昨今のトレンド、シングルグレーンウィスキー

 

知ったかぶりは恥をかく…「グレーンウイスキーはモルトを薄めた安酒」にあらず【ビジネスマンのための一目おかれる酒知識】

ビジネスマンのための一目おかれる酒知識 第9回ウイスキー編その3~

ビジネスマンであれば、酒好きでなくても接待や会食で酒に親しむ機会は多いです。そして多くの人は「それなりに酒に詳しい」と思っているはず。しかし、生半可な知識、思い込みや勘違いは危険。飲み会の席で得意げに披露した知識が間違っていたら、評価はガタ落ちです。酒をビジネスマンのたしなみとして正しく楽しむために「なんとなく知っているけどモヤモヤしていた」疑問を、世界中の酒を飲み歩いた「酔っぱライター」江口まゆみがわかりやすく解説します。

通常ウイスキーは、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしてつくられています。これを「ブレンデッドウイスキー」といいます。
モルトウイスキーとは、大麦麦芽を原料とし、ポットスチルと呼ばれる単式蒸留器でつくられます。一方、グレーンウイスキーは、トウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀類に、糖化のための麦芽を15~25%程度加えたものが原料で、連続式蒸留機でつくられます。

ウイスキー愛好家であれば、モルトウイスキーについてはよくご存じですよね? もしかしたら、お気に入りのシングルモルトも1つや2つではないかもしれません。では、グレーンウイスキーについてはどうでしょうか。

ウイスキーの入門書を読むと、モルトウイスキーのつくり方は詳しく解説されていますが、グレーンウイスキーについてはあまり書かれていません。

しかも、ブレンデッドウイスキーに何パーセントグレーンウイスキーが含まれているかは、世界的に規定はなく、メーカーから公表もされていません。

そこでなかには、 「グレーンウイスキーは安価な原料で機械的に蒸溜された混ぜ物ではないか?」 と考える人がいます。

安いウイスキーにはモルトはあまり含まれておらず、ほとんどがグレーンではないかと言う人もいます。安いウイスキーほど飲みやすく味がシンプルなので、そう思うのかもしれません。

たしかに、グレーンウイスキーの成り立ちをひもとくと、はじめは税金逃れのコストダウンが目的だったようです。麦芽に比べて安価な穀類を大量に使用し、19世紀前半に連続蒸留機が発明される前は、単式蒸留器で3回蒸溜してつくられていました。

こうしてつくられたウイスキーの品質は雑味が多かったので、そのまま飲用されることはほとんどなく、スコットランドからロンドンに送られてジンの原料になっていたそうです。ロンドンではグレーンウイスキーをゆっくり精溜して不純物を取り除き、純度の高いスピリッツにしてからジュニパーベリーの実やハーブ類を加え、ジンとして生まれ変わらせていました。

グレーンウイスキーというと、カフェ式とかカフェスチルという連続蒸留機の名前が出てきますが、これは1830年にこの蒸留機を発明したイーニアス・カフェの名前に由来します。それ以前にも連続式蒸留機はいくつか開発されていましたが、カフェ式蒸留機は、縦型の蒸溜塔を何段にも仕切り、もろみが上段から下段に流れながら分溜を繰り返すことによって、アルコール度数を高めていくという革新的なものでした。この設計は、今でも連続蒸留機の基礎になっています。

連続式蒸留機が発明されたことで、グレーンウイスキーの品質は向上し、ジンの原料から、徐々にモルトウイスキーとブレンドするための原料に
なりました。グレーンウイスキーの軽やかさや穏やかさは、重厚なモルトウイスキーとは異なる個性を持っていたので、ブレンデッドウイスキーのベースとして最適だったからです。こうしてブレンデッドウイスキーの軽い味わいは市場で高く評価され、ウイスキーの主流になっていきました。

グレーンウイスキーもモルトウイスキーと同じように、蒸留後は樽に入れて熟成
させます。そしてたとえば12年もののウイスキーであれば、モルト同様12年以上熟成されたグレーンが使われています。

また、モルトウイスキーと同じように、グレーンウイスキーも様々な個性を持っています。モルトウイスキーを蒸溜するポットスチルにはストレート型、ランタン型、バルジ型、オニオン型、ローモンド型などがあり、それぞれ違う個性の原酒をつくり出していますが、グレーンウイスキーの蒸留機にもいろいろな種類があります。

私はキリンディスティラリーの富士御殿場蒸留所でグレーンの蒸留機を見たことがありますが、そこでは3種類の蒸留機を使ってグレーン原酒をつくり分けていました。

五塔式のマルチカラムという連続式蒸留機では、味や香り成分の少ないライトタイプの原酒を、ケトルという単式蒸留機では味や香りが残るミディアムタイプの原酒を、バーボンに使われるダブラーという連続式蒸留機では、ヘビータイプの原酒をつくっているのです。

また、実際に見たことはありませんが、ニッカウヰスキーではカフェ式の連続蒸留機を使っています。創業者である竹鶴政孝氏がこの蒸留機を導入した1963年当時でも、すでにきわめて旧式の蒸留機でしたが、新型の連続蒸留機に比べて原料由来の香味成分がしっかりと残るからと、カフェ式にしたそうです。

世界的にはシングルグレーンウイスキーの商品は珍しいのですが、モルトもグレーンも同じ蒸留所でつくっている日本では、各社からシングルグレーンウイスキーが商品化
されています。

サントリーの「知多」はスッキリと軽やかで、ひじょうに飲みやすい
シングルグレーンウイスキーです。グレーンとは何かを知るのに、最適のウイスキーではないでしょうか。

一方、ニッカの「カフェグレーン」は、飲みやすさのなかに旨味が凝縮されていて、驚きの旨さ。竹鶴政孝がこだわった、カフェ式連続式蒸留機の実力のほどがうかがえます。

キリンディスティラリーの「富士御殿場蒸溜所シングルグレーンウイスキーAGED 25 YEARS SMALL BATCH」は、昨年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)で「ワールド・ベスト・グレーンウイスキー」を受賞しました。3万円以上する高価なグレーンウイスキーですが、富士御殿場蒸溜所へ行けば試飲できるそうです。

こうしたシングルグレーンウイスキーは、単独で飲むためにつくられたものですが、一般的なグレーンウイスキーは、ブレンデッドウイスキーの味わいのベースとなり、モルトの個性を引き出してくれる存在になります。

サントリーの名誉チーフブレンダー輿水精一さんは、著書の中でこのように言っています。 「ブレンディングの世界は、交響楽団の指揮者にたとえられます。ブレンダー(指揮者)は、多彩なタイプの原酒(楽団員)を統率し、妙なる香味のブレンデッドウイスキーを響かせるというわけです」 つまりグレーンウイスキーは、けしてウイスキーを水増しするための安価なアルコールではなく、ブレンデッドウイスキーという交響楽を奏でる楽団の一員なのです。

[日刊SPA]

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