飲酒が口内環境に及ぼす影響(2/2)

 

一生健康で酒を飲むために気をつけたい、「爪楊枝」の使い方

居酒屋などで爪楊枝で歯茎を刺激するのは絶対NG!

葉石かおり
エッセイスト・酒ジャーナリスト

久里浜医療センター歯科医長の井上裕之氏から、「日常的な大量飲酒は口内環境を悪化させ、虫歯や歯周病を招きやすい」という話を聞いた酒ジャーナリストの葉石かおりさん。さらに、歯周病菌は全身に回って、心筋梗塞や糖尿病、認知症のリスクにも影響を及ぼすと聞き、驚きます。歯周病対策として、どのようなお酒の飲み方をすればいいのか、また歯磨きなどの口腔ケアのやり方についても、井上氏にお話を伺いました。

前回、日常的な大量飲酒は口内環境を悪化させ、虫歯歯周病を招きやすい、という話を久里浜医療センター歯科医長の井上裕之氏から聞いた。

アルコールによる脱水作用が口内環境を悪化させやすく、また酔っぱらうと歯磨きが不十分になることなどが原因だと考えられる。また、糖分たっぷりの酒も歯に悪影響を及ぼすという。

筆者の周囲の大酒飲みを思い浮かべてみると、口腔環境が悪い人が結構な数でおり、歯周病から歯を失っている人もいる。改めて自分の酒の飲み方を考え直さねばと思った。

さらに恐ろしいことに、「歯周病の影響は、口腔環境だけではなく全身に至る」と井上氏は言う。

自分は虫歯になりやすいと思っていたため、虫歯の対策については気をつけていたが、歯周病の対策が十分かどうか不安になってきた。

そこで、井上氏に、歯周病についてさらに深掘りして聞いていくとともに、歯周病のリスクを高めない酒の飲み方についても解説してもらった。

歯周病菌が糖尿病や認知症のリスクにも影響!?

先生、歯周病が口腔環境だけでなく、体全体に影響を及ぼすというのは、いったいどういうことなのでしょうか?

「歯周病は、『歯周病菌』の感染によって引き起こされる炎症性の感染症です。昨今の研究によって、歯周病菌は、口内環境だけでなく全身に影響を及ぼし、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、そして認知症といった病気にも密接に関わっていることが明らかになってきました」(井上氏)

歯周病によって歯を失う危険性があるだけでなく、心筋梗塞や糖尿病のリスクにもつながるなんて……。歯周病菌は、どうやって体に悪さをするのだろうか。

「歯周病によって歯肉が傷つくと、歯周ポケット内がただれた状態になり、毛細血管がむきだしになります。これによって、血管を通して歯周病菌が全身へと回ってしまいます。歯周病菌は血液の成分であるたんぱく質や鉄分を好むため、血管内に定着しやすいのです。また、歯周病菌を食事の際などに飲み込み、それによって全身へ菌が回ってしまうルートもあります」(井上氏)

目に見えない歯周病菌が、気づかないうちに血管を通して全身に回り、命に関わる重篤な病気のリスクも上がってしまうなんて、考えただけでも恐ろしい。

「特に注意しなくてはならないのは、糖尿病です。歯周病があると体内に炎症物質が増え、インスリンの効きが悪くなることで、血糖値が下がりにくくなります。逆に、糖尿病があると血管がもろくなって歯肉が傷みやすくなり、歯周病が進みやすくなる傾向があります。つまり、糖尿病と歯周病はお互いに悪影響を及ぼしてしまうのです」(井上氏)

酒好きの人は、不摂生から血糖値が高めになってしまうことも多いので注意が必要だ。

「オーラルフレイル」が将来の寝たきりを招く

井上氏はまた、「歯周病によって歯を失うと、将来のフレイル(虚弱)につながる恐れがあります」と話す。

フレイルとは、加齢とともに筋力や認知機能などが低下した、いわば健康な状態と要介護の状態の中間だ。

「歯を失うと、咀嚼する機能が落ち、それが食事量の減少と体重の減少につながることがあります。この状態を『オーラルフレイル』と呼びます。オーラルフレイルになって体重が減少すると、次第に筋力も低下していきます。筋力が低下すると身体機能が低下し、転倒しやすくなり、最悪の場合は寝たきりになることも。また、オーラルフレイルによって咀嚼や嚥下の機能が落ちると、誤嚥性肺炎も引き起こしやすくなります」(井上氏)

これはもう、「負のサイクル」としか言いようがない。なるべくなら歯周病で歯を失わないよう、対策をとりたいものだ。

酒を飲むときはつまみも食べることが歯周病対策に

それでは、どのような酒の飲み方をすれば、歯周病のリスクを下げることができるのか、井上氏にアドバイスを聞いた。

「まず、お酒を飲む際には、水分をしっかりととることです。アルコールには利尿作用があり、それによって体が脱水状態になってしまいます。口腔内の唾液が少なくなり、喉が渇き、口の中がネバネバになった経験がある人は多いでしょう。これを防ぐには、アルコールによって失われていく水分を補えばいいのです。一般に、ビールを1リットル飲むと、1.2リットルの水分が体外へ排出されるといわれています。お酒と同量、またはそれ以上の水分を一緒にとるようにするといいでしょう」(井上氏)

日本酒の業界でも、日本酒と一緒に水を飲むことを以前から勧めている。確かに水分をきちんととっていると、少し深酒しても、翌朝に不快な口の渇きがほぼない気がする。「酒と一緒に水を飲むなんて邪道」などと言わず、口腔環境のためにも水分をとるようにしよう。

「水を飲むことに加え、おつまみを食べながらお酒を飲むのも大切です。食物をきちんと噛むことで、唾液が出やすくなるからです。何も食べずにお酒ばかりを飲んでいると、物を噛まないことに加え、アルコールによる脱水作用によって、唾液が分泌されにくくなり、口腔内がさらに渇いてしまいます」(井上氏)

前回の話にもあったように、唾液は口腔内を清潔に保つのに欠かせないもの。サラサラの唾液の分泌を促すためにも、つまみを一緒に食べることが大事なのだ。

「すきっ腹だと、つい飲み過ぎてしまうこともあります。つまみを食べながらお酒を飲むことで、体への負担が軽くなります。口腔環境はもちろん、体のためにもつまみとともに飲むよう心がけましょう」(井上氏)

すきっ腹で流し込むビールの爽快感といったらないのだが、そこは歯周病予防のためにもグッと我慢……、ということか。

おつまみには、噛み応えのあるエイヒレやスルメ、鶏のもも肉、牛の赤身肉などがお勧め。また、唾液の分泌を促す酢の物もよさそうだ。

「3カ月に一度」は歯科医院に通う

さて、飲み方に加え、気になるのは普段のケアだ。前回、歯磨きが十分でなかったりすると、口の中の細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつく「歯垢(プラーク)」ができると聞いた。歯垢の中には歯周病菌がたくさん存在しているという。歯周病対策としては、何より毎日の歯磨きが重要になる。

しかし、歯垢は数日経つと石灰化して「歯石」へと変わる。すると、通常の歯磨きでは取れなくなるため、歯科医院で取り除いてもらわなければならない。そのため、定期的に歯科医院に通うことが大切なのだ。

「歯石が一番たまりやすいのは、下の前歯です。歯を磨いた後、鏡でチェックし、歯石がついてきたなと思ったら、歯医者へ行くようにしましょう。また、歯茎が腫れたり、出血したりしたら歯医者へ行くという方もいますが、そういった自覚症状を感じる前に歯科医院を受診するほうがベターです」(井上氏)

歯周病の初期は、歯茎の出血や腫れ、歯茎が下がる、口臭などの症状が見られる。そうした症状に気づいてから受診するよりも、「3カ月に一度」のように定期的に受診したほうが、歯周病対策としてはよいという。

「定期的に歯医者に来れば、虫歯があっても早い段階から治療を始めることが可能です。また、銀歯やセラミックなどの詰め物をしている人は、こちらも定期的に診てもらうようにしましょう。天然の歯に比べ、人工物は固く、すり減り方に差があるため、噛み合わせに問題が生じることがあります。また、時間が経つと詰め物が緩んでしまうこともあるので注意が必要です」(井上氏)

爪楊枝で歯茎を刺激するのは絶対にNG

ケアといえば、毎日の歯磨きについては筆者も頑張っているつもりだ。電動歯ブラシに加え、水流で歯間を洗い、さらにはデンタルフロスや歯間ブラシでケアをしているのだが……。

「それは頑張りすぎです(笑)。基本としては、歯茎と歯の境目をきれいに磨くことが大切です。加齢によって歯と歯の間があいてくるので、歯間ブラシはもちろん効果的ですが、やりすぎると隙間が広がってしまい、食べ物のカスが挟まりやすくなります。それがかえって虫歯や歯周病の原因になるので、やりすぎは禁物です」(井上氏)

ショック! 「毎食しっかりケアしているから安心」と思っていたが、やりすぎだった可能性もあるとは。歯科医院では歯の磨き方も教えてくれるとのことなので、この際きちんと習うことにしよう。

「あと注意してほしいのが、爪楊枝の使い過ぎです。居酒屋でよく目にするのが、爪楊枝を2つに折って、その先端で歯茎をギューギュー押している年配の男性がいますよね。これは歯茎にとって非常によくない。歯肉が傷つき、歯茎が下がってしまいます。酔っていると力の加減も分からなくなって、血が出るまでやってしまう人もいると思います。これはすぐにやめてください」(井上氏)

これを聞いて、ドキッとした人も少なくないのではないだろうか? しかし歯の間に挟まったカスを取るための爪楊枝が、逆効果になりうることがあるとは、これも初耳。歯や歯茎は、もっと丁寧に扱ってやらないといけないようだ。

一生健康で酒をおいしく飲むためには、体を健常に保つことが第一。そのためには飲み過ぎないことはもちろんだが、口腔内をいい状態でキープすることも実は欠かせない。歯周病を防ぐためにも、酒量、飲み方に加え、日常的な口腔ケアを見直そう。

[日経ビジネス]

飲酒が口内環境に及ぼす影響(1/2)

 

お酒をよく飲む人は歯が抜けやすい? アルコールと口内環境の関係

飲み過ぎると口の中が乾燥し、虫歯や歯周病のリスクが高まる

葉石かおり
エッセイスト・酒ジャーナリスト

大酒飲みの人ほど、歯が欠損していたり、虫歯や歯周病などになりやすいのではないか、と疑問を持った酒ジャーナリストの葉石かおりさん。深酒をした日には、歯を磨かずに眠ってしまうことがあり、それも問題なのではと感じているそうです。アルコールと口内環境の関係に詳しい、久里浜医療センター歯科医長の井上裕之氏にお話を伺いました。

酔っぱらっている方を中心に、面白おかしくインタビューしているバラエティー番組を見て、ふと気づいた。

「歯が欠損している人が多い」と。

単なる偶然かと思ったが、筆者の周囲の大酒飲みを見渡してみると、口腔環境が悪い人が結構な数でいる。

還暦を前にすでに残存歯が6本しかなく、部分入れ歯になった人もいれば、重度の歯周病で歯が抜け落ちてしまった人もいる。5年以上歯科医院に行っておらず、虫歯や歯石を放置しっぱなしの人もザラだ。

筆者の場合は、虫歯になりやすいということが経験から分かっているので、3カ月に一度は歯科医院に通っている。

いや、ちょっと待って。もしや「虫歯になりやすい」というのは、日常的な飲酒が影響しているのではないだろうか?

そういえば、深酒をした際、歯も磨かず化粧もしたまま寝てしまったことがあった。そんなことが影響して、虫歯になりやすかったりするのだろうか?

口腔環境が気になるお年頃の酒飲みのためにも、ここは真意を確かめておく必要がある。飲酒と口腔環境について詳しい、久里浜医療センターの歯科医長で歯科医師の井上裕之氏にお話を伺った。

アルコール依存症の人は虫歯や歯周病のリスクが高い

先生、お酒を日常的に大量飲酒している人は、口腔環境が悪い傾向があるのでしょうか?

「当院に診察に訪れるアルコール依存症(使用障害)の患者さんを診ていると、決して口腔環境がいいとは言えません。歯が全部で28本ある中で、虫歯が20本あるような人もいます。25~70歳以上のアルコール依存症の方437人を対象に調べたデータで、平均して5.7本の虫歯があるという報告もあります。もちろんこれはアルコール依存症の方に限った話ですが、お酒をよく飲む人も、同様に口腔環境に悪影響があると考えられます」(井上氏)

平均で5.7本といったら結構な数ではないか。しかも、この報告では、40~50代に限ると虫歯の平均は7本近くになるという。やはり大量飲酒は、口腔環境を悪化させるのだろう。それはいったいなぜだろうか?

「アルコールで口腔環境が悪くなる原因は、大きく分けて2つあります。1つはアルコールの脱水作用により、口腔内の唾液が少なくなることです。二日酔いになると、喉がカラカラ、口の中がネバネバになりますよね。あの状態が口腔環境にとっては最悪なのです」(井上氏)

なんと、体から水分がなくなって、口腔内の唾液が少なくなることが問題だったとは。唾液が減ると、虫歯などになるリスクが上がるのだという。

「唾液は、唾液腺から分泌されます。唾液腺には、大唾液腺と小唾液腺があり、主として大唾液腺から唾液が分泌されます。さらに大唾液腺は耳下腺、顎下腺、舌下腺の3種類に分かれ、それぞれから分泌される唾液の性質は異なります。主に耳下腺から分泌されるサラサラの唾液は口腔を洗い流し、清潔に保ってくれます。しかし、二日酔いのときはサラサラの唾液が不十分で、口の中がネバネバした状態では汚れが取れにくいため、口腔内で菌が繁殖しやすくなってしまうのです」(井上氏)

唾液に種類があるなんて、恥ずかしながら知らなかった。井上氏によると、「大量飲酒をする人は、食事の量が少ないことも唾液の分泌に影響を与えている」という。

「日常的に大量飲酒をしている人の中には、お酒が主体で食べる量が少ない人もいますよね。アルコール依存症の方がまさにそうで、食事をしないためやせてしまっています。肥満の方はまずいません。お酒しか飲まなくなると、咀嚼(そしゃく)が減り、唾液も減っていきます。さらに、水を飲まずにお酒ばかり飲むので、脱水症状になり、口腔内が渇いてしまいます」(井上氏)

どうやら唾液は、私たちが想像している以上に、口腔環境にとって重要なものらしい。飲酒によって唾液に悪影響があるとは、大問題ではないか。

「唾液には、殺菌効果のほか、歯の再石灰化を促し、口腔内のpHを中性に保ち、食べカスを洗い流す、といったさまざまな効果があります。歯や歯茎は、唾液に守られていると言っても過言ではありません。生まれたばかりの免疫力が低い赤ちゃんがよだれをたらしているのも、口腔環境を整えたり、菌の侵入を防いだりするため。ネバネバの唾液になるまで深酒をするのは、体にとっても、口腔環境にとってもいいことがありません」(井上氏)

また、アルコールの筋弛緩作用により、喉周辺の筋肉が緩まって気道が狭くなったりすることで、いびきをかきやすくなることでも、口腔内が乾燥しやすくなるという。寝酒も要注意だ。

井上氏によると、ほどほどに飲む分には口腔内に悪影響を及ぼすことは少ないが、日常的に飲み過ぎてしまう人は、口腔環境が悪化して、虫歯や歯周病などのリスクが高くなるという。

泥酔すると、ちゃんと歯磨きできない!?

井上氏はまた、口腔環境が悪くなるもう1つの理由として、「泥酔して、歯の磨き方が甘くなること」を挙げた。

「深酒をして、アルコールの影響が運動機能を司る小脳に及ぶと、歯磨きをしても、歯の磨き残しが多くなってしまいます。磨き残しがあると、そこから細菌が繁殖し、虫歯や歯肉炎、歯周病になる確率が高くなります。ただ、虫歯には個人差があります。というのも、歯の質が強く、唾液の量がもともと多い人は、虫歯になりにくい体質なのです。アルコール依存症の患者さんでも、そのような人はいます。しかし、歯周病に関しては、虫歯になりにくい体質の人でも要注意です。日常的に大量飲酒をしていると、歯周病が原因で歯を欠損してしまうということが少なくありません」(井上氏)

泥酔して、歯も磨かず寝てしまったことがある身としては耳が痛い。先生、啓発のためにも、改めて歯周病の恐ろしさを教えてください。

「歯周病は、歯周病菌の感染によって引き起こされる炎症性の感染症です。歯磨きが十分でなかったりすると、口の中の細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつきます。これが歯垢(プラーク)で、この中には歯周病菌がたくさん存在しています。歯周病の初期は、歯茎の出血や腫れ、歯茎が下がる、口臭などの症状が見られます。症状が悪化すると、歯がグラグラしたり、歯が抜けてしまうこともあります」(井上氏)

歯周病のメカニズム
歯周病のメカニズム
(画像=PIXTA)
[画像のクリックで拡大表示]

定期的に歯医者に行くことが最大の予防法

歯周病は、特に初期の頃は自覚症状があまりない。そのため、定期的に歯科医院に行くことが大切だという。

「ただ、日常的に大量飲酒をされている方は、歯医者に行くよりも、居酒屋に行って飲むことを選んでしまう傾向がありますよね(笑)。実際、アルコール依存症の患者さんは、虫歯や歯周病が進行しても、よっぽど痛みがなければ歯医者に行かないという方も少なくありません」(井上氏)

これを聞いて、歯が欠損した酒豪たちの映像が頭に浮かんできた。井上氏によると、「定期的に歯科医院を訪れようという意識があるうちは大丈夫」とのこと。筆者も早速、歯科医院に歯のクリーニングの予約を入れた。

「歯垢は、数日経つと石灰化して歯石へと変わってしまいます。すると、通常の歯ブラシによる歯磨きでは取れなくなるため、歯科医院で取り除いてもらわなければなりません。歯石も歯周病につながるやっかいなものなので、これを取ってもらうためにも定期的に歯医者さんに行きましょう」(井上氏)

特に注意したいのは、甘くて度数の高いあのお酒

ここまでの話で、アルコールの脱水作用による唾液の減少や、泥酔によって磨き残しが多くなることなどが口腔環境を悪化させることが分かった。

酒飲みとしてもう1つ気になるのは、「酒の種類によって、口腔環境への影響は変わるのか?」ということである。素人の考えでは、ワインやレモンサワーのように酸度が高い酒が、歯のエナメル質に影響を与えるのではないかと疑ってしまう。

「酸度の高いお酒よりも、歯垢のもととなる糖分がたっぷり入ったお酒のほうが口腔環境、特に虫歯にとってはダメージが大きいと言えます。大げさなことを言えば、そうしたお酒を飲んでいる数時間は、砂糖が口の中にずっとあるような状態なのですから。私がかつて診ていた患者さんでは、とても甘いお酒をケース買いしている方は虫歯だらけでした。甘いお酒が好きな方は注意が必要です」(井上氏)

昨今、コンビニの棚には甘いカクテル系の酒がずらっと並んでいるが、それを好んで飲む人は要注意だ。しかし、それ以上に井上氏が「あれは毒」と言う酒がある。

「アルコール度数が9%もあるストロング系のチューハイは、口腔環境はもちろん、体にとっても大きな負担になります。500mLのロング缶1本で、純アルコールにして36gですから、日本酒約2合分に相当するような量です。甘くて口当たりがいいので、飲み過ぎてしまう危険性もあります」(井上氏)

コロナ禍では、家で酒を飲む量が増え、値段が安くて入手しやすいことから、ストロング系を好んで飲むようになった人も少なくない。ましてや箱買いをしている人は、より注意が必要だ。糖により虫歯のリスクが上がるだけでなく、気がついたら脱水状態になって、口腔環境が悪化してしまう。

井上氏によると、「いずれにしても二日酔いになるまで飲むのは、口腔環境はもちろん、体にとっても大きなダメージになるので避けるようにしましょう」とのこと。一生健康で、おいしいものを食べながら酒を飲むためには、歯は特に大事にしたいもの。酒量も見直して、口腔環境を整えておくべきだろう。

次回は、歯周病菌が引き起こす恐ろしい全身の疾患や、歯に悪影響を与えない飲み方、具体的なケアの方法について、引き続き井上氏にお話を伺っていく。

[日経ビジネス]

 

コロナ回避食=自己免疫強化食

AIが分析「コロナにかからない人が食べているもの」発症リスクの高い食品もチェック

高齢者の感染対策は若者と全く違う(C)日刊ゲンダイ

発症リスクが高い5つの食品はコレ

陽性にならない人が食べているもの

陽性にならなかった人が食べているもの

[日刊ゲンダイDIGITAL]

スーパーフード「卵」

メンタル不調のときにまず食べるべき最強で手軽な「うつぬけ食材」脳の材料がパーフェクトに揃う

メンタルの不調を食事で改善する方法はあるのか。分子整合栄養学に詳しい佐藤智春氏は「メンタルの不調の要因に、脳のための材料が不足しているのではと考える。そのため脳の材料として最も優秀な食材である『卵』を食べるといい」という――。

うつ病は脳のエネルギーが欠乏した状態

新型コロナウイルスは経済に大打撃を与えました。そのストレスから「コロナうつ」と呼ばれる症状に悩む人が増えています。

「コロナうつ」という病名はなく、はっきりした定義もありません。コロナ禍のストレスや気分の低下状態を指して、マスコミが作った表現のようです。

では、うつ病とはどういう病気なのでしょうか。

精神医学では、重度の抑うつ状態のことを指します。抑うつ状態とは、「憂うつである」「落ちこんでいる」などと表現される症状です。

うつ病の原因は多岐にわたり、検査や診断の基準がはっきりしていないため、判断方法や出会う医師でも診断に差が出ます。

“こころの耳”という、働く人向けの厚生労働省のメンタルヘルス・ポータルサイトがあります。その中で、うつ病について以下のように書かれています。

うつ病は、一言で説明するのはたいへん難しい病気ですが、脳のエネルギーが欠乏した状態であり、それによって憂うつな気分やさまざまな意欲(食欲、睡眠欲、性欲など)の低下といった心理的症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴うことも珍しくありません。つまり、エネルギーの欠乏により、脳というシステム全体のトラブルが生じてしまっている状態と考えることもできます。
私たちには自然治癒力という素晴らしい機能が備わっていて、通常はさまざまな不具合を回復へ導いてくれます。私たちは日常生活の中で、時折憂うつな気分を味わいます。不快な出来事によって食欲が落ちることもあります。しかし、脳のエネルギーが欠乏していなければ、自然治癒力によって、時間の経過とともに元気になるのが通常です。

(厚生労働省「こころの耳 1うつ病とは」より引用)

脳は何でできているのか

脳のエネルギーとは何でしょうか。脳のエネルギーといえば、多くの人が糖質と答えるのではないでしょうか? 実は、むしろ糖質を過剰に摂ることで低血糖症状からうつ症状をおこす人が少なくないのです。

糖質を過剰摂取すると血糖値の急激な乱高下が起こり、集中力が途切れ、切れやすくなったり、急に眠気がさしたり、日常の仕事やパフォーマンスに支障をきたしたりします。

脳にとって最適な栄養は、脳の構成成分を見ると分かります。

脳は水分を除くと約40%がたんぱく質、約60%が脂質でできています。その脂質の約50%がコレステロール、25%がリン脂質、25%がドコサヘキサエン酸(オメガ3脂肪酸)です。このことを知れば、これらを多く含む食材が脳のエネルギーとして良いのが理解できるでしょう。

脳の構成材料であるたんぱく質、コレステロール、リン脂質、オメガ3脂肪酸、すべての栄養素を含むのが、卵です。特に、たんぱく質は量より「質」が重要とされていますが、卵は口から毎日とらなければならない必須アミノ酸(たんぱく質の材料)がパーフェクトに含まれる、脳にとっても人体にとっても必須の食材といえるでしょう。さらに、卵黄の脂質には脳にとって必要なコレステロールとリン脂質とオメガ3脂肪酸がバランスよく含まれています。

「コレステロール=悪」という誤解

栄養学の言葉は、ギリシャ語が語源になっているものが数多くあります。たんぱく質であるプロテインは「一番大切な物」という意味を持ち、リン脂質の一種、レシチンは「黄卵」を意味します。

レシチンはマヨネーズの乳化にも活用される天然の乳化剤です。体内で水と油をなじませる役目があり、余分なコレステロールを排泄する働きがあることも分かっています。

コレステロールやレシチンは神経系のシグナル伝達に関与し、記憶、認知の機能の向上を助けます。特に、レシチンは神経伝達物質であるアセチルコリンのもとにもなるため、メンタルダウンかなと感じた方は意識的にそれを含む食品の摂取は必要です。

過去には「コレステロール=悪」という誤解がありました。1913年、ロシアの病理学者ニコライ・アニチコワがうさぎに酸化コレステロールを投与し、動脈硬化を発症させたことからコレステロールが問題視されたのです。しかし、うさぎは草食動物で、そもそも、コレステロールを分解ができないため、そのような結果になるのは当然です。実験自体に疑問を呈するドクターがいなかったのが不思議ですが、それが卵が悪者になった原因でした。

コレステロールが低いと抑うつ度が高い

血清コレステロールと心の健康度の関連についての研究があります。疫学研究の端緒となった、医学誌『ランセット』(Morgan, RE. et al. Lancet 1993;341.75-79)で1993年に発表された研究です。

この研究は、50歳以上の男性約1000名を対象に、血清コレステロールと抑うつ度の関係について分析しています。集団全体を総コレステロール160mg/dL未満(低い群)、160~199mg/dL(標準群)、200~240mg/dL(境界群)、241mg/dL以上(高い群)に分け、抑うつ度を比較すると、「低い群」が他の3つの群に比べかなりの差をもって抑うつ度が高い。

そして、この傾向は50歳代以降、80歳代まですべての年齢階級で認められ、高い年齢階級ほどその差が大きいことがわかっています。抑うつ度に影響を及ぼす年齢、健康状態、身体機能の影響を加味しても、低コレステロール値であることが抑うつ度を高めていることを示しています。

自殺行動との関係もある

さらに、つい最近ではうつ病患者を自殺未遂行為の有無別に分け、血清コレステロールを比較した研究が発表されました(Messaoud A, et al. Annals of General Psychiatry 201716:20. Is low total cholesterol levels associated with suicide attempt in depression patients?)。このデータは、うつ病患者のなかでも自殺行動を実際に起こした患者は、そうでない患者より血清総コレステロールが低いことを示しています。

これらの結果は、血清総コレステロール値が低いと心の健康度も低く、その水準値は自殺行動のリスクまで反映しているのかもしれないことを示しています。近似した研究結果は多く、血清総コレステロールと抑うつ状態が関係しているのは間違いなさそうで、特にシニア世代の男性では関係が強まるようです。

毎日卵を10個食べ、体調不良から回復

本来、コレステロールは8割が自分の肝臓で作られ、食事でとり入れられるコレステロールは2割程度。食事で多くとっても血液中のコレステロールは肝臓でコントロールされるので、健常者であれば、それほど心配することではありません。

2015年より、コレステロールの摂取量に関して基準が撤廃されました。「コレステロールを含む食品を減らしても、血中コレステロール値が低下するという明確な証拠がない」ことが理由です。

私が働きすぎで体調不良になった25年前、肉・魚などのたんぱく質はまったく食べられず39kgまで体重が落ちました。そのとき、整体師に勧められたのが、毎日卵を10個食べることでした。それを1年間実行した結果、復活しました。その後学んだ分子栄養学で、卵が筋肉や脳内物質の材料となったことが理論的に裏付けされました。元気になった今も、毎日3~4個は欠かさず食べています。

もし、自分が落ち込みやすくなったと感じたら、自分の脳の栄養素が足りているか見直すチャンスかもしれません。リモートワークや外出自粛で、おにぎりや、カップ麵、パンなど炭水化物に偏った食事を済ませる人は要注意です。炭水化物だけの食事にはくれぐれも気をつけてくださいね。

普段の食事で無理なく卵をとるためのアドバイス

●炭水化物に卵をちょい足し
ごはんが好きなら→卵かけご飯(ごはん粒が卵の脂質で覆われ、血糖値の乱高下を避けられます)
パスタが好きなら→カルボナーラ
そば・うどんが好きなら→月見にしよう
●すき焼き風に…
少しリッチに、焼肉のつけダレに卵黄を
しゃぶしゃぶは卵ポン酢で
●お鍋の最後は…
卵雑炊や卵スープで〆てみて
★完全栄養食である卵の数少ない弱点は、ビタミンCと食物繊維が入ってないこと。色とりどりの野菜のサラダにゆで卵や温玉をトッピングしたり、キノコ、海苔、わかめ等の海藻のおみそ汁に生卵を入れたりしてみてください。
★ストレスの多い時は、消化の良い半熟卵がベストです。

卵はパーフェクトな「うつぬけ食材」

今回のキーワード

良質な脂質とたんぱく質、特に、抗うつ作用や記憶学習の改善のほかにセロトニンの原料になるアミノ酸「トリプトファン」も含む卵は、脳の栄養不足を助けるキー食材であり、パーフェクトな「うつぬけ食材」の代表といえます。

私が学んだのは、今までの栄養学ではありません。体の細胞が何で構成され、どのような栄養で身体が作られているか、血液データを元に臨床ドクターと一緒に個体差で考える実践の分子整合栄養学です。

最近、落ち込みやすくなったり心の不調を感じたら、「脳の栄養が不足してるかも?」と一度、食生活を見直してみましょう。

もし、脳の栄養不足で本来の実力が出せず、パフォーマンスが落ちてしまったら、とてももったいないです。今からは1人1人が自分を守るセルフメディケーションの時代です。私のセミナーでは、よく、人体を車に喩えて話します。どんな高級車でもガソリン(栄養)が入っていなければ、走ることができません。ストレス社会で必要以上に脳のアクセルをふかすことで、エネルギーを多く消耗しがち。脳にとって、卵は最強のスーパーフードです。

佐藤智春
バイタルアナリスト

[PRESIDENT Online]

心の病も身体の病。。。

「うつは、感染症から体を守るための防御メカニズム」肥満や座りっぱなしがうつにつながる意外な理由

■座りっぱなし、ストレス、睡眠不足、肥満が引き起こす炎症

さらに重要なのが、現在では炎症を起こす要因が昔と同じではないことだ。人間の歴史のほとんどの期間、炎症は細菌やウイルスによる感染や怪我で起きていた。それが今では現代的なライフスタイルが炎症を引き起こしている。

長いことじっと座っていると筋肉や脂肪組織の炎症につながることが判明しているし、長期的なストレス(日や数週間ではなく、数カ月や数年という期間)も全身の炎症の度合いを高めるようだ。睡眠不足や環境汚染物質にも同じ作用がある。加工食品は胃腸の炎症につながるし、肥満も脂肪組織の炎症につながり、喫煙は肺や気道の炎症を引き起こす。

歴史的に炎症を起こしてきたもの──細菌やウイルスそして怪我は、ほとんどの場合、一過性のものだ。しかし現代の要因──ずっと座っていること、肥満、ストレス、ジャンクフード、喫煙、環境汚染物質などは長く続く傾向がある。体内のプロセスとして歴史的には短期的だった炎症が、今では進化で適応してきたよりも長く続くようになった。

■身体にとっては「炎症は炎症」

身体が炎症の原因を見分けられれば、免疫系を無駄に起動させなくてすむのだが、問題は身体が「炎症は炎症」と捉え、現代のライフスタイル要因を細菌やウイルスに攻撃されているのと同じように解釈してしまうことだ。

身体はつまり、炎症が感染によるものなのか現代のライフスタイル要因によるものなのかを見分けることができない。

同じことが脳についても言える。現代の炎症要因でも、細菌やウイルスに攻撃されている時と同じシグナルが脳に送られてしまう。そのシグナルが長く続きすぎると──そして現代の炎症要因というのは長期的なものだから──脳は「命が危険にさらされていて、常に攻撃を受けている!」と誤解してしまう。そこで脳は気分を下げるという調整を行い、私たちを引きこもらせようとする。精神的に立ち止まらせ、その状態が長く続く。何しろ現代の炎症要因というのは自然に消えてくれることはないのだから。

結果として長期的に精神が停止状態に陥る。つまり私たちがうつと呼ぶ状態だ。このように、うつも炎症に起因する病気のリストに入ってくるのだ。

■現代最大の炎症要因、ストレスと肥満

現代における最大の炎症要因、長期的なストレスと肥満を詳しく見てみよう。身体の最も重要なストレスホルモン、コルチゾールにはエネルギーを動員する役割がある。

例えば犬に激しく吠えられるとコルチゾールのレベルが上がり、尻尾を巻いて逃げられるように、筋肉にエネルギーが送られる。しかし危険が過ぎ去るとコルチゾールには別の役割がある。体内の炎症を鎮めるというものだ。つまりコルチゾールは炎症のスイッチを切るタイミングを制御している。

■身体が反応するのをやめてしまう

長期間ストレスにさらされているとコルチゾールのレベルが高いまま暮らすことになり、ついには身体がそのレベルに慣れてしまう。何度も「オオカミが来たぞ!」と叫ぶのと同じで、最後には誰にも気にしてもらえなくなるのだ。その結果、身体はコルチゾールに反応するのをやめ、炎症を鎮める能力を失ってしまう。

なぜそれがそんなに重要なのかを説明しよう。身体では常に小さな炎症が起きている。肌についた小さな傷、筋肉の小さな亀裂、もしくは血管の内側の傷などだ。それ自体はごく自然なことだし、コルチゾールがそういった炎症を見守ってくれる。しかし身体がコルチゾールに反応するのをやめてしまうと、小さな炎症はくすぶったままになり、全身の炎症の度合いが上がってしまう。そういうことが長期的なストレスによって起きてしまうのだ。

しかしあらゆるストレスが危険だという結論には走らないでほしい。ストレスは生き延びるために重要な意味をもつ。ただし身体はストレスのシステムが常にオンになっているようにはできていないのだ。

■「回復」がエネルギー動員のスイッチを切る

つまりここでポイントになるのは「回復」だ。具体的に言うと、ストレスによって起きるエネルギー動員のスイッチを切ること。回復さえできれば、たいていのストレスには勝つことができる。

回復に必要な時間は個人差があるが、目安としては、労働負荷の軽い仕事ならシフトとシフトの間の休憩は16時間で足りる。仕事の負荷が重い場合は回復にもっと時間がかかり、週末および時には長期休暇も必要になる。回復の際には睡眠と休養を優先すること。リラックスし、色々な「やらなければいけないこと」を最低限に抑えることだ。

長期的なストレス以外には、確実に「肥満」が体内で炎症を起こす最大の要因だ。脂肪組織は単なるエネルギー備蓄ではなく、サイトキシンが全身にシグナルを送って免疫系を起動する。

自分の身体の一部を脅威と見なすなんて、身体はなぜ自分自身のエネルギー備蓄に対して免疫系を動員するのだろうか。確実な答えは誰にもわからないが、可能性としては、肥満が歴史的には存在しなかったからかもしれない。身体はお腹周りの脂肪を見知らぬものと認識し、炎症を起こすことで侵入者、つまり余分な脂肪に闘いを挑むのだ。

肥満がうつのリスクを高めるのは、肥満自体が社会的に不名誉であることも要因だが、脂肪組織の炎症のせいだという可能性もあるのだ。

■脳が私たちを引きこもらせる

ここまでの内容をまとめてみよう。あなたや私は狩猟採集をして暮らすよう進化した。しかし座っている時間が長く、恒常的にストレスを受け続ける現代のライフスタイルによって、体内で炎症の度合いが高くなっている。それを脳が「危険にさらされている」と解釈する。人間の歴史のほとんどの期間、脳にそれを伝えることが炎症の役割だったのだから。

そして常に攻撃を受けているのだと認識する。だから脳は感情を使って私たちを引きこもらせる。感情というのは私たちの行動を制御するために存在するからだ。

脳は私たちのテンションを下げ、気分を落ち込ませ、精神状態を悪化させ、そのせいで私たちは引きこもる。炎症はつまり感情のサーモスタットなのだ。炎症が起きれば起きるほど、精神状態を悪くしなければいけない。私たちの中にはそのサーモスタットがとりわけ過敏な人もいて、それも部分的には遺伝子によるものなのだが、うつになる可能性を高めてしまう。

ということは、うつの人は全員体内で炎症が起きているのだろうか。そういうわけではない。炎症はうつを引き起こす重要な要因の1つだが、要因は炎症だけではない。

うつ全体の3分の1程度が炎症に起因しているとされる。ならばうつにも抗炎症剤が効くのではないかと思うだろう。そう、まさに効くことを示す点が多くある。炎症性サイトカインの産生をブロックする薬はうつにもある程度の効果がある。その薬だけでは充分な効果がないのだが、抗うつ薬の効果を高めるようだ。ただし、それはあくまでうつの原因が炎症だった場合で、そうでなければ効果はない。

■うつは「隠された防御メカニズム」

私が診たうつ患者の多くが、自分は何が原因でうつになったのだろうかと頭をひねっていた。

社会的な要因を疑う人は多い。人間関係、仕事や学校などだ。しかしその視点で見ている限り、うつにも役割があることを理解できないだろう。

先述のとおり、うつを生理現象として捉え、細菌やウイルスとの関係性も考慮しなくてはならない。つまり、今日私たちにふりかかる比較的軽度な脅威ではなく、私たちが地球に現れて99.9%の時間、2人に1人の命を奪ってきた要因を元にして考えるということだ。

うつとはつまり、私たちを様々な感染から救ってきた「隠された防御メカニズム」なのだ。しかし現代のライフスタイルがその防御メカニズムを暴走させてしまうことがある。

■うつは肺炎や糖尿病と変わらない

精神医学だけではなく、生理学的な見地からもうつを考えるうちに気づいた点がある。生物学上、うつは肺炎や糖尿病と何ら変わらない。肺炎も糖尿病もうつも、その人の性格に問題があるせいではない。だから、うつの人に「しっかりしろ」と声をかけるのは、肺炎や糖尿病の人に「しっかりしろ」とはっぱをかけるくらい馬鹿げている。病院で肺炎や糖尿病の治療を受けるのと同じで、うつも治療を受けるべき状態なのだ。

うつの生物学的な仕組み、そしてなぜうつが引き起こされるのかを学んだからといって、すぐに治るわけではない。だが、そこからスタートするのは悪くない。自分の脳や精神状態が免疫学的なプロセスに左右されるという知識をもつことで、私自身もライフスタイル関連のアドバイスを真剣に受け止めるようになった。

当然あなたも「運動はしたほうがいいし、しっかり睡眠を取って、予測不可能なストレスや長期的なストレスは減らしたほうがいい」というのはわかっているだろう。しかし「なぜ」そうしたほうがいいのかという生物学的な理屈を学ぶことで、運動、睡眠、適度なストレス、そして回復というアドバイスが深い意味を帯びるようになる。そういった要因が炎症にブレーキをかけること、脳が「攻撃されている」と誤解するようなシグナルをそれ以上送らないようにすることを学べば、それに適した生活をするようになるだろう。

■脳の“病気”というより“正常な反応”

だからと言って、炎症に抗う方法なら何でも──例えば特定の食事療法など──がうつに効くというわけではない。残念ながらそんなに単純な話ではないのだ。

起きている間ずっと予測不可能なストレスを受け続ける職業もある。そんな労働環境がなぜうつにつながるのか、それも理解できるようになる。

無気力になり引きこもりたくなるのは病気ではなく、健全な反応なのだ。つまり一番良いのは労働環境を変えること。もちろん言うは易しだが、ここでポイントになるのは、異常な環境に対する異常な反応は脳の病気というよりむしろ正常な反応だということだ。

アンデシュ・ハンセン
精神科医

[PRESIDENT Online]