「新規の感染者」とは、じつは単なる検査の陽性者
ここ最近の報道では、新型コロナウイルスの「第2波」とも伝えられる現在の流行に関し、8月下旬、「7月末がピークであり、新規の感染者数はゆるやかに減少している」との専門家の見方が示されています。厚生労働省に助言する専門家組織(アドバイザリーボード)の見解です。
その根拠として、「1人の感染者が何人にうつすかを示す実効再生産数は、8月上旬の段階で多くの地域で1を下回っている」ということがあげられ、その結果、「感染は縮小している」との趣旨でした。
たしかに大筋では現在の状況はその見解に近いものにあるとは感じています。しかし、ウイルスを研究してきたものとして、この見解とその報道の仕方には異論があります。
日本で「第2波」がきている根拠として、「検査の陽性者」を「感染者」としてとらえ、報道されていることがほとんどで、これはとてもとても重大な問題です。私の結論から申し上げると、「検査の陽性者」=「感染者」ではありません。
PCR検査でわかるのは、ウイルスが「いる」か「いないか」だけ
PCR検査での陽性とは、PCR検査で新型コロナウイルスが検出されたことを意味します。
PCR法は何を検出しているのかというと、ウイルス遺伝子(新型コロナウイルスRNA)の断片になります。ウイルス遺伝子の断片が見つかったということは、「ウイルスが今いる」、あるいは、「少し前にいた痕跡がある」ということになります。
つまり、ウイルスの断片が残っていれば陽性になるということです。そのうえで、ウイルスの状態がどうなのかまでは、わかりません。ここがポイントです。PCR検査で確定できないことはいくつもあるのです。その例を5つ示します。
1=「ウイルスが生きているか」「死んでいるか」もわからない。
ウイルスは「生物」ではないという考え方もあり、正式には「活性がある」との意味ですが、この記事では一般にわかりやすいように「生きている」と表現します。PCR検査では、ウイルスが生きていなくても、ウイルス遺伝子の一部が残っていれば陽性になります。
2=「ウイルスが細胞に感染しているかどうか」もわからない。
PCR検査では、細胞に感染する前のただ体内に「いる」段階でも陽性になりますし、感染し細胞に侵入したあとのいずれの場合でも陽性になります。
3=「感染した人が発症しているかどうか」もわからない。
PCR検査では、発症していてもしていなくても、ウイルス遺伝子の一部が残っていれば、ウイルスはいることになるので検査は陽性になります。
4=「陽性者が他人に感染させるかどうか」もわからない。
たとえば、体内のウイルスが死んでおり、断片だけが残っている場合は他人に移すことはありません。また、ウイルスが生きていても、その数が少なければ人にうつすことはできません。
通常ウイルスが感染するためには、数百〜数万以上のウイルス量が必要になります。しかし、PCR法は遺伝子を数百万〜数億倍に増幅して調べる検査法なので、極端な話、体内に1個〜数個のウイルスしかいない場合でも陽性になる場合があります。
5=ウイルスが「今、いるのか」「少し前にいた」のかも、わからない。
一度感染すると、ウイルスの断片は鼻咽頭からは1〜2週間、便からは1〜2か月も検出されることがあります。これらはあくまで遺伝子の断片です。
感染とは「生きたウイルス」が細胞内に入ることで、発症とは別
いっぽうで、「ウイルスに感染している」とは、どのような状態かというと、感染しているとは、通常(生きた)ウイルスが細胞内に入ることを意味します。
新型コロナウイルスは多くの場合、気道から感染します。気道に生きたウイルスがいても、粘膜や粘液、さらにはウイルスを排出する気道細胞のブラシのような異物を排除する作用などが強ければ、排除され感染に至りません。
これらは重要な自然免疫の作用の一つです。補足すると、自然免疫にはさらに白血球などの細胞が関係する免疫もあります。
また、生きたウイルスが細胞内に入り、「感染」したとしても、その後に症状が出るかどうかはわかりません。細胞内に侵入しても、細 胞の自浄作用などでウイルスの増殖を阻止する場合があります。また、感染細胞が少ない場合も症状としては出ません。これらの場合は発症しないことになります。
一般には、感染したが症状が出ない場合を「不顕性感染」、感染して症状が出る場合を「顕性感染」といいます。
不顕性感染という言葉はよく使われますが、新型コロナウイルスでは、「ウイルスが気道にいるが感染する前の状態」と「感染してからも症状が出ない状態」の両方を不顕性感染とひとくくりにして使われていると思われます。理由は、これらの違いを区別できないからです。
不顕性感染では、通常症状が出ないまま(主に自然免疫系の働きで)治っていると考えられます。通常の感染症の場合、症状が出ない場合は感染しているかどうかわからない訳ですから、病院の受診も検査も薬の服用もしないことになります。
「発症」とは、症状を認める状態
それに対して、顕性感染は感染し症状を認める状態ですので、通常の感染症の場合、感染とはこの状態を指すことになります。この状態で病院を受診し検 査を受けてはじめて「感染している」といわれるのです。では、新型コロナウイルス感染症の「発症」とはどのような状態でしょうか。
新型コロナウイルス感染症が発症するとは、「病気として症状を認めること」をいいます。当然ですが発症している人が、感染した患者さんとなります。
ウイルスに体内の細胞内に侵入(=感染)されてしまうと、隠れてしまったような状態となり、通常、免疫系はウイルスを見つけることができずにウイルスを排除できません。この感染してから症状を認めるまでの期間を潜伏期といいますが、この間は症状が出ないのです。
症状が出るのは、ウイルスが細胞内で増殖し、感染細胞を破壊するか血液などを介して全身に広がることにより生じます。
「検査陽性者」を「感染者」とすることが問題になる理由
さて、ここからが、「検査の陽性者」を「感染者」とすることが、なぜ問題になるのかの説明になりますが、まずは、一般的な風邪のケースをあげてみます。
風邪とは、もちろん風邪の原因となるウイルスの感染により起こる病気です。寒い冬に、素っ裸で布団もかぶらずに寝てしまったら、よほど強靭な人でな ければ、間違いなく風邪をひきます。では、冬に裸で寝たときだけ「偶然に」「運悪く」風邪のウイルスをもらっているのでしょうか?
そうではなく、風邪のウイルスには、裸で寝ようが普通に寝ようが、私たちは普段から常に接触しているのです。つまり、常にウイルスは気道上(のどや鼻)に「いる」のです。
しかし、正常な免疫力がある場合には、風邪のウイルスに感染せずに発症もしません。風邪にかかったのは、冷えなどで免疫力が低下したことによるのです。つまり、通常の免疫力がある場合は気道にウイルスがいても全く発症しないのです。
もし、ウイルスが「いる」状態(PCR検査陽性)を感染=病気としたら、風邪の場合は国民のほぼ全員が感染している、つまり風邪をひいているということになります。
つまり「検査陽性=ウイルスがいる」ことだけでは「感染といってはいけない」のです。
ウイルスをもらっても感染しなければ何も問題はない
私たちは身の回りに存在する微生物と常に接触しているわけですから、ウイルスをもらっても(ウイルスがいても)感染しなければ何も問題はありません。感染しても発症しなければいいのです。そして、たとえ発症しても、重症化しなければいいのです。
補足ですが、これらを決めているのは、ウイルス自体ではなくウイルスをもらった側の免疫力であることも大切な部分です。
現在の日本では、「検査陽性数」=「感染者数」であり、ときには、「感染者数=発症数=患者数」としてひとくくりにされている場合が見られます。ここは今こそ明確に区別して伝える段階にあるのではないでしょうか。
ただし誤解のないように申し添えると、私はPCR検査に問題があるといっているわけではありません。PCR法は一般にはウイルスをもれなく見つける精度はとても高い検査になります。
繰り返しになりますが、遺伝子の一部を数百万倍から数億倍にも増やして検出しますので、理論的にはわずか1個〜数個の遺伝子の断片でも検出できます。
しかし、新型コロナウイルスに対してでは、この「もれなく見つけるという能力」が低く、精度は70%ほどと推定されており、せっかくのメリットが生かされていません。
この能力が低い理由は様々なことが考えられますが、大きくはウイルス量が少ないこととウイルスが変異していることの2点になると思います。にもかか わらず、新型コロナウイルスの検査法ととし、PCR法が世界で共通して行われているのは、他の検査法がないためという点に尽きます。
陽性者が少ない状態で検査数を増やすと、間違いばかりが多くなる
検査にはある程度の間違いが必ず生じます。まず、PCR法は、まれに間違えて、他のウイルスを持っている人やウイルスがいない人(陰性)をいる(陽性)と判定してしまうことがあります。
間違いの頻度が少なくても、数が多くなると問題が大きくなります。とくに陽性者が少ない状態で検査数を増やすと、この間違えて「陰性を陽性」としてしまう数ばかりが多くなってしまうのです。
しかし、これを理由にPCR検査がまったく意味がないということにはなりません。陽性者が少ない状態で検査を増やすのが問題ですので、本当の陽性者が多いと疑われる集団に限定して検査するのは問題ないのです。
つまり、PCR検査とは、無症状の人を含めて闇雲に検査をするものではなく、医師が診察して(あるいは問診などにより)コロナウイルスの検査が必要だと判断した人(陽性の可能性が高い人)に対して行う検査なのです。
PCR検査は、これらのことを熟知して検査するのであれば、全く問題なくとても有益な検査になります。
検査に精力を傾けるよりもみずからの暮らし方や食生活を見直す
もう一点、逆の視点から補足すると、「検査陰性」でも絶対に安全とはいえないのが、PCR検査でもあるのです。
ウイルスをもらってすぐ、あるいは細胞に感染してすぐの状態でウイルスが増えていない場合では、結果は陰性になります。また、検査した後に新たにウイルスをもらっている可能性がありますので、検査が陰性であっても、絶対に安全とはいえません。
安全性を高めるためには、定期的に繰り返しの検査が必要になりますが、それでも絶対にはなりませんし、費用や煩雑さの問題も生じます。
そもそも新型コロナウイルスはそこまでして絶対にいないことを確認する必要があるウイルスではない、と私は考えています。
そこに精力を注ぐよりも、みずからの暮らし方や食生活を見直し、不自然な日常をひとつずつでも自然に沿った暮らし方に改めていくことが、自分自身の 免疫力や自然治癒力を高めていくことにつながります。それこそが、新型コロナを恐れない根本的、かつ、唯一の方法と信じています。
現在の流行は「感染の第2波」ではなく「第1波のくすぶり」ととらえるべき
最後にもうひとつ、定義があいまいなことは「感染の第2波」です。いったんは収束しつつあったとされた日本や、ヨーロッパ諸国で現在起きているとされる第2波は「何」を指していっている言葉でしょうか?
私は、全世界208か国のPCR陽性数やPCR検査数、死亡数などのデータを集めています。詳しい解析結果は私のSNSに紹介していますので、ここ では省きますが、現在の第2波がきているとされる世界のすべての国(16カ国)のデータをまとめると次のようなことが見えてきました。
●流行は必ず収束するが、患者の発生がなくなることはない。私はこれを「くすぶり状態」といっています。
●COVID-19では不顕性感染が多く、検査数が増えると陽性数も増えるため、陽性数だけでは第1波と第2波を単純に比較できない。
●陽性率(陽性者/検査数)を計算すると、全世界のすべての国の解析で第1波の陽性数ともよく相似しており、陽性数よりも流行の実態に近いと考えられる。
●第2波がきているように見えても、陽性率の推移ではほとんどの国(13か国)が第1波後のくすぶりの状態であり、死亡数の増加はみられない。日本もこの中に入る。
13か国とは、日本、スロベニア、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマーク、ギリシア、マルタ、スロバキア、スペイン、カンボジア、トニダード・トバゴです。
●本当に第2波がきていると考えられる(陽性率も増加している)のはわずかに3か国だけで、第2波の死亡数が増加しているのは、この3か国のみである。
3か国とは、オーストラリア、イスラエル、クロアチアです。
●現在の日本の陽性者数であれば、今後重症者や死亡数が大きく増加する可能性は低いと思われる。
現在の日本の現状は、陽性数がかなり増加しているように見えても、陽性率ではほとんど増えておらず、第1波後の「くすぶりの状態」の範囲内というのが私の結論です。
つまり、見かけ上、「第2波」のよう見える今の流行は、本当の第2波ではないと思われます。陽性率もわずかに上昇していますので、これを仮に「第2波」としても、とても小さな第2波ということになります。
今後、新型コロナウイルス感染症は、単純に検査陽性数だけではなく、陽性率や重症者数、死亡数に着目していく必要があると考えています。そういう意味では、真の第2波に備えることは、これまで以上に大切になるでしょう。
[マネー現代]