私は真剣に人生120年計画、、、人生はまだ始まったばかり。。。(3/3)

■70代で死ぬ人、80代でも元気な人 第3回
70代で老け込む人、80代でも輝く人―決定的な差を生む、「衰え」に対する考え方の“違い”とは


人生100年時代――充実した老後のためには老後資金計画など“準備”も欠かせませんが、年齢を重ねるなかで、はつらつと過ごせる体とマインドを維持することも同じくらい重要です。

では、どうしたら、はつらつと年齢を重ねることができるのか?30年以上にわたって高齢者専用の精神科医として、医療現場に携わってきた和田秀樹氏は、70代が「ターニングポイント」だと指摘。70代を無事乗り越えることができれば、元気な80代を迎えられると言います。ただ、裏を返せば、70代には注意すべき危険が潜んでいることを意味します。

そんな70代を乗り越えるための「習慣」と「心がけ」についてのアドバイスがまとめたれた話題の書籍『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』から、第1章の一部を特別に公開します(全3回)。

※本稿は和田秀樹著『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。

若いころのようにはいかないことを、逆に面白がる

これは仕方のないことですが、70代になれば、体力も集中力もそれなりに衰えてきます。

「昔はこれくらいの作業なら1時間でできたのに」「一日中、本を読んでも集中できたのに」など、50代、60代のころまでならできたことが思うようにいかなくなってきます。

すぐに疲れてひと休みしたくなる、集中できなくて眠くなったり頭に入ってこなくなる。その程度のことならほとんどの70代が自覚していると思います。

でもそこで、「もう好きな本を読むなんてできないんだな」と考えるとどうなるでしょうか? 「体力を使うことはムリだな」と諦めたらどうなるでしょうか?

その時点で、テレビの前に座り込んでしまう、無気力な70代の仲間入りです。

少しぐらい体力が落ちても、時間をかければできないことはありません。体力が半分に落ちたのなら、倍の時間をかければできる計算です。そこで「やってられないな」と考えるのではなく、「面白いな」と考えてみてはいかがでしょう。

実際、面白いのです。

あんなにテキパキできたことがゆっくりしかできない。そのかわり、のろのろやってみると「そうか、こういう仕組みだったのか」とか「この作業がポイントだったのか」と気がつくことが出てきます。

以前だったら、おそらく休みたいと思っても「これくらい一気にやらなくちゃ」と頑張り続けたのでしょう。つまり若いころというのは、何をやる場合でも楽しんだり面白がったりする余裕がない。「時間」や「効率」にどうしてもこだわってしまうからです。

高齢になれば違います。

体力が落ちた、集中力も記憶力も落ちたとなると、これはもうできないことを面白がるしかないのです。

本を読んでいても「あれ、ここは昨日読んだページじゃないか」といったことがよくあります。「まあ、面白いから何回読んでもいいか」「昨日は読んでも頭に入らなかったけど今日は入るな」などと思い直せば、何か新しい発見をしたり、いままでとは違う読み方ができるかもしれません。

そういう面白さに気がつけば、たとえ時間がかかるようになってもとにかく読みたい本を最後まで読み通すことができます。少なくとも「一気に読めないから止めよう」とはならないはずです。

できなくなったことを面白がるというのは、やりたいことをやり続けるためのコツなのです。

いまできていることは、何も諦めなくていい

時間がかかろうが体力や集中力が衰えようが、いまできていることを諦める必要はありません。まったくできないというのならともかく、ペースを落としても休みながらでも、やればできることはこれまで通りに続けてみる。

「もう歳なんだから、疲れることや負担になることはやらなくていい」と考えてしまうと、結局は何もしない暮らしになってしまいます。楽には違いないでしょうが、そういう諦めの境地はまだ70代には早過ぎます。

もっと老いに逆らう気持ちになっていいし、それが70代のフェーズだというのが私の考えです。

ですから、大きな目安として、老いに逆らって70代を乗り切り、それで元気に80代を迎え、その80代も後半になったら少しずつ老いを受け容れてムリはしない、好きなことだけのんびり楽しんでやっていく、そんな考え方でいいような気がします。

もし70代のうちに「歳だから」といろいろなことを諦めてしまうと、80代になったころにはできることがほとんどなくなってしまいます。というより「やってみようかな」という気持ちすら消えてしまいます。

本を読むようなことでも、庭いじりのような軽い作業でも、10年も遠ざけてしまうと興味がなくなってしまう可能性があるのです。

私はこの本を主に70代の団塊世代を意識して書いていますが、理想は80代になっても輝いて生きていることです。10年先の高齢期になっても輝き失わないために、危険な70代をどう過ごせばいいのかを考えています。

80代になっても輝いている高齢者には、まだまだ自分が楽しめる世界が残されています。趣味や日常生活の中で大事にしている時間がいくつもあって、出かけたり人と会ったりすることを苦にしません。といっても忙しく動き回るようなこともしませんから、一日がゆったりと流れていきます。

そういう80代の人がよく口にする言葉に、「退屈することはありません」というのがあります。周囲から見ればのんびりゆっくり過ごしているようでも、本人には一日の中に好きな時間や夢中になれる時間が散らばっていて、その一つひとつを楽しんでいるうちに一日があっという間に過ぎてしまうのでしょう。

そういう毎日を送れるのは、70代にいくつも自分にとって楽しみなこと、好きなことをやり続けてきたからです。

80代になって新しい趣味ややりたいことが見つかるというのはあまりありませんから、70代のうちはいつでも楽しめる世界を身に周りにできるだけ多く残しておくということが大事なことなのです。

70代になって似合ってくる世界がある

私は70代の男性を羨ましく感じることがあります。

それなりにシワが刻まれ、髪の毛も白くなったり、髭にも白いものが目立つような男性が、着慣れたジャケットでバーの片隅に座っているようなときです。

もう長く通っている店の、いつも座っているカウンターなのでしょう。ゆったりとくつろいでいます。

夕刻、早い時間の寿司屋でも同じです。70代らしき男性が悠然と好きな寿司をつまみ、日本酒をゆっくりと飲んでいる場面に出くわしたりすると、「いいなあ」と羨ましくなります。

旅行もそうですね。若いころは慌ただしいスケジュールに追われていますから、新幹線で地方に出かけるようなときでも、窓の外をのんびり眺める気持ちにはなかなかなれませんが、70代と思しき年代の旅行客は違います。とてもゆったりと構えて窓の外の景色を眺めたり、本を読んだりしています。

そういうさまざまなシーンに共通するのは、一人だということです。

70代になると、一人が似合ってくるのです。

べつに寂しそうでもないし、拗ねているようでもないし、かといって気負いも緊張している様子もありません。ごく自然体です。一人でいることが様になっています。

若い世代はそうもいきません。同じことを一人でやってもどこか固くなっていたり、落ち着かなかったりします。そもそも周りから見て浮いた感じがします。要するに、一人が似合わないのです。

これが80代となると、そこに飄々とした雰囲気さえ生まれてきます。

杖を手にしたおじいちゃんやおばあちゃんが、馴染みの蕎麦屋さんでゆったりと蕎麦を食べている様子というのは、これもまた高齢にならなければつくれない独特の雰囲気があります。

老いることは悲観的なことばかりではありません。

老いることを何もかも否定的に受け止めるのも間違いです。

老いてはじめて似合ってくる世界や様になる世界もあります。そのことに気がつけば、格好いい70代でありたいという気持ちも生まれてくるはずです。

[フィナシー]

私は真剣に人生120年計画、、、人生はまだ始まったばかり。。。(2/3)

70代で死ぬ人、80代でも元気な人 第2回
精神科医・和田秀樹氏が解説! 90歳を過ぎても元気な人が共通して言う「ある言葉」


人生100年時代――充実した老後のためには老後資金計画など“準備”も欠かせませんが、年齢を重ねるなかで、はつらつと過ごせる体とマインドを維持することも同じくらい重要です。

では、どうしたら、はつらつと年齢を重ねることができるのか?30年以上にわたって高齢者専用の精神科医として、医療現場に携わってきた和田秀樹氏は、70代が「ターニングポイント」だと指摘。70代を無事乗り越えることができれば、元気な80代を迎えられると言います。ただ、裏を返せば、70代には注意すべき危険が潜んでいることを意味します。

そんな70代を乗り越えるための「習慣」と「心がけ」についてのアドバイスがまとめたれた話題の書籍『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』から、第1章の一部を特別に公開します(全3回)。

※本稿は和田秀樹著『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。

70代はまだまだアクティブにいこう

健康を気づかった節制生活は、自ら「老い」を早めることになるかもしれません。「健康でいたい」「長生きしたい」と願う気持ちが逆にその人を老け込ませてしまうとしたら、何だか皮肉な話です。

いまの70代は、かつての70代とはまったく違います。

かつて、30年くらい前の日本でしたら70代ははっきりとした「老人」でした。しょぼくれたり、シワが刻まれたり、歩行のおぼつかないような老け方が、70代のがごく当たり前の姿でした。

しかし、いまはどうでしょうか?

街角で見かける70代に腰の曲がった人なんかいません。背筋もシャンとしているし、顔色も肌つやも体格もいい。高齢者には見えないごくふつうの人の中に70代は紛れてしまって見分けなどつかないのです。

これは戦後生まれの団塊世代あたりから栄養状態も良くなって、成長期に肉や牛乳のようなたんぱく質をそれまでの世代よりはるかに十分に摂るようになったこととも関係があると思います。40代、50代のころでも外食でステーキや焼き肉を食べ、とにかく精力的に生きてきた世代ですから、70歳になったからといって急に老け込むはずがないのです。

しかも定年の延長で、60歳を過ぎても会社勤めをしてきた70代は少しも珍しくありません。ということは、つい数年前まではまったくの現役であり、仕事によってはいまも現役の人だっています。

つまり、「歳だから」と自己規制するには早過ぎる年代なのです。

むしろ、体力や知力も含めた若々しさをそのまま維持できるように、アクティブに暮らしたほうが、結果として長い高齢期を元気に乗り切ることができるでしょう。

80代後半になれば、さすがに老いを自覚します。老化そのものは、いくら体力があっても、栄養状態が良くても避けられないのです。

いまの時代は80代後半はもちろん、90代でもまだまだ若々しい高齢者が大勢いますが、やはり年齢から来る体力の衰えや記憶力の衰えは自覚していると思います。

ですからその年代になったら、もう老いに逆らう必要はありません。

むしろゆったりと老いに身を任せて、できないことは頼ったり助けてもらったり、あるいは時間がかかってもいいから自分でゆっくりやってみたりして、老いと親しみながら暮らしたほうがいいでしょう。

「気がつけば90歳」というのが理想の老い方

老いはひとくくりにはできません。先にも書いたように、70代、80代、あるいは90代にそれぞれのフェーズがあるからです。「もう70過ぎたんだから」と自分を高齢者の枠にくくってしまう必要はありませんし、個人差も当然あります。

もちろん理想は、80代になっても90代になっても、元気でいられることです。

体力の衰えから来る多少の不自由は仕方ないとしても、90代でも背筋がシャンとして快活な男性はいくらでもいますし、若い人たちに混じって趣味を楽しんだりサークルで勉強している女性もいます。

そういう高齢者に出会うと、「すごいなあ。90歳を過ぎたのにこんなに元気で頭もしっかりしているなんて」と誰もが羨ましい気持ちになります。

「私はいま70歳を過ぎたばかりだけど、もうあちこち調子が悪い。90代でも元気な人はしっかり節制したり、身体も鍛えてきたんだろうな」と思いたくなるでしょう。

ところが、元気な90代の方にきいてみるとみなさん笑います。

「70代なんて年齢を意識したことはなかった。やりたいことをやって、好き勝手に生きてきただけですよ」といった調子です。

「あの当時に比べたら、いまはもう身体も思うように動かないし、疲れやすいし、新しいことを始める気力もなくなってきたし、やっぱり歳には勝てませんね」と笑っています。

つまり90歳過ぎても元気な人は、用心深く生きてきたから元気なのではなく、あるいはとくに身体を鍛えたわけでもなく、自分がやりたいことをやって毎日を楽しんで暮らしてきた人が多いのです。

「気がつけば90になっていた」とみなさん言います。それだけ快活に、毎日を退屈することなく70代を過ごしてきたということです。

そこで私から提案したいのは、70代を老いの入り口と受け止めたりしないで自分がやりたいことをどんどんやって、自由に生きようということです。

まだ老け込むには早過ぎる年齢なのですから、何でもできるはずです。ましてやりたいことや自分が好きなことなら楽しみながらできます。気分はもちろん、身体だってまだしゃんとしているのですから、自分からわざわざブレーキをかける必要はありません。

そして、まずは元気で70代前半を乗り切ることです。

「なんだ、70代なんてこんなものか。それなりに疲れやすくはなってきたけど、自分が好きなことならまだまだ楽しめるんだ」

そう気がつけば、少なくとも自分が高齢になっていくことに対しての悲観的な気分だけは撥ね退けることができると思います。

「喜寿」(77歳)を満面の笑顔で迎えよう

心掛けていただきたいのは、とにかく年齢を十把一絡げにしないということです。

「そろそろ大人しくしなくちゃいけない年齢」「老いは気がつかないうちに進んでいく」といった、戒めなど持つ必要はありません。

老いには個人差があるのですから、自分の好奇心ややってみたいことにブレーキをかけなくていいのです。「もうそれなりの歳なんだから」「みんな節制しているんだから私もおとなしくしてなくちゃ」などと思わなくていいのです。

もし、いろいろな不安が浮かんできたとしても、いまが元気なら「よし、この調子」と自分を励ましてください。

70歳の節目で久しぶりに同窓会に顔を出した男性は、「つぎは喜寿に元気で会おう」という友人の呼びかけに大いに納得したし励まされたといいます。

「そうだな、これからどんどん老いていくんだろうけど、そんな先のことまで心配しても始まらない。とりあえずいまが元気なんだから、次の目標は7年後を元気で迎えることだ」

そう考えれば、「まずはあと7年」と近い目標が生まれます。

「この調子で7年を乗り切ってしまおう」と考えれば、そこから先のことまで不安にならなくて済むし、やりたいこともいまのうちにどんどんやってしまおうという気になります。

そして、気がつけば喜寿。もうすぐ80代に突入です。

まだまだいろいろなことができそうな気がするでしょうし、「80なんてこんなものか」と拍子抜けするぐらい、元気で快活な80歳を迎えることができるのです。

高齢期は長い。まして長寿の時代には20年、30年という高齢期が続きます。

その長さにため息をついて「これからもっともっと衰えていくんだな」と考えても守りの生き方しかできなくなります。それが結局、老け込んだ70代をつくってしまうとしたら、何だかもったいないような気がします。

70歳過ぎて多少の老いを自覚したとしても、やりたいことがあるなら「あと5年は好きなことやってみよう」「よーし、元気な後期高齢者(75歳)になってやろう」など、短めの目標設定をして自分を勢いづけるのも大事ではないでしょうか。

●「若いころのようにいかないこと」に直面したら……第3回へ続く>>

[フィナシー]

私は真剣に人生120年計画、、、人生はまだ始まったばかり。。。(1/3)

70代で死ぬ人、80代でも元気な人 第1回
血糖値、心不全…精神科医・和田秀樹氏がじわりと「老化」を感じたサインとは


人生100年時代――充実した老後のためには老後資金計画など“準備”も欠かせませんが、年齢を重ねるなかで、はつらつと過ごせる体とマインドを維持することも同じくらい重要です。

では、どうしたら、はつらつと年齢を重ねることができるのか?30年以上にわたって高齢者専用の精神科医として、医療現場に携わってきた和田秀樹氏は、70代が「ターニングポイント」だと指摘。70代を無事乗り越えることができれば、元気な80代を迎えられると言います。ただ、裏を返せば、70代には注意すべき危険が潜んでいることを意味します。

そんな70代を乗り越えるための「習慣」と「心がけ」についてのアドバイスがまとめたれた話題の書籍『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』から、第1章の一部を特別に公開します(全3回)。

※本稿は和田秀樹著『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。

じわりと身体に忍び寄る「老い」のサイン

一昔前であれば、60歳の還暦を迎えただけでもう十分に高齢者の仲間入りでしたが、いまの時代、60歳はバリバリの現役世代です。私も60歳を過ぎましたが、なってみれば「こんなもんか」というのが実感で、とくに老いを意識するということはありませんでした。

でも、病はべつです。

実際、60~70代になると半数くらいの人が何らかの薬を飲むようになります。久しぶりに昔の仲間と旅行に出かけたりすると、朝食の後に薬の入った袋を開いて飲み始める人が何人かいるものです。

「おまえもか」と言いながら、病気の話で盛り上がります。

若いときなら少しぐらい血圧や血糖値が高くても薬は飲まなかったのに、自分でも「用心するに越したことはない」と受け入れるのも老いのはじまりなのかという気がします。

かくいう私も、これはいろいろなところで書いてきましたが、血圧は200を越え、血糖値もコレステロール値も極めて高かったのですが、とくに気にすることもありませんでした。

ところが3年ほど前に血糖値が660まで上がって、まず歩くようになりました。少しは運動しなければ、と考えたのです。それまでは都会に暮らしているのにどこに出かけるのも車でした。運転が好きなうえに、少しの距離でもタクシーに乗る習慣が身についてしまっていたのです。

歩くようになると、今度はいきなり運動しはじめたので心不全と診断されました。それほど重い症状ではありませんが、とりあえず利尿剤を飲み、こまめに水分を摂るようにしています。

利尿剤を飲むと、トイレに行く間隔が短くなります。人と会っているときでも、「ちょっと失礼します」と席を立つことが多くなります。それでも理由を説明すると、みなさん「和田さんもそれなりに、ですね」と納得してくれます。

つまり老いはまず、こんな感じで何かの病気になって自覚することが多いのです。

「こうやってあちこちガタが来るのが、歳を取るということなんだろうな」と腑に落ちるものなのです。

次々に聞こえてくる、同世代の病

70歳を過ぎるころから、身体のあちこちに不調が出てきます。ちょうど、古希と呼ばれる年齢です。「区切りの歳だから久しぶりに集まろう」と同窓会が開かれるのも古希が多いといいます。

いざ集まってみると、話題は病気のことです。欠席した仲間の誰それは倒れたようだ、入院しているようだという話が出ます。

顔を合わせた仲間同士でも、「膝が痛くて歩くのがつらい」「脂っこいものは控えなくちゃ」「外で酒を飲むなんて久しぶりだな」などと、節制や養生の話が出てきます。

そして実際に、脳梗塞や脳溢血のような、動脈硬化や高血圧が原因で突然の発症をする人が出てくるのがこの年代です。いざ自分がそうなってみると、「あいつも病気だったのか」「あいつもリハビリ中らしい」といった噂が次々と耳に入ってくるのです。

そうなってくると、さすがに「もう若くないな」という気になります。「そろそろ歳相応の暮らし方をしなくちゃいけないな」と考えて、食事も含めてさまざまなことを自分にセーブしたり健診の数値の変化に注意するようになります。

でもそのとき、「だからアクティブにならなくちゃ」と考える人はどれくらいいるでしょうか?

「それなりの年齢になったからこそ、もっとやりたいことをやって、外にも出ていろいろな場所や人と出会うようにしなくちゃ」「いままで以上に毎日を楽しまないと、このまま老け込んでしまうぞ」と自分を元気づけようとする人はどれくらいいるでしょうか?

私の予想では、むしろ大部分の人が「節制しなくちゃ」「健康に注意しなければ」と考えているような気がします。

そのことじたいは間違いではないと思いますが、いろいろな願望や欲望を封じ込めることで、いまの状態をキープしようと考えるのではないでしょうか……。

単純な例を出すと、「肉料理が食べたい」と思っても「いや、野菜料理のほうが身体にはいいんだから」と諦めるようなことです。「旅行に行きたいな」と思っても「生活のリズムが壊れる」とセーブするようなことです。

それによっていまの状態はキープできるかもしれませんが、自分の願望を封じ込めることで、快感も幸福感も得られなくなります。張り合いのない毎日が繰り返されるだけですから、気分が高揚することもないでしょう。

●“節制”がもたらす残念な事態とは?第2回へ続く>>

[フィナシー]

飲酒が口内環境に及ぼす影響(2/2)

 

一生健康で酒を飲むために気をつけたい、「爪楊枝」の使い方

居酒屋などで爪楊枝で歯茎を刺激するのは絶対NG!

葉石かおり
エッセイスト・酒ジャーナリスト

久里浜医療センター歯科医長の井上裕之氏から、「日常的な大量飲酒は口内環境を悪化させ、虫歯や歯周病を招きやすい」という話を聞いた酒ジャーナリストの葉石かおりさん。さらに、歯周病菌は全身に回って、心筋梗塞や糖尿病、認知症のリスクにも影響を及ぼすと聞き、驚きます。歯周病対策として、どのようなお酒の飲み方をすればいいのか、また歯磨きなどの口腔ケアのやり方についても、井上氏にお話を伺いました。

前回、日常的な大量飲酒は口内環境を悪化させ、虫歯歯周病を招きやすい、という話を久里浜医療センター歯科医長の井上裕之氏から聞いた。

アルコールによる脱水作用が口内環境を悪化させやすく、また酔っぱらうと歯磨きが不十分になることなどが原因だと考えられる。また、糖分たっぷりの酒も歯に悪影響を及ぼすという。

筆者の周囲の大酒飲みを思い浮かべてみると、口腔環境が悪い人が結構な数でおり、歯周病から歯を失っている人もいる。改めて自分の酒の飲み方を考え直さねばと思った。

さらに恐ろしいことに、「歯周病の影響は、口腔環境だけではなく全身に至る」と井上氏は言う。

自分は虫歯になりやすいと思っていたため、虫歯の対策については気をつけていたが、歯周病の対策が十分かどうか不安になってきた。

そこで、井上氏に、歯周病についてさらに深掘りして聞いていくとともに、歯周病のリスクを高めない酒の飲み方についても解説してもらった。

歯周病菌が糖尿病や認知症のリスクにも影響!?

先生、歯周病が口腔環境だけでなく、体全体に影響を及ぼすというのは、いったいどういうことなのでしょうか?

「歯周病は、『歯周病菌』の感染によって引き起こされる炎症性の感染症です。昨今の研究によって、歯周病菌は、口内環境だけでなく全身に影響を及ぼし、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、そして認知症といった病気にも密接に関わっていることが明らかになってきました」(井上氏)

歯周病によって歯を失う危険性があるだけでなく、心筋梗塞や糖尿病のリスクにもつながるなんて……。歯周病菌は、どうやって体に悪さをするのだろうか。

「歯周病によって歯肉が傷つくと、歯周ポケット内がただれた状態になり、毛細血管がむきだしになります。これによって、血管を通して歯周病菌が全身へと回ってしまいます。歯周病菌は血液の成分であるたんぱく質や鉄分を好むため、血管内に定着しやすいのです。また、歯周病菌を食事の際などに飲み込み、それによって全身へ菌が回ってしまうルートもあります」(井上氏)

目に見えない歯周病菌が、気づかないうちに血管を通して全身に回り、命に関わる重篤な病気のリスクも上がってしまうなんて、考えただけでも恐ろしい。

「特に注意しなくてはならないのは、糖尿病です。歯周病があると体内に炎症物質が増え、インスリンの効きが悪くなることで、血糖値が下がりにくくなります。逆に、糖尿病があると血管がもろくなって歯肉が傷みやすくなり、歯周病が進みやすくなる傾向があります。つまり、糖尿病と歯周病はお互いに悪影響を及ぼしてしまうのです」(井上氏)

酒好きの人は、不摂生から血糖値が高めになってしまうことも多いので注意が必要だ。

「オーラルフレイル」が将来の寝たきりを招く

井上氏はまた、「歯周病によって歯を失うと、将来のフレイル(虚弱)につながる恐れがあります」と話す。

フレイルとは、加齢とともに筋力や認知機能などが低下した、いわば健康な状態と要介護の状態の中間だ。

「歯を失うと、咀嚼する機能が落ち、それが食事量の減少と体重の減少につながることがあります。この状態を『オーラルフレイル』と呼びます。オーラルフレイルになって体重が減少すると、次第に筋力も低下していきます。筋力が低下すると身体機能が低下し、転倒しやすくなり、最悪の場合は寝たきりになることも。また、オーラルフレイルによって咀嚼や嚥下の機能が落ちると、誤嚥性肺炎も引き起こしやすくなります」(井上氏)

これはもう、「負のサイクル」としか言いようがない。なるべくなら歯周病で歯を失わないよう、対策をとりたいものだ。

酒を飲むときはつまみも食べることが歯周病対策に

それでは、どのような酒の飲み方をすれば、歯周病のリスクを下げることができるのか、井上氏にアドバイスを聞いた。

「まず、お酒を飲む際には、水分をしっかりととることです。アルコールには利尿作用があり、それによって体が脱水状態になってしまいます。口腔内の唾液が少なくなり、喉が渇き、口の中がネバネバになった経験がある人は多いでしょう。これを防ぐには、アルコールによって失われていく水分を補えばいいのです。一般に、ビールを1リットル飲むと、1.2リットルの水分が体外へ排出されるといわれています。お酒と同量、またはそれ以上の水分を一緒にとるようにするといいでしょう」(井上氏)

日本酒の業界でも、日本酒と一緒に水を飲むことを以前から勧めている。確かに水分をきちんととっていると、少し深酒しても、翌朝に不快な口の渇きがほぼない気がする。「酒と一緒に水を飲むなんて邪道」などと言わず、口腔環境のためにも水分をとるようにしよう。

「水を飲むことに加え、おつまみを食べながらお酒を飲むのも大切です。食物をきちんと噛むことで、唾液が出やすくなるからです。何も食べずにお酒ばかりを飲んでいると、物を噛まないことに加え、アルコールによる脱水作用によって、唾液が分泌されにくくなり、口腔内がさらに渇いてしまいます」(井上氏)

前回の話にもあったように、唾液は口腔内を清潔に保つのに欠かせないもの。サラサラの唾液の分泌を促すためにも、つまみを一緒に食べることが大事なのだ。

「すきっ腹だと、つい飲み過ぎてしまうこともあります。つまみを食べながらお酒を飲むことで、体への負担が軽くなります。口腔環境はもちろん、体のためにもつまみとともに飲むよう心がけましょう」(井上氏)

すきっ腹で流し込むビールの爽快感といったらないのだが、そこは歯周病予防のためにもグッと我慢……、ということか。

おつまみには、噛み応えのあるエイヒレやスルメ、鶏のもも肉、牛の赤身肉などがお勧め。また、唾液の分泌を促す酢の物もよさそうだ。

「3カ月に一度」は歯科医院に通う

さて、飲み方に加え、気になるのは普段のケアだ。前回、歯磨きが十分でなかったりすると、口の中の細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつく「歯垢(プラーク)」ができると聞いた。歯垢の中には歯周病菌がたくさん存在しているという。歯周病対策としては、何より毎日の歯磨きが重要になる。

しかし、歯垢は数日経つと石灰化して「歯石」へと変わる。すると、通常の歯磨きでは取れなくなるため、歯科医院で取り除いてもらわなければならない。そのため、定期的に歯科医院に通うことが大切なのだ。

「歯石が一番たまりやすいのは、下の前歯です。歯を磨いた後、鏡でチェックし、歯石がついてきたなと思ったら、歯医者へ行くようにしましょう。また、歯茎が腫れたり、出血したりしたら歯医者へ行くという方もいますが、そういった自覚症状を感じる前に歯科医院を受診するほうがベターです」(井上氏)

歯周病の初期は、歯茎の出血や腫れ、歯茎が下がる、口臭などの症状が見られる。そうした症状に気づいてから受診するよりも、「3カ月に一度」のように定期的に受診したほうが、歯周病対策としてはよいという。

「定期的に歯医者に来れば、虫歯があっても早い段階から治療を始めることが可能です。また、銀歯やセラミックなどの詰め物をしている人は、こちらも定期的に診てもらうようにしましょう。天然の歯に比べ、人工物は固く、すり減り方に差があるため、噛み合わせに問題が生じることがあります。また、時間が経つと詰め物が緩んでしまうこともあるので注意が必要です」(井上氏)

爪楊枝で歯茎を刺激するのは絶対にNG

ケアといえば、毎日の歯磨きについては筆者も頑張っているつもりだ。電動歯ブラシに加え、水流で歯間を洗い、さらにはデンタルフロスや歯間ブラシでケアをしているのだが……。

「それは頑張りすぎです(笑)。基本としては、歯茎と歯の境目をきれいに磨くことが大切です。加齢によって歯と歯の間があいてくるので、歯間ブラシはもちろん効果的ですが、やりすぎると隙間が広がってしまい、食べ物のカスが挟まりやすくなります。それがかえって虫歯や歯周病の原因になるので、やりすぎは禁物です」(井上氏)

ショック! 「毎食しっかりケアしているから安心」と思っていたが、やりすぎだった可能性もあるとは。歯科医院では歯の磨き方も教えてくれるとのことなので、この際きちんと習うことにしよう。

「あと注意してほしいのが、爪楊枝の使い過ぎです。居酒屋でよく目にするのが、爪楊枝を2つに折って、その先端で歯茎をギューギュー押している年配の男性がいますよね。これは歯茎にとって非常によくない。歯肉が傷つき、歯茎が下がってしまいます。酔っていると力の加減も分からなくなって、血が出るまでやってしまう人もいると思います。これはすぐにやめてください」(井上氏)

これを聞いて、ドキッとした人も少なくないのではないだろうか? しかし歯の間に挟まったカスを取るための爪楊枝が、逆効果になりうることがあるとは、これも初耳。歯や歯茎は、もっと丁寧に扱ってやらないといけないようだ。

一生健康で酒をおいしく飲むためには、体を健常に保つことが第一。そのためには飲み過ぎないことはもちろんだが、口腔内をいい状態でキープすることも実は欠かせない。歯周病を防ぐためにも、酒量、飲み方に加え、日常的な口腔ケアを見直そう。

[日経ビジネス]

飲酒が口内環境に及ぼす影響(1/2)

 

お酒をよく飲む人は歯が抜けやすい? アルコールと口内環境の関係

飲み過ぎると口の中が乾燥し、虫歯や歯周病のリスクが高まる

葉石かおり
エッセイスト・酒ジャーナリスト

大酒飲みの人ほど、歯が欠損していたり、虫歯や歯周病などになりやすいのではないか、と疑問を持った酒ジャーナリストの葉石かおりさん。深酒をした日には、歯を磨かずに眠ってしまうことがあり、それも問題なのではと感じているそうです。アルコールと口内環境の関係に詳しい、久里浜医療センター歯科医長の井上裕之氏にお話を伺いました。

酔っぱらっている方を中心に、面白おかしくインタビューしているバラエティー番組を見て、ふと気づいた。

「歯が欠損している人が多い」と。

単なる偶然かと思ったが、筆者の周囲の大酒飲みを見渡してみると、口腔環境が悪い人が結構な数でいる。

還暦を前にすでに残存歯が6本しかなく、部分入れ歯になった人もいれば、重度の歯周病で歯が抜け落ちてしまった人もいる。5年以上歯科医院に行っておらず、虫歯や歯石を放置しっぱなしの人もザラだ。

筆者の場合は、虫歯になりやすいということが経験から分かっているので、3カ月に一度は歯科医院に通っている。

いや、ちょっと待って。もしや「虫歯になりやすい」というのは、日常的な飲酒が影響しているのではないだろうか?

そういえば、深酒をした際、歯も磨かず化粧もしたまま寝てしまったことがあった。そんなことが影響して、虫歯になりやすかったりするのだろうか?

口腔環境が気になるお年頃の酒飲みのためにも、ここは真意を確かめておく必要がある。飲酒と口腔環境について詳しい、久里浜医療センターの歯科医長で歯科医師の井上裕之氏にお話を伺った。

アルコール依存症の人は虫歯や歯周病のリスクが高い

先生、お酒を日常的に大量飲酒している人は、口腔環境が悪い傾向があるのでしょうか?

「当院に診察に訪れるアルコール依存症(使用障害)の患者さんを診ていると、決して口腔環境がいいとは言えません。歯が全部で28本ある中で、虫歯が20本あるような人もいます。25~70歳以上のアルコール依存症の方437人を対象に調べたデータで、平均して5.7本の虫歯があるという報告もあります。もちろんこれはアルコール依存症の方に限った話ですが、お酒をよく飲む人も、同様に口腔環境に悪影響があると考えられます」(井上氏)

平均で5.7本といったら結構な数ではないか。しかも、この報告では、40~50代に限ると虫歯の平均は7本近くになるという。やはり大量飲酒は、口腔環境を悪化させるのだろう。それはいったいなぜだろうか?

「アルコールで口腔環境が悪くなる原因は、大きく分けて2つあります。1つはアルコールの脱水作用により、口腔内の唾液が少なくなることです。二日酔いになると、喉がカラカラ、口の中がネバネバになりますよね。あの状態が口腔環境にとっては最悪なのです」(井上氏)

なんと、体から水分がなくなって、口腔内の唾液が少なくなることが問題だったとは。唾液が減ると、虫歯などになるリスクが上がるのだという。

「唾液は、唾液腺から分泌されます。唾液腺には、大唾液腺と小唾液腺があり、主として大唾液腺から唾液が分泌されます。さらに大唾液腺は耳下腺、顎下腺、舌下腺の3種類に分かれ、それぞれから分泌される唾液の性質は異なります。主に耳下腺から分泌されるサラサラの唾液は口腔を洗い流し、清潔に保ってくれます。しかし、二日酔いのときはサラサラの唾液が不十分で、口の中がネバネバした状態では汚れが取れにくいため、口腔内で菌が繁殖しやすくなってしまうのです」(井上氏)

唾液に種類があるなんて、恥ずかしながら知らなかった。井上氏によると、「大量飲酒をする人は、食事の量が少ないことも唾液の分泌に影響を与えている」という。

「日常的に大量飲酒をしている人の中には、お酒が主体で食べる量が少ない人もいますよね。アルコール依存症の方がまさにそうで、食事をしないためやせてしまっています。肥満の方はまずいません。お酒しか飲まなくなると、咀嚼(そしゃく)が減り、唾液も減っていきます。さらに、水を飲まずにお酒ばかり飲むので、脱水症状になり、口腔内が渇いてしまいます」(井上氏)

どうやら唾液は、私たちが想像している以上に、口腔環境にとって重要なものらしい。飲酒によって唾液に悪影響があるとは、大問題ではないか。

「唾液には、殺菌効果のほか、歯の再石灰化を促し、口腔内のpHを中性に保ち、食べカスを洗い流す、といったさまざまな効果があります。歯や歯茎は、唾液に守られていると言っても過言ではありません。生まれたばかりの免疫力が低い赤ちゃんがよだれをたらしているのも、口腔環境を整えたり、菌の侵入を防いだりするため。ネバネバの唾液になるまで深酒をするのは、体にとっても、口腔環境にとってもいいことがありません」(井上氏)

また、アルコールの筋弛緩作用により、喉周辺の筋肉が緩まって気道が狭くなったりすることで、いびきをかきやすくなることでも、口腔内が乾燥しやすくなるという。寝酒も要注意だ。

井上氏によると、ほどほどに飲む分には口腔内に悪影響を及ぼすことは少ないが、日常的に飲み過ぎてしまう人は、口腔環境が悪化して、虫歯や歯周病などのリスクが高くなるという。

泥酔すると、ちゃんと歯磨きできない!?

井上氏はまた、口腔環境が悪くなるもう1つの理由として、「泥酔して、歯の磨き方が甘くなること」を挙げた。

「深酒をして、アルコールの影響が運動機能を司る小脳に及ぶと、歯磨きをしても、歯の磨き残しが多くなってしまいます。磨き残しがあると、そこから細菌が繁殖し、虫歯や歯肉炎、歯周病になる確率が高くなります。ただ、虫歯には個人差があります。というのも、歯の質が強く、唾液の量がもともと多い人は、虫歯になりにくい体質なのです。アルコール依存症の患者さんでも、そのような人はいます。しかし、歯周病に関しては、虫歯になりにくい体質の人でも要注意です。日常的に大量飲酒をしていると、歯周病が原因で歯を欠損してしまうということが少なくありません」(井上氏)

泥酔して、歯も磨かず寝てしまったことがある身としては耳が痛い。先生、啓発のためにも、改めて歯周病の恐ろしさを教えてください。

「歯周病は、歯周病菌の感染によって引き起こされる炎症性の感染症です。歯磨きが十分でなかったりすると、口の中の細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつきます。これが歯垢(プラーク)で、この中には歯周病菌がたくさん存在しています。歯周病の初期は、歯茎の出血や腫れ、歯茎が下がる、口臭などの症状が見られます。症状が悪化すると、歯がグラグラしたり、歯が抜けてしまうこともあります」(井上氏)

歯周病のメカニズム
歯周病のメカニズム
(画像=PIXTA)
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定期的に歯医者に行くことが最大の予防法

歯周病は、特に初期の頃は自覚症状があまりない。そのため、定期的に歯科医院に行くことが大切だという。

「ただ、日常的に大量飲酒をされている方は、歯医者に行くよりも、居酒屋に行って飲むことを選んでしまう傾向がありますよね(笑)。実際、アルコール依存症の患者さんは、虫歯や歯周病が進行しても、よっぽど痛みがなければ歯医者に行かないという方も少なくありません」(井上氏)

これを聞いて、歯が欠損した酒豪たちの映像が頭に浮かんできた。井上氏によると、「定期的に歯科医院を訪れようという意識があるうちは大丈夫」とのこと。筆者も早速、歯科医院に歯のクリーニングの予約を入れた。

「歯垢は、数日経つと石灰化して歯石へと変わってしまいます。すると、通常の歯ブラシによる歯磨きでは取れなくなるため、歯科医院で取り除いてもらわなければなりません。歯石も歯周病につながるやっかいなものなので、これを取ってもらうためにも定期的に歯医者さんに行きましょう」(井上氏)

特に注意したいのは、甘くて度数の高いあのお酒

ここまでの話で、アルコールの脱水作用による唾液の減少や、泥酔によって磨き残しが多くなることなどが口腔環境を悪化させることが分かった。

酒飲みとしてもう1つ気になるのは、「酒の種類によって、口腔環境への影響は変わるのか?」ということである。素人の考えでは、ワインやレモンサワーのように酸度が高い酒が、歯のエナメル質に影響を与えるのではないかと疑ってしまう。

「酸度の高いお酒よりも、歯垢のもととなる糖分がたっぷり入ったお酒のほうが口腔環境、特に虫歯にとってはダメージが大きいと言えます。大げさなことを言えば、そうしたお酒を飲んでいる数時間は、砂糖が口の中にずっとあるような状態なのですから。私がかつて診ていた患者さんでは、とても甘いお酒をケース買いしている方は虫歯だらけでした。甘いお酒が好きな方は注意が必要です」(井上氏)

昨今、コンビニの棚には甘いカクテル系の酒がずらっと並んでいるが、それを好んで飲む人は要注意だ。しかし、それ以上に井上氏が「あれは毒」と言う酒がある。

「アルコール度数が9%もあるストロング系のチューハイは、口腔環境はもちろん、体にとっても大きな負担になります。500mLのロング缶1本で、純アルコールにして36gですから、日本酒約2合分に相当するような量です。甘くて口当たりがいいので、飲み過ぎてしまう危険性もあります」(井上氏)

コロナ禍では、家で酒を飲む量が増え、値段が安くて入手しやすいことから、ストロング系を好んで飲むようになった人も少なくない。ましてや箱買いをしている人は、より注意が必要だ。糖により虫歯のリスクが上がるだけでなく、気がついたら脱水状態になって、口腔環境が悪化してしまう。

井上氏によると、「いずれにしても二日酔いになるまで飲むのは、口腔環境はもちろん、体にとっても大きなダメージになるので避けるようにしましょう」とのこと。一生健康で、おいしいものを食べながら酒を飲むためには、歯は特に大事にしたいもの。酒量も見直して、口腔環境を整えておくべきだろう。

次回は、歯周病菌が引き起こす恐ろしい全身の疾患や、歯に悪影響を与えない飲み方、具体的なケアの方法について、引き続き井上氏にお話を伺っていく。

[日経ビジネス]