生涯労働こそが老後も救う。。。

生命保険には入らない。フリーランスの「老後不安」対処法

 一般の人たちが不利で高額な保険契約を結ぶ要因の一つに「老後資金」への不安がある。そこで今回は、後田亨氏の著書『生命保険は「入るほど損」?!<新版>』で取り上げられた、著者自身の老後資金計画をご紹介する。フリーランスの著述業者の文字通りリアルな事例は、一般論より参考になるかもしれない。

お客様や各種媒体の人たちから「老後資金はいくらあると安心でしょうか?」と尋ねられるたび、不思議に思います。本人にしか分からないはずだからです。どんな暮らしをしたいのかなど、自分と向き合う以外にないと思うのです。

そこで本稿では、筆者の公的年金受給額をもとに老後不安への対処法を記します。富裕層でも貧困層でもない個人の具体例として、参考にしていただける部分があると嬉(うれ)しいです。

自分の年金受給額を把握しているか?

まず、例えば「公的年金だけでは2000万円不足する」といった情報は無視します。「自分以外の人たちの平均値を使った試算」から何を学んでいいのか分からないからです。

そんなことより、しっかり確認したいのは「自分の年金受給額」です。「ねんきんネット」に登録しておくと、随時、試算できます。筆者の場合、転職などにより年金の種類と受給期間もまちまちなので、表にまとめてみました。

まず、63歳から2年間「特別支給の老齢厚生年金」約4万8000円(月額)が支払われます。(表の①)

1986年に厚生年金の給付開始時期が60歳から65歳に改定された関係で、1959年生まれの筆者は「経過措置」の対象に該当し、「埋め合わせ分」を受給するのです。

次に65歳からは、老齢厚生年金が約4万8000円、老齢基礎年金が約6万5000円で受給総額は11万3000円です。正直「少ない!」と動揺します。

ただし、ねんきんネットに反映されない「加給年金」もあります。一定期間、厚生年金に加入していて、年下の配偶者(年収850万円未満)がいるといった要件を満たす場合に給付されます。筆者の場合、月額3万2500円です。
妻が65歳になるまでの期間限定給付なので、老齢厚生年金は65歳から受け取ることにします。すると、76歳までの年金月額は8万500円になる見込みです。(表の②)

一方、老齢基礎年金は70歳から受け取るつもりです。受給開始を65歳から5年間遅らせると42%も金額が増えるからです。
そうすると70歳以降の受給額は、加給年金がある76歳までは月額17万2500円(表の③)、77歳以降は約14万円(表の④)となります。

受給時期を遅らせる選択について「早死にすると損」と言う人もいますが「そういう問題ではない」と理解しています。公的年金は「社会保険」の名の通り、各自が老後に備えるための積立制度(自助)ではなく、人々が互いに長生きリスクに備えるための保険(共助)だからです。

結論は「長く働く」

自身の年金受給見込み額を確認した結果、筆者が出した結論は「長く働く」です。理由は3つあります。

①年金受給額は減るかもしれない
②運用の成果は不確実
③まだ働ける

まず、年金受給額は表の金額より減るとみています。年金制度の歴史を調べると、主に長寿化が制度変更を促しているからです。

また、保険料負担には2004年に上限が設けられています。高齢者の増加や物価上昇に合わせて年金を増額すると、国民(特に現役世代)の負担が上がるからです。保険料に上限がある以上、長寿化が進むと年金給付額はそれなりに減るでしょう。

次に、自己資金に関しては「運用は当てにならない」と考えています。長期的に株式中心の運用を行うとお金が増えやすいと認識しているものの、過去の歴史が将来を約束するわけではないからです。
したがって、運用に投じるお金は、家計に決定的な影響を与えない程度にするほうがいいと思っています。

筆者の場合、「iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)」の積立金が「運用しているお金」の大部分を占めています。
世界中の株式に分散投資できる投資信託を利用しているため、2020年の残高はコロナ禍の影響で600万~900万円くらいの幅で変動しましたが、今は1000万円程度で推移しています。
仮に半分に減っても、公的年金の受給額に比べると影響は知れています。したがって、70歳くらいまで株式中心の運用を続ける予定です。

この先、年金受給額が減る可能性、運用の不確実性を考えると「先行きは暗い」と感じる人もいるかもしれません。ただ、老後には「使わなくなるお金」もあると思います。
例えば、筆者の場合、近年、酒量が減り遊興費や交際費が激減しています。物欲にしても若い頃のような熱さはありません。持ち家で借入金はなく、76歳以降は、現時点での試算で月額10万円程度とはいえ、妻の年金も給付される見込みで、月収25万円くらいになります。

そこで、自分の貯蓄などは、自宅のリフォーム代や医療・介護用の資金として確保しておくつもりです。大まかに言って、年金の減額などを想定すると、夫婦が月20万円くらいで暮らしていくイメージです。
その際、今の高齢者より多額の税金や社会保険料を払うことになるとしても、悲観はしていません。「まだ働ける」と感じているからです。

例えば、あと10年働いて、毎月2万円積み立てると、運用益ゼロでも240万円になります。また、60歳で「iDeCo」の積み立てが終わったあと「つみたてNISA」と「小規模企業共済」にも一定額を積んでいます。
これから貯(た)められそうなお金と現時点の金融資産とを合算し、少なめに1500万円とみても、70歳から毎月5万円取り崩して25年持つ計算です。仕事をやめても、図書館に通えたら退屈しないでしょうし、それなりに暮らせると思うのです。

「万全の備え」は不可能

ところで、老後、他人事ではなくなる介護や認知症などにはどう備えたらいいのでしょうか。結論から書くと、筆者は、民間の「介護保険」や「認知症保険」に加入する気はありません(「医療保険」「がん保険」も、給付金を調達するための諸費用が高過ぎるので利用しない、と決めています)。
保険会社は、長寿化が進行する前提で、これらの保険の料金を高めに設定するはずだからです。実際、ビジネス誌などのランキングの上位の商品で試算すると、給付金を受け取る年齢になる頃には、保険料総額が給付額を超えます。

筆者は、すでに「健康保険」「公的介護保険」「公的年金保険」の3つに加入済みです。いずれも、民間の営利企業には不可能な仕組みであり、先進国の中でも相対的に恵まれた制度だと認識しています。したがって、介護費用などには、公的保険と自己資金での対応が賢明だと考えているわけです。

老後に関して「漠然とした不安」を語る人が多いのは、未来のことは誰にも分からないからでしょう。そうであれば、「不安はあって当たり前」です。分からないものに「万全の備え」などできるわけがなく、ありもしない正解を求めて悩むのはバカバカしいと感じます。
不安に苛(さいな)まれるより「自分にできること・できないこと」を分けて考えてみるといいと思うのです。例えば、公的年金保険について学ぶことはできます。現役で仕事をする期間を延ばし、受給開始時期を遅くする努力も、意識的に取り組めます。
それに、長寿化で「老後が長くなる」と言う人もいますがどうでしょうか。「昔の60代とは余命が違うのだから、老後の訪れが遅くなっていて、準備期間は長くなっている」という見方もあっていいと思うのです。

一方、年金受給額は景気や賃金の影響を受けますが、景況などは運に任せる以外にありません。

そもそも、老後の心配をしていられるのは、今日・明日の生活には困っていない証拠です。戦乱がない時代にこの国に生まれ、当面、大きな問題を抱えていない時点で、かなり運がいいと思うのです。

筆者は、自分の老後について「思い通りにいくわけがない、心も体も衰えて当たり前、(周囲の人も含め)痛みや苦しみが少なければ幸運至極」と考えています。そして、できれば、ありふれた日常を深く味わえる老人になりたいと思っています。

後田 亨
オフィス・バトン「保険相談室」代表

[日経ビジネス]

すべては双刃の剣。。。

■がん細胞の増殖を抑える効果があると判明した日本人が飲むべきお酒とは?【肝臓の話】

アミノ酸の含有量は酒類でトップクラス

日本酒は、水、米、米麹を使って作る純米酒と、そこに醸造用アルコールを加える本醸造酒に分けられます。それぞれ精米歩合(精米して残った米の割合のこと)や原材料の違い、発酵温度によって香りと味が大きく変化するのが特徴です。

純米大吟醸酒や大吟醸酒など、様々な日本酒があり、自分好みの香りと味を見つけられるというのも日本酒の魅力と言えます。

さらに日本酒には120種類以上もの栄養成分が含まれており、中でも特に重要なのが「アミノ酸」です。

人間が生きるために欠かせないたんぱく質を構成するアミノ酸は約20種類あります。疲労回復、筋肉と肝機能の強化、脳の活性化、美肌効果など、魅力的な力があり、日本酒にはアミノ酸が多く含まれています。ちなみに数ある日本酒の中でも特にアミノ酸の含有量が多いのは「純米酒」です。

日本酒のすごいところはこれだけではありません。とある実証研究で、日本酒100ミリリットルを2・5ミリリットルに減圧濃縮した液体を膀胱がん・前立腺がん・子宮がんの細胞に加えて24時間培養した結果、64倍に薄めた試料では90%のがん細胞が死滅、128倍に薄めた試料では50%のがん細胞が死滅しました。

これにより日本酒は豊富な健康効果に加えてがん細胞の増殖を抑える効果があるとわかったのです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 肝臓の話』

断食は万病に効く。。。

食べ過ぎには18時間の“プチ断食”が効く!

「緊急2日間ダイエット」で脂肪や有害物質を排出

得意先の接待など、食べ過ぎやお酒の飲み過ぎが続くと体調を崩しがちだ。気がついたら“体重増”一直線の憂き目を見ないためにはどうすればいい? 不快な胃もたれ・胸焼け、はたまた二日酔いから即効で立ち直るには? つい食べ過ぎ・飲み過ぎをしてしまった後でも、それをなかったかのようにカラダを復活させてくれる即効リセット術を3回連載でお届けしよう。

 本人が望む望まずにかかわらず、食べ過ぎ飲み過ぎが避けられない時がある。“サイズ増量”一直線をご心配の方も多いのではないだろうか? 果たして、「食べ過ぎた」ものをなかったことにできる夢のような即席ダイエット法はないのだろうか?

「食べ過ぎた糖分が体脂肪に変わり、体重が増えるのは約2週間後。1食くらいドカ食いしても、緊急対策として1~2日の間に食事の摂取制限と体に溜まった糖分の“消費”を行えば大丈夫です」

ダイエット法に詳しい管理栄養士の伊達友美さんは、きっぱりと言い切る。

その訳はこういうことだ。

食べ過ぎによる余剰カロリー分は、まず糖として肝臓に蓄えられる。その量はだいたい1食分程度。肝臓に入りきらなくなった分が脂肪細胞に運ばれ、徐々に体脂肪となる。なお、暴飲暴食の翌日、体重が増えたように感じても、実はそのほとんどが取り過ぎた食事に含まれていた水分の蓄積による「むくみ」が原因だ。

肝臓に蓄えきれなくなった糖分が徐々に蓄積されて、2週間後に太ってくるのなら、その前に使い切ってしまえばいい。その策を伝授しよう。

食べ過ぎたら18時間は食事を控える

「これ以上糖分を溜めないように、食べ過ぎてしまってから約18時間は、水分以外は何も口にしないようにしましょう」というのが伊達さんの最初のアドバイス。夜の10時まで食べた場合は翌日の夕方4時まで、午前様になった場合は夕方の6時過ぎまでは、基本的に通常の食事を控えたほうがよい。

つまり、朝食と昼食は基本的には抜く形になる。こうすれば、前夜のオーバーカロリー分は十分に相殺できる。同時に、18時間の絶食には胃のサイズを元に戻す効果もある。

胃は伸縮性に富んだ臓器で、食べれば食べるほど膨らんでいく。よって、食べ過ぎた翌日の胃は膨張している。この状態で食べ続けてしまうと、胃が膨らんだ状態が日常となってしまい、容量の増えた胃には普段より多くの食べ物が入ることになる。この結果として食べ過ぎ体質になり、糖分を消費するどころかさらに蓄積されることで、ぽっこりお腹まっしぐらとなってしまうのだ。そこで、胃の大きさを元に戻すことが重要になる。

とは言っても、朝食、昼食を抜くのは我慢できない人も多いだろう。そういった場合は液体のものならOKという。例えば野菜ジュース。また、みそ汁、わかめスープなどでもいい。どうしても固形物が食べたいという方には果物がお勧めだ。果物は成分の多くが水分で、含まれる酵素の働きによって消化がいいので、胃にたまりにくい。カリウムも豊富なので、むくみの改善にも役立ち、必要最小限の糖分やビタミンなども補給できる。

節制後は和食がオススメ

18時間の節制を行おうとすると、食べ過ぎの翌日の昼頃になって胃がグーグーと鳴ってくる。「この、グーグーという音は実は空腹のために鳴っている音ではなく、前日の食べ過ぎによって膨らんだ胃が縮む時に出る音です。この段階では胃が元に戻ろうとしている途中で、戻りきってはいませんので、まだ食べてはいけません」(伊達さん)。

18時間を経過したら、待ちに待った食事を取ることができるが、その内容には注意が必要だ。いきなりコテコテの肉を食べることは避けたい。例えば、魚がメインの和食などがお勧めだ。「魚の脂に含まれるオメガ3脂肪酸には、脂肪の代謝を促す働きがあります」と伊達さん。青魚に多く含まれているが、苦手な場合は旬の魚を選ぶといい。

「このタイミングで食べる食材としては、前の日に食べた食材が含む添加物などの有害物質の排出を促進してくれるものもお勧めです。例えば、葉物では苦みが少しあるヨモギや春菊、三つ葉など、根菜では食物繊維の多いゴボウやレンコン。粘り気のあるものもお勧めで、納豆や山芋、おくら、めかぶなどもいいですね。特にブロッコリースプラウトは排出作用が強く、私のお気に入りです」(伊達さん)。有害物質を排出することで、体の代謝が良くなり、脂肪の蓄積を防いでくれる。

食べ過ぎ・飲み過ぎの翌日はこのように食事に気をつけることに加え、午前中に水分をきちんと取らなければいけない。朝一番に口に入れる水は味も色も香りもない真水、もしくは白湯がよい。飲み過ぎによる脱水状態からの回復に加えて、食べ過ぎで溜まった有害物質の排出や、むくみの解消を促してくれる。コーヒーやお茶はカフェインが入っているので、朝一番に飲むには刺激が少し強すぎる。スポーツ飲料も、実は糖分が多く、一気に吸収されて血糖値が上がってしまうためNGだ。

体内の糖分はNEAT生活で消費

胃の調子を整えるだけでなく、脂肪の蓄積を防ぐには、食べ過ぎで一時的に体内に貯蔵されている糖分を消費しなければならない。そこで伊達さんが勧めてくれたのは、「NEAT」(Non-Exercise Activity Thermogenesis:非運動性活動熱発生)と呼ばれる活動を増やすライフスタイルだ。働かない若者を意味する“NEET”ではない。

具体的には、食べ過ぎた翌日は、エレベータを使わないで階段を使う、電車では立つ、家事を積極的に行うなど、日常生活での活動量を高めるよう少し気をつける。これだけで、肝臓に一時的に溜まっている糖分を消費することができ、体脂肪に変わるのを事前に止めることができるという。

何も特別な運動は必要ない。ファッションモデルのように、立ったり、歩いたり、座ったりする際に良い姿勢を保つこともNEATに含まれ、相当なエネルギー消費になるのだという。このほか、四股を10回踏むだけでもいいし、肺を大きく動かす深呼吸を何回かするだけでもNEATとなる。

このNEATが広く知られるようになったのは、1990年代後半に米メイヨークリニックの研究グループが関連の研究発表を行ってからだ。私たちは毎日、当然のごとく体を動かしているが、ちょっとした身体活動で使われるエネルギー熱量(NEAT)は、1日に使うエネルギー量の60%にもなるとされている。

さらに、NEATの値が高い人は、呼吸をしたり、臓器を動かしたりする基礎代謝量も高いことがわかっている。基礎代謝とNEATを合わせれば、1日に使うエネルギー量の70%にもなるのだ。

最後に、今回紹介した緊急2日間ダイエット法を以下にまとめた。宴席が続いた際の体型維持のお役に立てれば幸いである。

緊急! 2日間ダイエット法
  1. 食べ過ぎた後、18時間は何も食べない。ただし水分補給は必要。水か白湯、ほかには野菜ジュースやみそ汁などでもいい。
  2. どうしても固形物を取りたい場合は果物。
  3. 18時間経過した後はお腹にやさしい和食がお勧め。
  4. 18時間後の他のおすすめ食材は有害物質を排出してくれるもの。
  5. 「NEAT」(非運動性活動熱発生)を意識して、余分な糖分を燃焼させる。

[日経ビジネス]

呑まないにこしたことはないにせよ、せめても最小限の酒量にとどめましょう。。。

ホントに飲酒で免疫力は下がるのか? コロナ禍の今こそ徹底検証

 コロナ禍は、個人の「飲酒」にも大きな影響を及ぼしています。自粛生活を強いられ、外でお酒を飲む機会が激減し、その結果、自宅で飲むお酒の量が増えてしまった人も少なくありません。

酒ジャーナリストの葉石かおりさんは、コロナ禍で自宅での飲酒量が増え、「5リットルの業務用ウイスキー」を買ってしまったこともあります。そんな状態から飲酒量を見直し、酒との付き合い方を変えるのに役立ったのは、これまでに「酒と健康」をテーマに取材した専門家たちの言葉でした。

最新刊『名医が教える飲酒の科学』では、そうした専門家への取材の成果をまとめたもの。その中から、飲酒と人の免疫の関係についてのパートをお届けします。アルコールは、さまざまな免疫機能に悪影響を及ぼすことが分かっています。

アルコールは免疫システムに直接的な悪影響を及ぼすだけでなく、より深刻な“2次的”影響を与えるという。(写真:PIXTA)
アルコールは免疫システムに直接的な悪影響を及ぼすだけでなく、より深刻な“2次的”影響を与えるという。(写真:PIXTA)

酒はやはり免疫に悪影響を及ぼす

テレビをつけていたら、こんな会話が聞こえてきた。

「お酒飲むと『免疫力』が下がりますからね」
「そうそう、だからコロナ禍では飲まないほうがいいんですよ」

昔から「アルコールは免疫力を下げる」という話はよく耳にしていたが、コロナ禍だからこそ、話題になっているようだ。

とはいえ、「これって事実なのだろうか?」と疑っていた。私事で恐縮だが、これだけ日々酒を飲んでいるにもかかわらず、ここ数年、風邪らしいものをひいたことがないし、50歳過ぎても大病、入院などは皆無。数値などで測定したわけではないが、免疫力は高いつもりでいる。そんなこともあって、「アルコールは免疫力を下げる」という説を今ひとつ信じたくなかった。

だがしかし、新型コロナウイルス感染症に関連して、酒を多く飲む人ほど肺炎にかかるリスクが高いという研究があると聞いた。飲酒量が増えると免疫に問題が起き、肺炎にかかりやすくなるというわけだ。

これが真実なのだとしたら、どのような仕組みでアルコールが免疫に悪影響を及ぼすのだろうか。免疫の仕組みを知らないまま、酒を飲み続けるのもちょっと怖い。

そこで、帝京大学先端総合研究機構の特任教授で、免疫学を専門とする安部良さんに話を聞いた。先生、アルコールは免疫に悪影響を及ぼすのでしょうか?

「はい。アルコールはヒトの免疫に対してさまざまな影響を与えます。ひとつ例を挙げると、ウォッカのようにのどがチリチリするようなアルコール度数の高いお酒は、のどの粘膜を傷つける恐れがあり、粘膜に傷がつくと免疫力は低下します」(安部さん)

なんと……。酒好きの中にはウイスキーやウォッカがもたらす、あのチリチリとした刺激がたまらないという方も少なくない。そのチリチリが粘膜を傷つけ、免疫にも問題を与えているとは知らなかった。

そして、のどの粘膜も免疫に関わっているとは。免疫とはよく聞く言葉だが、そもそもどのような仕組みなのかよく知らない。改めて免疫について基本的なことから教えてくれませんか。

「免疫の『疫』は病気のことを指します。疫から免れる、つまり免疫とは文字通り、病原体から体を守る防御システムということです」(安部さん)

免疫による防御反応は「3段階」

ありがたいことに、私たちにはこの免疫が備わっているおかげで、新型コロナウイルスをはじめとするさまざまな病原体が体の中に侵入するのを防ぐことができ、また侵入を許した場合でも退治できる。そして、免疫による防御反応は「3段階」あるという。

「ウイルスなどの病原体は、3段階で撃退されます。第1段階は『自然バリア』と呼ばれ、皮膚や粘膜などが病原体の侵入を防ぎます。そして、万が一、侵入を許した場合は、次の第2段階である『自然免疫』で、マクロファージなどの食細胞が病原体をパクパクと食べてくれます。それでも退治できない場合、最後の第3段階『獲得免疫』で、その病原体に適した攻撃を繰り出します」(安部さん)

免疫は3段階
免疫は3段階

免疫による体を守るシステムは、このように非常に高度な仕組みで構成されている。それでは、この3つの段階のうち、どこにアルコールが影響を与えるのだろうか?

「実は、3段階いずれにも、アルコールが直接的な影響を与えます。ヒトの免疫にとって、お酒は好ましくないものなのです」(安部さん)

ショック……。誰か噓だと言ってほしい。

3段階について、それぞれの詳しいメカニズムを教えてもらおう。

「まず、第1段階の自然バリアは、体のさまざまな箇所にあり、大きく3つに分類されます。ひとつは涙、汗、唾液、尿などの『物理的障壁』です。また目には見えませんが、腸管にある柔毛(じゅうもう)、気道にある線毛(せんもう)もまた、体内へ侵入しようとする病原体を外へと押し出す運動を常にしています。風邪をひいて痰が出るのは、線毛の働きによるものです」(安部さん)

病原体の侵入を防ぐ「自然バリア」は3種類
病原体の侵入を防ぐ「自然バリア」は3種類

こう聞くと自分の汗や涙まですべて愛おしくなる。ほかにはどんなバリアがあるのだろう。

「2つ目のバリアは『化学的障壁』です。胃などの粘液に含まれる酵素や酸性物質、皮脂に含まれる脂肪酸や乳酸、また体の表面に存在する抗菌ペプチドがこれに当たります」(安部さん)

そして3つ目は「微生物学的障壁」。「これは、皮膚や腸などに存在する常在菌を指します。やたら顔を洗ったり、風邪をひいて少し具合が悪かったりすると抗生物質を飲んでしまう人がいますが、こうしたことを考えると『もったいない』と思いますよね」(安部さん)

風邪をひいて処方された抗生物質を飲んだのはいいが、下痢をしてしまうことがあるが、この現象により「ありがたい常在菌が減ってしまう」のだという。

「若い世代は自然バリアがしっかりしているため、病原体に強いのです。新型コロナを例にとっても分かるように、若い世代は感染しても重症化しにくいですよね。これは自然バリアがしっかり働いているためと考えられます。ただし個人差があるので、『若いから絶対に重症化しない』とは言い切れません」(安部さん)

汗や胃酸、常在菌などによって守備が固められている自然バリア。先ほど、ウォッカのようにアルコール度数の高い酒に注意したほうがいいと説明したのは、のどの粘膜にある自然バリアを壊してしまうからなのだ。

酒を飲むと「マクロファージ」が“混乱”

病原体が第1段階の「自然バリア」を突破してきたら、次はどうなるのだろうか。

「次の第2段階である『自然免疫』が病原体をやっつけます。そこで大活躍してくれるのは、『マクロファージ』と呼ばれる病原体をパクパクと食べてくれる食細胞です。マクロファージは自分の中に病原体を取り込んで死滅させるだけではなく、サイトカインという物質をまき散らします。サイトカインにより、血管内から好中球(白血球の一種)をはじめとする援軍が呼び込まれます」(安部さん)

そして、こうした自然免疫の働きにより、熱や腫れなどを伴う「炎症」が起きる。

「炎症が起きると、結果として病原体が弱ります。分かりやすく言うと、風邪をひくとのどが腫れたり、鼻水が出たりしますよね。あれはまさに、のどや鼻で炎症が起き、自然免疫の力によって病原体を退治しようとしているのです。ですから、既往症のある方や高齢者はさておき、若い方は自然免疫がせっかく働いているのですから、少しのどが痛いくらいで薬を飲んでしまうのは、もったいないと私は思いますね」(安部さん)

そして安部さんによると、アルコールはこの食細胞であるマクロファージにダメージを与えてしまうという。

「アルコールがマクロファージに直接働いて混乱させ、機能を低下させたり、働きを抑制させたりすると考えられています。特にだらだらと長い時間飲むほど、その作用は大きくなる傾向が強いと言われています」(安部さん)

では「最後の砦」ともいえる第3段階の免疫システムはどうなのだろう?

「自然免疫でも病原体が撃退できなかった場合に働くのが、免疫システムの最終兵器ともいえる『獲得免疫(適応免疫)』です。これはマクロファージのように常に体の中をパトロールしているものではありません。そのため、病原体の感染から数時間で自然免疫が活性化するのに対し、獲得免疫が活性化するのには数日間のタイムラグがあります」(安部さん)

最終兵器というだけあって、そのシステムは実に巧妙かつ強力だ。

「まず、自然免疫として働く樹状細胞が病原体の情報をつかみ、それをリンパ球の一種であるT細胞へと渡します。樹状細胞はいわば“スパイ”のようなものです。病原体の情報を受けとったT細胞はその病原体に適した攻撃をするよう、さまざまな細胞に働きかけます。その中でもB細胞は優秀で、病原体を攻撃する『抗体』を作り出します」(安部さん)

自然免疫との大きな違いは、獲得免疫には「免疫記憶」があることだ。「免疫記憶とは、簡単に言うと、一度かかった感染症にかかりにくくなる、またはかかっても軽症で済むというものです」(安部さん)

樹状細胞はスパイで、T細胞は司令官で、B細胞が攻撃するミサイルを作り出す。目に見えないところで、私たちの体を守ってくれている高度なシステムがあるのだ。これだけ複雑で高度なのだから、「アルコールくらいへっちゃらなのでは?」と思いきや、そうもいかないらしい。

「自然免疫の段階で、マクロファージなどの働きがアルコールによって抑制されてしまうと、スパイ役の樹状細胞の働きが鈍ると言われています。またT細胞やB細胞をはじめとするリンパ球に対し、アルコールが何らかの影響を及ぼすという動物実験のデータもあります」(安部さん)

なるほど、T細胞やB細胞などが働く高度なメカニズムの免疫も、アルコールの影響を逃れられないのだ。

アルコールによる「2次的な影響」とは?

アルコールは人の免疫にさまざまな悪影響を及ぼすことが分かった。だが恐ろしいことに、安部さんは、「アルコールはさまざまな疾病につながり、それによる2次的な免疫への影響のほうが、これまで解説してきた直接的な影響より深刻である可能性もある」と言う。いったいどういうことなのだろう?

「2次的な弊害とは、分かりやすく言うと、アルコールの慢性的な飲み過ぎ、おつまみの食べ過ぎによって、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の罹患リスクが上がったり、肝機能が低下したりすることが、免疫にも悪影響を及ぼすということです」(安部さん)

確かに、酒を飲み過ぎたとき、アルコールが免疫システムに直接的に悪影響を及ぼしたとしても、それは一時的なもので、二日酔いがよくなっていくように、免疫システムのほうも次第に回復していくのかもしれない。それに対して、長年の飲酒により生活習慣病になってしまったら、今度は慢性的に免疫力を低下させることにつながる。

アルコールが免疫に及ぼす“2次的”な影響
アルコールが免疫に及ぼす“2次的”な影響

アルコールの飲み過ぎは糖尿病、高血圧、動脈硬化、肝臓の機能低下、がんなどを誘発する。こうした病気に罹患している人は免疫機能が低下していて、新型コロナウイルス感染症が拡大する状況においてリスクに直面していると言われている。ではいったい、どのような仕組みでこうした病気が免疫に影響を及ぼすのだろう?

「考えられるのは、『血流』です。糖尿病では高血糖により血液がドロドロになることで、また動脈硬化では血管が硬くなることで、血流が悪くなります。血流が悪いと、必要な免疫細胞が、体の必要な場所へと届かなくなってしまうのです」(安部さん)

どんなに高度な免疫システムがあっても、「血流」という弱点があったとは……。近年、血管年齢の重要性が叫ばれているが、血管の状態や血流は免疫にも大きく影響しているようだ。それでは、肝臓の機能低下についてはどうだろうか。

「アルコールが肝臓で代謝されるとき、その過程で人体に有害なアセトアルデヒドが生成され、さらにそれが無害な酢酸に分解されます。大量の飲酒を続けていると、肝臓がアセトアルデヒドを分解しきれなくなり、今度はアセトアルデヒドによって肝臓の細胞が攻撃されてしまいます。これによって肝機能が低下し、免疫も落ちてしまうのです」(安部さん)

肝臓には、食事で得られた栄養を体が使いやすいように作り直し、必要に応じて供給する役割がある。この機能が低下すると、免疫細胞や抗体など、免疫システムに必要な要素が不足してしまう。また、アルコールや薬剤、体内で作られるアンモニアなどの有害物質を代謝するのも肝臓の役割だが、こうした働きが鈍って有害な物質がたまると、免疫細胞の機能に悪影響を及ぼすことも考えられるという。

免疫を低下させないためにも、病気のリスクを上げてしまうような飲み方は控えなければならない。しかし「まったく飲まない」というのは、酒好きにとってかえってストレスになってしまう。

「おっしゃる通り、お酒好きの方にとって、断酒はかえってストレスになりますよね。ストレスは免疫に悪影響を及ぼしますので、飲み方に工夫をされるとよいと思います。免疫の第1段階である自然バリアの粘膜を傷めないよう、のどがチリチリするようなアルコール度数の高いお酒は避けるか、炭酸水や水などで割って飲むことをお勧めします。また、生活習慣病やがんなどのリスクを上げないためには、飲み過ぎないようにしましょう。休肝日も取り入れてほしいですね」(安部さん)

安部さんの話をまとめると、酒は休肝日を取り入れつつ、適量を守る。それに加え、栄養バランスの取れた食事をとり、適度な運動をして、よく寝ることが大切だ。ごく当たり前のことと思われるかもしれないが、これが免疫のためにいい生活習慣なのである。

(図版制作:増田真一)

[日経Gooday]

健康の根幹は姿勢と歩行と呼吸、、、日々の小さな積み重ねが道を分ける。。。

腰を痛めない、体をゆがませない「かがみ方」のトリセツ

正しい“かがみ方”で体が変わるのを感じよう(正しい姿勢図鑑・前編)

日常のちょっとした動作も、姿勢が崩れた状態で行うと腰を痛めたり、姿勢をさらにゆがめたりする原因に。そこで、シーン別にそれぞれの動作を見直してみましょう。今回は日常シーンに多い、「かがむ」時の姿勢をチェック! 腰への負担を軽くするなら、ひざを使い、背筋を伸ばすのがポイントです。姿勢治療家の仲野孝明さんと柔道整復師でフットマスターの新保泰秀さんに聞きました。

【顔を洗う】シンクに顔を近づけるときは股関節から曲げる

朝起きて、顔を洗おうとして腰を大きく曲げた瞬間に、ぎっくり腰になる人が少なくない。腰だけで上半身を支えようとして、腰に負担が集中するからだ。ひざを曲げる動作を入れることによって、腰への負担を軽減できる

【顔を洗う】シンクに顔を近づけるときは股関節から曲げる
マル ひざを曲げてシンクに近づく
まず、脚を開いてひざを曲げよう。そうすることでシンクに近づく。両脚でしっかり体重を支えながら、股関節から上体を曲げる。蛇口から水を受けるときなどは、洗面台の端にひじをつくと、さらに腰への負担を減らすことができる。
バツ 背中が曲がっていて腰を痛める
脚をそろえてひざをぴんと伸ばした状態で顔を洗おうとすると、背中を大きく曲げることになる。股関節から曲げるならいいが、背中を丸めると、おなかに力が入らず、上半身の重みが腰に集中するため、腰痛を起こしやすくなる。

【歯を磨く】下を向かずに、背筋を伸ばすと負担がない

歯磨きをしているとき、歯磨き粉が垂れないようにと、洗面台に顔を近づけている習慣がある人は注意。背中を丸めた猫背姿勢になる上、不安定となった上半身を支えるために、腰に多大な負担がかかっている。

【歯を磨く】下を向かずに、背筋を伸ばすと負担がない
マル 背筋を伸ばし、手で支えて安定を
シンクに向かってかがまず、横から見たときに肩、股関節、ひざが一直線になるように立とう。不安定なら、洗面台に手を添えて体を支えるといい。手で支えながら、つま先立ちをすれば、歯磨きの時間がトレーニングタイムに。
バツ 「垂れないように」で失敗。腰に負担が
油断すると服に垂れて跡がつく歯磨き粉。そこで、垂れないようにしようと洗面台に顔を近づけると、背中を丸め、腰を曲げた姿勢になる。ぐらぐらと不安定な上半身を支えるために腰に大きな負担をかけて、腰痛を引き起こす原因に。

【靴下をはく】片足立ちだと背中が曲がり、腰が痛む

片足立ちで靴下をはくことができるのが若さの証明とばかりに、ぐらぐら不安定な状態で靴下をはくのはとても危険。腰に負担をかけて、痛みを引き起こすもとになる。無理せず、椅子や台を使おう

【靴下をはく】片足立ちだと背中が曲がり、腰が痛む
マル 台を使うとき、股関節から曲げる
靴下をはく前に、姿勢良く立とう。さらに、靴下をはく側の片足を台にのせるときに、股関節から曲げ、顔は下げないようにする。この動作によって、猫背にならず、腰を痛めなくなる。
バツ 台に足をのせても、背中が曲がっている
体を安定させるために、片足を台にのせて靴下をはく人もいる。このとき顔を大きく下げて、背中を大きく曲げていると、腰への負担が大きいままなのでNGだ。
×「足腰の強さの証明」は、腰を痛めるもと
バツ 「足腰の強さの証明」は、腰を痛めるもと
片足立ちになり、背中を大きく曲げる。「これができなくなったら老化の証拠」とばかりに無理をして続けているのなら、今日からきっぱりやめよう。腰に負担をかけ、ぐらついた結果、足首や腰を痛める危険がある。
○椅子に座るときも、股関節から曲げる 、×足に近づき過ぎて、背中を曲げている
マル 椅子に座るときも、股関節から曲げる
椅子に座ったら、背筋を伸ばして、股関節から上体を曲げる。できるなら、足のほうを持ち上げて靴下をはくと、腰への負担が軽減される。足を持ち上げない場合も、顔を下げ過ぎないように意識しよう。
バツ 足に近づき過ぎて、背中を曲げている
椅子に座っているから「体を安定させられている」という油断は禁物。座った状態で靴下をはこうとすると、両手を足に近づけるために背中を大きく曲げることになる。この動作によって腰を痛める可能性あり。

【シャワーを浴びる】シャワーヘッドが低いと頭を下げ、背中が曲がる

シャワーを浴びながら髪を洗っているときも、ぎっくり腰を起こしやすい。これも、背中を曲げ過ぎたことによる腰への負担が原因。リラックスタイムにも気を抜かず、腰をいたわる体の使い方を意識しよう。

【シャワーを浴びる】シャワーヘッドが低いと頭を下げ、背中が曲がる
マル シャワーヘッドを上げ、背中は伸ばす
姿勢を変えるというより、シャワーヘッドの位置を変えることから始めたい。高い位置からシャワーが降ってくれば、頭を下げず、背中も曲げずに髪を流せる。環境に体を合わせるのではなく、環境を体に合わせる考え方が大事。
バツ 髪を流すときに、背中が曲がる
髪の毛を流すときも背中を丸めがち。腰に負担がかかっている。特にシャワーヘッドを低いところに設置していると、大きく腰を曲げることに。

次回は、立つときや立ち上がるとき、座るときのよい姿勢について紹介する。

(文:柳本 操/イラスト:二階堂ちはる)

[日経ヘルス]