知っておきたいお酒の豆知識

■知ったかぶりは恥をかく…「グレーンウイスキーはモルトを薄めた安酒」にあらず【ビジネスマンのための一目おかれる酒知識】

江口まゆみ

~ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第9回ウイスキー編その3~

ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。しかし、 生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。酒をビジネスマンのたしなみとして正し く楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します。

通常ウイスキーは、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしてつくられています。これを「ブレンデッドウイスキー」といいます。

モルトウイスキーとは、大麦麦芽を原料とし、ポットスチルと呼ばれる単式蒸留器でつくられます。一方、グレーンウイスキーは、トウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀類に、糖化のための麦芽を15~25%程度加えたものが原料で、連続式蒸留機でつくられます。

ウイスキー愛好家であれば、モルトウイスキーについてはよくご存じですよね? もしかしたら、お気に入りのシングルモルトも1つや2つではないかもしれません。では、グレーンウイスキーについてはどうでしょうか。

ウイスキーの入門書を読むと、モルトウイスキーのつくり方は詳しく解説されていますが、グレーンウイスキーについてはあまり書かれていません。

しかも、ブレンデッドウイスキーに何パーセントグレーンウイスキーが含まれているかは、世界的に規定はなく、メーカーから公表もされていません。

そこでなかには、

「グレーンウイスキーは安価な原料で機械的に蒸溜された混ぜ物ではないか?」

と考える人がいます。

安いウイスキーにはモルトはあまり含まれておらず、ほとんどがグレーンではないかと言う人もいます。安いウイスキーほど飲みやすく味がシンプルなので、そう思うのかもしれません。

たしかに、グレーンウイスキーの成り立ちをひもとくと、はじめは税金逃れのコストダウンが目的だったようです。麦芽に比べて安価な穀類を大量に使用し、19世紀前半に連続蒸留機が発明される前は、単式蒸留器で3回蒸溜してつくられていました。

こうしてつくられたウイスキーの品質は雑味が多かったので、そのまま飲用されることはほとんどなく、スコットランドからロンドンに送られてジンの原料になっていたそうです。ロンドンではグレーンウイスキーをゆっくり精溜して不純物を取り除き、純度の高いスピリッツにしてからジュニパーベリーの実やハーブ類を加え、ジンとして生まれ変わらせていました。

グレーンウイスキーというと、カフェ式とかカフェスチルという連続蒸留機の名前が出てきますが、これは1830年にこの蒸留機を発明したイーニアス・カフェの名前に由来します。それ以前にも連続式蒸留機はいくつか開発されていましたが、カフェ式蒸留機は、縦型の蒸溜塔を何段にも仕切り、もろみが上段から下段に流れながら分溜を繰り返すことによって、アルコール度数を高めていくという革新的なものでした。この設計は、今でも連続蒸留機の基礎になっています。

連続式蒸留機が発明されたことで、グレーンウイスキーの品質は向上し、ジンの原料から、徐々にモルトウイスキーとブレンドするための原料になりました。グレーンウイスキーの軽やかさや穏やかさは、重厚なモルトウイスキーとは異なる個性を持っていたので、ブレンデッドウイスキーのベースとして最適だったからです。こうしてブレンデッドウイスキーの軽い味わいは市場で高く評価され、ウイスキーの主流になっていきました。

グレーンウイスキーもモルトウイスキーと同じように、蒸留後は樽に入れて熟成させます。そしてたとえば12年もののウイスキーであれば、モルト同様12年以上熟成されたグレーンが使われています。

また、モルトウイスキーと同じように、グレーンウイスキーも様々な個性を持っています。モルトウイスキーを蒸溜するポットスチルにはストレート型、ランタン型、バルジ型、オニオン型、ローモンド型などがあり、それぞれ違う個性の原酒をつくり出していますが、グレーンウイスキーの蒸留機にもいろいろな種類があります。

私はキリンディスティラリーの富士御殿場蒸留所でグレーンの蒸留機を見たことがありますが、そこでは3種類の蒸留機を使ってグレーン原酒をつくり分けていました。

五塔式のマルチカラムという連続式蒸留機では、味や香り成分の少ないライトタイプの原酒を、ケトルという単式蒸留機では味や香りが残るミディアムタイプの原酒を、バーボンに使われるダブラーという連続式蒸留機では、ヘビータイプの原酒をつくっているのです。

また、実際に見たことはありませんが、ニッカウヰスキーではカフェ式の連続蒸留機を使っています。創業者である竹鶴政孝氏がこの蒸留機を導入した 1963年当時でも、すでにきわめて旧式の蒸留機でしたが、新型の連続蒸留機に比べて原料由来の香味成分がしっかりと残るからと、カフェ式にしたそうです。

世界的にはシングルグレーンウイスキーの商品は珍しいのですが、モルトもグレーンも同じ蒸留所でつくっている日本では、各社からシングルグレーンウイスキーが商品化されています。

サントリーの「知多」はスッキリと軽やかで、ひじょうに飲みやすいシングルグレーンウイスキーです。グレーンとは何かを知るのに、最適のウイスキーではないでしょうか。

一方、ニッカの「カフェグレーン」は、飲みやすさのなかに旨味が凝縮されていて、驚きの旨さ。竹鶴政孝がこだわった、カフェ式連続式蒸留機の実力のほどがうかがえます。

キリンディスティラリーの「富士御殿場蒸溜所シングルグレーンウイスキーAGED 25 YEARS SMALL BATCH」は、昨年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)で「ワールド・ベスト・グレーンウイスキー」を受賞しました。3万円以上する高価なグレーンウイスキーですが、富士御殿場蒸溜所へ行けば試飲できるそうです。

こうしたシングルグレーンウイスキーは、単独で飲むためにつくられたものですが、一般的なグレーンウイスキーは、ブレンデッドウイスキーの味わいのベースとなり、モルトの個性を引き出してくれる存在になります。

サントリーの名誉チーフブレンダー輿水精一さんは、著書の中でこのように言っています。

「ブレンディングの世界は、交響楽団の指揮者にたとえられます。ブレンダー(指揮者)は、多彩なタイプの原酒(楽団員)を統率し、妙なる香味のブレンデッドウイスキーを響かせるというわけです」

つまりグレーンウイスキーは、けしてウイスキーを水増しするための安価なアルコールではなく、ブレンデッドウイスキーという交響楽を奏でる楽団の一員なのです。

[日刊SPA!]

人もペットも同じ、、、でも身体が小さい分ペットへの影響は大ですね。。。

■猫のがん原因に飼い主のたばこも、5〜6才以降は発症率高まる

 たばこの煙にさらされた猫や犬は、がんの発症リスクが高くなる――。2015年、イギリス・グラスゴー大学の獣医学者らが、受動喫 煙によるペットの健康被害についての研究結果を発表した。それによると、飼い主の喫煙本数が1日10本以下でも、たばこの煙に触れている猫の血液中のニコ チンレベルは、非喫煙家庭の猫に比べて明らかに高かったという。

もちろん、がんの原因はたばこの煙だけではない。近年、ペットの高齢化が進んでいるが、その分“ペットのがん”も増えていると、白金高輪動物病院・中央アニマルクリニック顧問の獣医師・佐藤貴紀さんは言う。

そもそもがんとは、突然変異を起こした細胞(がん細胞)が増殖し、体に悪影響を及ぼす病気のこと。がん細胞が増殖しすぎると体の組織や臓器が機能しなくなり、最終的に死に至る。

「がんが発生する部位は、人間と同じでほぼ全身。5〜6才(人間の年齢で換算すると36〜40才)以降、急激に発症率が高まることもわかっています」(佐藤さん・以下同)

がんに侵されていても、初期は症状がわかりづらく、発見が遅れることも多いという。

「皮膚がんや乳腺腫瘍の場合、しこりで気づくこともあります。しこり=がんではありませんが、しこりを見つけたらなるべく早く動物病院を受診してください」

動揺してしまうだろうが、まずは落ち着くことが大切。そして「がんの進行具合」「年齢に応じた治療法の相談」「治療費」などを整理しよう。判断が遅くなるほど、がんは進行する。医師から要点を聞いたら、なるべく早く今後について決断すること。

治療法は主に、【1】手術【2】抗がん剤治療【3】放射線治療の3つ。それぞれの治療法のメリット・デメリットは次の通り。

【1】手術
すべてのがん病巣を取り除き、他の部位への転移もなければ完全治癒できるため、がん治療として最も効果が期待できる。一方で、麻酔のリスクと免疫力低下による二次的な障害が懸念される。

【2】抗がん剤治療
麻酔などのリスクを伴わず病気の治癒が見込めるが、体への負担が大きく、耐えられないこともある。

【3】放射線治療
手術で切除できない部分のがんにも効果があり、諦めなければいけなかったがんにもアプローチできる。しかし、全身麻酔が必要になることがほとんどで、治療回数も月2回程度と、体力面・経済面の負担が大きい。

がんの治療は、主にこれら3つの治療法を、進行度や体力などを考慮しながら組み合わせて行う。

また獣医学も日々進歩しており、治療の選択肢は増えているという。では、がんを防ぐにはどうしたらいいのか?

「乳腺腫瘍に関しては、避妊手術を受けることでできにくくはなりますが、現段階でがんを100%予防する方法はありません」

がんの治療には、早期発見・早期治療が大事となる。そのためにも、日々の健康状態のチェックや定期的な健康診断、そして猫と同じ空間でたばこは吸わないなどの配慮を忘れてはいけない。

愛猫の健康を守れるのは飼い主しかいないのだから。

[女性セブン2019年4月11日号]

出していただくものを美味しくいただくのが私なりのマナーですが、、、私自身としては事前にご希望をお訊ねしたいと思います。。。

■「来客にコーヒー提供」は「カフェハラ」? マナー講師の見解は…

 

「コーヒーを軽々しく勧めないで!」――。インターネットの投稿をめぐり、「カフェインハラスメント(カフェハラ)」がにわかに注目を集めている。

打ち合わせの場でコーヒーを出されるのは許せないといった主張だが、なぜ不快に感じるのか。

望むのは「カフェインコントロール社会」

投稿は2019年3月20日、ブログサービス「はてな匿名ダイアリー」に寄せられた。

「コーヒーを軽々しく勧めないで!『カフェハラ』ですよ」との題名通り、訪問先での打ち合わせでコーヒーを出すのは「カフェハラ」だと問題視している。

投 稿によれば、体質や健康面などからカフェインの摂取を控える人はいるにもかかわらず、問答無用で勧められると指摘。気心の知れた相手なら断ることもできる が、初対面であれば難しいとして「『アルハラ』(アルコールハラスメント)は社会問題として定着したが、『カフェハラ』は問題にもされていないのだ」と憤 慨する。

以上を踏まえ、(1)ノンカフェインまたは低カフェインの飲料を出してほしい(2)お湯を注いだカップにスティック状のコーヒーやお茶のティーパックを添えて、カフェインの有無を選択できるようしてほしい――と要望した。

最後は「私が望むのは、カフェイン摂取をセルフコントロールできるような社会である」と締めている。

ナンシー関さん「コーヒーのファシズム」に警鐘

「カフェハラ」をめぐっては、コラムニストのナンシー関さんも自著『何の因果で』で「コーヒーのファシズム」との言葉を使ってあげつらっている。

「私はコーヒーが嫌いである。理由は、おいしくないと思うからだ。 単なる嗜好品の好き嫌いであるから、非難される筋合いのものではない。確かに非難はされない。しかしそれは、コーヒー好きの人たちの視野の中に『非コー ヒー好き』が入っていないからである。 『よもやコーヒー嫌いなんて人がこの世に居るなんて』ということである。だから、いろんなところで『当然』のようにコーヒーを出される。もてなしという善意が前提にあるだけに、 我々コーヒー嫌いに残された選択肢は『手をつけない』だけである。これをコーヒーのファシズムと言っては言いすぎだろうか」

ニュー スサイト「niftyニュース」の約4500人を対象にした調査では、コーヒーが苦手(「そんなに好きでもない」を含む)と回答した人は1割だった。苦手 と答えた人の意見に「おなかを壊す!気を使ってコーヒーを出していただいたとき、飲まないわけにもいかず、後でおなか壊してトイレの中で、やっぱり飲むん じゃなかったと後悔」がある。

マナーの基本は…

仕事の来客でコーヒーを出すのはマナーの専門家にどう映るか。NPO法人「日本サービスマナー協会」の講師である森麻紀さんは3月22日、J-CASTニュースの取材に「マナー違反にはあたりません」と話す。

お茶出しでコーヒーが出される機会が多いのは、頭を活性化させるといった役割があり、マナーの基本である「相手をおもいやって心地よい状態にする」には背かないという。

しかし、森さんは「ただ形通りのマナーを守るのではなく、臨機応変に対応するのも大切」と言及。コーヒーが苦手な人もいるため、相手の飲み物の好みを事前に把握すると一つ上のマナーになるとアドバイスした。

なお、投稿者が提案した「お湯を注いだカップにスティック状のコーヒーやお茶のティーパックを添えて、カフェインの有無を選択できるようしてほしい」との意見は、相手に手間をかけさせてしまうためマナーといえないとした。

[J-CASTニュース編集部 谷本陵]

変わらない、変われない、取り残され続ける存在。。。

秘密保護法成立から5年 陸上自衛隊のスパイ組織「別班」暴いたベテラン記者が警鐘

陸上自衛隊の一部組織が、身分を偽装した自衛隊員を独断で海外に展開させ、諜報活動を行わせる。組織の扱いは極秘扱いされ、自衛隊最高指揮官の首相や防衛相にすら知らされていない――。そんなスパイ映画さながらの現実が日本にあるという。

隊員は、互いの本名も知らないまま都内などのアジトを拠点に活動を続け、友人と酒を飲むことや年賀状、近所づきあいも禁止され、通勤ルートは毎日変えることが求められている。外部との接触を断たれ、精神的にも社会的にも“壊れる”隊員も少なくないそうだ。

そんな陸自の秘密情報部隊「別班」を追い続けているのが、共同通信編集委員の石井暁氏(57)(以下、敬称略)。5年半以上の月日を取材に費やし、非公然の別班の存在を伝える記事を2013年11月に配信した。

「ホームで電車を待つ時は、最前列で待つな」「痴漢にでっち上げられることに注意しろ。酔っぱらって電車に乗るな」。そうした警告を受けながら今も取材を継続し、別班の問題点や関係者への取材の生々しいやり取りなど詳細を『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)にまとめた。

防衛や外交など4分野の情報が「特定秘密」に指定され、知る権利や表現の自由への懸念がいまだに根強い特定秘密保護法の成立から6日で丸5年を迎えた。

石井は「秘密保護法の成立後は自衛隊や安全保障の取材は格段に難しくなり、今では別班を取材するのも記事にするのも難しい状況」と指摘。「改憲論議が進む中で、民主主義国家の大原則である文民統制(シビリアンコントロール)から逸脱した別班の存在が十分に話し合われていないのは危険だ」と話す。【取材:岸慶太】

別班員は違法行為も行う

別班員は、スパイ養成機関として知られた旧陸軍中野学校の系譜を継ぐ陸自小平学校(東京都小平市にある陸自の教育機関)の心理戦防護課程で、尾行や張り込み、追跡などの教育を受け修了した自衛隊員が選ばれるという。

陸軍中野学校:旧日本陸軍の「後方勤務要員養成所」として1938年創設。情報の収集、謀略、諜報、防諜などいわゆる「秘密戦」の教育訓練機関として、45年の敗戦で閉校するまでに約2000人を輩出。卒業生は多くが陸軍の情報機関に配属された。

 

――別班員はどのように活動をしているのでしょうか。

基本的に自衛官という身分を偽って名刺を勝手に作ります。アジトも都内のビルなどに「〇〇〇会社」とか「×××研究所」っていう看板を掲げていて、携帯電話も他人の名義で作っている。そこからして違法です。

他にも、朝鮮総連の関係者をだまして、北朝鮮に行って情報を取ってきてもらう行為も違法でしょう。「こんな違法なことはできない」と言って辞める別班員は結構いるみたいです。彼らは自分がやってきたことを言うと責任を問われるので、あまり詳細は語ってくれませんが。

基本的に洗脳されていると思います。それでも、辞める人がいるというのは、社会人としての良識や常識が残っていたということですし、救われる気持ちになります。

 

――体験入隊した三島由紀夫氏が有名作家だとばれずに東京・山谷に潜行する訓練や、休憩時間に入ったトイレのタイルの色を問われたりするなど、戦後も心理戦防護課程で本格的なスパイ教育が行われました。

中野学校の教官だった人物が、小平学校の前身である調査学校の校長や副校長になっています。基本的には中野学校の教育内容をそのまま使っています。

自衛隊幹部には「海外諜報機関は必要だけど、公然の組織にしないと別班員が可哀そうだ」と言う人も結構いました。

海外で現地の捜査機関や情報機関に拘束、逮捕されたら、“トカゲのしっぽ切り”でしょうと。対外情報活動をやるなら、国家として責任を持たないといけないという問題意識ですね。

――別班員の活動の財源もベールに包まれています。

防衛省の予算を見ただけではわからない。裏が取れていないが、海外に展開している拠点を作って情報収集活動をする費用は、陸自の教育訓練費の一部を使っているという話もあります。裏を取るのも相当難しく、会計検査院でも検査できないんじゃないでしょうか。

別班OB「狙った情報は100%取れる」

――精神的にも壊れる人が多いと。

「洗脳教育を受けた」「人格が変わってしまった」と自分で言う人もいます。心理戦防護課程の教育を受けて誰にも心を開かなくなってしまったと言う人はOBに多いです。

まず、眼が全然違います。普通の人の眼ではなくなってしまっている。感情を持っていないという印象で。本人たちもたぶん分かっているんです。

――ほかの自衛官とは全然違ってしまう。

ある別班OBは、「とある地方都市の飲食チェーンの社長に会って、こういう情報を取って来い」と言われた。偽の名刺を作って、たどり着いて社長に話を聞いてくる作業ですが、「自分が狙った情報は100%とれる自信がある」って言うんです。

私たち記者は100%なんて絶対に言えない。彼と話していても、「逆に僕が何か言わされているんじゃないか」ってすごい怖いですよ。飲みながらだととくに怖いです。

99%ならまだわかりますけど、100%とれる自信があるって言うんですよ。どうやってやるのかと尋ねても、笑って教えてくれないですけど(笑)。

改憲について考える上で別班に関する議論は不可欠だ

石井は2008年4月、付き合いの長い自衛隊幹部との懇談で、「別班」(陸上幕僚監部運用支援・情報部別班)の存 在を示唆された。これをきっかけに、5年半以上を費やして慎重な事実確認と裏付け取材を進め、13年11月27日に「陸自、独断で海外情報活動」などと題 した記事を配信。今年10月に自著にこれまでの取材の経緯や別班の問題点をまとめた。

 

――記事の配信から5年のタイミングで、本を出した意図は何でしょうか。

安倍政権が改憲を進めようとする中で、自衛隊には災害対応に代表される明るい「陽」の部分だけではなく、「陰」の部分があると知ってほしかった。その代表が別班で、このまま放置されたまま改憲されると、非公然の状態の別班まで認めてしまうことになる。憲法9条を考える上で、別班について議論することは絶対に必要だと問題提起させてもらいました。

――酒席で二人きりになった防衛省幹部との何気ない会話から別班に関する情報を得ようとしたり、防衛省本館で退庁する幹部を待ち伏せして飲みに誘ったりする姿など、防衛省幹部らへの取材の様子が克明に記されています。

あえて、それを出しました。政府と防衛省は一貫して「別班なるものは過去も現在も存在しない」としていますが、実際は様々な幹部が取材に対して存在を認めている。それを可能な範囲でオープンにすることで、政府の主張が単純なものではないと示したかった。

二点目は、取材や調査報道の過程を明らかにして、若い記者やジャーナリストの参考になればとの思いです。最後は自分の身の安全を守るため。得体のしれない組織だから、今も怖いところがあります。取材源に迷惑をかけない範囲で、できる限りぎりぎりまでオープンにして、世間に知ってもらう。そうすることで、自分の身を守りたかった。

権力監視がジャーナリズムの最大の使命

――5年半の地道な作業ですが、あきらめるという選択肢はありましたか。

常にありました。取材を進めてもモノにならない可能性があって、一種の賭けでした。最初に端緒の情報を聞いて5年半かかったわけで、会社の取材費も相当使った。1行の原稿も書けなかったら終わりだと。今のポジションにはいられないと覚悟していました。

情報を集めて、パズルの全体が見えてきたかと思ったら、またダメになる。最初から簡単に記事化できるとは思わなかったけど、結構つらかったです。

こんな途方もない情報をどう裏付けて、本当に記事として成立させられるのかと。社内を説得させることも含めて、原稿にできるのかと。長くなることは覚悟していました。

――記事を出せば、防衛省どころか政府も敵に回しかねない。それでも、取材を続けたのは使命感からでしょうか。

当然のことですが、ジャーナリズムの最大の使命は権力監視です。日本の最大の実力組織は自衛隊であり、防衛省、自衛隊を監視するのは最も大切な仕事だと思っています。

別班に関する記事を配信後、石井の下には懇意の防衛省関係者から
「最低限、尾行や盗聴は覚悟しておけ」
「ホームで電車を待つ時は、最前列で待つな」――、
元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏からも
「痴漢にでっち上げられることに注意しろ。酔っぱらって電車に乗るな」
などの忠告が寄せられた。

――著書には生々しい忠告も記されています。

冗談かと思ったけど、まじめな顔で言うわけです。本当に「やばい」と思いました。で、佐藤さんと次に会った時は「自衛隊と公安の間でにらみ合っているから、今は大丈夫だ」と言われて(笑)。彼はヒューミント(人的情報収集活動)に関しては日本の外交官の中では最高峰と言われている人ですので、シャレにならなかったですよね。

「お前を消すぐらいのことはする」

――懇意にしていた元将官への取材では、脅迫めいたことも言われたとか。

「お前は私の現役時代からマークされている。尾行も盗聴もされてきた。今日俺と会ったことも把握されている」と元将官が言ってしまう。「別班は恐ろしい組織で、虎の尾を踏むと、お前を消すぐらいのことはする」とも。

その人は昔、共産党が政権を奪ったらと仮定の質問をしたら、「躊躇なくクーデターを起こす」と言いました。自衛隊の最も恐ろしい部分を見た気がします。本当に恐ろしいです。月並みな表現だが、身の毛がよだつと言うか。

――日本で起きている話ですか。

新聞記者がスパイ小説にかぶれて、妄想の世界で書いていると言われるかもしれません(笑)。

――現役の別班員に取材どころか接触すらできない厳しい状況の中、共同通信のOBから思いがけなく紹介された陸自幹部が別班経験者と分かり、生々しい証言を得られました。取材が行き詰った時には、助けてくれる人もいました。

ストーリーとして書くとそう見えますが、実際には全然うまくいっていないです。ひたすら苦しい日々です。

誰もいないところで取材するきっかけを作ろうと、せっかく幹部の官舎とか自宅を探し当てて、ピンポンを押しても門前払い。「帰ってくれ」って門前払いされると、精神的にも体力的にもダメージが大きいですよね。

――失礼ですが、石井さんはお若くはありません。

正直言って、バカじゃないかと思いましたよ。50過ぎて、俺何やってんだろうって(笑)。防衛省の本館の玄関で待っていて、目当ての幹部が出てきたら自宅まで尾行したりしまして、いい年して何やってんだって何回も思いました。

文民統制を逸脱した別班への問題意識を持つ自衛隊幹部は多い

――冒頭の自衛隊幹部が、新聞記者である石井さんに対して、極秘扱いの別班の情報を伝えたのはなぜでしょうか。

現代の民主主義国家の軍事組織の大原則は間違いなくシビリアンコントロールであり、制服自衛官の幹部も下の人も、皆さんそのことを分かっている。シビリアンコントロールを外したら大変なことになる、という問題意識は皆さんお持ちです。

自衛隊幹部って実はかなりリベラルな人が多いし、防衛大の教育も非常にリベラル。「自衛隊は当然必要だが、(別班は)おかしい」という問題意識ですね。

首相も防衛相も知らない別班なる組織があって、勝手に海外に自衛隊員を身分偽装させて国外に出して情報収集活動をしている。それはおかしいし、文民統制に違反していないかという正直な気持ちだったんだと思います。

情報機関は必要か不必要かの議論は別にして、作るならば公然の機関、組織でないといけない。それが非公然なのはおかしいという。

――幹部がリベラルというのは意外です。

毎年8月15日に靖国参拝する幹部ももちろんいます。さっきの元将官みたいに「クーデター起こす」と言うような人もいます。

ただ、防衛大もいわゆる右寄りの思想教育というのはしていません。初代防衛大学校の校長の槇智雄氏から、基本的にリベラルな学者か防衛官僚が校長をやっていて、制服出身の校長というのはいないんですよ。

――そもそもなぜ別班を非公然にしてしまったのでしょうか。

別班OBで、「どこかのタイミングで公然にしておけばよかった」と述べる方もいます。最初に非公然にしてしまったため、変えることができなかったというのが真相でしょう。

さらに、「別班は存在しない」と政府が言ってしまっているので、今頃になって「ありました」というのもできなかったんじゃないでしょうか。

石井は11年7月、陸上幕僚長経験者への取材で、別班が海外で活動していることや、別班員が「自衛官の身分を離れ ている」ために万が一の際にも幕僚長の責任が問われないことなど、別班に関する決定的な情報を入手した。当時は、核密約の存在を認めた実績がある民主党政 権下で、政府が別班を調査してくれるとの期待を込めた。だが、デスク役の中村毅社会部副部長(現・社会部長)と議論の上、「事実上認めたが、決定的な証言 がない」ため、読者への説得力が弱いとして出稿を見送った。

歴代首相はおそらく別班の存在を知らない

――民主党政権時代に記事にするチャンスが訪れました。

当時の防衛大臣は北沢俊美氏で、シビリアンコントロールを徹底しようとする人でした。陸上幕僚長経験者の証言で記事にできると思ったけど、情報がまだ足りなくて、説得力に乏しいとなりました。

――歴代の首相、防衛大臣は別班を知っていて知らないふりなのか、それとも本当に知らないのでしょうか。

全員に取材したわけではないので分かりません。でも、陸幕長経験者も防衛省情報本部長経験者も、あるいは事務次官も含めて「総理も防衛大臣も知らない」と言っています。知らないのでしょう。

ただ、元陸自幹部の中谷元氏、いわゆる「軍事オタク」の石破茂氏は2回防衛大臣をやっていると。二人はどこかの席で聞いている可能性もあるかもしれません。

石井は13年7月に旧知の情報本部長経験者への取材で、別班が旧ソ連、中国、韓国に展開し、ケースオフィサー(工作管理官)をしていることや、別班員が集めた情報が危機管理のため一部の幹部にしか共有されないことなどの詳細を得る。海外の別班員の安全のため、記事の 配信予定日の3日前に当時の西正典・防衛事務次官と岩田清文・陸上幕僚長に対し、記事を出すことを事前に通告した。

 

――13年11月27日に記事を配信する前に、防衛省幹部に事前通告しました。

記事を出すことで、海外の別班員が拘束されたり逮捕されたりしたら責任を取れません。なので、避難してもらうためです。後に「事前通告には感謝している」と防衛省幹部に言われました。

――2人の反応は対照的です。

西事務次官は仲良くしていたので、「別班があるのは聞いていたけど、海外展開は本当に知りませんでした。よく調べましたね」と褒めてくれました。非常に正直な感想だと思います。

岩田さんは「なぜこんなことを書くんだ。なぜこのタイミングなんだ」と。飲み友達だったのですが、それで完全に切れましたね。日本酒の師匠で「獺祭」のうまさを開眼させてくれたのも彼のおかげなんですけど。

人間関係は切れてしまいましたし、さみしいですよ。でも、しょうがない。飲み友達になるために会社の金で飲んだのではないので。

政府は「誤報」の言葉使わず

――記事について、当時の小野寺五典防衛大臣、菅義偉官房長官は別班の存在を否定しましたが、「誤報」との言葉は使いませんでした。

「完全誤報だ」って言ってくると思ってましたけど、そうではありませんでした。「空想」「絵空事」だって言われると思いましたが。

菅官房長官は翌日の会見で、「別班なるものは過去も現在も存在しないと防衛省からは聞いている」と防衛省がソースだとしているんです。小野寺さんも、「陸上幕僚長に聞いたところによると、そういったものは存在しない」と。真っ向から共同通信の誤報だとは絶対に言わなかった。

――それは将来的に認める可能性があるから。

民主党政権の時にやはり核密約を認めた実績に期待しています。ああいうことが政権交代をきっかけに起きる可能性はゼロではないと、かすかな希望を持っています。よっぽど勇気のある総理大臣と、防衛大臣とが合意して認める可能性はゼロではないと思います。

後日ですが、小野寺さんと飲んで話したら「変な感じはするよな」って言うんです。「長くても2年しかやんない防衛大臣になんか言わないよな」って 言っているんです。とことん話をして、自分も言えるとこまでは情報を明らかにして何とか調べてくれとは言ったんですけど、彼は本当に知らないです。

官僚が用意する想定問答(報道陣の質問を想定して事前に準備する答弁)でも、完全誤報とは言えないですよ。それを政治家に言わせてしまったら、自分たちの責任が問われますよね。

――記事を配信後の小野寺大臣との閣議後定例記者会見では、防衛省幹部から怒りの混じった視線を向けられました。

針のむしろで、いたたまれないですよね。後ろからは若い記者から「このじじい、いつまで質問しているんだ」「共同しか関係ないだろ」っていう冷たい視線が前から後ろから(笑)。とにかく、いたたまれないですよ。

記事で人間関係は壊れたが「後悔は全然無い」

――記事を出した後、20年来の知り合いの陸自幹部を飲みに誘うと、「定年後にしてくれ。絶対に携帯に電話しないで」と言われました。他にも、陸自から石井記者の情報源と疑われることを恐れて関係が切れた人も多くいます。記事を出した後悔はありませんか。

全然ないです。新聞記事を書くのが仕事ですから。飲み友達を作るとか仲のいい人を作るために会社の金で飲んでいるわけではありませんから。

石井は自著で、別班について正直に吐露した18の証言を紹介して結んだ。
「■絶対に素の自分は表に出せない。それがストレスで、休日は家族に嘘を言って漫画喫茶に行ってひとりでぼんやりしている」
「■どんな時でも、自然な笑顔をつくれる。人間として寂しい」
「■別班という組織の全貌を明るみに出して、潰してほしい。そして、国が正式に認めた正しい組織をつくってほしい」――。

――証言からは切なさを感じました。

可哀そうですよ。自衛官と言えど、一国民です。そういう人を洗脳したり人格を変えていいのかと。家族にも心の中で壁を作っちゃう人にして、どう責任を取るのかと思います。

自衛官ならやむを得ないのか。とてもそうは言えない。本人と家族が可哀そうですよ。選ばれてしまったらどうしようもないんです。

「別班員の安全をどう守るか?」 国民と国会の承認が必要だ

――自衛隊は今後も評価の分かれる対象であり続ける。災害対応などで国民の大きな期待と実績がある中、別班が今のままでは隊員個々人が浮かばれません。

海外に出向いて情報を取る組織は必要かどうかという議論は確かにあると思います。もし必要であるなら、今のような非公然の組織で総理大臣にも防衛相にも知らせていないなんていう状況を無くすべきです。総理大臣、防衛相の認識の下で、海外でも情報活動が必要であると国民、あるいは国会が認めるのであれ ば、堂々と活動すべきだと思います。

加えて、危険性に関する議論も忘れてはなりません。自衛官が海外で情報収集活動をする危険性を国民、国会に示さねばなりません。防衛駐在官(駐在武官)が情報収集活動をするのとは違って、身分を隠した自衛官にやらせるのならば、万が一海外の諜報機関や捜査機関に逮捕、拘束されたときに国家としてどう責任取るのか。そうしたことを突き詰めて議論すべきです。

別班の取材が佳境に入ったころ、国会では防衛や外交など4分野の情報を「特定秘密」に指定し、秘密を漏らした公務 員に罰則を定めた特定秘密保護法の審議が盛り上がった。取材や報道の自由、国民の知る権利への侵害が懸念される中、石井氏は別班に関する報道で一石を投じたい考えだったが、秘密保護法は反対が根強い中、13年12月6日に成立した。

特定秘密保護法で取材環境は厳しさを増すばかり

――6日で特定秘密保護法の成立から5年を迎えます。

当時は本当に残念で、悲しい思いがしました。安倍晋三政権の下で“いつか来た道”をまたたどっているなと言う気がしました。無力さも感じました。

秘密保護法は、権力側が恣意的に特定秘密に指定できるわけです。そうされると、記者はどうしようもない。防衛省の取材がやりにくくなったのは間違いない。法成立前と比較できる我々年寄りの記者にとっては、あきらかに取材がしにくくなった。

保護法ができてから取材に行くと、「ちょっと待って。それ特定秘だ」って言われると、言葉が繋げないんですよ。取材を完全に拒絶する決めゼリフです。

――取材拒否はおかしいと声を上げるのも難しくなった。

前提として、国は別班という存在自体を認めていないので、特定秘密になっているはずがありません。ただ、秘密保護法が出来る前だから取材をして記事を出すこともできたけど、成立後の今となっては、無理じゃないかと思います。

防衛省全体の雰囲気として、保護法ができてから非常に取材がやりにくくなった。今だったら別班の取材はできなかったと思います。

秘密保護法は、取材に対する無形のプレッシャーになっています。逮捕されるなら「真実を求めたジャーナリスト」としてヒーローになれるからいいんでしょうけど、本当に私たちが怖いのはガサ(家宅捜索)です。

会社に置いている取材メモを捜査機関に持っていかれたら終わりなんです。ニュースソースを守れないのです。ガサへの恐怖もありますし、常に秘密保護法で有形無形のプレッシャーを受けています。

――メディアも過渡期にあります。新聞からウェブ、スマホへという媒体の問題ではなく、そもそもの若者のニュース離れが言われる中、調査報道的な読み物はインパクトが大きい。

新聞記事の背景には、相当な無駄があるんです。今回の取材は5年半かかりましたが、相当な時間と取材費を使って、もしかしたら1行の記事にもならないかもしれなかった。そうしたことをやらせる体力が新聞、通信社に無くなりつつあるのは危機感を持っています。

それが出来なくなるとしたら、どこがやるのか。テレビ、ウェブメディアが出来るのかというと、どうなのでしょうか。ものになるかわからない調査報道は相当の余裕がないと出来なくなってしまっている。

メディアが権力監視型の調査報道をやる余裕はなくなりつつある

――若い人には何を感じてほしいですか。

聞屋(ぶんや=新聞記者)は古い言葉だし、ジャーナリストは自分で言うのは格好悪い。新聞記者を目指すなら、権力監視型の調査報道が一番価値があって、やるべきものだと思います。

新聞・通信社でそういう余力がなくなりつつある中で、いったいどうすべきか。アメリカでは、オンラインニュースの「プロパブリカ」がピュリッツァー賞を受賞しています。日本もそういうメディア環境になって行くのでしょうか。

――国の見解では、今も別班は存在しないことになっている。今後も追い続けるのでしょうか?

政府が別班の存在を認めて、しかるべき公然の組織になるまでずっと追い続けます。今、57歳なんで、定年まで残り2年。残り少ない記者人生ですけど(笑)。

 

石井暁(いしい ぎょう)

1961年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。85年に共同通信社に入社し、岡山、浦和(現・さいたま)、横浜支局を経て、94年から社会部。長く防 衛庁(現・防衛省)を担当し、安全保障問題を中心に、自衛隊のルワンダ難民救援活動、環太平洋合同演習(リムパック)、北朝鮮不審船事件、北朝鮮ミサイル 発射・核実験などを取材。月刊誌『世界』(岩波書店)にも寄稿してきたほか、別班を扱った調査報道の手法を伝える活動にも取り組んでいる。

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時空をつないでいく日々の創作

連載梶原しげるのプロのしゃべりのテクニック

「響30年」「山崎50年」を生んだ伝説のブレンダーが必ず守っている習慣

2018年11月11日

当記事はnikkei BPnetに連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2014年9月4日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。

サントリーを飛躍させた伝説のブレンダー輿水精一さん

ブレンデッド・ウイスキーの最高峰である「響30年」や、珠玉のシングルモルト・ウイスキー「山崎50年」「山崎35年」、そして「白州」など、今や世 界のウイスキーファンを魅了し続ける名酒を世に送り出し、そのブランドを不動のものにしたサントリーのチーフブレンダー輿水精一(こしみず・せいいち)さん。ラジオ局のスタジオに現れた輿水さんは、カリスマオーラをぷんぷん漂わせた「伝説のプロフェッショナル」という雰囲気は微塵もない。超一流といわれる 人は大抵そういうものなのだが。

ウイスキー通にはいまさらな話で恐縮だが、ブレンダーとは樽ごとに個性の異なる「モルト・ウイスキー」を利き分け、これをバランスよくヴァッティング (個性をもつモルト・ウイスキーを大桶に入れて混ぜ合わせること)をしたり、「モルト・ウイスキー」(大麦麦芽=モルトだけでつくられるウイスキー)と 「グレン・ウイスキー」(とうもろこしなどの穀物に大麦麦芽を加えて蒸溜したウイスキー)を混ぜ合わせてブレンディングをしたりすることで、新しいウイス キーを創り出す人と言われる。何十万樽ある「モルト原酒」のどれとどれを組み合わせれば狙った味ができるのか、ブレンダーは日々格闘している。

 7人のブレンダーがいるサントリーでも、輿水さんはウイスキーの品質を決める「最終評価者」=チーフブレンダーとしてその頂点にいらっしゃった。サントリーでは創業以来、4人のチーフブレンダーがその役割を継承してきたが、輿水さんは1999年より務めてきた3代目だ。

ヴァッティングとかブレンディングとは何か。何となくは分かる気もするが実際の所「何をどうなさっているのか」は分からない。

こういうときは恥も外聞もなく聞いてしまうのが一番だ。ただし中途半端な「エラそうに見せたがる人」には、こういう質問はやめたほうがいい。「それくらい事前に調べておけ!」と言わんがばかりに「ムッとされる」可能性がある。

ところが超一流の方というのは、こういう「素朴な質問」に丁寧に答えて下さることが多い。むしろネットで調べた半端な知識を、専門家を前にぺらぺらしゃべってしまうほうがよほど非礼だと私は思う。

80万樽のマッチングから新製品を編み出す

梶原:「そもそもブレンダーとはどういうお仕事なんですか?」

輿水:「分かりやすく言いますと、新製品を作るため、80万樽ほどある、どの樽とどの樽の原酒を組み合わせるか、そのマッチングを行う仕事とでもいいましょうか」

梶原:「80万樽!!!」

この一言でラジオを聞いている人たちにも「おびただしい樽がギッシリ並んだ巨大な蒸留工場のとんでもない広大さ」が目の前に広がってくるのではないだろ うか。それと同時に80万樽にも達する原酒の中から、相性のいいものをヴァッティングしたり、ブレンディングしたりする輿水さんたちブレンダーの仕事の困難さを知り、さらなる興味を募らせるはずだ。

 「一流の人」「その道の大家」は「インパクトのある数字」をさりげなく口にされる。話が上手下手の問題ではない。スゴイことをやっている方は気負わずごく自然にスゴイことをおっしゃるからつい引き込まれる。

輿水:「新製品とは別に、既に何年も前に発売しているおなじみの角瓶やオールドなどの味を正しく維持するための ブレンディングも重要な仕事です。一方で、当然ながら12年先、30年先、お客様に喜んでいただける12年もの、30年もののウイスキーも作ります。そう いう未来の味も、今の私たちが決めることになります。ブレンディングとは、現在・過去・未来という時空をつなぐ仕事なんだと責任を感じますね。こういうこ とができるのも、先輩たちが素晴らしい原酒を作り、貯蔵してくれた80万樽があればこそですが」

仕事を「点で考えず線で考えろ」とはビジネスでしばしば言われるが、ブレンダーの仕事はまさにそれだ。一般のビジネスでも、「今のことでアップアップの イッパイイッパイ」ではいい仕事にはなりそうもない。仕事において「時空をつなぐ役割」という意識は大事なキーワードだ。

テイスティングで最も重要なのは集中力

輿水:「このブレンディングで重要なのは、皆さんはワインでご存じでしょうが、テイスティングです」

梶原:「グラスに入れた樽の原酒や原酒同士をブレンドしたものを、口に含むんですか?」

輿水:「はい、嗅覚・味覚・視覚を中心に全身の感覚器官を総動員して臨みます」

このテイスティングを、輿水さんはじめブレンダーの皆さんは毎日2時間かけてワイングラスで200杯分行うのだそうだ。言うまでもないが200杯のウイ スキーは口に含むだけで飲み込むわけではない。アルコールはある程度口腔内の皮膚から吸収されるが、それで「判定の軸が揺らいでしまう」などということは ないと断言なさる。

輿水:「テイスティングで最も重要なのは集中力です。テイスティングを始めてから終わるまで、感性の集中力に変 化があってはいけません。集中度合いが変わらず、同じ感覚でテイスティングし続けることが最低要件。感性に変化が起きないそのリミットが経験的に2時間以 内であり200回なのです」

ビジネスパーソンにとっても、「実際に自分の集中が途切れないのは何時間で、どの時間帯なのか」を知っておくことは大切だと思う。

仕事のできない人に限って「忙しい、寝てない」を自慢のように口にする。しかし、仕事のできる人は、結構涼しい顔で課題を達成して周囲を驚かせる。それは集中すべき時間、時間帯を心得て、24時間のメリハリを付ける賢い時間コントロールを心がけている証拠ではないか。

これといった仕事もないのに、「何だか、だらだら忙しい」といつもどこかで追い立てられる気分の私などは、「集中力のない典型だ」と大いに反省させられる。

「いい仕事」のために輿水さん心がけていること

輿水さんは、大事な2時間を1日のうち、どこに持っていくかもしっかり決めている。

輿水:「朝10時から正午までの2時間。私にとってはここが一番集中できる時間です。私は毎朝7時に工場に到着 します。そこで前日やり残した雑務や、この後のテイスティングの準備などにゆったり時間を使い、午前10時きっかりに始めます。そのためには心身の状態が 安定していることが大前提です。風邪を引いた、二日酔いなどが論外なのは言うまでもありません。肉体的な健康と同様、いや、それ以上に気をつけているのは 心の健康、つまりストレスをためないことです。テイスティングするとき、何かのストレスを感じたら、嗅覚も、味覚も、感性のすべてが効かなくなり使い物になりません」

梶原:「じゃあ、朝出がけに奥さんとケンカして気分が悪い、なんてのはアウトですね」

軽い冗談のつもりだったが、輿水さんは真剣だ。

輿水:「まるで駄目です。万一そういうことがあったとすれば、その人はテイスティングの仕事を始めることができません。やってはいけません。そもそもブレンダーとは、感情の起伏の激しい人には向かない仕事なんです」

毎日朝からウイスキーが味わえて、それが仕事になるなんてこんなにいい仕事ならやってみたい、と一瞬思っていたが、感情の起伏が激しく、ストレスを感じやすい私には最も不向きな仕事だということが分かった。

私に限らず、感情のふれ幅の大きい人にはどうやら丁寧で繊細な仕事は向いていないようだ。「いい仕事」のためには「集中力の維持」と「感性の軸がぶれない」、この2点が重要なのだと改めて知らされた。

 

外国観光客が日本のウイスキーを買って帰るのが当たり前に

輿水さんたちブレンダーや素晴らしい原酒を仕込んだ人たちのおかげで、日本のウイスキーは今や世界的な評価を受けている。

梶原:「サントリーの響、山崎、白州や、ニッカの竹鶴、余市をはじめ、日本のウイスキーは世界のトップレベルに到達したと言えますか?」

ずっと謙虚な姿勢を崩さなかった輿水さんが、このときばかりは「その通りです!」と即答なさった。

輿水:「世界を凌駕(りょうが)したと言うと言い過ぎですが、ウイスキーの世界的なコンペティションで3年続け て金メダルを取ったのは日本です。スコットランドのブレンダーをよく知っていますが、お世辞抜きで評価してくれています。私が入社した40年前には考えも 及びませんでした」

ここで輿水さんとちょっと懐かしい話で盛り上がった。

梶原:「僕は新入社員のころ、お金もなくてもっぱら“白”(安価なブランドのサントリーホワイト)を飲んでいま した。給料がちょっと上がるころから角瓶を飲みながら、上司がボトルキープしている“だるま”(サントリーオールド)を見ては、いつかは自分もオールドを、なんて思っていました」

輿水:「私も全く同じです。あのころは生活の向上に合わせてウイスキーの値段の高いものを選んでいくという、<いつかはオールド>って時代でした」

梶原:「車だって、<いつかはクラウン>でしたもんね」

輿水:「しかし今の若い方にはそういうこともなく、いきなりシングルモルトの白州から飲み始めるというスタイルが当たり前のようになっていますね」

梶原:「変わりましたねえ。変わったといえば、昔は外国旅行から帰って来る日本人がスコッチウイスキーをぶら下げて税関を出てきましたねえ。私もそうでしたが」

輿水:「憧れの外国産高級ウイスキーやブランディーが3本まで免税価格で安く買えましたからね。でも今では羽田でも成田でも、外国の観光客が日本のウイスキーを買って帰るというのが当たり前になっています。お土産でもとても喜ばれる」

輿水さんは心からうれしそうに語った。

家では角瓶を飲むんです!

梶原:「ところで、輿水さんは家では何を飲んでいるんですか?」

輿水:「晩酌ですか? 私はですねえ、角瓶なんですよ」

梶原:「えー? 響とか、山崎、白州じゃないんですか?」

輿水:「仕事柄そういうお酒、シングルモルトなんかもいろいろ家にありますよ。でも毎晩疲れずに飲むなら角瓶が 最高ですね。夏はハイボール、冬はお湯割り。特別に何かいいことのあったハレの日は響とか山崎、白州を飲みますよ。でも毎日っていうと疲れますね。それぞ れ主張が強いから」

午前10時から正午まで、感性の集中力を途切れさすことなく、200杯のウイスキーを鼻で嗅ぎ、口に含んでは吐き出し、データをノートに書き続ける伝説 のブレンダー。その輿水さんが、帰宅してゆったりくつろぐ夕飯の食卓。奥様とのんびり味わう晩酌に「角瓶」のお湯割りを楽しむ姿を想像し、何だか気持ちが ほっこりしてきた。

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