少量飲酒のがん罹患リスクVol.2

1日1合お酒を飲み続けると、がんのリスクはどのくらい上がる?

飲酒とがんリスク【前編】日本人における、少量飲酒によるがんのリスクは?

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

 日本人の最大の死因になっている「がん」。がんに罹(かか)りたくないのは誰もが共通に願うことだが、そのためにはどんな飲酒が望ましいのか。最近では、少量の飲酒でも体に悪いと指摘されるようになったが、がんについてはどうなのだろう。

 2019年12月には東京大学から、日本人を対象とした低~中等度の飲酒のがんへの影響を評価した論文が発表された。今回は、論文の発表者の1人である財津將嘉さんに詳しい話を聞いた。

 本誌において何度も紹介してきたが、「酒は百薬の長」「酒は全く飲まないより、少量飲んだほうがカラダにいい」と以前から信じられてきた。それがまた左党にとっては好都合だった。条件付きとはいえ、少量の飲酒がカラダにいいことを示す「Jカーブ効果」のグラフ(以前の記事を参照)は、言わば「水戸黄門の紋所」のようなものだったに違いない。

だが、ここ1、2年その流れが大きく変わってきた。世界的に飲酒の健康リスクが大きくクローズアップされるようになる中、少量の飲酒でもカラダに悪いという論文が登場したのだ。

詳しくは、昨年秋に本連載で取り上げた記事「お酒は少量であっても健康に悪かった!?」をご参照いただきたいと思うが、2018年の半ばに、世界的権威のある医学雑誌『Lancet』(ランセット)に、「195の国と地域を対象に飲酒のリスクを検証した結果、健康への悪影響を最小化するなら飲酒量はゼロがいい」という内容の論文が発表された。

この論文では、虚血性心疾患(心筋梗塞など)に対してはプラスの面がある(発症リスクが下がる)のは従来の研究結果と同じだが、がんなどに罹患す るリスクは少量であっても上がるため、その効果は相殺されてしまい、トータルで考えると、飲酒量は少ないほうがいい、さらには健康への悪影響を最小化する なら飲酒量は「ゼロ」が望ましいというのだ。

「飲酒量はゼロがいい」――。

この衝撃の結果を受け、酒量が減った人もいるのではないだろうか? 筆者も、である。「お得だから」という理由で、一升瓶で日本酒や本格焼酎を買うのをやめ、休肝日を週2回から3回に増やした(守れないこともあるが)。

酒好きからすれば、これまで以上に酒量を抑えるのはつらいが、「飲酒量が少なければ少ないほどいい」というのは確かなのだろう(泣)。ただ、「日本人においてどうなのか」についてはもう少し詳しく知りたいと思っていた。

前出の論文の対象は世界中の195カ国(および地域)である。この結果がそのまま日本人に当てはまるわけではないだろう(もちろんある程度は当て はまると思うが)。よく知られていることだが、欧米人がアルコールの分解能力が高いのに対し、日本人はアルコールに強くない人が一定数いる。お酒の影響も 同じというわけではあるまい。ところが、日本人を対象とした、少量飲酒におけるリスクを研究した論文はほとんど出ていないという。

と、そんなことを思案している中、2019年12月、東京大学から日本人を調査対象として、「低~中等度の飲酒もがん罹患のリスクを高める」とい う興味深い論文が発表された(Cancer. 2020;126(5):1031-1040.)。こちらは、新聞などの各種メディアでも取り上げられたので、目にした人もいるのではないかと思う。

日本人を対象とし、日本人の最大の死因になっている「がん」への影響を調査した研究というのだから、これは興味津々である。

日本にごまんといる左党のためにも、きちんと確認して、その内容をお伝えせねばなるまい。そこで今回は、論文の発表者の1人で、獨協医科大学医学 部 公衆衛生学講座 准教授で医師・医学博士の財津將嘉さん(3月まで東京大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学 助教)に話を伺った。

日本人を対象に、低~中等度の飲酒とがん罹患リスクを推計

研究の詳細に入る前に、まずは財津さんたちがこの研究を行った背景を確認しておこう。

先生、今回、なぜこういった研究に取り組まれたのですか? そう尋ねると財津さんはやさしい口調でこう話し始めた。

「従来から、多量飲酒者の健康リスクについては数多く指摘されてきました。これまで国内外における飲酒についての主な研究も、多量飲酒の人を対象としており、少量飲酒に関するものはほとんどありませんでした」(財津さん)

「それが最近になって、2018年に発表された『Lancet』の論文などにより、少量飲酒の危険性が示唆されるようになりました。しかし、この 研究の対象者は195カ国(および地域)にも及びます。人種により体質が異なるのはもちろん、医療環境など社会的背景も異なります。そこで『体質や社会的背景が近い日本人を対象としたら少量飲酒のリスクはどうなるのだろう?』というところから、私たちの研究はスタートしました」(財津さん)

「そして日本人の死因のトップはがんです。しかし、日本では低~中等度の飲酒とがんの罹患リスクに着目した研究は少なく、明確な結果も出ていませんでした。こうした背景から、低~中等度の飲酒によるがんのリスクをターゲットにしたのです」(財津さん)

なるほど。同じ人間であっても、外国人と日本人では体質が異なる。前述のように、日本人は欧米人に比べてアルコールの分解能力が低い人がいること はよく知られている。そして、日々の食事の内容、さらには医療レベルや病院へのアクセスのしやすさ、そして健康保険制度や企業や地域で行われる定期健診と いった社会的背景も異なる。だからこそ、財津さんは日本人を対象とし、さらに最大の死因であるがんに着目したわけだ。

今回、財津さんたちは、全国33カ所の労災病院の入院患者病職歴データベースを用いて、「新規がん患者」の6万3232症例と「がんに罹患してい ない患者」の6万3232症例を同定し、両群を比較することで低~中等度の飲酒とがん罹患リスクを推計するという症例対照研究を実施した。ここでは、年齢、性別、診断年、診断病院などをそろえて比較している。

対象者の平均年齢は69歳で、男性は65%、女性は35%。病院に入院する際に、1日の平均酒量やこれまでの飲酒期間(年数)も調査している。「この飲酒期間を分析の対象に加えているところが、この論文のポイントの1つです」と財津さん。

確かに、「飲酒期間」という要素があると、「いつも飲んでいる量を、このままずっと続けていったらどうなるか?」も見えてくる。これは左党にとって、かなり気になるところだ。

この研究においては、純アルコールにして23g(日本酒1合相当)を1単位として、1日の平均飲酒量(単位)に飲酒期間(年数)をかけたものを飲 酒指数(drink-year)と定義している。例えば、1日当たり日本酒1合の飲酒を10年間続けたら「10drink-year」ということになる。

1日1合を10年間飲み続けると、がんの罹患リスクは1.05倍

ここまでの説明で、研究の内容はよく分かった。続いて、いよいよ本題。研究結果について財津さんに聞いていこう。少量の飲酒におけるがんのリスクはどのくらいなのでしょうか?

日本人を調査対象にした本研究においても、少量から中等度の飲酒でも、がんのリスクは上昇するということが明確になりました。飲酒しなかった人が最もがん罹患のリスクが低く、飲酒した人のがん全体の罹患リスクは、低~中等度の飲酒において飲酒量が増えるにつれ上昇しました」(財津さん)

「そして、1日1杯(純アルコールにして23g)を10年間続けることで(10drink-year)、お酒を全く飲まない人に対し、何らかのがんに罹るリスクは1.05倍上がるという結果になりました」(財津さん)

少量の飲酒でもがんのリスクは上昇する、そして飲酒しなかった人のリスクが一番低い。つまり「飲まないにこしたことはない。飲むなら少量がいい」ということか…(がっくり)。

しかし、この1.05倍という数値はどう判断すればいいのだろうか。1.05倍とは、5%リスクが高くなるということ。リスクが上がるのは確かとはいえ、そんなに大きなリスクとも言えないような…。「思ったより低い…」と思った方もいるのではないだろうか。

先生、これはどう考えたらいいのでしょう?

「確かに、数値だけ見ると、その程度かと思われる人もいると思います。しかし、必ずしもそうとは言えません。この研究で導かれた1.05倍という 結果は『1日1杯(純アルコールにして23g)を10年間続けること』から算出されています。しかし飲む量が2、3杯と増えていけば、10年よりも短い年 数でがんのリスクが上昇するということになります。お酒好きの方の多くは、まず1杯で終わることはないですよね(苦笑)。また、これは適量を10年間飲み続けたケースの値ですから、20年、30年と飲み続ければ、その分リスクは上がります。決して軽視できる数値ではありません」(財津さん)

では、酒量が増えたり、飲酒期間が長くなると、リスクはどうなるのだろうか。それを示すのが下のグラフだ。

累積飲酒量とがん全体の罹患リスクの関係
横軸の累積飲酒量は、1日の平均飲酒量(アルコール換算で23gが1単位)に飲酒期間(年 数)をかけたもの。例えば、1日1単位(日本酒1合相当)の飲酒を10年間続けたら「10drink-year」。縦軸は、飲酒をしない人と比較した、何らかのがんに罹るリスク(オッズ比)。

これを見ると、飲酒量、飲酒期間が大きくなる(=累積飲酒量が多くなる)ほど、がんの罹患リスクが上がることが分かる。例えば、 50歳前後の人なら、20歳くらいから飲み始めているだろうから、飲酒期間は30年。これで1日当たり日本酒2合を飲んでいたら(=2単位)、 60drink-yearということになり、がんの罹患リスクは1.2(=20%増)程度になることが分かる。財津さんが話す通り、これは決して無視していい数字ではない。

筆者自身、日々節酒を心掛けているとはいえ、「1杯で終わる」ということは、なかなかできない。飲む量に比例して、短い年数でがんのリスクが上がっていくとなると、「大したことない」なんて言っていられないのだ。

◇     ◇     ◇

少量飲酒がカラダによくないことは予想していたとはいえ、やはり左党にとって残念な結果となってしまった。

ちりも積もれば山となる。酒もまた「ちょっとだからいいや~」と、少量を日々重ねていけば、がんのリスクは確実に上がっていくというわけか…。

酒豪はよく、「ビールなんて水と同じだから、飲んだうちに入らない」なんて言うことがあるけれど、とんでもない。カラダはしっかりカウントしているのだ。

ここまで、少量の飲酒とがん全体のリスクについて話を聞いてきた。しかし、一口にがんといっても、肺がん、胃がん、肝臓がんなど、さまざまな部位 のがんがある。飲酒により影響を受けやすい部位と、受けにくい部位があるだろうことは想像に難くない。果たしてどのがんのリスクが高くなるのだろうか。これについては次回触れたいと思う。さらに、財津さんがお勧めする「飲み方」についても聞いていこう。

(図版:増田真一)

財津將嘉(ざいつ まさよし)さん
獨協医科大学医学部 公衆衛生学講座 准教授

[日経GOODAY]

少量飲酒のがん罹患リスクVol.1

お酒は少量であっても健康に悪かった!?

少量飲酒のリスク【前編】2018年にLancet誌に発表された論文の衝撃

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

「お酒は適量飲む分には体にいい」――。かつてこう言われてきたが、最近では「少量でも体に悪い」という話も耳にするようになった。2018年には「少量でも体に悪い」という論文が権威ある雑誌に掲載されたことをご存じだろうか。「適量ならOK」と安心して飲んでいた人にはショックな報告だ。そこで今回は、飲酒と健康についての研究を手がける筑波大学の吉本尚准教授に飲酒量の最新事情について話を聞いた。

 「酒を全く飲まないより、適量飲んだ方がカラダにいい」――。

100歳を超える長寿の方が、晩酌するシーンをニュースなどで見ることもあってか、「酒は百薬の長」という言葉は今もなお多くの人に信じられている。

また昔からそれを裏付けるデータとして多用されている「Jカーブ効果」というものがある。コホート研究から導き出されたこの「Jカーブ効果」から見るメリット面の結果がまさに、「適量を飲む分には死亡率が下がる」ということ。もちろん一定量を超えれば、死亡率は上がるのだが、いいところばかりを見てしまうのが左党の悲しい性(さが)である(もちろん筆者も)。

このコラムで2年半ほど前に取り上げたように、「Jカーブ効果」は心疾患や脳梗塞などの病気についてはその傾向が確認されているものの、高血圧や脂質異常症、脳出血、乳がんなど、飲酒量が増えると少量であってもリスクが着実に上がる病気も多くあることが分かっている(「『酒は百薬の長』はあくまで“条件付き”だった」を参照)。つまり、Jカーブ効果は全ての疾患に当てはまらず、病気によっては少量飲酒でも悪影響を受ける。そして、飲酒と総死亡率の関係性として見ると、少量飲酒による心疾患などの影響が大きいことから、トータルでもJカーブとなるということだった。

こうした報告から、酒好きにとって都合のいい「飲まないより“少し”飲んだ方が健康にいい」という説を信じてきたわけだが、正直なところ、ここに モヤモヤをずっと抱えていた。心疾患などにいい効果があるとはいえ、多くの病気ではリスクが上がるわけだし、少量とはいえ飲むのと飲まないのでは、飲まない方が体にいいのではないか――そんな疑問も浮かんでくるのである。

折しも近年、世界的にアルコールのリスクが取り上げられる機会が増えているように感じる。「タバコの次はアルコール規制が厳しくなる」と言われて いるし、左党としてはとっても心配である! 実際、海外ではアルコール規制が厳しくなっていて、海外に行くとそれをひしひしと感じることが多い。先日訪れた常夏のハワイでも、ビーチや公園など公共の場での飲酒は禁止で、違反したら罰金が科せられる。日本はお酒(そして酔っ払い)に寛容なのだ。

さて、そんなモヤモヤを抱えていたところ、昨年、少量飲酒のリスクを指摘する論文が相次いで発表された。

1つはGoodayでも紹介しているが、医学雑誌Lancet(ランセット)誌に2018年4月に掲載された英ケンブリッジ大学などの研究(Lancet. 2018;391(10129):1513-1523.)では、「死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールに換算して週に100gが上限」という報告がなされている(詳しくは「『安全な飲酒量』今の基準では多すぎる?」を参照)。

もう1つの論文もLancet誌に同年8月に掲載されたもので、「195の国と地域で23のリスクを検証した結果、健康への悪影響を最小化するなら飲酒量はゼロがいい」と結論づけているという。「ゼロがいい」という結論は衝撃である! Lancet誌は世界的にも権威のある医学雑誌の1つで、その影響はとても大きく、ニュースなどでも取り上げられた。

これら最新の研究は、「安全飲酒量(≒適量)は今の基準より少ない」あるいは「少量飲酒であってもリスクがある」ことを示唆するものである。つまりは、「適量までの飲酒なら体にいいんだから…」という酒飲みの言い訳が通じないということでもある。これは健康に気を遣う酒飲みにとっては大いに気になるところである。専門家に詳しく話を聞かねばなるまい。

そこで今回は、飲酒と健康についての研究を手がける医師で、北茨城市民病院附属家庭医療センターの「飲酒量低減外来」で診療を行っている、筑波大学地域総合診療医学の吉本尚准教授に、「適切な飲酒量」の最新事情について話を伺った。

「どれだけたくさん飲んだら体に悪いのか」から研究が始まった

まず吉本さんに、これまでの飲酒と健康についての研究の経緯、そして、近年まで「少量のお酒は体にいい」と言われていた説が、最近になって否定されるケースが出てきたのはなぜか、このあたりの事情から聞いた。

すると、吉本さんはこれまでの経緯を丁寧に説明してくれた。

「アルコールと健康に関する研究では、『どれだけたくさん飲んだら体(健康)に悪いのか?』についての研究が先になされてきました。その研究の結 果から、毎日60g以上飲むとがんをはじめとする全ての病気のリスクが高まることが分かり、それによって飲む量を減らした方がいい(減酒)ということに なったわけです。この60gという数字は以前から知られていました」(吉本さん)

そして、次に検討されたのが、どのくらいまで減らせばいいのか、つまり適量についての議論だったのだという。「日本人男性を7年間追跡した国内で のコホート研究(JPHC Study*1)の結果や、欧米人を対象とした海外の研究の結果(*2)などを基に、厚生労働省が2000年に発表した『健康日本21(第1次)』において、『節度ある適度な飲酒』として1日平均純アルコールで約20g程度(*3)という数字が明文化されたわけです。いわゆる『適量』と言われる20gという数字が出たのは、画期的なことでした」(吉本さん)

上記の海外の研究(*2)の結果が下のグラフである。男性については1日当たりのアルコール量が10~19gで、女性では1日9gまでが最も死亡率が低く、アルコール量が増加するに従って死亡率が上昇することが示されている。

*1  Am J Epidemiol.1999;150:1201-7.
*2  Holman CD,et al. Med J Aust. 1996;164:141-145.
*3 純アルコールで約20g程度とは、日本酒1合、ビール中ジョッキ(500mL)、ワイン2~3杯に相当する。
アルコール消費量と死亡リスクの関係(海外)
海外の14の研究をまとめて解析した結果。適量を飲酒する人は死亡リスクが低い傾向が確認できる。(Holman CD,et al. Med J Aust. 1996;164:141-145.)

また、前述した国内のコホート研究(JPHC Study)では、その後、2005年に国内の40~79歳の男女約11万人を9~11年間追跡した結果を発表している。それによると、総死亡では男女と もに1日平均23g未満で最もリスクが低くなっている(Ann Epidemiol. 2005;15:590-597.)。

なるほど、こうして適量20gという指標ができたわけだ。左党としては、「この結果で満足してよ」と思うのだが、そうはいかないのが研究者たちである。

先ほど、Jカーブについて簡単に解説したが、研究者の間では「これはちょっとおかしいのでは?」と疑問視する声も挙がっていたのだと吉本さんは話す。

具体的には、「『全く飲まない人の死亡リスクがこんな高くはならないのではないか』という指摘です。詳しくは後述しますが、飲酒が血管に対していい効果があるのは確かとはいえ、他の病気についてはリスクが上がることから、トータルで見たら『(飲酒量は)少なければ少ない方がいいのではないか』と研 究者の間ではずっと言われてきたのです」(吉本さん)

なお、こうした疑問が挙がった背景には、コホート研究において、飲酒量の測定が不十分であったこと、また飲まない人の中には元々飲んでいてやめた人もいるのではないか、などといった指摘もあったのだという。

「こうした流れから、ここ10年ほどの間に『少量飲酒のリスク』に特化した研究が増えました。昨年、Lancet誌に掲載された論文などがそれにあたります。ただし、日本において少量飲酒に関する論文はほとんど出ていません」(吉本さん)

「基本的に飲酒量はゼロがいい」という驚きの結論

いよいよ本題に突入、左党にとっては“爆弾”、あるいは悲報ともいえる論文である。先生、昨年8月にLancetに掲載になった論文 (Lancet. 2018;392:1015-35.)には、「基本的に飲酒量はゼロがいい」と言い切っているとか。これはどういうことなのでしょうか。

「この論文は、1990~2016年にかけて195の国と地域におけるアルコールの消費量とアルコールに起因する死亡などの関係について分析したものです。この論文では最終的に、健康への悪影響を最小化するアルコールの消費レベルは『ゼロ』であるとしています。つまり、『全く飲まないことが健康に最もよい』と結論づけているのです」(吉本さん)

吉本さんによると、かなりインパクトがある論文として研究者の間で話題になったそうだ。「かつての研究のグラフではJカーブを描いていましたが、 今回の研究結果を見ると緩やかにLカーブになっているんです。下のグラフにあるように、飲酒量1(アルコール換算で10g)くらいまでは疾患リスクの上昇 はあるものの緩やかで、それより多くなると明確に上昇傾向を示しています。つまり、『飲むなら少量がいいよ、でもできたら飲まないほうがいいよ』ということですね」(吉本さん)

アルコール消費量とアルコール関連疾患のリスクの関係
縦軸は相対リスク。横軸はアルコールの消費量。1単位は純アルコール換算で10g。(Lancet. 2018;392:1015-35.を基に編集部で作成)

なぜ、ゼロの方がいいのか? 心疾患などについては適量の飲酒がリスクを減らすのですよね? 納得いかずに吉本さんに食い下がると、

「ご指摘のように、この論文でも虚血性心疾患(心筋梗塞など)については以前と変わらず、『少量飲酒で発症リスクが下がる』という結果が出ており、Jカーブが確認されています。しかし、飲酒量が増えればがん、結核など他の疾患のリスクは少量飲酒においても高まっていくので、心疾患などの予防効果が相殺されるのです」と吉本さんは説明してくれた。

以前の記事でも「少量飲酒においては、飲酒によってリスクが上がる疾患より、心疾患などリスクが下がる疾患の影響が大きいためJカーブになる」と説明したが、最新研究ではより多くのデータからこの両者のバランスが再検証され、Jカーブから緩やかなLカーブになったということか。

「もちろん、1つの論文で結論を出すのは危険です。色々なデータを見て判断する必要があります」と吉本さんは前置きしつつも、「この論文の登場で、多くの医師・研究者が『少量飲酒が体にいいとは言えなくなってきた』と感じるようになっていると 思います。特に、これまで研究者の中で『全く飲まない人の死亡リスクがこんな高いわけないよね?』と疑問に思われていた部分がクリアになったのは大きいでしょう。また、飲む人より、飲まない人の方が、がんの発症リスクが低いという点についても裏付けの1つになったと考えています」(吉本さん)

「この結果を見ると、『健康にいいから』と大手を振って飲むことはできなくなりますね」(吉本さん)

……。満面の笑顔でそんなこと言われても(涙)。

なお、吉本さんは、「少量の飲酒が心疾患などのリスクを減らすことはアメリカ心臓協会(American Heart Association)も認めていながら、それでも飲まない人に飲酒を推奨しているわけではありません」と話す。「健康日本21においても『飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない』と明記されています」(吉本さん)

「死亡リスクを高めない飲酒量は、週100gが上限」という報告も

前ページのグラフをよく見ると、アルコール消費量とアルコール関連疾患のリスクの関係は直線的な比例関係ではなく、緩やかなL字に近いもので、酒量レベル1(アルコール換算で10g)までの上がり方は緩やか。つまり、できることなら酒量はゼロの方が望ましいものの、日本酒半合、ワイン1杯程度までの飲酒であれば、リスクは“さほど”上昇しないということは言えそうだ。

また、冒頭でも少し触れたが、同じLancet誌に2018年4月に掲載されたケンブリッジ大学などの研究では、19の高所得国の住民を対象とし た3つの大規模研究を解析した結果から、「死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールに換算して週に100gが上限」という報告がなされている。こちらの論文では、アルコール摂取量が週に100g以下の人では死亡リスクは飲酒量にかかわらずほぼ一定だったが、週に100gを超えると、150gくらいまで は緩やかに上昇。さらにそれ以上では急上昇している。

こちらの論文の結論は前述のものとは多少異なるものの、Jカーブの形になっておらず、L字に近くなっているところなどは似ている。そして残念なこ とに、死亡リスクを高めない飲酒量が週100gまでというのは、前述した厚労省の健康日本21の指針である「節度ある飲酒量」の1日当たり20g(=週 140g)より、週当たり40g(日本酒に換算して2合)も少ないではないか。

つまり、いずれの論文に拠るにしても、本連載で繰り返しお伝えしてきた「1日当たりの適量20g」という数字は多すぎる、健康に配慮するなら減らす方向が望ましいというのは確かなようだ。

20gを死守するのさえ大変なのに、これ以上、量を減らさなくてはならないなんて殺生な…。

◇       ◇       ◇

私たちは、このまま日本基準の20gを信じたまま飲み続けていいのだろうか? やっぱり減らす? それとも論文が示唆するように、いっそのことゼロにしてしまうのが最善なのか? 後編では、吉本さんに具体的な飲み方について聞いていこう。

(図版:増田真一)

吉本 尚(よしもと ひさし)さん
筑波大学医学医療系 地域総合診療医学 准教授/附属病院 総合診療科

[日経GOODAY]

私も毎晩就寝前に。。。

一日二分爪をもむだけで不調が解消!?どこでもできる「爪もみ」療法

「爪もみ」療法とは、爪の生え際を押して刺激し、働きすぎや悩みごとなどによる心身のストレスで、交感神経優位に傾いた自律神経を整えること。でも、なぜ爪をもむといいのでしょうか?実は、爪の生え際には神経線維が密集していて、刺激が自律神経に伝わりやすいのです。

誰でも手軽にできる 免疫力を回復させる健康法

自律神経とは、全身の血管や内臓の働きを無意識のうちに調整する神経のこと。リラックスしている時に働く副交感神経と、緊張・興奮している時に働く交感神経があり、その両者がバランスを保ちながら働いています。

免疫が低下するのは、交感神経が緊張し、リンパ球が減少(顆粒球が増加)するためです。交感神経と副交感神経の働きのバランスが取れている状態を、「健康」と呼ぶのです。

「爪もみ」療法は、爪の生え際を押して刺激し、働きすぎや悩みごとなどによる心身のストレスで交感神経優位に傾いた自律神経を整えます。そしてリンパ球を増やして(顆粒球を減らして)、免疫力を回復させる健康法です。

でも、なぜ爪をもむのでしょうか?実は爪の生え際には神経線維が密集していて、刺激が自律神経に伝わりやすいのです。一日たった二分でOK。まずは気軽に始めてみましょう。

◇爪のもみ方
爪の生え際を、反対側の手の人さし指と親指で挟み、少し痛いと感じる程度に刺激する。親指から順番に両手とも10秒ずつ。その後、症状に対応する指を20秒ずつ刺激する。一日2〜3回、毎日行うことが大切です。

各指と症状の関係

■親指=肺などの呼吸器
■人さし指=胃や腸などの消化器
■中指=耳の症状
■薬指=交感神経
■小指=心臓や腎臓などの循環器

薬指は交感神経を刺激し、残りの四指は副交感神経を刺激します。複数の症状を改善したい場合は、最もツライ症状に対応する指を刺激しましょう。

腹式呼吸を加えると、リラックスしている時に働く副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整いやすくなります。息を吐きながら、指に力を入れましょう。

一時的に痛みが出たり、症状が悪化することがありますが、これは病気がよくなる前の反応です。心配せずに毎日続けましょう。

【親指】
アトピー/せき/ぜんそく/リウマチ/円形脱毛症、など

【人さし指】
胃・十二指腸潰瘍/胃弱、など

【中指】
耳鳴り/難聴、など

【小指】
肩こり/腰痛/椎間板ヘルニア/頭痛/不眠/生理痛/子宮筋腫/子宮内膜症/更年期障害/腎臓病/高血圧/糖尿病/肝炎/うつ状態/物忘れ/目の病気、など

気づいたら、常に指をもむようにしていれば、全身のバランスが取れるようになりますよ。

ライター:幸雅子

[YOU ONLY LIVE ONCE]

柔軟な感性と発想。。。

 

星野リゾートの社内はなぜ風通しがいいのか

社員が自律的に動ける組織が持つ5つの特徴

前田 はるみ : ライター

いま、「ティール組織(進化型組織)」と呼ばれる次世代型組織モデルが、経営者や人事担当者たちの注目を集めている。組織には売り上げ目標や予算もなければ、上司からの指示もない。にもかかわらず、社員はモチベーションを高く持ち、自律的に仕事をする。ティール組織とは、働く人が主導するセルフマネジメント組織であるという。

効率重視と合理主義がもたらした弊害

どうすれば社員1人ひとりの主体性を引き出し、限られた人材で生産性を最大化できる組織をつくることができるのか――。これは多くの経営者や管理職、チームリーダーが抱える共通の課題ではないだろうか。今年はじめに日本語訳が発売された『ティール組織』(フレデリック・ラルー著)によると、現代の資本主義社会においては、徹底した目標設定と目標管理のもと、競争に勝つことで利益を拡大し、成長を目指す達成型組織が主流だという。従来型のピラミッド構造をもつこの組織モデルで、これまで多くの企業が業績を上げてきた。

一方で、過度の効率重視と合理主義が働く人たちを機械の歯車のように扱い、人々のやる気を奪い、仕事をつまらなく苦しいものに変えてしまった。そこで、達成型組織に代わる新たな組織モデルとして生まれたのが、ティール組織というわけだ。海外では20年ほど前から登場し、ティール組織の条件に合致する企業もいくつかあるようだが、「完成型」はいまのところない。

日本ではどうか。じつは、ティール組織に極めて近い組織をつくりあげてきた企業がある。国内外で旅館やホテルを展開する「星野リゾート」だ。

1914年に軽井沢で創業した星野リゾートは、4代目経営者・星野佳路代表が運営に特化した経営方針を打ち出し、全国展開するリゾート運営会社へと成長を遂げた。

ラグジュアリーリゾート「星のや」や、温泉旅館ブランド「界」など、国内外にさまざまな業態の旅館を出店。今年4月に都市観光ホテル「星野リゾート OMO7 旭川」を開業、5月に「星野リゾート OMO5 東京大塚」をオープンした。

この躍進を支えているのが、今や星野リゾートの代名詞ともいえる「フラットな組織文化」である。上司と部下の間の主従関係は存在せず、ピラミッド型 組織にありがちなポジション争いや足の引っ張り合いもない。ホテルや旅館の総支配人などの管理職は立候補によって決まり、人事評価は業績ではなくプロセス重視で公平に行われる。現場はトップに“お伺い”を立てなくても、自分たちで意思決定することができる。社員が自分の能力を存分に発揮し、生き生きと働ける環境があるのだ。

筆者は過去数年間にわたり、星野リゾートの競争力の源泉であるフラットな組織と、そこで働く社員の活躍を取材してきた。社員の主体性とやる気を引き出し、企業の競争力につなげられる組織とはどのようなものなのか。拙著『トップも知らない星野リゾート~「フラットな組織文化」で社員が勝手に動き出す』 でも詳しく解説している、日本版ティール組織ともいえる星野リゾートの「フラットな組織文化」の一端を紹介したい。

自由に発想したことを提案し、行動に移せる

1.上からの指示に頼らない

世界のホテルチェーンと星野リゾートの決定的な違いは、前者が本社や本部主導による均一のサービス品質を保証しているのに対し、後者は現場主導で各 地域の魅力を反映させたサービスを提供していることだ。そのため、同じ星野リゾートの施設であっても、コンセプトやサービス内容、滞在の楽しさはさまざまである。現地主導のスタイルを採用するのは、地域の魅力はそこに暮らすスタッフがもっともよく知っていると考えるからだ。

現場に多くの自由が与えられているだけではない。現場レベルでも、スタッフは上司の指示を待つことなく、自由に発想したことを提案し、行動に移せる。実際に現場スタッフの自由な発想から生まれた人気プログラムには、奥入瀬渓流ホテルの「苔さんぽ」やトマムの「雲海テラス」、軽井沢ホテルブレストンコートの「マイ・マルシェ・ウエディング」などがある。その土地でしか体験できないユニークなサービスの数々が、星野リゾートの競争力を高めている。

「誰かの言うことや、誰かの指示に頼らないのが私たちの組織です。トップの言うとおりにすれば評価されるのではなく、顧客満足が高まることに取り組まなければ自分たちの評価にはつながらない。顧客の満足につながると自分たちが信じることをやるしかないのです」(星野代表)

2.安心して言いたいことが言える

意思決定プロセスがトップダウンではないなら、ボトムアップかというと、そうではない。役職に関係なく同じテーブルで議論ができ、誰が発言したかに 関係なく、説得力のある意見が採用される――。これが真にフラットであるということだ。各施設で毎月開かれる戦略会議では、総支配人の意見にスタッフが反 論することもあれば、総支配人の反対にもかかわらず、スタッフの意見が採用されることもある。

言いたい相手に自由に言えるためには、普段から人間関係がフラットであることが求められるが、「これは制度を導入すれば達成できるものではなく、文 化そのものを変えていく必要がある。だからこそ、会社のトップの覚悟とコミットメントが欠かせません」と星野代表。役職にかかわらず皆が同じデスクで仕事 をしたり、互いに役職名で呼ばず、誰に対しても「〇〇さん」と「さん付け」で呼ぶことを徹底したりするなど、フラットな組織文化の阻害要因となる「偉い人 信号」を1つずつ排除していったという。

また、マネジメント層と現場スタッフに与えられる情報量の均一化にも取り組んできた。星野リゾートでは、社員なら誰でも、自分たちの施設の売り上げ や顧客満足度など業績に関する情報にアクセスすることができる。上層部が経営判断に使うのと同じ情報を現場とタイムリーに共有することで、現場スタッフに 正しい議論や判断を促し、自分の仕事に責任を持ち、主体的に取り組める環境を整えているのだ。

管理職にとっても心地よい環境

3.リーダーはつねに正しくなくていい

誰もが経営情報にアクセスでき、しかも言いたいことを自由に発言できる環境では、管理職はこれまでのように「一般社員が知らない情報を持っている」 とか、「部長だから偉い」といった特権や優位性にあぐらをかくことができなくなる。部下からの反論を受けて議論を有利に進めるには、論理的思考が必要になるし、会議で皆の意見をまとめるには、より高度なファシリテーション能力が求められる。リーダーとしての真の実力が問われるという意味で、管理職は試練に直面することになるのだ。

その一方で、「『管理職はつねに正しい発言をしなければならない』というプレッシャーから解き放たれる」という側面もあるようだ。「組織がフラット であるということは、管理職も議論に参加する1人であるということ。思いつきをどんどん発言し、妥当性のある批判を受けたら直ちにそちらに乗り換えればいいのです」(星野代表)。管理職にも自由に発想し発言する機会が与えられるフラットな組織文化は、慣れれば管理職にとっても心地よい環境になるはずだとい う。

4.将来のキャリアパスを自由に描ける

星野リゾートでは、総支配人やユニットディレクターなどの管理職は、立候補によって決まる。やる気のある人がマネジメントに挑戦できる仕組みが整えられているのである。一方で、マネジメントから降りることも自由だ。マネジメントを経験した人が、興味関心の変化や、個人や家庭の事情などでマネジメント から離れ、重責の伴わない現場に戻る選択も可能なのである。星野リゾートでは、役職に就くことを「出世」ではなく「発散」、役職から外れることを「降格」 ではなく「充電」と呼ぶ。

社員がライフステージに合わせて自由にキャリアを設計できるのは、年功序列によらない給与体系であることも理由の1つだと星野代表は話す。「私たちが採用するのは、仕事に見合った給料を支払う給与体系です。勤続年数に関係なく、仕事の価値に対して給料を支払うので、会社として採算が合わないということがありません」。立候補制度の導入により、社員にキャリア設計の自由が与えられるのみならず、マネジメント層の入れ替わりを促し、組織の活性化にもつながっているのである。

社員を放ったらかしにはしない

5.自律するためのスキル習得の機会がある

発言したり行動したりする自由や、マネジメントに挑戦できる自由が与えられていても、それを実行するためのスキルが不足していれば、自由を謳歌できない。結局、上司に頼らざるをえないか、むしろ上司の指示に従っていたほうが楽だろう。フラットな組織文化で主体的に動くためには、相手を説得できるだけ の論理的思考、プレゼンテーション能力、意思疎通のためのコミュニケーション能力、議論を導くファシリテーション能力など、さまざまなスキルが求められるのだ。

社員が好きに動ける環境はあっても、個人の努力や能力に任せきりにする企業が多いなか、星野リゾートでは社員を放ったらかしにはしない。社内ビジネススクール「麓村塾」を通して、上司の指示に頼らず主体的に動くためのスキル習得の機会を社員に提供している。社員1人ひとりに発言や行動の自由を与えると同時に、学びの場を通して社員の自律的な働き方をサポートする。これも社員が自分の能力を存分に発揮し、生き生きと楽しく働くためには大切なことである。

上記に挙げた「フラットな組織文化」の5つの特徴は、「生命体的組織」「個人の自律分散型組織」とも呼ばれるティール組織の条件と近しい。

社員のモチベーションや能力を企業の原動力として機能している点も一緒だ。

先述した新業態「星野リゾート OMO」では、ホテルスタッフが「ご近所専隊 OMOレンジャー」と名付けた案内役を務める。色違いのユニホームを着用し、徒歩圏内でガイド本に載ってないような穴場の飲食店や、名物ママのいるスナッ ク、エンターテインメントなどを案内するという。社員が自ら考えて動く会社でなければ、思いつきもしないサービスであろう。

[東洋経済ONLINE]