アルコールに限らずすべては双刃の剣、、、適量をバランス良く愉しみましょう。。。Vol.2

 

血糖値が気になるなら醸造酒はNG? 食後高血糖を抑える飲み方の鉄則

お酒と血糖値【後編】おつまみのポイントは、たんぱく質と油をしっかりとること

葉石かおり
エッセイスト・酒ジャーナリスト

 

多くの人が気にする「血糖値」。肥満が気になるのはもちろん、将来糖尿病になるのは何とかして避けたいものだ。前編は、「食事と一緒にお酒を飲むと血糖値の上昇は抑えられる」という酒飲みにうれしい報告をさせていただいた。今回は、食後血糖値を上げないための具体的な飲み方、おつまみの選び方などを、前編に引き続き「ロカボ」の提唱者・山田悟さんに聞いていこう。

食事と一緒にお酒を飲むと血糖値の上昇は抑えられる」――。

前編では最近の研究報告を基に、糖尿病専門医で、緩やかな糖質制限「ロカボ」の提唱者、北里大学北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟さんから、「アルコールは血糖値にとって、敵ではない」というお墨付きをいただいた。

私もそうだが、これまでは「アルコールは血糖値を上げるの? それとも下げるの? いったいどっち!?」とモヤモヤしていた酒好きもいたと思うが、前編を読んでだいぶホッとしたのではないだろうか。

私事ながら、自分自身が食後高血糖であることが判明したことは、卒倒しそうなほど驚いた(詳しくは前編をご参照ください)。こんな仕事をしているくせに血糖値180mg/dL(食後2時間後の値)ってどうよ…。なお、食後2時間の血糖値が140mg/dL以上の場合、食後高血糖と診断される(食後高血糖の怖さについては前編をご参照ください)。

糖尿病家系で、将来糖尿病のリスクが高い身としては、今後の食事、そしてお酒の飲み方には注意せねばなるまい。念のためお伝えしておくが、これは私だけの問題ではない。山田さんによると、日本人の半分近くは食後高血糖の可能性があるというのだから、人ごとではない! 特に昼食後に眠くなったり、集中力がなくなる人は要注意である。

では、食後高血糖を抑えるためには、どんな飲み方をするのがいいのだろうか。

いくらお酒が血糖値の上昇を抑えるといっても、糖質たっぷりのお酒を飲むとなると、「ホントに大丈夫?」とグラスを持つ手が止まってしまう。特に日本酒は、糖質を多く含むと言われているだけに、手を出すのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうのではないだろうか? 正直、私も食後高血糖が判明してからというもの、日本酒は恋しいものの、あえて糖質ゼロの本格焼酎ばっかり飲んでいる。

また、食後高血糖の恐ろしさを知ってからというもの、おつまみに関しても気になって仕方がない。前編で紹介したオーストラリアの研究(Am J Clin Nutr. 2007;85(6):1545-51.)から、実験で糖質の多いパンをアルコールと一緒に摂取すれば血糖値の上昇が抑えられるという結果が得られているものの、その抑制度合いにはおのずと限界があるだろう。糖質たっぷりの焼きそばやポテサラをガンガン食べたら、さすがにマズイだろう…。

どんなお酒を選べばいいか、そしておつまみは何にすればいいのかーー。ここはしっかり山田さんに確認しておかねばならない。

「糖質の少ないお酒を選ぶ」というのが鉄則だが…

山田さんは、血糖値を上げにくい、緩やかな糖質制限「ロカボ」を推奨していらっしゃいますが、アルコールを絡めた場合、どんな飲み方をすれば実現できるのでしょうか?

前回もお話ししたように、血糖値を上げるのは糖質です。ですから、糖質面から見たお酒選びの鉄則は、『糖質の少ないお酒を選ぶ』ということになります」と山田さんは話しつつ、次のようにフォローしてくれた。

「しかし、お酒には個人の好みがはっきりあります。極端に糖質が多いお酒は避ける(もしくは量を控える)にしても、苦手(嫌い)なお酒を選ぶことはありません。ぜひ好きなお酒を楽しんでください。ただし、食事(おつまみ)とお酒の糖質量を合計して、40g以内(1食当たり)に抑えるようにしてください。ここがポイントです」と山田さんは話す。

山田さんが提唱している緩やかな糖質制限「ロカボ」では、1食当たりの糖質量を20~40g以内に抑えることを推奨している(1日当たりでは間食10gも含めて70~130g以内に抑える)。これにより、食後高血糖になるリスクを抑えようというものだ。1食トータルで40g以内に抑えるためには、糖質が少ないお酒を選んだほうが有利。その分、おつまみの選択できる幅が広がるというわけだ。

糖質量が少ないお酒の代表は、本格焼酎、甲類焼酎、ウイスキー、ウオッカ、ジンなどの蒸留酒で、糖質ゼロ(またはほぼゼロ)です。一方、醸造酒は比較的糖質を多く含んでいます。中でも日本酒、ビール、紹興酒などは糖質を多く含んでいます」(山田さん)

主なお酒に含まれる糖質量(100g当たり)

主なお酒に含まれる糖質量(100g当たり)
※糖質量は「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」に掲載されている炭水化物から食物繊維を除いて算出

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血糖値の観点からは、糖質ゼロの蒸留酒がいいのはよーく分かる。しかし暑い日はビールをゴキュゴキュッと飲みたいし、和食には日本酒を合わせて楽しみたい。そしてイタリアンやフレンチならワイン(スパークリングワインも含む)と合わせたいと思うのが左党である。

先生、ロカボ的に醸造酒はNGなんでしょうか?

「いえいえ、そんなことはありません。醸造酒だって飲んでもいいんです。先ほども触れたように、1食トータルで40g以内に抑えればOKです。醸造酒の中では、ワイン(スパークリングを含む)は糖質量が低いという特徴があります。もちろん銘柄にもよりますが、赤でも白でもスパークリングワインでも、3杯程度飲んでもおよそ5g程度です。飲み過ぎなければ、あまり気にせず楽しめると思います」(山田さん)

「ワインを選ぶ際には『辛口』と表示されているものを選ぶといいでしょう。スパークリングワインの場合は、『extra brut』『brut nature』などと表記があるものが安心です(いずれも極々辛口という意味)。ただしデザートワイン、貴腐ワイン、そしてアイスワインはいずれも甘口で、糖質がとても多いので、飲むなら少量に抑えましょう」(山田さん)

日本酒もOK! おつまみの糖質でコントロールすればいい

上のグラフを見ると、確かにワインは醸造酒の中では糖質が低めだ。それに比べ日本酒は100g当たり3.6~4.9gと赤ワインの3倍程度の糖質が含まれているではないか。食後血糖値を気にする人は、日本酒に手を出さないほうがいいのだろうか?(涙)

「糖質面から見れば、もちろん糖質が少ないお酒がいいに越したことはありません。でも好みや、食べ物との相性もあります。日本酒など糖質が多めのお酒を飲む際は、おつまみで糖質量を調整すればいいんです。糖質が多めの日本酒でも、1合に含まれる糖質は7~9g程度です。食事の糖質をうまくコントロールすれば、十分に楽しめますよ」(山田さん)

なるほど。寿司と日本酒の組み合わせなどとなると一気に糖質の制限量をオーバーしてしまいそうだが、他のおつまみであれば工夫次第で何とかなりそうだ。

このほか、低糖質あるいは糖質ゼロの発泡酒、カクテル・チューハイなども上手に活用してほしいと山田さんは話す。「酒造メーカーは現在、売れ筋商品である低糖質(もしくは糖質ゼロ)のお酒の開発に大きな力を注いでいます。味もどんどんおいしくなっています。合成甘味料を使っていると『体に悪いのでは…』と心配する方もいらっしゃいますが、日本で認められている合成甘味料は、安全性が確認されており、神経質になる必要はありません。血糖値も上げません」(山田さん)

お酒は食事と一緒に楽しむもの、お酒だけを飲むのはNG

左党の中には糖質を気にするあまり、おつまみを食べず、酒ばかり飲んでいる人が少なからずいる。実際、そういう人を見ると、みるみるうちに痩せていくのだが、健康面が心配である。

そう話すと、山田さんは「お酒は食事と一緒に楽しんでください!」と強く話す。

「お酒は、お酒だけで飲むのではなく、食事と一緒に楽しむものです。お酒だけを飲み、酔うことを目的にすると、健康を損なう飲み方になる可能性があります。一方で、食事とともにお酒を飲めば、血糖値の上昇を抑える『体にいい飲み方』になります」(山田さん)。フランスの食文化では、食事とワインとの組み合わせ(マリアージュ)を大切にするが、それは健康面でも理にかなったことなのだと山田さんは話す。

さらに、「前編でお話ししたように、それによって血糖値を下げることが分かっています。太ることを気にして、お酒単体で飲む方もいらっしゃいますが、これを続けていて、昏睡状態など重篤な症状を誘引するアルコール性低血糖を生じた方もいます。アルコール性低血糖を防ぐためにも、おつまみを一緒にとったほうがいいのです」(山田さん)

 

先ほど、蒸留酒は糖質がほぼゼロだと紹介したが、ウイスキーなどの強い酒を単体で飲み続けるのはお勧めできないと山田さんは話す。「12カ国の35~70歳の成人、約11万5000人を対象にした、アルコール消費と心血管疾患、がん、外傷、死亡率などとの関係性を調べたコホート研究(Lancet. 2015;386:1945–54.)から、強いお酒(高アルコールのお酒)を飲む人は、ワインやビールなどの醸造酒を飲む人よりも、死亡率、脳卒中、がん、外傷などのリスクが高いことが明らかになっています」(山田さん)

そういえば若い頃に泥酔し、転んで靭帯を痛めた際に飲んでいたのはウイスキー単体だったっけ…。しかもロックでガンガン。

山田さんは、「蒸留酒を飲むのなら、炭酸で割ったハイボール、または水割りにするといいでしょう」とアドバイスする。確かに、ウイスキーにしても、焼酎にしても炭酸で割るハイボールが人気だ。蒸留酒でも、割って飲めば食事とも合わせやすい。

さて、お酒については、“酒量”に触れないわけにはいかないだろう。前編で紹介したように、お酒が血糖値の上昇を抑える効果が期待できるとなると、ちょっと多めに飲んでもよさそうだが、先生どうなのでしょう?

「アルコールそのものは、発がん物質とされていますし、一定量以上飲むと正の相関をもって死亡リスクを上げていきます。やはり飲酒量は適量に抑えてください。具体的には、国が定める適量飲酒である純アルコールで20gが目安です(*1)。日本酒でいえば1合、ビールなら中ジョッキ1杯、ワインならグラス2~3杯程度です。ただし、アルコールの強さ(耐性)には個人差もあります、このデータはあくまで観察疫学研究から推定した目安と理解してください」(山田さん)

*1 純アルコール量=アルコール度数(%)×0.01 ×お酒の量(mL)×0.8 で計算できる。アルコール度数5%のビールを500mL飲酒するならば、純アルコール量=5×0.01×500×0.8=20g。

おつまみのポイントは、たんぱく質と油をしっかりとること

次は、お酒と組み合わせる「おつまみ」。食後高血糖を抑えるためには、具体的にどんなメニューを選べばいいのだろうか。

「食後高血糖を避けるためのポイントは、何と言っても糖質の少ないメニューを選ぶこと、そして鶏肉や豆腐などのたんぱく質を多く含む食品、オリーブオイル、ナッツ、魚に多く含まれるオメガ3(*2)、バターや生クリームなどの良質な油をしっかりとることです。たんぱく質や油を先に摂取しておくと、血糖値の上昇が抑えられます。晩酌時にたんぱく質をしっかりとっておけば、筋肉の合成スピードも上がって、ロコモ(*3)対策にもなりますよ」(山田さん)

*2 オメガ3とは、n-3系多価不飽和脂肪酸の通称。α-リノレン酸、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などのこと。体にいいと言われる油の一例。
*3 ロコモティブシンドロームの略。骨、関節、神経、筋肉などに障害が起こり、立つ・歩くなどの日常生活を送る上で重要な機能が低下する状態。

先生、居酒屋メニューでいえば、具体的にはどんなおつまみがいいのですか?

「枝豆、唐揚げ、冷ややっこ、焼鳥(塩)、そして刺身、カルパッチョなどもお勧めです。どうです? 居酒屋の定番メニューでも選べるものはいっぱいありますよね。こうした糖質の少ないおつまみなら、お腹いっぱい食べてもいいんです」(山田さん)

たんぱく質と良質の油は満腹になるまで食べて大丈夫です。この2つを中心にした食生活をしている人は満腹感によってエネルギー摂取をコントロールできます。怖がらずとも、満腹になってもいいのです」(山田さん)

「お腹いっぱい食べてもいい」――。血糖値を気にする人は、常に「腹八分目にしなさい」と言われているので、この一言は暗闇にさす一筋の光のように見えるのではないだろうか? 山田さんによると、「たんぱく質や油を中心とした食生活をしている人は、満腹感を与える消化管ホルモン『ペプチドYY』がよく分泌され、さらにその状態が長く保たれる」そうだ。一方、「糖質中心の食生活をする人はペプチドYYが分泌されにくいため、特に肥満の人は食後2時間もすると空腹を感じる傾向にある」という。

確かに、肉や魚、そして大豆食品をはじめとするたんぱく質や油は腹持ちも良く、しっかり食べておくと間食を必要としなくなる。油もOKというのは、食べることが好きな左党にはありがたい。ただし、「古い油(酸化した油)、それにトランス脂肪酸(植物油を加工する際に生じる油の一種で、過剰摂取は健康に悪影響があることが指摘されている)は避けてください」と山田さんは話す。

そして、控えるべき糖質を多く含むメニューについては、「焼きそば、焼きおにぎり、パスタ、ピザなど、糖質が多いおつまみを食べたい場合はラストにしましょう。先にたんぱく質や油を十分にとっていると、血糖値上昇が若干でも抑えられます。そして、先にたんぱく質と油でお腹を満たしておけば、炭水化物メニューの量を食べ過ぎることもありませんよ」(山田さん)

居酒屋では、最初からポテトサラダ(すぐ出ることが多い)を頼む人もいるが、これはNG。「『ポテトサラダは野菜だから』などと言う人もいますが、血糖値の面からは避ける(もしくは量を控える)べきです。ポテトサラダのじゃがいもは、1個(100g)で糖質が17gにもなります。同様にコーンサラダもNGです。芋類やとうもろこしは主食と同じと考えてください」と山田さん。

なお、野菜に多く含まれる食物繊維には、糖の吸収を穏やかにする効果があるため積極的にとりたい。野菜の多くは糖質量が少ないが、ゆり根、かぼちゃ、レンコンは糖質量が多いので注意が必要。また、たまねぎ、にんじん、パプリカなども比較的多い。これらのとり過ぎには注意しよう。

知らず知らずのうちに糖質過多になっているおつまみを見直し、たんぱく質と良質な油中心のおつまみに変えることで、さまざまな病気を引き起こす食後高血糖を改善できる。また、昼食の内容などを見直せば、仕事の生産性を上げることも期待できそうだ。

ビジネスパーソンとして仕事のパフォーマンスを上げるため、そしてまた恐ろしい病気を誘引する食後高血糖を改善するためにも、今一度、飲んでいる酒の種類と食事の内容を一考しておきたい。

先生のアドバイス通りに食事を変えてみた結果は…

前回も紹介したが、以前の私の食後血糖値は軽く180mg/dL超え。「糖尿病と診断されてないもーん♪」(空腹時血糖値は基準値内)ということもあり、糖質への意識が甘かったが、この結果を踏まえ「これはまずい…」と食事改善に着手した。

山田さんのアドバイスを基に1食当たりの糖質を40gに抑える食生活を1カ月したところ、何と食後血糖値が97mg/dLという好成績を得ることができた。

具体的にどうしたかというと、糖質量を簡単に測れるスマホのアプリ( 「糖質カウンター」というアプリ)を活用して、1日の食事を管理するようにしたのである。このアプリを使って食事を管理すると、前述したように、レンコンやにんじんといった意外なものにも糖質が多いことが分かり、摂取量を抑えるようになる。こうして、日常の食事に気を付けることにより、食後高血糖がだいぶ改善されてきた。

正直、大好きなチョコレートはやめられないのだが、山田さんも「間食(スイーツ)もしっかり楽しんでください(ただし糖質10g以内)」と話していたので、量を抑えつつ安心して食べている。

普段に飲む酒は、日本酒メインから糖質ゼロの本格焼酎(水割りかハイボール)に切り替え、外飲みの際には、日本酒やワインなどの醸造酒を楽しむようにメリハリをつけたところ、ストレスもたまらず、リバウンドもしていない。もう少しがんばって、体重もあと3キロ減らしたいところである。

ちなみに、糖質を食べても、食後に運動さえすれば血糖値は上がらない、などと言う人もいるが、それはどうなのだろう? せっかくの機会なので山田さんに聞いてみた。

すると、「食後に、運動することは、もちろん悪いことではありませんので、ぜひ実践してください。ただし、血糖値については、運動より食事の影響の方が圧倒的に大きいのです。ですから、食後に慌てて運動するより、食事で糖質をコントロールしたほうが効果的といえます」(山田さん)というお返事をいただいた。やはり食事面での取り組みが最優先なのだ。

◇        ◇        ◇

ここまでの山田さんの話をまとめると、アルコールが血糖値を上がりにくくしてくれることは確実ではあるものの、適量はあくまで純アルコール換算で20g。選ぶ酒は、糖質量が少ない酒が望ましい。糖質量が多い酒を飲む際は、おつまみで調整して、1食当たりの糖質量はトータル(酒込みで)40g以内に収める。おつまみは、糖質量を考慮し、たんぱく質&良質な油を主体としたものを選ぶのが理想ということだ。糖質を多く含むメニューは食事の最後(カーボラスト)にする。

改めて見直すと、これといって難しいことはなく、意識さえすればすぐにでも実践できることばかりである。これで血糖値がコントロールでき、将来の糖尿病のリスクが減る。さらには食後の眠気を抑え、集中力も維持できるならお安いもんではないだろうか。

左党はおいしいおつまみを食べながら、酒を飲むことを何よりの幸せと感じる人が多く、そのため気づかぬうちに糖質過多になっていることがある。この機会に今現在の自分の食後血糖値を把握し、糖質の摂取を上手にコントロールしながら、長―く、健康的に飲み続けたいものである。

(図版:増田真一)

山田 悟(やまだ さとる)さん
食・楽・健康協会代表理事 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長[日経Gooday]

アルコールに限らずすべては双刃の剣、、、適量をバランス良く愉しみましょう。。。Vol.1

 

お酒は血糖値を上げるのか、それとも下げるのか

葉石 かおり
エッセイスト・酒ジャーナリスト

アルコールは血糖値の敵ではなかった!

 酒飲みが気にする健診項目に「血糖値」がある。肥満はもちろん、将来の糖尿病を恐れるためだ。最近はマスコミで「食後高血糖」が取り上げられるケースも増えた。

多くの人が気にする血糖値、お酒との関係はどうなのだろうか。血糖値を上げるという話がある一方で、下げるという説もある。どちらが本当なのか。

そこで、最新刊『名医が教える飲酒の科学』が好評の酒ジャーナリストの葉石かおりさんが、糖尿病専門医で、緩やかな糖質制限「ロカボ」の提唱者、北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟さんに直撃して話を聞いた。

中高年齢層の人が気にする健診の項目は数多くあるが、近年の「糖質制限」ブームなどもあり、特に注目度が高まっているものといえば「血糖値」だろう。

私に限らず、お年頃(中年)の左党であれば、血糖値を気にしている人は多い。肥満を気にするのはもちろん、将来の糖尿病を恐れている人も少なくない。ご存じの方も多いと思うが、血糖値とは血液中のブドウ糖の濃度のことで、血糖値が高い状態が続くのが、多くの合併症に罹患するリスクを負う、恐るべき「糖尿病」だ(詳しくは後述)。

実際、自身の周囲にいる左党たちの状況をよーく見ると、糖尿病予備群、あるいは既に糖尿病という方がかなりの確率でいる。まあ、彼らは糖尿病や痛風の薬を飲みながら、ビールをチェイサーに日本酒を飲むような人なのでサンプルにはならないかもしれないが…。

お酒は血糖値を上げるのか、それとも下げるのか

筆者の場合、気が気でないのは、母を筆頭に親戚の多くが糖尿病、という生粋の糖尿病家系だということ。叔父に至っては糖尿病の合併症のため、人工透析を長年行った後、壊疽(えそ)により両膝下を切断している。叔父の例は極端にせよ、直系の母と同様の糖尿病がいずれ私にも起こるのではないかと心配でならない。そんなこともあって、それはもう「血糖値」という言葉には敏感になっている…。

最近では、食後に血糖値が急上昇する、いわゆる「食後高血糖」のリスクも知られるようになってきた。食後高血糖の人は心筋梗塞などの死亡リスクが上昇するという。また、食後高血糖は、老化の原因の1つ「糖化」を進めるという話も当コラムで以前紹介した。

この多くの人が気にする血糖値、お酒との関係はどうなっているのだろうか――。

このテーマは、私は以前からずーっと気になっていた。というのも、糖尿病患者の人はお酒を控えたほうがいいという話を聞いたことがある(実際、糖尿病の私の母は医師からお酒を控えるように言われた)一方で、アルコールは血糖値を下げるという話も耳にするためだ。

後者についてよく言われるのが、「飲んだ後の〆のラーメン問題」である。左党の間でまことしやかに言われているのは、「酒を飲むと血糖値が下がるので、糖質たっぷりのラーメンを食べたくなる」ということ。私も今でこそ〆のラーメンは控えているけれど、酒を飲んだ後にラーメンが食べたくなるというのは同感である。これはやっぱりアルコールに血糖値を下げる効果があるからなのだろうか?

血糖値、そして糖尿病といえば、この方に聞くしかない! 今回は、日経Goodayでもおなじみ、糖尿病専門医で、緩やかな糖質制限「ロカボ」の提唱者である、食・楽・健康協会代表理事、北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟さんに話を伺った。

恐ろしい食後高血糖! 働き盛り世代にとって“ど真ん中”の問題

本題の「お酒と血糖値の関係」に入る前に、まず、糖尿病のエキスパートである山田さんに、「高血糖」そして「食後血糖値」のリスクを確認しておこう。

「糖尿病の原因となる『高血糖』、そして『高血圧』や『脂質異常』は、放っておくとドミノ倒しのようにさまざまな病気を発症します。この現象は『メタボリックドミノ』と呼ばれます」と山田さんは説明してくれた。

「ご存じのように、血糖値とは血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度のことです。糖質を摂取すると、その後血糖値が上がります。血糖値が上がると、インスリンというホルモンが膵臓から分泌され、血糖値は下がります。このように私たちの体には、血糖値を一定に保つ仕組みが備わっているのですが、インスリンがうまく分泌されなかったり、効きが悪くなると、血糖値が下がらず、血糖値がずっと高い状態になってしまいます。これが糖尿病です」(山田さん)

「糖尿病は病状が進むと、慢性腎臓病になり人工透析を受けることになったり、網膜症を起こして失明したり、神経障害を起こして脚を切断するといった深刻な合併症を引き起こします。さらに、動脈硬化を進め、脳卒中、心筋梗塞などのリスクも上がります。最近では、日本人の最大の死因であるがんのリスクを高めることも分かってきました」と山田さんは説明する。

メタボリックドミノ! そして、がんのリスクを高めることにもつながるとは! 高血糖、恐ろしい…。

「実はこのメタボリックドミノの過程で、今最も注目されているのが『食後高血糖』なのです。食後高血糖とは、その名の通り食後に血糖値が急上昇することを指します。食後2時間時点で血糖値が140mg/dLより高くなった人は食後高血糖と診断されます。これは、糖尿病と診断される前段階である『糖尿病予備群』に該当する状態です」(山田さん)

最近は「血糖値スパイク」などと言ってよく話題になるものの、「そんなの大した問題じゃないのでは?」と思っている人も少なからずいると思う。しかしそれは大間違い。食後高血糖の悪影響は広範囲に及ぶのだと山田さんは話す。

食後高血糖の人は心血管疾患による死亡率が高い
食後高血糖の人は心血管疾患による死亡率が高い
山形県舟形町の住民を対象に、健診結果で「正常」「予備群」「糖尿病」の人が、どのくらい心筋梗塞などの心血管疾患によって亡くなったかを調査した結果。縦軸は累積生存率で、下に行くほど死亡率が高いことを意味する。(Diabetes Care. 1999;22:920-924.)
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「糖尿病の診断基準を満たしていなくても、食後高血糖があるだけで、心血管疾患による死亡リスクが高くなることが明らかになっています」(山田さん)。食後高血糖は、活性酸素を作り出す要因になり、全身の血管内で慢性の炎症が起こり「動脈硬化」を進め、心筋梗塞や脳卒中につながるのであろうと山田さんは話す。

血糖値が急激に上がったり下がったりする乱高下が、体にさまざまな悪影響を及ぼすことも近年の研究で次々と明らかになっているという。

血糖値の変動を繰り返すと細胞死が増加する
血糖値の変動を繰り返すと細胞死が増加する
高血糖状態でも細胞死は増加するが、血糖値が激しく上下動を繰り返したほうが細胞が死ぬ確率は上昇する。ヒトの血管内皮細胞を異なる糖濃度で培養した結果。(Am J Physiol Endocrinol Metab. 2001;281:E924–E930.)
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例えば、血管内皮細胞の培養実験では、血糖値360mg/dLと90mg/dLで上下動させると、血糖値を高値で安定させた状態よりも血糖値の上下動が激しいほうが細胞死の数が多かったという結果が出ている(Am J Physiol Endocrinol Metab. 2001;281:E924-E930.)

山田さんによると、「血糖値の異常は、まず食後血糖値に表れる」のだという。「空腹時血糖値が常に高くなるのは、かなり糖尿病に近い状態になってからです」(山田さん)。だからこそ、食後高血糖を早期に見つけ、対策を打つことが大事になるわけだ。

さらに、血糖値の乱高下は、「食後の眠気、倦怠感などを誘引し、集中力を阻害します。それによって仕事や運動のパフォーマンスも低下します。糖尿病と診断されていない、一般の方々にとっても食後高血糖は重要な問題なのです」(山田さん)

なるほど、糖尿病が怖い病気だということは知られているものの、それでも、自分には関係ない“縁遠い存在”だと思う人は少なくないだろう。しかし、食後高血糖が、倦怠感や集中力などにも影響するというと、縁遠い存在どころか、私たちのような働き盛り世代にとっても、“ど真ん中”の重要な問題ではないか!

日本人の2人に1人が食後高血糖?

食後高血糖が恐ろしいのは、通常の健康診断では見つけることができないこと。健診で測るのは空腹時血糖で、食後2時間後などの血糖値を測るわけではない。つまり、健診結果では見つからないが、実は食後高血糖に該当する人が少なからずいるということだ。

山田さんは、実は、日本人の半分程度が、食後高血糖に該当する可能性があるのではないかと指摘する。

「2013年の中国における10万人規模の研究結果では、実に成人の2人に1人が血糖異常者だったという結果が出ています(JAMA. 2013;310(9):948-959.)。日本人は中国人と同じ東アジア人で体質が近いことから、日本人を対象にこの研究と同様の食後血糖測定を行えば、これに近い数値になると推測しています」(山田さん)

日本人の2人に1人とは、驚きの比率である。山田さんによると、「食後に血糖値が上昇しても、若い頃ならインスリンによって速やかに血糖値を下げることができます。しかし、歳を取ると、インスリンの分泌能力が低下します。加えて、糖を取り込む場所である筋肉が減れば、糖が利用されにくくなります。40代を過ぎると、健康に見える人でも食後高血糖が見られるケースが増えてくるのです」という(*1)。

*1 食後高血糖を避ける食事法として山田さんが推奨しているのが、緩やかな糖質制限「ロカボ」だ。詳しくは、後編で紹介するが、朝昼晩の3食は、1食当たりの糖質量を20~40g程度にして、さらに間食10gを合わせて、1日当たり糖質70~130gに抑えるという食事法だ。カロリー制限はなく、たんぱく質や脂質はおなかいっぱい食べていい。

恐ろしい事実が判明! 私も食後高血糖だった!

ここで話が前後して恐縮だが、今回の取材の後、恐ろしい事実が判明した。何と、私自身が食後高血糖であることが分かったのだ!

取材で上記のような先生の話を聞いているうちに、「もしや自分も食後高血糖なのではないか…」と不安でたまらなくなった。というのも、パスタや丼物など糖質メインの昼食をとった後の午後2時くらいになると、ダルくなったり、どうにも眠くてたまらないということが少なくなかったからだ。そして、冒頭で触れたように、私は糖尿病家系、血糖値が上がりやすい体質である可能性が高い!

あまりに心配になったので、取材の翌日、筆者も食後に血糖値を測ってみた(当日の朝ごはんはみたらし団子、昼食はビビンバ丼+唐揚げ+豚汁)。すると、食後2時間時点での血糖値は180mg/dLと、思いっきり食後高血糖であることが判明して、それはもう驚いた。

筆者の場合、空腹時の血糖値は80mg/dLと基準値内で、健診で引っかからなかったため、「糖尿病と診断されてないし♪」と完全に油断していた。改めて糖尿病家系の恐ろしさを知ったのであった(涙)。

この話を聞いて、「自分も大丈夫だろうか」と不安になった人も多いと思う。山田さんによると、「ランチの2時間くらい後に、眠くなる方は食後高血糖の可能性が高い」という。

自分もアブナイ!と思った人は、ぜひ一度食後の血糖値を測ってほしい。調剤薬局にある検体測定室で、500円程度で測定できる。おにぎり2個と野菜ジュースを飲んで(これで糖質100g程度)、その2時間後に血糖値を測定して、血糖値が140mg/dLを超えていたら食後高血糖だ。もちろん、かかりつけの医師に相談したり、人間ドックの「経口ブドウ糖負荷試験」で測定してもいいだろう。

かつては「お酒を飲むと血糖値が上がる」のが常識だった

さて、ここまでの先生の説明で、食後高血糖がいかに怖いかがよく分かった。ではいよいよ、本題である「お酒と血糖値の関係」について山田さんに聞いていこう。

山田さんによると、かつては「お酒を飲むと血糖値が上がる」というのが糖尿病専門医の間でも常識だったのだという。

昔は、糖尿病専門医にとって、アルコールは避けるべきという考えが当たり前でした。1990年代の日本糖尿病学会のガイドラインでは血糖値の管理が良好な人だけに限定して飲酒を許可していました。『お酒は血糖値を上げるのだろう。カロリーが血糖値の上昇に関与しているのだろう』という推測のもと、飲酒制限を指導していたのです」(山田さん)。確かに、かつて私の母が糖尿病と診断された際は、「お酒は絶対に禁止」とドクターから言われている。

ところが、この指導には科学的根拠があったわけではないのだと山田さんは話す。

「『お酒を飲んで血糖値が上がる』という論文は探しても見当たりません。あくまで私の推測ですが、糖尿病におけるアルコールの弊害に根拠はなく、何事も節制することが糖尿病治療にとって良しとされてきたことが影響しているのではないかと考えられます」(山田さん)

そして今は、その正反対、つまり「アルコールは血糖値の上昇を抑える方向に働くという興味深い研究報告が出ています」と山田さんは話す。

それが、オーストラリアのブランド・ミラーらの研究グループが、ビールと白ワイン、ジン、そして水を飲んだときの血糖値の影響を調べた研究だ(Am J Clin Nutr. 2007;85(6):1545-51.)。ここで、「アルコールは血糖値の上昇を抑えるという結果が出たのです」(山田さん)

この研究でブランド・ミラーらは、いくつかの実験を行っている。まず、ビール、白ワイン、ジン、そして、同じエネルギー量になるように合わせた食パンをそれぞれ単体で摂取して、血糖値がどのくらい上がるかを検証した。その結果は、最も血糖値が上がるのが食パン、次いでビールで、白ワインとジンはほとんど血糖値を上げなかった(下の実験1)。

<実験1>白ワインとジンは血糖値をほとんど上昇させない
<実験1>白ワインとジンは血糖値をほとんど上昇させない
同じエネルギー量に合わせた食パン、ビール、白ワイン、ジンを摂取したときの血糖値上昇を調べた。白ワインとジンは血糖値はほとんど上昇しなかった。
* AUC(血糖上昇曲線下面積、単位はmmol/L・min)は時間経過にともなう血糖値増加量の面積のことで、血糖値上昇を比較するための指標。

「それぞれの食品が持っている糖質の含有量にほぼ近い形で、血糖値が上がりました。糖質量は、食パン>ビール>白ワイン>ジンの順に多くなります。ジンより糖質が多い白ワインの方が血糖上昇が若干低くなってはいますが、おおむね予想通りの結果となっています」(山田さん)

次の実験では、さらに食パン+水、食パン+前出のお酒の組み合わせで、検証している(下の実験2)。この結果、「最も血糖値を上げたのは『食パン+水』で、『食パン+白ワイン』を筆頭に、食パンとお酒の組み合わせは、『食パンと水』より血糖値が上がりませんでした。つまり、糖質とアルコールを同時にとると、血糖値の上昇が抑えられたという結果が出たのです」(山田さん)

<実験2>糖質とお酒を同時にとると、血糖値の上昇が抑えられた
<実験2>糖質とお酒を同時にとると、血糖値の上昇が抑えられた
食パンで作ったサンドイッチとともにそれぞれの飲料を飲んだ。パンと白ワインの組み合わせが、最も血糖値上昇を抑制した。
* AUC(血糖上昇曲線下面積、単位はmmol/L・min)は時間経過にともなう血糖値増加量の面積のことで、血糖値上昇を比較するための指標。

3つ目の実験では、糖質(マッシュポテト)を摂取する1時間前に、水と前出のお酒を摂取した場合に、血糖値がどう変化するかを検証している(下の実験3)。この結果、水以外のアルコールは全て血糖値の上昇が水より低いという結果になった。

<実験3>食事前にお酒を飲むと血糖値が上昇しにくい
<実験3>食事前にお酒を飲むと血糖値が上昇しにくい
それぞれの飲料を飲んだ1時間後にマッシュポテトをとった。食事前にビールを飲んだときに最も血糖値上昇が抑えられた。
* AUC(血糖上昇曲線下面積、単位はmmol/L・min)は時間経過にともなう血糖値増加量の面積のことで、血糖値上昇を比較するための指標。

山田さんはこの結果について、「これらの実験結果には説明がつかない部分もいくつかありますが、少なくとも、パンなどの糖質が多い食品とアルコールを一緒に飲むと、食べ物単体で食べるよりも血糖値の上昇が抑制されました。つまり、食事と一緒にお酒を飲むと血糖値の上昇は抑えられる、と言えます」と話す。

おお! これは左党にとって、何ともうれしい実験結果ではないか! 糖質を単体で摂取するよりも、アルコールと一緒にとったほうが、血糖値が上がりにくいという結果は、食後高血糖を気にする左党にとってはビッグニュースである。

アルコールはどうして血糖値の上昇を抑えるのか

アルコールが血糖値を下げる仕組みについては、現時点では詳しいメカニズムは分かっていないとのことだが、以下のような要因が考えられると山田さんは話す。

「あくまで私の仮説ですが、アルコール分解のプロセスで多く使われるNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という補酵素が関係しているのではないかと考えられます」(山田さん)

「NADが少なくなると肝臓における『糖新生』が抑制されます。糖新生の抑制が食事だけでは十分でないという人であっても、アルコールをとったときにはNADが少なくなるため、糖新生を十分に抑えられるのではないかと考えられます(※糖新生は、血糖値が下がらないように新たに糖を作り出すシステム。実は肝臓は24時間、常に糖新生を行っていて、食後だけ糖新生の速度が落ちるようになっている。この速度低下のためのホルモンがインスリンであるが、インスリン作用が悪い人では糖新生速度の低下が不十分で、食後高血糖になりやすい)」(山田さん)


現時点でメカニズムは解明されてはいないものの、山田さんの「アルコールが血糖値の上昇を抑えることは確か」という一言が左党には何よりありがたい。これで大手を振ってお酒が飲めるというものだ。

血糖値にとってアルコールは敵ではない」と分かって一安心したところで、前編はここまで。後編では、食後血糖値を上げないための具体的な飲み方、お酒の選び方を山田さんに聞いていこう。

(図版:増田真一)

山田 悟(やまだ さとる)さん
食・楽・健康協会代表理事 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長

[日経ビジネス]

今更だけれど、珈琲の健康効果に関する最新の研究。。。

 

1日2~3杯のコーヒーで脳卒中や心臓病のリスクが軽減!最新の研究で判明

研究結果は?

では、もっとコーヒーを飲んだ方がいい?

コーヒーのマイナス面は?

[ELLE]

我(われ)を避けて我を得る。。。

 

養老孟司氏、「どうせ自分は変わる」が心をラクにする

養老孟司と「死にたがる脳」

 解剖学者の養老孟司先生の「子どもが自殺するような社会でいいのか」という問題提起から始まった連載も、今回が最終回。前回(「なぜ『他人が自分をどう思うか』を気に病むのか?」)に続き、課題解決の方策を探ります。

前回、指摘されたのは、家事の手伝いなどで、子どもに役割を与えることの重要性。そして、自然との接点を増やすことでした。「自然」は、「感覚」と並んで、子どもたちが死にたくならない社会をつくるうえでの大事なキーワードです(「感覚」の意味については、「なぜ子どもは『theの世界』を生きるのか?」、「『正義』が対立を呼ぶのは感覚に戻せないから」参照)。

今回は、農業の話から発展して、システム化が進む社会と発達障害の関係、ネコの効用。そして、今まさに「死にたい」と思う人へのメッセージです。

(取材・構成/黒坂真由子)

 

養老孟司氏(以下、養老):世の中はもう、いずれにせよシステム化していきます。要するに、どこもきちんとしたものになっていく。ですからできるだけそうなってない場所を、子どものために確保しておく必要がある。

それは自然環境ということですか。

養老:いや、街のなかに空き地がなくなって、子どもの遊ぶ場所がなくなる、という話です。子どもたちが集合して、好き勝手に動き回っているという空間が消えちゃった。そんな意見が、僕の育っていく過程ではありました。完全に無視されましたけど。空き地はしっかり塀で囲って、「何々不動産管理地」というふうになっていきましたね。

こういうのは、やはり社会全体で考えるしかないですね。僕はやっぱり、ある程度古い形の生き方を地域的に復活させていくしかないと考えています。

例えば僕の知り合いは、学校になじめない子、例えば注意欠如・多動症(ADHD *)の子を引き取って、農業をしているんです。

* 注意欠如・多動症:ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)

畑にいれば、発達障害は「障害」にならない

発達障害に農業ですか。

養老:「畑に連れていってしまえば、多動もくそもないよ」といっていました。結局、置かれた状況次第なんですね。教室のなかだと多動が目立つけど、畑だったら全然目立たない。

もしかすると、今も昔もADHDの子のパーセンテージは同じで、今の社会では目立つようになっているだけかもしれないということですね。日本で初めてADHD専門外来を立ち上げた医師の岩波明先生も、仕事の管理化が進んだことと、発達障害に注目が集まることを関連付けていました(「発達障害は病気ではなく『脳の個性』 治すべきものではない」)。

養老:田舎で育って、畑にいたら誰も気にしなかったのが、「きちんとしなさい」と座らせようとするから気になる。それができないからって、別に異常なわけではないですよ。

実際そういうふうに「ちゃんとしろ、座っていろ、きちんとしろ」といわれた子たちが、いわゆる二次障害(*)でうつを引き起こしたりしているんですね。うつから自殺という流れもあると思うんです。

* 二次障害:最初のADHDやASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)から派生して生じる、うつ病、不安障害、ひきこもりなどの障害

養老:僕の知り合いは、もう学校に行かないと決めた子を預かっているんです。それを教育委員会が認めてくれて、所属していた学校に通っていることにしてくれています。でも、していることは農作業です。動物の世話なんかもいいと思いますけどね。

「なんとかなる」というNPOもあります。僕はここの特別顧問をしているのですが、少年院を出た子たちを預かっているんです。親代わりに預かるところが必要なんですね。鳶(とび)の会社の社長さんが運営しています。でもね、今まで50人くらい預かったけど、なかなかうまくいかないといっていました。

子どもたちを社会に適応させてくのって、大変なんです。まず預かって、身元を保証して、その上で社会適応させていくというのが。「最大の障害は何ですか?」と聞いたら、「スマホだ」と。

スマホですか?

「きちんと」した社会は生きにくい

養老:少年院にいる間はスマホが使えないんですよ。出ると一番、それを欲しがる。スマホを見ると、いろんな広告が載っているでしょう。時給のいい求人広告なんかに釣られていなくなる。それが一番多いといっていました。それでまた、オレオレ詐欺の手先に使われたりして。やはりそう簡単じゃないですね。

社会がある一定の形を取ると、そこに適応できない人がどうしても出てきてしまう。それをどうするかというのは、社会を「きちんと」つくっていくほうの人には、関係のないことですから。

システム化を進めていくほうの人には関係のないこと、ですか。

養老:しょうがないからボランティアで何とかするしかないっていう状況です。こうしたセーフティーネットが、社会に欠けています。

仕事が合理化されてしまうと、まともな人でも仕事がなくなるという時代ですから。コンピューターが仕事をしてしまって人が要らなくなるということは、世界中で議論されていますよね。

マニュアルに従って仕事ができる人でさえ、仕事がなくなるといわれる時代です。

養老:ましてマニュアルが読めない、読んでも無視するってことになると、それならコンピューターのほうがましだって話になってしまいます。

あとはやっぱり、大人が満足してないといけないですね。

大人自身が。

ネコを見ていると、働く気にならなくていい

養老:居心地の悪いところから立ち去る。資質に合わない努力はしない。このあいだ話した坂口恭平さん(前回「なぜ『他人が自分をどう思うか』を気に病むのか?」参照)が、うつ病にならないための指針としてそう書いています(*)。ネコみたいに生きられればいいんですけどね。大人がある程度自足していれば、子どもにぶつかることはないと思います。

* 『躁鬱大学』(新潮社)

そもそも大人が満足していないことも問題であると。

養老:親と子の口論の末に自殺するなんて話も聞きましたが、本来ならどこかで折り合いをつけなきゃいけないはずです。お互いのせいにしないで。

私が正しい、あなたは間違っているということで、けんかになる。ここにも「自己」が絡んできそうですね。

養老:そういうときには世の中のせいにしたほうがいいと思いますよ。人間関係は難しいから。距離が近過ぎるんでしょうね。

そこに例えばですけど、ネコみたいな「自然」が入ってくると、ちょっとは変わりそうでしょうか。単純過ぎる解決策かもしれませんが。

養老:そこまでひどいけんかに、ならないかもしれませんね。ネコを見ていると、「なんで自分はこんなに必死になっているんだ」と思えるから。少なくともペットを飼っているほうが血圧は低いという研究はありますよね。

僕も、まる(*)が死んでから忙しくなっちゃったんですよ。まるを見ていたら働く気がしなかったのに。

* まる:養老先生と暮らしていた雄のスコティッシュ・フォールド。顔がまるいから「まる」

急に働く気に。

養老:まるがいなくなって、ブレーキが利かなくなっちゃったんです。

人はどうせ変わる。それが希望になる

最後に、今すごく苦しくて、死んでしまいたいと思っている子どもたちに、先生から何か伝えるとしたら、どんな言葉になりますか。

養老:どうせ自分は変わるよ、ということです。

どうせ自分は変わる?

養老:変わる。変わるに決まっているんですよ。今の状況が永久に続くってことはあり得ないので。今の状況が続かないと考えるときに、つい「周りが変わる」と思っちゃうんだけど、そうじゃないんです。「感じている自分」が、変わるんです。

「今、死にたいと思っている自分」が。

養老:変わる。変わるに決まっている。ですから、「今現在の自分」を、絶対視しない。これは当たり前のことなんですけどね。大人がそれを教えないといけないんです。僕なんか84歳までにどれだけ変わったか。

それを妨害するのが、「個性」とか「自己」を重視する今の風潮です。その人らしさとかね。いくらその人らしくしてみたところで、いずれ変わっちゃうんだから。らしくなくなっちゃっても、別にいいんですよ。

先日おっしゃっていた、「自己なんて本当はないんだ」ということを、子どもに教えるということですか。

養老:そうです。かなり乱暴ですけどね。でもお坊さんに聞いたら、みんなそう言うと思います。仏教は昔から「我というのを避ける」ということを言っていますから。

できるだけ自分が自分であるようにする、自分に素直であるようにするということを、「わがまま」っていうんです。「我がまま」ですから。

「わがまま」って、「私のまま」「自分そのまま」ということだったんですね。

養老:日本人の社会は、それを注意してきたんですよ。「我がまま」では駄目だと。

自分が変わるのが当たり前なんだから、自分が自分らしくあるなんてことはあり得ない。そして今の苦しみも続かないと。

養老:そうです。必ず変わるんですよ。

[日経ビジネス]

人は自らが感じ理解できるようにしか知覚できない。。。

 

養老孟司氏、「正義」が対立を呼ぶのは感覚に戻せないから

養老孟司と「死にたがる脳」

解剖学者の養老孟司先生の「子どもが自殺するような社会でいいのか?」という問題提起からスタートした本連載。なぜ今、子どもたちは死にたくなってしまうのか。社会をどう変えていけばいいのか。課題を一つずつ、ひもといていきます。

前回は、「子どもは感覚的である」ということの意味をうかがいました。子どもの世界のリンゴは、英語でいう「the apple」であり、個別具体的なリンゴです。一方、大人の世界のリンゴは「an apple」であり、抽象的な概念でした。

このような言葉の使い分けは、英語だけでなく、日本語にもあるといいます。

(取材・構成/黒坂真由子)

 

子どもが「感覚的」であるとは、どういうことか。この問題に関連して、前回、英語における「the」と「a」の違いを解説いただきました。例えば「the apple」が示すのは、感覚的なリンゴ。触ったり、においをかいだり、食べたりできる「ある特定のリンゴ」。「an apple」は、「リンゴ」という音が聞こえたときに、みんなが想起するリンゴ。いわば「概念としてのリンゴ」。

 日本語では、それを「が」と「は」で使い分けているということでしたが、どういうことでしょうか?

養老孟司氏(以下、養老):「昔々あるところに、おじいさんとおばあさん『が』いました」「おじいさん『は』山へしば刈りに行きました」となります。最初の「おじいさん」は、「概念のなかでのおじいさん」です。後者は、前の文に出てきた「特定されたおじいさん」ですね。

感覚に戻せない言葉が、対立を招く

概念としてのリンゴ、概念としてのおじいさんは、みんなが想起するリンゴであり、おじいさんであり、同じである。

養老:本当に同じかどうかはわかったものじゃないですが、同じということにしておこうと。そうしないと言葉が通じませんから。

リンゴやおじいさんみたいに、具体に戻せるものはいいんです。「このリンゴは、誰が食べるのか」「そのおじいさんは、どんなおじいさんなのか」といった問題しか起こらない。こんなふうに、感覚に戻せる言葉はいいんですけど、これが「公平」とか「正義」とか、感覚に戻せない言葉になってくると、社会の中で大げんかとなるわけです。こっちの「公平」が正しいとか、あっちの「正義」が正しいとか。

「概念としての正義」「同じ正義」の中身が、実は同じでないから、みなが互いの考える正義のために戦うとか、そういうことですね。

 大人は「概念のリンゴ」の世界を生きていて、子どもは「特定のリンゴ」の世界に生きている。その違いはどのようなものなのですか?

養老:小さい子というのは、動物と同じですべてのものが「違って」見えるんです。猫には「同じ」という概念はありません。目の前の「その魚」が食べられるかが判断できればいいわけですから。

猫は、常に目の前の特定のものに反応して生きている、ということですか。「同じ」という概念を持つには、確かに抽象的な思考や言葉の発達が不可欠ですね。

養老:この「同じ」は、自分にも向かうのですね。それが自己意識です。「theの世界」、つまり一つ一つを別のものとして捉える感覚の世界からは、自己意識は生まれないんですよ。

なるほど、先生がおっしゃる「子どもは感覚の世界で生きている」というのは、単に五感をより使って生きている、ということではないということがわかりました。まさに『バカの壁』。理解がまったく及んでいませんでした。

結局われわれは、自分の脳に入ることしか理解できない。つまり学問が最終的に突き当たる壁は、自分の脳だ。『バカの壁』(新潮新書/2003年)

「男女同じ」が、かえってストレスにならないか?

現代社会は、情報化社会で、情報とは時間的に変化しないものでした。だから、情報化社会は、必然的に「同じ」を志向する(養老孟司氏、なぜ「本人」がいても「本人確認」するのか?参照)。となると、「違う」を志向する感覚の世界を生きている子どもたちが今の社会を生きるということは、脳の機能や発達から考えても、かなり苦しいということなんですね。

養老:ストレスが多いでしょう。最近では、男性と女性を分けることもダメになってきましたね。頭で考える世界では、そんなふうにイコールが優先していくんです。

学校もそういえば、出席番号を男女で分けなくなりました。男女を同じに扱うという基本的な方針があるようです。

養老:それだって、別な不平等ですよね。小学校高学年のときは、女の子、怖かったですよ。発育が先にいっちゃうから、体が大きいし、強いし、頭も回るし、女の子にはかなわないので。

今も同じです。

養老:僕らのころは、運動っていうと、ドッジボールくらいしかなかったから。一緒にやっていて、女の子がボールを持つと、僕は必死で逃げました。すごい勢いでボールが飛んでくるから怖いので。

子どもが感覚を優先しているということは、絶対音感からもわかるんですよ。

絶対音感からわかるというのは、どういうことでしょうか?

養老:子どもはね、絶対音感なんです。

感覚を突き詰めたら、言葉は使えない

養老:絶対音感によって言葉が区別されれば、お父さんが呼ぶ「タロウ」と、お母さんが呼ぶ「タロウ」は、違う言葉として捉えられる。音の高さが違いますから。

お母さんに呼ばれるのと、お父さんに呼ばれるのでは、同じ「タロウ」でも違うと?

養老:そうです。それが違う音だっていうふうに、感覚が優先すればなっちゃう。感覚を突き詰めると言葉は受け入れられません。動物がそうですね。うちの猫は「まる」といったんですけど、僕が「まる」と呼ぶのと、女房が「まる」と呼ぶのでは、音としては全然違うので、まるにしてみれば違うことを言われていると思っている。

だから、小さいときから音楽漬け、楽器漬けになっていた子は、絶対音感が残るんですよ。

絶対音感が「残る」。ということは、絶対音感はもともとあるということですか? 全員に。

養老:そうです。もともとは絶対音感のはずなんです。そうじゃないとおかしいのですよ。僕は医学部で耳の解剖生理を習いましたから。そっちから見る限りは、動物は絶対音感を持つはずなのです。 持っていないと不思議なのです。

ある特定の振動数の音が聞こえてきたとき、耳のなかでも脳のなかでも、それに対応する決まった部位が必ず反応することがわかっています。大脳皮質には第一次聴覚中枢があって、ここの神経細胞は、周波数に従って並んでいるのですよ。ピアノみたいに。

すると 「タロウ」とお母さんに言われたときと、お父さんに言われたときでは、タロウくんの脳のなかで活動する部位が異なるということですか?

養老:当然、異なります。異なるはずです。声の高さが違っていたら。お母さんが発する音とお父さんの発する音は別な音だということになります。感覚が優先すればそうなるんです。そうすると言葉が使えません。

それは、いろいろな人が発する「タロウ」を「同じ言葉」と認識できないから?

養老:はい。だから動物は言葉が使えないのです。絶対音感だから。

「同じ」を優先すると、絶対音感を失う

少し話がそれるかもしれませんが、『自閉症は津軽弁を話さない』を著した松本敏治先生から教わった、自閉症の子どもは「音の絶対音感者」である可能性を示す学説を思い出しました(発達障害の不思議「ASDの子どもはアニメから日本語を学ぶ?」参照)。

 養老先生がおっしゃるのはつまり、子どもはもともと絶対音感を持っている。しかし、成長する過程で、違う音を抽象化して同じ言葉として認識する働きが身につき、その段階で絶対音感が失われる……。

養老:そうです。「イコール」を優先してしまうのですよ。そして「違う」を無視する。白墨で書いても「黒」と読めるようにするのと同じで、「違っているんじゃないの?」という感覚は無視してしまう。

本当は感覚でいえば、音の高さが違うから、違うはずだけど。

養老:感覚が「違うよ」と言っているんだけど、意識は「同じ」だと主張する。そして人は大人になるにつれて、意識を優先するようになる。

「小さいときから楽器の訓練をしないと、絶対音感がつかない」と言われますが、きっとそうではありません。小さい頃から楽器の訓練をしないと、絶対音感が消えてしまうのです。

なるほど、先生が「子どもはより自然に近い」とおっしゃる意味が、だんだんわかってきた気がします。

[日経ビジネス]