芯などを踏んで転がすのも大変効果的です。真ん中だけでなく内側・外側もほぐします。

<ふくらはぎの筋膜リリース>

以下の写真ではフォームローラーという専用のツールを使用していますが、ビール瓶や水筒など円筒形のもので代用することが可能です。身近なもので工夫してみてください。

① ローラーにふくらはぎを乗せ、左右に揺らします。

② 余裕があればふくらはぎの上に、反対側の足を乗せて揺らしてみましょう。

今回は、下半身にフォーカスしたエクササイズを紹介しましたが、筋膜は全身でつながっていますので、1カ所の歪みがほかの部位の動きを制限します。拙著『自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ』を参考に、最短で全身の筋膜をゆるめ、柔軟性を高めるストレッチエクササイズを試してください。

著者:村山 巧
(画像:『自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ』より)

[東洋経済オンライン]