「コスパ」だけでなく「タムパ」も意識する若者たち
Z世代とどう向き合うか
現在、大学生~社会人2、3年目の若者は、「Z世代」(1990年代後半~2000年代序盤生まれ)と呼ばれる。デジタルネーティブよりさらに進んだ「SNSネーティブ」世代でもある彼らは、仕事や消費の現場において、どのような価値観を抱いているのか。
マーケティングライターの牛窪恵氏が、ITジャーナリストで楽天・元執行役員の尾原和啓さんと、Z世代を巡る「デジタルと若者消費」について考える。
牛窪恵氏(以下、牛窪氏):私はZ世代をテーマにした先の本で、彼らを「SNS世代」と表現しました。尾原さんも、彼らとデジタルメディアの関係性に注目していますね。
尾原和啓氏(以下、尾原氏):はい。「Z世代」の由来は、アメリカの 「Generation Z」です。アメリカは4年に1度必ず大統領選挙があって、政権や政策が大きく変わる可能性があるし、日本とは人種問題をはじめ社会環境も違うから、一概に同質には語れない。ですが、デジタルメディアの進化は共通する点が多いでしょう。
iPhoneを例に取ると、アメリカでは2007年に、日本では08年に初めて発売されました。Z世代の最年少者(現17歳)は4歳のとき、既にiPhoneをいじっていた可能性があるんです。
牛窪氏:その5年後には、SNSも浸透しましたよね。Z世代は小学生の頃に、スマ ホで常時接続が当たり前で、さくさくと画像を送り合ったり、LINEに投稿したり、オンラインゲームを楽しんだりしていた可能性があります。また、私がZ 世代の女子を取材した際には「中学生の頃から、海外セレブのインスタ(グラム)をフォローしてます」や「高校生のときから、アメリカの人気モデルが手掛けるコスメブランドの通販サイト(英語版)に登録してました」といった声が、続々と飛び出しました。
尾原氏:スマホやSNSのネーティブは、テキストより画像や動画が中心だから、 悠々と国境を越えるんですよ。先日、牛窪さんと音声SNSアプリのトークルームで一緒に話したとき(※1)も、TikTokでフォロワーが60万人もいるというZ世代の女性(1999年生まれ)が、「海外のフォロワーさんたちから、『日本語を教えてほしい』と言われたので、彼らの“お役に立ちたい”と思って、覚えやすい日本語を披露するようにした」とおっしゃっていた。印象的でしたね。
※1=2021年2月23日・音声SNSの「クラブハウス」における、柳川範之氏(東京大学大学院教授)、牛窪氏、尾原氏らの座談。
牛窪氏:まだ20代前半なのに、しかも海外の方々のために“お役に立ちたい”っ て、すらすらと……。私が若い頃には、とても言える言葉じゃなかった。しかも、コスパだけじゃなく「タムパ(タイムパフォーマンス/時間対効果)」も意識しながら、複数のデジタルツールやアプリをマルチで使いこなす印象です。
尾原氏:まさに自然体で、自分の手足のように操れる。すぐ上のミレニアル世代(現 20代半ば~40歳)と比べても、「心のOS」が違うんです。僕はミレニアル世代と比較するうえで、Z世代とSNSの関係性を、アメリカでバズワードにもなった「JOMO」という言葉でよく表現します。
牛窪氏:Z世代が「JOMO」なら、ミレニアル世代は?
尾原氏:「FOMO(Fear of Missing Out)」です。直訳すると「見逃すことの恐怖」。対するJOMOは「Joy of Missing Out」の略、「見逃すことが喜び」との概念。ミレニアル世代(FOMO)は、四六時中ネットやSNSにつながっていないと「取り残される」と恐れを感じる傾向がありますが、Z世代(JOMO)は、初めから「すべてに目配りするなんて無理」と分かっている。むしろ「いま偶然得られた、この情報やつながりを楽しもう」とポジティブに捉えるんです。
牛窪氏:すごくよく分かります。私ももう10年以上、20代への調査を続けていますが、LINEが普及した直後(2012~13年ごろ)は、「SNS(LINE)疲れ」といった言葉がはやりました。「常に友人のSNSをチェックしていないと落ち着かない」「『既読スルー』はヤバイから、早くレスしないと」と強迫観念に駆られる声も多かった。
でも、18年ぐらいから「Zenly」(ゼンリー)という位置情報共有アプリが、女子高生(Z世代)を中心に人気を集めるようになりました。スマホを通じて「いま、この瞬間」に友人のAさんやBさんとつながれていることが、ハッピーで楽しいと言うのです。インスタグラムの「ストーリーズ(24時間 で消える投稿)」も、似たニュアンスだと感じます。
世代間ギャップをどう埋めるかを意識しつつビジネスを展開すべし
尾原氏:ところで牛窪さん、マーケティングの神様フィリップ・コトラーの最新刊、『Marketing 5.0(以下、マーケティング5.0)』はもう読みましたか?
牛窪氏:はい、尾原さんに薦められて最初の部分は。でも21年2月発売の本書は、 全編英語版なので、なかなか前に進みません(笑)。ただコンテンツ(目次)を見て驚いたのは、あのコトラーが、サブタイトルの「Technology for Humanity(人とテクノロジーの共生(の模索))」における重要なバックグラウンド(背景)の一つとして、「ジェネレーションギャップ」を挙げていたことです。
尾原氏:そうなんです。今後5~10年の間に、いわゆるデジタルネーティブなZ世代やその下の「α(アルファ)世代」と呼ばれる人たちが、消費の中心になるのは間違いない。でも彼らに向けた商品やサービスを提供する企業側には、意思決定者として、まだデジタルネーティブではない40、50代以上の上の世代が残っていく。この世代間ギャップをどう埋めるかを意識しつつビジネスを展開すべし、というのがコトラーの主張です。
牛窪氏:そうか、消費者と企業の意思決定者(トップ)は、親子かそれ以上に世代が 違うわけですよね。もっとも、Z世代の両親の多くは「団塊ジュニア世代(現40代半ば~後半)」。バブル崩壊前後に青春を過ごし、高級ブランドより「無印良品」に代表されるノンブランドを好み、マーケティング・アナリストの三浦展さんが「シンプル族」と呼ぶように、モノを多く所有したがらない傾向にあった。いまはやりの「ミニマリスト」にも通ずる概念で、その意味では、Z世代とその親世代は、消費の価値観が似ているとも思ったのですが……。
尾原氏:デジタルネーティブかそうでないかという点で、やっぱりZ世代とその親世代の消費行動は大きく違います。でも確かに、この世代の親子は「仲が良い」と言われますよね。
牛窪氏:はい、私は「親ラブ族」と呼んでいます。またZ世代ぐらいからは、ひとりっ子の割合が増え始め、SNSネイティブでもあったので、親だけでなく「じぃじ、ばぁば」とも、スマホを介して頻繁にコミュニケーションしていた男女が多いようです。祖父母の多くは、戦後生まれの団塊世代で、とにかく感覚が若い。お孫さんのジャケットを見て「それ、どこのブランド?」と聞いたり、「一緒にスイーツ食べに行こう」と誘ったりする、といった感覚です。
尾原氏:僕は17年に書いた『モチベーション革命』(NewsPicks Book)という本で、ミレニアル世代を「乾けない世代」と表現しました。かつて高度成長期を支えた団塊世代(現70代前半~半ば)の多くは、モノがなかった時代を経験しているので、「クルマやカラーテレビが欲しい」などと切望した。でもミレニアル世代やその下のZ世代は、「ない状態」をほとんど知らない。
牛窪氏:だから消費に渇望感を抱きにくい(乾けない)、という意味ですね。でもだとすると、Z世代は消費の際に、何を重視するのでしょう。
私はZ世代を、「物欲より『コミュ欲(コミュニケーション欲求)』が強い」世代だと解釈しています。例えば、インスタ映えする「レインボーフード」(虹色のスイーツほか)や、「それどんな味?」と確実に盛り上がる「ガリガリ君」のコーンポタージュ味のアイス(赤城乳業)は、高級フレンチよりツッコミどころ満載で、SNS上でも「ネタ」になる。彼らは和の文化にも関心が高い「先祖返り」世代でもあるので、SNSで「#こけ女(こけし好きな女子)」 や「#ぬか女(ぬか漬け好きな女子)」など、和のハッシュタグを付けてつぶやくことで、ニッチな仲間との「ゆるつながり」を満喫する様子も、見てとれます。
尾原氏:確かにZ世代の消費では、牛窪さんが言う「ゆるつながり」にも似た「良好な人間関係」が重要ですが、もう一つ、「意味合い」もキーワードだと思うのです。
例えば、起業家。Z世代の若者たちは、ITバブルの頃に「ヒルズ族」と呼ばれた起業家たちには、どこか違和感を覚えている。半面、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック共同創業者兼会長兼CEO)のような起業家に、強く憧れていたりします。それは彼が、世界を一つにする、人とのつながりやコミュニティー、あるいは慈善活動など、経営において「意味合い」を大切にしているからではないでしょうか。
牛窪氏:柳川範之先生との対談(※1)でも話題になったのですが、おっしゃるとおりZ世代の起業家は、身近な人たちとの温かい人間関係や、会社を興す意味を重視しているように感じました。
消費の現場でも、あえてフェアトレードのチョコレートを買ったり、メルカリのようなフリマアプリで「誰かがはけなくなったデニム」を買って、クッ ションとして、よみがえらせたりする。また、Z世代に「ユーザー参加型」の商品やサービスが売れるのも、単にテクノロジーの進化がそれを可能にしただけで なく、そこに意味合いや良好な人間関係があればこそ、なのでしょうね。
デジタル化社会の商品やサービスは完成したように見えても終わりがない
尾原氏:そう思います。コトラーは「マーケティング4.0」(17年発表)において、顧客がブランドを通して「自己実現」できることが大切だと説きました。同時に、デジタル化を前提としたマーケティングミックスの概念を「4C」と表現 しましたが、そのCのうちの1つが「Co-creation(共創)」、つまり「共に創る」ことの重要性だったのです。
牛窪氏:そういえば以前、先のトークルームでご一緒した際に、尾原さんは実業家のけんすう(古川健介)氏が打ち出す「プロセス・エコノミー」に、触れていましたよね。商品やサービスが完成するまでの過程も含めて、ビジネスとして作り込む戦略だと思うのですが。
尾原氏:はい。そもそもデジタル化社会の商品やサービスは、常に新たな技術や消費者ニーズを取り込んで、どんどん進化を続けるので、完成したように見えても終わりがない。「永遠のβ版」だから、進化し続ける過程を、長く見せられるんですよ。
牛窪氏:だからこそ、そこに消費者が介在する余地もあるし、彼らも過程そのものを楽しめる。さらにそれがSDGsや社会貢献につながれば、先の自己実現欲求も満たせますね。
尾原氏:僕は、お笑いタレントのキングコング西野(亮廣)氏が以前、提言した「レストラン型からBBQ(バーベキュー)型へ」の理論が好きなんです。すなわち、今後は多くのサービスが、「プロが作った完璧な料理を出すサービス(レストラン型)」から、「お客さんと一緒になって、お客さんが食べるものを共に作り上げていく(BBQ型)」ようになる、との考え方。
あえて完成形ではないBBQ型を提供することで、Z世代の「良好な人間関係」や「意味合い」欲求も、刺激できると思うのです。
牛窪氏:そういえば、やはり以前トークルーム(※1)でご一緒した、Z世代の女子大生マーケッター(1998年生まれ)も、タレントで実業家のゆうこす(菅本裕子)氏などを例に挙げ、「ファンと一緒になって、コツコツとブランドを創り上げていく人や商品に、強くひかれる」「自分の声が生かされるかもと想像するだけで、楽しい」とおっしゃっていました。「共創」と「永遠のβ版」は、Z世代の消費に欠かせないキーワードと言えそうですね。
<牛窪恵氏・プロフィル>
マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。世代・トレンド評論家。立教大学大学院・ビジネスデザイン研究科客員教授。
<尾原和啓氏・プロフィル>
ITジャーナリスト、フューチャリスト。京都大学大学院工学研究科を修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーやリクルート、Google、楽天の執行役 員などを経て現職。
[日経ビジネス]