蔓延する日本人の寿命を削る悪習慣

日本人がやりがちな「寿命を削る」2つの悪習慣

外出自粛、リモートワークの人ほど要注意

日本人がやりがちな「寿命を削る」2つの悪習慣とは? パーソナルトレーナーの鈴木孝佳氏による『疲れない体を脳からつくる ボディハック』より一部抜粋・再構成してお届けする。

コロナ禍を受けて、リモートワークが推進されている現在。普通に通勤していた頃よりも心身の疲労を感じる人が増えています。その原因は脳と体の「刺激の偏り」にあるかもしれません。

ヒトは本来、自然の中で暮らす生き物で、日中は動いて夜は休むという生活を送ってきました。夜の間はしっかりと脳と体を休めることで、疲れやゴミを取り除いてリセットする。朝日がのぼり、あたりが明るくなるのと同時に起きて元気に活動する。刻々と変化する自然の中で生き抜くために、ヒトは脳と体のあ らゆる機能を最大限に働かせていたのです。

ずっと体を動かさないとどんな悪影響が出るのか

さて、最近の自分の生活を振り返ってみたとき、この「ヒトらしい生活」を送れていると言えるでしょうか? 体を動かさず単調な生活を繰り返していると、実は脳は使わない機能を捨ててしまいます。

体を動かす脳がサビつけば、体もサビつきます。「脳への刺激があるかないか」というインプットの違いは、体のアウトプットにもすぐさま変化をもたらすのです。

例として、目を通じて脳に刺激(インプット)を送り、体を柔らかくする体験テストをしてみましょう。

①直立姿勢から足を閉じて前屈し、地面にどこまで指が近づくか確認する
②元の姿勢に戻り、20秒間“寄り目”で鼻先を見つめる
③再度、前屈をして確認する

寄り目だけで体が柔らかくなるテスト、いかがでしたか? 変わらなかった方もいらっしゃるかもしれませんが、これを試していただいた方には、テスト前は半信半疑でも、深く前屈できるようになり、「魔法!?」とよく驚かれます。

前屈が苦手な方の多くは「体がかたいから」「筋肉が短いから」と考えています。しかし、このテストでわかるように、問題は筋肉の状態ではなく、目の使い方。スマホなどで偏った目の使い方をしていると、視覚情報とつながっている脳の機能も狭まってしまうのです。

そのため、目の運動を行い、脳への刺激(インプット)を増やすと、体のアウトプットである姿勢や柔軟性、筋力は簡単に変わります。テストで前屈がしやすくなった方は「体の動きやすさは筋肉の問題ではなく、脳への刺激の問題」だと体感できたのではないでしょうか?

脳への刺激が不足すると体はどんどん機能を失い、不調をきたすようになります。運動不足は世界的にも問題視されています。WHO(世界保健機関) は、2018年に世界中の14億人以上の成人(18歳以上)が運動不足で、2型糖尿病や心血管疾患、がん、認知症などにかかるリスクが高いことを発表しました。[※注1

これらが“生活習慣病”と呼ばれるように、無意識に過ごしている日々の習慣はダイレクトに健康へ影響しています。暴飲暴食や喫煙などの生活習慣が病気の原因になるのは、誰もが知っていることです。

実際に毎年の健康診断の結果を見て、お酒を控えて塩分を気にする方も多いはずです。しかし、すこし古いデータですが、日本における2007年の生活 習慣病での死亡者数(図)を見てみると、過度な塩分やアルコールの摂取、糖尿病を引き起こす高血糖よりも「運動不足」のほうが死者数が多く、おおよそ5万人もの方が亡くなっています。

(出典:『疲れない体を脳からつくる ボディハック』より)

運動不足も、喫煙や飲酒と同じように健康を脅かす問題の1つなのです。

「座りすぎ」が日本人の生命を削る

また近年では、“座りすぎ”と死亡リスク増加との関連が研究されています。54カ国の死亡者数の3.8%にあたる43万人弱が、毎日、長時間座って過ごす生活習慣によって死亡しているという研究発表もあります。[※注2

実は日本人は「世界一座っている」という調査結果もあるほど、1日の大半を座って過ごしている人が多い国です。[※注3

明治安田厚生事業団体力医学研究所の調査によれば、1日9時間以上座っている成人は、7時間未満と比べて糖尿病になる可能性が2.5倍も高くなります。日本の糖尿病にかかる医療費は世界第5位ですが、もしかすると“座りすぎ”と関連しているのかもしれません。[※注4

“運動不足”や“座りすぎ”といった身近で何気ない毎日の習慣が不調を招き、場合によっては命に関わるということがおわかりいただけたかと思います。自粛生活やリモートワーク中、家で座ってばかりの方は、ぜひちょっとした時間だけでも立ち上がるようにしましょう。

【参考資料】
[※注1]Worldwide trends in insufficient physical activity from 2001 to 2016: a pooled analysis of 358 population-based surveys with 1·9 million participants(Regina Gutholdとその他、2018)
https://www.thelancet.com/journals/langlo/article/PIIS2214-109X(18)30357-7/fulltext
[※注2]All-Cause Mortality Attributable to Sitting Time Analysis of 54 Countries Worldwide(Leandro Fórnias Machado Rezendeとその他、2016)
https://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797(16)00048-9/fulltext
[※注3]日本人の座位時間は世界最長「7」時間! 座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫? その対策とは…(スポーツ庁「DEPORTARE」)
https://sports.go.jp/special/value-sports/7.html
[※注4]公益財団法人 明治安田厚生事業団「MYライフ・ドック®通信 第1号」
https://www.my-zaidan.or.jp/tai-ken/information/lifedoc/doc/lifedoc_01.pdf?190401[東洋経済ONLINE]

股関節ストレッチ2

骨盤の柔軟性を高める「骨盤歩き」「かかと突き出し」で、効率の良い歩行技術を高めよう!

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

身体の柔軟性が怪我の予防に繋がるのはご存じと思うが、身体のパフォーマンスも高める効果も期待できる。登山では、骨盤の柔軟性を高めることで垂直方向への重心移動がスムーズになり、効率の良い歩き方へと繋がる。今回は、そのトレーニング方法を紹介する。

 

こんにちは。登山ガイドの野中です。これまでに、心肺機能や筋力以外に重要となる、登山に必要な身体機能として「柔軟性」について多く解説してきました。

日本人は正座が出来るために、膝関節の柔軟性が高い傾向があります。その一方で、比較すると足関節と股関節の柔軟性が不足しがちです。そのため、日ごろの講習会でも足関節と股関節の柔軟性に重点を置いて指導を行っており、これまでの連載でも解説を行ってきました。

中でも股関節は、下肢の根元の部分に位置するため、股関節の柔軟性は歩行姿勢や歩行動作に大きな影響を与えています。加えて、股関節の動きと連動している骨盤(腰)の柔軟性も重要となってきます。

そこで今回は、骨盤周囲の筋肉の柔軟性と可動域を増やすトレーニング、特に日常の中で取り組めるトレーニング法についてご紹介したいと思います。日々取り組んでおくことで、効率の良い歩行動作が出来るようになっていきます。

 

骨盤の動きを司るのは体幹部の筋肉

骨盤を回旋させる(前後に振る)動きを司るのは殿筋群ですが、骨盤を挙上・下制させる(上下に振る)動きを司っているのが、腹斜筋(腹筋の両脇の筋肉)や腰方形筋です(下図参照)。

これらの筋力が不足していたり、日ごろ動かさないことで硬くなっていたりすると、骨盤の動きが悪くなります。そこで、骨盤の回旋と挙上・下制への意識です。

骨盤を回旋(前後に振る)させる動きと、骨盤を挙上・下制(上下に振る)させる動き

骨盤が動くことで脚が動きやすくなるため、下肢の筋肉の負担が減り、重心移動がしやすい安定した歩行が出来ます。

逆に考えると、骨盤の動きが悪いと脚が動きにくく、下肢の筋肉への負担は増して重心移動がしにくい不安定な歩行となります。特に段差が多い登山道や 登り下り共に垂直方向への重心移動が多くなる登り下りでは、骨盤を動かしながら歩けているかどうかが、効率の良い歩行の鍵になってくるのです。

つまり段差が連続する道が苦手だという方は、この骨盤の動きが少ない可能性が高いと言えます。自分が該当すると考える人は、今回ご紹介するトレーニングに早速取り組んでみてください。

 

おすすめトレーニング法:かかと突き出しと骨盤歩き

骨盤を動かすトレーニングとして長座の姿勢からお尻を使って歩く「お尻歩き」というのが一般的に知られています。

お尻歩きの様子。骨盤を立てて、左右の脚を交互に動かして、文字通りお尻で歩いていく

お尻歩きの動作は、股関節を大きく屈曲させた状態で運動するため、登山での姿勢・動きとは大きく異なります。そこで勧めるのが「かかと突き出し」になりま す。かかと突き出しでは、登山に近い、身体が直立している歩行時に近い体勢となり、骨盤の動きを向上させることが出来ます。

就寝時など仰向けに寝転がった時に出来る運動なので、毎日寝る前に行うことをオススメします。

あお向けに床に寝転び、骨盤からかかとを押すように突き出す

 

この「かかと突き出し」で骨盤を動かす感覚を掴んだら、次は実際に歩きながら行う「骨盤歩き」にも挑戦してみましょう。骨盤の動きを中心として歩くように するため、あえて「ロボット歩き」のようになるべく膝関節を曲げないようにしながら歩きます。骨盤を挙上・回旋させる動きだけで前進していく運動です。

街中でこの歩きをしていると怪しい人だと思われるはずですので、誰も見ていない場所や、室内などで時間を見つけて取り組むようにしてください。

デスクワークなど同じ姿勢を長時間とり続ける生活が多い現代人にとって、骨盤周囲の体幹部の筋力が衰えたり、硬直が起こりやすくなったりします。

不安定な歩き方による身体への影響は、舗装路を短時間歩く分には問題は生じにくいですが、長時間の登山歩行には大きく出てきます。効率のより登山歩行を実現するために、脚だけでなく、骨盤、上半身と全身が上手く連動して動かすことが出来る状態を目指しましょう。特に、骨盤は上半身と下半身を繋げる重 要な部分です。意識的にトレーニングすることをオススメしたいと思います。

なお、私が主催している「山の歩き方講習会」「登山歩行技術講習2Days」は主に10-5月に定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください

野中径隆(のなか みちたか)
Nature Guide LIS代表

[YAMAKEI ONLINE]

股関節ストレッチ

ストレッチで股関節の柔軟性を高めれば、登りも下りも楽になる。股関節周囲の筋肉のストレッチ方法

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

股関節周囲の柔軟性は、登山では欠かせない要素となっているものの、どうして重要なのか/どのように柔軟性を高めれば良いのかについて、わからない人も多い。そこで今回は、取り組んでもらいたい股関節周囲の筋肉のストレッチ方法について解説する。

 

こんにちは。登山ガイドの野中です。先月の記事では骨盤周囲の柔軟性について解説しました。今月はこの続きとして、股関節周囲の柔軟性について解説していきたいと思います。

人間の体は股関節を中心として脚を前方に上げる(屈曲させる)と90度以上曲げることが出来ますが、反対に脚を後方に上げる(伸展)動きは15~20度程度が一般的です。

股関節屈曲(左)と、股関節伸展(右)

このように、人体の構造上、股関節は屈曲させるよりも伸展させる動きが苦手であると言えるでしょう。

しかし、人間の脚の動きは股関節が起点となって動いています。脚を後方へ動かす(伸展させる)可動域が狭いと、上手く前方へ体を推進させることが出来ません。その代償として、足先を使った「蹴り足」動作に依存する歩き方になってしまいがちです。これでは、ふくらはぎの筋肉への負担が大きくなるうえに不安定となり、落石を起こりやすい歩き方になってしまいます。

また、下山時の歩行では、後ろ足が体重を長く支持し続けることで、着地時の衝撃が大きくなる「ドスン着地」を防いでいます。しかし、脚を後方に動か す(伸展させる)可動域が狭いと、着地をする前足での衝撃を吸収するだけの歩き方になり、着地衝撃が大きくなります。そのため、スリップしたりバランスを 崩したりしやすく、膝関節や大腿四頭筋への負担が大きくなってしまいます。

「股関節のストレッチ」と言うと、一般的には股関節を左右に開くストレッチを想像する方が多いかもしれません。しかし、歩行時に足を左右に動かす機会は少なく、前後に動かすことが大半です。大きな段差など一歩が大きくなるシチュエーションでは、大きく前後に股関節を動かす必要性があるのです。

効率の良い登り、安定して歩行速度を制御する下り、どちらの状況でも、股関節を伸展できる柔軟性を持っていると楽に歩くことが出来ると言えます。

そこで、今回は股関節周囲の筋肉のストレッチ方法を複数紹介しますので、日常的に柔軟性向上に取り組んでみて頂ければと思います。

 

腸腰筋のストレッチ

上半身が前かがみにならないように注意しながら伸ばす

 

大腿筋のストレッチ

両手で上半身を支えて、大腿部と上半身が一直線になるように倒す

 

腸腰筋・大腿筋の同時ストレッチ

バランスを崩しやすいので壁などに片手を置き、つま先か足首を持って伸ばす

 

タオルを活用したストレッチ

足首を掴むことが難しい方は細く折ったバスタオルを使って足首を保持し、ストレッチすることが可能

 

上記、4つのストレッチはいずれも、写真の姿勢よりもさらに胸を張って、首を後ろに倒すと、さらにストレッチ効果が高まりますので試してみてください。以下の動画で確認しながら試すと効果的です。

動画では、これら4つのストレッチ法と合わせて、最後にダイナミックストレッチもご紹介しています。登山前の準備運動の際には、通常のストレッチ(静的ス トレッチ)よりもダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)の方がおススメです。特に冬場の登山の前のウォーミングアップに活用して頂ければと思います。

なお、私が主催している「山の歩き方講習会」「登山歩行技術講習2Days」は主に10~5月に定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

野中径隆(のなか みちたか)
Nature Guide LIS代表

[YAMAKEI ONLINE]

飲酒のデメリット、ここにも。。。

筋トレ後にお酒を飲むと、せっかくの効果が台無しに?

「筋肉の合成が飲酒によって抑制される」ことが研究で明らかに

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

コロナ禍によって自宅で筋トレをする人が増え、また、自宅でお酒を飲む人も増えている。世の酒好きは、筋トレ後の飲酒を楽しみにしながらトレーニングに励んでいるかもしれない。だが、それは「百害あって一利なし」だとしたら? 筋トレと飲酒の関係について、立命館大学スポーツ健康科学部教授の藤田聡さんに聞いた。

酒飲みは筋トレをしても効果が薄い…?

 「筋トレ始めました」

何だか夏の定番「冷やし中華始めました」みたいだが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛を機に、筋トレを始めた人がなんと多いことか。

多分に漏れず筆者もその1人で、軽量のダンベルや腹筋ローラーを買い込み、せっせと自宅筋トレを行っている。そのおかげが、なんとなーく、うっすらと腹部に縦線が入ってきたような…。

しかし、しかしである。日々30分近く筋トレを行い、プロテインだって飲んでいるのに、思ったようには筋肉がつかない。筆者と同様のことを口にしているのが、周辺の酒飲みたちだ。

筋トレの方法が間違っているのか、それとも酒が影響しているのだろうか? そういえば、酒飲みたちの多くが、トレーニング後のビールやハイボールを楽しみにしている(筆者も)。もしや、酒が筋トレに何らかの影響をしているのではないだろうか…?

ネットで検索すると、「筋トレ後のアルコールはNG」という記事も散見する。これはもう識者に聞くしかない。立命館大学スポーツ健康科学部教授で、『図解 眠れなくなるほど面白いたんぱく質の話』などの本を監修している藤田聡さんにお話を伺った。

藤田先生、筋トレの後にお酒はNGという記事を目にしたのですが、真意はどうなのでしょう?

「残念ながら本当です。筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼします。それを示す研究結果もあります。ちなみに筋トレ前に飲んでも、血中のアルコール濃度は急激には下がらないので、結果はあまり変わらないですね」(藤田さん)

ショック…。覚悟はしていたけれど、やはり筋トレとアルコールは相性が悪いのだ(涙)。

ではなぜ、筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼすのだろうか。筋肉の合成の仕組みを踏まえつつ、教えていただいた。

アルコールによって筋肉の合成率が下がる

「筋トレを行うと、筋肉を合成する生理作用が高まります。その際、筋肉の合成を高めるスイッチとなるmTOR(エムトール)という酵素が細胞内で働き、たんぱく質の合成が活性化されます。mTORを作用させるには、筋トレ以外に、たんぱく質を摂取して血中のアミノ酸の濃度が高まることが有効といわれています。ところが、筋トレ後にアルコールを飲んでしまうと、このmTORの作用が抑制され、筋肉の合成率が3割程度も減るという研究があるのです」(藤田さん)

藤田さんが見せてくれたその研究結果を見ると、一目瞭然だ。

筋トレ後のアルコール摂取と筋たんぱくの合成率
筋トレを行った後の2~8時間の筋たんぱくの合成率を表したもの。オーストラリアのRMIT大学で、8人の運動習慣のある健常者(平均年齢21.4歳)を対象にした研究。(PLoS One. 2014 Feb 12;9(2):e88384. を基に作成)

オーストラリアのRMIT大学で行われた研究では、トレーニング後に、(1)プロテインのみ摂取、(2)アルコール+プロテインを摂取、(3)アルコール+糖質を摂取という3つのパターンを比較した。結果、(2)のアルコール+プロテインのパターンでは、プロティンのみ摂取した場合より、筋肉の合成が24%減少し、(3)のアルコール+糖質のパターンでは37%減少することが分かった。

汗水たらして一生懸命筋トレしても、その後にアルコールを飲んだら効果は激減ということか。そりゃ、いくら筋トレしてもカラダにキレが出ないはずである。肩を落とす筆者に、藤田さんがこんな情報を教えてくれた。

「筋トレ後のアルコールの影響は、女性に比べ男性のほうが大きいと考えられます。アルコールを飲むと、男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が抑制されます。テストステロンは筋肉の合成と深い関わりがあるため、それゆえに男性のほうが筋肉の合成の落ち込みが大きいのではないかと考えられます」(藤田さん)

一瞬、「女性には影響が少ない」とぬか喜びしてしまったが、話の続きを聞くとそうではなかった。

「だからといって、『女性は安心して飲んでいい』というわけではありません。女性でも、筋肉の合成にアルコールが悪影響を与えていると考えられますし、 また長期的に毎日多くのアルコールを飲むことで健康に被害があることは変わりません。アルコールの影響を軽視しないようにしましょう」(藤田さん)

どれぐらいの量なら影響があるのか?

ところで、先ほどの研究で気になるのが、被験者が飲んだアルコールの量である。どのぐらいの量を飲むと、筋肉の合成にこれぐらいの影響が出るのだろう?

「この研究では、体重1kg当たり1.5gのアルコール摂取と、かなり多めの量を飲んでいます。体重が80kgの被験者が120gのアルコールを摂取しているということになります。ウォッカ60mLを4杯なので、どう考えても日常的に飲む量とはいえませんよね」(藤田さん)

…ということは、もっと少ない量であれば、筋肉の合成に影響はあまりないということなのだろうか? また、お酒の種類によって影響の大きさが変わったりしないのだろうか。わずかな希望を持って、藤田さんに聞いてみた。

「現在、どれくらいの量なら問題ないか、というデータはありません。ただ、先ほど挙げた研究の結果から推測すると、筋トレから十分に時間を空ければ、ビール(350mL)1~2缶くらいであれば影響が少ないのかなと思います」(藤田さん)

筋肉の合成が高まるのは筋トレの直後で、その後、合成率がだんだんと下がっていく。先ほどの研究も、2~8時間後の合成率について調べたものだ。そのため、十分に時間を空けて、少な目の量のアルコールを飲む分には、影響は少ないのではというわけだ。

「それから、お酒の種類はあまり関係なく、トータルのアルコールの量が問題になります。ですので、ワインのように、食事とともにゆっくり飲めるお酒か、低アルコールのお酒を選ぶようにするといいと思います。血中のアルコール濃度が急に上がらないようにするのがポイントです」(藤田さん)

朝筋トレして、夜ビール1缶ならOK?

明確なエビデンスはないにせよ、「350mLのビール1~2缶は許容範囲」と考えると、筋トレラブの酒好きとしては、ちょっとホッとする。

ホッとしたところで、藤田さんに気になる質問を1つ。先生ご自身は筋トレ後にお酒を飲むのでしょうか?

「きましたね、その質問が(笑)。僕は朝トレーニングして、夜にほぼ毎晩、ビールを1缶(350mL)飲んでいます。自宅ではこれ以上、飲みません。筋トレ直後に飲まないのは、筋トレ後の筋肉の合成のピークが1~2時間後だから。夜にお酒を飲むのであれば、朝に筋トレを行うのが効率的ではないかと思います。筋トレを行う時間帯による筋肉合成の差は少ないと考えられます。さらに言うと、注意しているのは空腹で飲まないということです。体内におけるアルコールの吸収を緩やかにし、血中アルコール濃度を急激に上げないようにするためです」(藤田さん)

朝筋トレ! これは良さそう。オンライン取材で、パソコンの画面越しでもわかる引き締まった藤田さんの姿を見ると、説得力大である。

「大切なのは、継続する、習慣化するということ。私の場合、トレーニングは毎朝30分で、筋トレとジョギングを15分ずつです。筋トレは、部位を日によって『今日は下半身』『今日は上半身』のように変えれば、飽きずにできます。筋トレは、やり方によっては週2~3回でも効果は出せますが、『明日にすればいいや』などと言い訳して先送りしそうなので、毎日することにしています」(藤田さん)

藤田さんが言うように、何より大事なのは「継続」。筋トレの効果がイマイチという方は、酒量と筋トレの時間を見直すと同時に、飲みを優先してサボっていないかを振り返ってみよう。そして、繰り返しになるが、「トレーニング直後に飲むのは絶対NG」だ。

次回は筋肉の合成に欠かせないたんぱく質の効果的な摂り方について、引き続き藤田さんにお話を伺っていく。

(図版制作:増田真一)

藤田聡(ふじたさとし)さん 立命館大学スポーツ健康科学部 教授
[日経Gooday]

次は熱いお湯の販売機!?

 

「あたたかい」でも「つめたい」でもない、「常温」の自販機が増えている理由

 春が本格化し、暖かい日が増えてくると、清涼飲料水やコーヒー、お茶などを販売する街頭の自動販売機から「あたたかい」飲み物が 減っていきます。しかし、「つめたい」飲み物を求める人が増える一方、常温の飲料を欲しがる人もいるようで、「常温」対応機種を見かける機会も増えてきま した。常温対応自販機を展開しているアサヒグループホールディングス(HD)の広報担当者に聞きました。

全国で1万3000台が稼働

Q.なぜ、常温対応の自販機を展開しているのですか。

担当者「健康管理の観点から、冷えた飲み物を飲みたくないという人が一定数存在しています。現状のドリンク市場では、常温販売がその受け皿となると考えたからです」

Q.2016年4月に設置を始めたそうですが、現在は何台くらい、どのような場所に設置していますか。

担当者「全国で約1万3000台稼働しています。夏場、冷房が効いているインドアオフィスや、病院、スポーツ施設など、普段から体に気を使う消費者がいらっしゃるロケーションで好まれています」

Q.反響は。

担当者「2017年のデータですが、常温商品が売上構成比率の20%を占める場所もありました」

Q.どのような飲料が常温でよく売れますか。

担当者「水、お茶系の販売構成比が高いです」

Q.今後、常温対応の自販機をどう展開していきますか。

担当者「常温を前面に押し出して提案するわけではありませんが、オフィスや病院、スポーツ施設など常温ニーズが見込まれるロケーションに提案していきたいと思います」

内科医の市原由美江さんは、常温飲料のメリットについて次のように話しています。

「冷たい飲料を一気にたくさん飲むと胃腸が刺激され、腹痛や下痢を引き起こすことがあります。また、効率よく水分補給をしたいときも、冷たい水ではなく、刺激 の少ない常温の水や白湯がお勧めです。水は胃では吸収されず、腸に到達してから吸収されます。冷たい水は一時的に胃の働きを弱めるため、胃から腸への水の移動がゆっくりとなり、結果として水の吸収が遅れるのです」

「常温」表示のある自販機を見かけたら、一度試してみては?

[オトナンサー]