■「2000万円」を貯めても老後問題は解決できない根本理由
数年前、「老後資金2000万円問題」が話題になりましたが、これは2000万円貯蓄があれば安泰というわけではありません。しかも、家庭の生活水準によって、将来の希望する老後の生活像は異なります。老後の生活不安を解消するには何が必要なのでしょうか。24,000戸以上を管理する不動産会社の代表の重吉勉氏が著書『不動産投資が気になったらはじめに読む本』(金風舎)で明らかにします。
「老後不安」を解消したいならお金を貯めるな!
■貯金をしているから将来の不安はいつまでたっても解消されない
将来のために毎月の給料からコツコツと貯金をして備えている方も多いかもしれません。リストラや給与の減額、会社の倒産、老後問題。将来に備えようとするとお金はいくらあっても足りない気さえしてきます。
ただ、残念ながら毎月コツコツと貯金を続けていたとしても、将来の不安が解消されることはありません。想像してみてください。もし、いまあなたの手元に2000万円の貯金があるからといって、それだけで会社を辞めて暮らしていけるでしょうか。老後を豊かに過ごしていけると思えるでしょうか。
では、なぜ真面目に貯金をしている人ほど、将来の不安をいつまでも払拭することができないのか。
それは、貯金は「資金」であって「資産」ではないからです。
資金はいくらあっても収入を生むことはありません。一方で、定期的に収入を生み出してくれるものが資産です。
たとえば、老後に備えていくら貯金をしたとしても、生活費として毎月取り崩していけばいつか底をついてしまいます。同じように脱サラして起業した場合、売上が安定してくるまで毎月のように貯金を取り崩していけば同じように、せっかくの貯金もいつかはなくなってしまいます。給与天引きで貯金を毎月行っているような堅実な方こそ、いざというときに備えて、貯金も使うことができないはずです。
お金があっても使えないのは、次の収入が入ってくる見込みがないからです。減っていくだけのお金であれば、誰だってお金を使うことを躊躇してしまいます。
では、年金に加えて、毎月、安定してお金が入ってくる収入源があればどうでしょうか。毎月、毎月必ずお金が入ってくるのであれば、気兼ねなく使えます。
そうです! 豊かな老後を過ごすためには、お金を貯めることを目的にするのではなく、収入源をつくることを目的にすることが大切です。
お金を気兼ねなく使うためには、貯金を続けて使えない資金を貯めこんでいては不安を解消することはできないのです。
不安を解消するために必要なことは、資金を作ることではありません。収入源を作ることこそ必要不可欠です。
例えるなら、バケツに水を溜めるのではなく、水の出る蛇口をつくること。せっかくバケツにいっぱいの水を入れていたとしても、使えば減ってしまいます。万が一、バケツが倒れでもしたら、すべての水はなくなってしまいます。
一方で蛇口があれば、ひねれば水が出てきます。使い切ってしまっても、大丈夫。蛇口をひねればよいだけです。
一度経験した暮らしは簡単に変えられない
■2000万円貯めても老後問題は解決できない
数年前に巷を騒がせた「老後資金2000万円問題」。老後問題を国民に押し付けるのかと、大いに物議を呼びました。ただ、一方で2000万円さえ用意できれば老後の資金問題は解決できるのでしょうか。なかには、すでに2000万円以上の貯金があるから、収入源を作る必要がないという考えられる方もいるのではないでしょうか。ただ、問題は簡単ではありません。
「老後の必要資金」の目安は、2000万円とも3000万円とも言われ、専門家によって金額はバラバラです。その内訳は直近の統計から算出された単純なシミュレーションであることも多くあります。
この老後2000万円問題の発端となった金融庁のレポート自体、2017年時点の総務省「家計調査報告」から夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯の月の実収入額と実支出額を、単純に12か月×30年分、足し合わせたにすぎません。将来の年金受給額や物価の変動、生活必要コスト上昇の可能性は何も考慮されていないのです。
■高収入世帯ほど要注意! 生活費を下げられないリスクも
しかも、ご家庭の生活水準によって、将来の希望する老後の生活像は異なります。
ニッセイ基礎研究所が公開している調査結果で、現役時代と同じ水準の暮らしをしようとする場合に、年金受給額に加えて自力でどれだけのお金が必要かを試算したデータがあります。
それによると、世帯割合として最も多い年収500万円~ 750万円未満の世帯が最低限必要と考える生活費は年間358万円となっています。そこから年金による収入を差し引くと、自力で必要なお金は年間で約106万円。老後を30年間と捉えると、計約3200万円となります。
これが、世帯年収750万円~ 1000万円未満の場合は最低限必要な生活費が年間404万円で、30年間で必要なお金が計3650万円、さらに、世帯年収が1000万円~ 1200万円未満の場合はなんと、生活費が年間524万円で、必要なお金が計6550万円にまで跳ね上がるとされています。
夫婦共働き世帯の場合、世帯年収が1000万円を超えるケースもあるでしょう。現役時代の生活レベルを維持するだけでも、これだけのお金を準備する必要があるのです。もちろん、生活水準を落とせば、これほどの大金は必要ありませんが、一度経験した暮らしは簡単には変えられません。
「いくら貯めておけば安心」という一律の答えを出すのは極めて難しいのです。
だからこそ、「収入源」をつくることがなおさら必要になります。なぜなら、老後をどのような生活水準で暮らしていきたいのかを考えれば、年金に加えてあなた自身で用意しなければならない収入額がわかります。このとき、不足額が多額であればあるほど、現役時代に「貯金」で賄うことが難しくなります。
あなたのご家族の老後生活をイメージしてみてください。収入の頼りとなるのは2か月に1度の年金のみ、あとは自分たちの財産を切り崩すしかありません。貯金があるからといって簡単に取り崩して生活していけば、万が一、病気や介護になったとき、また思いがけず長生きしてしまったときのことを考えると、使うに使えないはずです。外食や旅行、いわゆる贅沢は控えて、つましく公的年金の範囲内で暮らしていくと思いませんか。
仮に貯金が1億円あっても同じです。1億円を取り崩していって、8000万円になり、半分の5000万円になり、残り2000万円になった時、今まで通り同じようにお金を使えるでしょうか。
不足額が貯金ではなく、資産からの不労収入で補うことができれば、精神的な不安も少なく、老後の豊かな暮らしを心より楽しめるはずです。
重吉 勉
株式会社日本財託 代表取締役社長
[幻冬舎 GOLD ONLINE]