飲酒のデメリット、ここにも。。。

筋トレ後にお酒を飲むと、せっかくの効果が台無しに?

「筋肉の合成が飲酒によって抑制される」ことが研究で明らかに

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

コロナ禍によって自宅で筋トレをする人が増え、また、自宅でお酒を飲む人も増えている。世の酒好きは、筋トレ後の飲酒を楽しみにしながらトレーニングに励んでいるかもしれない。だが、それは「百害あって一利なし」だとしたら? 筋トレと飲酒の関係について、立命館大学スポーツ健康科学部教授の藤田聡さんに聞いた。

酒飲みは筋トレをしても効果が薄い…?

 「筋トレ始めました」

何だか夏の定番「冷やし中華始めました」みたいだが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛を機に、筋トレを始めた人がなんと多いことか。

多分に漏れず筆者もその1人で、軽量のダンベルや腹筋ローラーを買い込み、せっせと自宅筋トレを行っている。そのおかげが、なんとなーく、うっすらと腹部に縦線が入ってきたような…。

しかし、しかしである。日々30分近く筋トレを行い、プロテインだって飲んでいるのに、思ったようには筋肉がつかない。筆者と同様のことを口にしているのが、周辺の酒飲みたちだ。

筋トレの方法が間違っているのか、それとも酒が影響しているのだろうか? そういえば、酒飲みたちの多くが、トレーニング後のビールやハイボールを楽しみにしている(筆者も)。もしや、酒が筋トレに何らかの影響をしているのではないだろうか…?

ネットで検索すると、「筋トレ後のアルコールはNG」という記事も散見する。これはもう識者に聞くしかない。立命館大学スポーツ健康科学部教授で、『図解 眠れなくなるほど面白いたんぱく質の話』などの本を監修している藤田聡さんにお話を伺った。

藤田先生、筋トレの後にお酒はNGという記事を目にしたのですが、真意はどうなのでしょう?

「残念ながら本当です。筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼします。それを示す研究結果もあります。ちなみに筋トレ前に飲んでも、血中のアルコール濃度は急激には下がらないので、結果はあまり変わらないですね」(藤田さん)

ショック…。覚悟はしていたけれど、やはり筋トレとアルコールは相性が悪いのだ(涙)。

ではなぜ、筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼすのだろうか。筋肉の合成の仕組みを踏まえつつ、教えていただいた。

アルコールによって筋肉の合成率が下がる

「筋トレを行うと、筋肉を合成する生理作用が高まります。その際、筋肉の合成を高めるスイッチとなるmTOR(エムトール)という酵素が細胞内で働き、たんぱく質の合成が活性化されます。mTORを作用させるには、筋トレ以外に、たんぱく質を摂取して血中のアミノ酸の濃度が高まることが有効といわれています。ところが、筋トレ後にアルコールを飲んでしまうと、このmTORの作用が抑制され、筋肉の合成率が3割程度も減るという研究があるのです」(藤田さん)

藤田さんが見せてくれたその研究結果を見ると、一目瞭然だ。

筋トレ後のアルコール摂取と筋たんぱくの合成率
筋トレを行った後の2~8時間の筋たんぱくの合成率を表したもの。オーストラリアのRMIT大学で、8人の運動習慣のある健常者(平均年齢21.4歳)を対象にした研究。(PLoS One. 2014 Feb 12;9(2):e88384. を基に作成)

オーストラリアのRMIT大学で行われた研究では、トレーニング後に、(1)プロテインのみ摂取、(2)アルコール+プロテインを摂取、(3)アルコール+糖質を摂取という3つのパターンを比較した。結果、(2)のアルコール+プロテインのパターンでは、プロティンのみ摂取した場合より、筋肉の合成が24%減少し、(3)のアルコール+糖質のパターンでは37%減少することが分かった。

汗水たらして一生懸命筋トレしても、その後にアルコールを飲んだら効果は激減ということか。そりゃ、いくら筋トレしてもカラダにキレが出ないはずである。肩を落とす筆者に、藤田さんがこんな情報を教えてくれた。

「筋トレ後のアルコールの影響は、女性に比べ男性のほうが大きいと考えられます。アルコールを飲むと、男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が抑制されます。テストステロンは筋肉の合成と深い関わりがあるため、それゆえに男性のほうが筋肉の合成の落ち込みが大きいのではないかと考えられます」(藤田さん)

一瞬、「女性には影響が少ない」とぬか喜びしてしまったが、話の続きを聞くとそうではなかった。

「だからといって、『女性は安心して飲んでいい』というわけではありません。女性でも、筋肉の合成にアルコールが悪影響を与えていると考えられますし、 また長期的に毎日多くのアルコールを飲むことで健康に被害があることは変わりません。アルコールの影響を軽視しないようにしましょう」(藤田さん)

どれぐらいの量なら影響があるのか?

ところで、先ほどの研究で気になるのが、被験者が飲んだアルコールの量である。どのぐらいの量を飲むと、筋肉の合成にこれぐらいの影響が出るのだろう?

「この研究では、体重1kg当たり1.5gのアルコール摂取と、かなり多めの量を飲んでいます。体重が80kgの被験者が120gのアルコールを摂取しているということになります。ウォッカ60mLを4杯なので、どう考えても日常的に飲む量とはいえませんよね」(藤田さん)

…ということは、もっと少ない量であれば、筋肉の合成に影響はあまりないということなのだろうか? また、お酒の種類によって影響の大きさが変わったりしないのだろうか。わずかな希望を持って、藤田さんに聞いてみた。

「現在、どれくらいの量なら問題ないか、というデータはありません。ただ、先ほど挙げた研究の結果から推測すると、筋トレから十分に時間を空ければ、ビール(350mL)1~2缶くらいであれば影響が少ないのかなと思います」(藤田さん)

筋肉の合成が高まるのは筋トレの直後で、その後、合成率がだんだんと下がっていく。先ほどの研究も、2~8時間後の合成率について調べたものだ。そのため、十分に時間を空けて、少な目の量のアルコールを飲む分には、影響は少ないのではというわけだ。

「それから、お酒の種類はあまり関係なく、トータルのアルコールの量が問題になります。ですので、ワインのように、食事とともにゆっくり飲めるお酒か、低アルコールのお酒を選ぶようにするといいと思います。血中のアルコール濃度が急に上がらないようにするのがポイントです」(藤田さん)

朝筋トレして、夜ビール1缶ならOK?

明確なエビデンスはないにせよ、「350mLのビール1~2缶は許容範囲」と考えると、筋トレラブの酒好きとしては、ちょっとホッとする。

ホッとしたところで、藤田さんに気になる質問を1つ。先生ご自身は筋トレ後にお酒を飲むのでしょうか?

「きましたね、その質問が(笑)。僕は朝トレーニングして、夜にほぼ毎晩、ビールを1缶(350mL)飲んでいます。自宅ではこれ以上、飲みません。筋トレ直後に飲まないのは、筋トレ後の筋肉の合成のピークが1~2時間後だから。夜にお酒を飲むのであれば、朝に筋トレを行うのが効率的ではないかと思います。筋トレを行う時間帯による筋肉合成の差は少ないと考えられます。さらに言うと、注意しているのは空腹で飲まないということです。体内におけるアルコールの吸収を緩やかにし、血中アルコール濃度を急激に上げないようにするためです」(藤田さん)

朝筋トレ! これは良さそう。オンライン取材で、パソコンの画面越しでもわかる引き締まった藤田さんの姿を見ると、説得力大である。

「大切なのは、継続する、習慣化するということ。私の場合、トレーニングは毎朝30分で、筋トレとジョギングを15分ずつです。筋トレは、部位を日によって『今日は下半身』『今日は上半身』のように変えれば、飽きずにできます。筋トレは、やり方によっては週2~3回でも効果は出せますが、『明日にすればいいや』などと言い訳して先送りしそうなので、毎日することにしています」(藤田さん)

藤田さんが言うように、何より大事なのは「継続」。筋トレの効果がイマイチという方は、酒量と筋トレの時間を見直すと同時に、飲みを優先してサボっていないかを振り返ってみよう。そして、繰り返しになるが、「トレーニング直後に飲むのは絶対NG」だ。

次回は筋肉の合成に欠かせないたんぱく質の効果的な摂り方について、引き続き藤田さんにお話を伺っていく。

(図版制作:増田真一)

藤田聡(ふじたさとし)さん 立命館大学スポーツ健康科学部 教授
[日経Gooday]

正しい知識と認識から、、、リテラシーこそが不確定な社会を生き抜く力。。。

 

新型コロナ「検査の陽性者」=「感染者」ではない…!PCR検査の本当の意味

ウイルス学研究者の定義する「根本的な感染」は

「新規の感染者」とは、じつは単なる検査の陽性者

ここ最近の報道では、新型コロナウイルスの「第2波」とも伝えられる現在の流行に関し、8月下旬、「7月末がピークであり、新規の感染者数はゆるやかに減少している」との専門家の見方が示されています。厚生労働省に助言する専門家組織(アドバイザリーボード)の見解です。

その根拠として、「1人の感染者が何人にうつすかを示す実効再生産数は、8月上旬の段階で多くの地域で1を下回っている」ということがあげられ、その結果、「感染は縮小している」との趣旨でした。

たしかに大筋では現在の状況はその見解に近いものにあるとは感じています。しかし、ウイルスを研究してきたものとして、この見解とその報道の仕方には異論があります。

日本で「第2波」がきている根拠として、「検査の陽性者」を「感染者」としてとらえ、報道されていることがほとんどで、これはとてもとても重大な問題です。私の結論から申し上げると、「検査の陽性者」=「感染者」ではありません

PCR検査でわかるのは、ウイルスが「いる」か「いないか」だけ

PCR検査での陽性とは、PCR検査で新型コロナウイルスが検出されたことを意味します。

PCR法は何を検出しているのかというと、ウイルス遺伝子(新型コロナウイルスRNA)の断片になります。ウイルス遺伝子の断片が見つかったということは、「ウイルスが今いる」、あるいは、「少し前にいた痕跡がある」ということになります。

つまり、ウイルスの断片が残っていれば陽性になるということです。そのうえで、ウイルスの状態がどうなのかまでは、わかりません。ここがポイントです。PCR検査で確定できないことはいくつもあるのです。その例を5つ示します。

1=「ウイルスが生きているか」「死んでいるか」もわからない。

ウイルスは「生物」ではないという考え方もあり、正式には「活性がある」との意味ですが、この記事では一般にわかりやすいように「生きている」と表現します。PCR検査では、ウイルスが生きていなくても、ウイルス遺伝子の一部が残っていれば陽性になります。

2=「ウイルスが細胞に感染しているかどうか」もわからない。

PCR検査では、細胞に感染する前のただ体内に「いる」段階でも陽性になりますし、感染し細胞に侵入したあとのいずれの場合でも陽性になります。

3=「感染した人が発症しているかどうか」もわからない。

PCR検査では、発症していてもしていなくても、ウイルス遺伝子の一部が残っていれば、ウイルスはいることになるので検査は陽性になります。

4=「陽性者が他人に感染させるかどうか」もわからない。

たとえば、体内のウイルスが死んでおり、断片だけが残っている場合は他人に移すことはありません。また、ウイルスが生きていても、その数が少なければ人にうつすことはできません。

通常ウイルスが感染するためには、数百〜数万以上のウイルス量が必要になります。しかし、PCR法は遺伝子を数百万〜数億倍に増幅して調べる検査法なので、極端な話、体内に1個〜数個のウイルスしかいない場合でも陽性になる場合があります。

5=ウイルスが「今、いるのか」「少し前にいた」のかも、わからない。

一度感染すると、ウイルスの断片は鼻咽頭からは1〜2週間、便からは1〜2か月も検出されることがあります。これらはあくまで遺伝子の断片です。

感染とは「生きたウイルス」が細胞内に入ることで、発症とは別

いっぽうで、「ウイルスに感染している」とは、どのような状態かというと、感染しているとは、通常(生きた)ウイルスが細胞内に入ることを意味します。

新型コロナウイルスは多くの場合、気道から感染します。気道に生きたウイルスがいても、粘膜や粘液、さらにはウイルスを排出する気道細胞のブラシのような異物を排除する作用などが強ければ、排除され感染に至りません。

これらは重要な自然免疫の作用の一つです。補足すると、自然免疫にはさらに白血球などの細胞が関係する免疫もあります。

また、生きたウイルスが細胞内に入り、「感染」したとしても、その後に症状が出るかどうかはわかりません。細胞内に侵入しても、細 胞の自浄作用などでウイルスの増殖を阻止する場合があります。また、感染細胞が少ない場合も症状としては出ません。これらの場合は発症しないことになります。

一般には、感染したが症状が出ない場合を「不顕性感染」、感染して症状が出る場合を「顕性感染」といいます。

不顕性感染という言葉はよく使われますが、新型コロナウイルスでは、「ウイルスが気道にいるが感染する前の状態」と「感染してからも症状が出ない状態」の両方を不顕性感染とひとくくりにして使われていると思われます。理由は、これらの違いを区別できないからです。

不顕性感染では、通常症状が出ないまま(主に自然免疫系の働きで)治っていると考えられます。通常の感染症の場合、症状が出ない場合は感染しているかどうかわからない訳ですから、病院の受診も検査も薬の服用もしないことになります。

「発症」とは、症状を認める状態

それに対して、顕性感染は感染し症状を認める状態ですので、通常の感染症の場合、感染とはこの状態を指すことになります。この状態で病院を受診し検 査を受けてはじめて「感染している」といわれるのです。では、新型コロナウイルス感染症の「発症」とはどのような状態でしょうか。

新型コロナウイルス感染症が発症するとは、「病気として症状を認めること」をいいます。当然ですが発症している人が、感染した患者さんとなります。

ウイルスに体内の細胞内に侵入(=感染)されてしまうと、隠れてしまったような状態となり、通常、免疫系はウイルスを見つけることができずにウイルスを排除できません。この感染してから症状を認めるまでの期間を潜伏期といいますが、この間は症状が出ないのです。

症状が出るのは、ウイルスが細胞内で増殖し、感染細胞を破壊するか血液などを介して全身に広がることにより生じます。

「検査陽性者」を「感染者」とすることが問題になる理由

さて、ここからが、「検査の陽性者」を「感染者」とすることが、なぜ問題になるのかの説明になりますが、まずは、一般的な風邪のケースをあげてみます。

風邪とは、もちろん風邪の原因となるウイルスの感染により起こる病気です。寒い冬に、素っ裸で布団もかぶらずに寝てしまったら、よほど強靭な人でな ければ、間違いなく風邪をひきます。では、冬に裸で寝たときだけ「偶然に」「運悪く」風邪のウイルスをもらっているのでしょうか?

そうではなく、風邪のウイルスには、裸で寝ようが普通に寝ようが、私たちは普段から常に接触しているのです。つまり、常にウイルスは気道上(のどや鼻)に「いる」のです。

しかし、正常な免疫力がある場合には、風邪のウイルスに感染せずに発症もしません。風邪にかかったのは、冷えなどで免疫力が低下したことによるのです。つまり、通常の免疫力がある場合は気道にウイルスがいても全く発症しないのです。

もし、ウイルスが「いる」状態(PCR検査陽性)を感染=病気としたら、風邪の場合は国民のほぼ全員が感染している、つまり風邪をひいているということになります。

つまり「検査陽性=ウイルスがいる」ことだけでは「感染といってはいけない」のです。

ウイルスをもらっても感染しなければ何も問題はない

私たちは身の回りに存在する微生物と常に接触しているわけですから、ウイルスをもらっても(ウイルスがいても)感染しなければ何も問題はありません。感染しても発症しなければいいのです。そして、たとえ発症しても、重症化しなければいいのです。

補足ですが、これらを決めているのは、ウイルス自体ではなくウイルスをもらった側の免疫力であることも大切な部分です。

現在の日本では、「検査陽性数」=「感染者数」であり、ときには、「感染者数=発症数=患者数」としてひとくくりにされている場合が見られます。ここは今こそ明確に区別して伝える段階にあるのではないでしょうか。

ただし誤解のないように申し添えると、私はPCR検査に問題があるといっているわけではありません。PCR法は一般にはウイルスをもれなく見つける精度はとても高い検査になります。

繰り返しになりますが、遺伝子の一部を数百万倍から数億倍にも増やして検出しますので、理論的にはわずか1個〜数個の遺伝子の断片でも検出できます。

しかし、新型コロナウイルスに対してでは、この「もれなく見つけるという能力」が低く、精度は70%ほどと推定されており、せっかくのメリットが生かされていません。

この能力が低い理由は様々なことが考えられますが、大きくはウイルス量が少ないこととウイルスが変異していることの2点になると思います。にもかか わらず、新型コロナウイルスの検査法ととし、PCR法が世界で共通して行われているのは、他の検査法がないためという点に尽きます。

陽性者が少ない状態で検査数を増やすと、間違いばかりが多くなる

検査にはある程度の間違いが必ず生じます。まず、PCR法は、まれに間違えて、他のウイルスを持っている人やウイルスがいない人(陰性)をいる(陽性)と判定してしまうことがあります。

間違いの頻度が少なくても、数が多くなると問題が大きくなります。とくに陽性者が少ない状態で検査数を増やすと、この間違えて「陰性を陽性」としてしまう数ばかりが多くなってしまうのです。

しかし、これを理由にPCR検査がまったく意味がないということにはなりません。陽性者が少ない状態で検査を増やすのが問題ですので、本当の陽性者が多いと疑われる集団に限定して検査するのは問題ないのです。

つまり、PCR検査とは、無症状の人を含めて闇雲に検査をするものではなく、医師が診察して(あるいは問診などにより)コロナウイルスの検査が必要だと判断した人(陽性の可能性が高い人)に対して行う検査なのです。

PCR検査は、これらのことを熟知して検査するのであれば、全く問題なくとても有益な検査になります。

検査に精力を傾けるよりもみずからの暮らし方や食生活を見直す

もう一点、逆の視点から補足すると、「検査陰性」でも絶対に安全とはいえないのが、PCR検査でもあるのです。

ウイルスをもらってすぐ、あるいは細胞に感染してすぐの状態でウイルスが増えていない場合では、結果は陰性になります。また、検査した後に新たにウイルスをもらっている可能性がありますので、検査が陰性であっても、絶対に安全とはいえません。

安全性を高めるためには、定期的に繰り返しの検査が必要になりますが、それでも絶対にはなりませんし、費用や煩雑さの問題も生じます。

そもそも新型コロナウイルスはそこまでして絶対にいないことを確認する必要があるウイルスではない、と私は考えています。

そこに精力を注ぐよりも、みずからの暮らし方や食生活を見直し、不自然な日常をひとつずつでも自然に沿った暮らし方に改めていくことが、自分自身の 免疫力や自然治癒力を高めていくことにつながります。それこそが、新型コロナを恐れない根本的、かつ、唯一の方法と信じています。

現在の流行は「感染の第2波」ではなく「第1波のくすぶり」ととらえるべき

最後にもうひとつ、定義があいまいなことは「感染の第2波」です。いったんは収束しつつあったとされた日本や、ヨーロッパ諸国で現在起きているとされる第2波は「何」を指していっている言葉でしょうか?

私は、全世界208か国のPCR陽性数やPCR検査数、死亡数などのデータを集めています。詳しい解析結果は私のSNSに紹介していますので、ここ では省きますが、現在の第2波がきているとされる世界のすべての国(16カ国)のデータをまとめると次のようなことが見えてきました。

●流行は必ず収束するが、患者の発生がなくなることはない。私はこれを「くすぶり状態」といっています。

●COVID-19では不顕性感染が多く、検査数が増えると陽性数も増えるため、陽性数だけでは第1波と第2波を単純に比較できない。

●陽性率(陽性者/検査数)を計算すると、全世界のすべての国の解析で第1波の陽性数ともよく相似しており、陽性数よりも流行の実態に近いと考えられる。

●第2波がきているように見えても、陽性率の推移ではほとんどの国(13か国)が第1波後のくすぶりの状態であり、死亡数の増加はみられない。日本もこの中に入る。

13か国とは、日本、スロベニア、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマーク、ギリシア、マルタ、スロバキア、スペイン、カンボジア、トニダード・トバゴです。

●本当に第2波がきていると考えられる(陽性率も増加している)のはわずかに3か国だけで、第2波の死亡数が増加しているのは、この3か国のみである。

3か国とは、オーストラリア、イスラエル、クロアチアです。

●現在の日本の陽性者数であれば、今後重症者や死亡数が大きく増加する可能性は低いと思われる。

現在の日本の現状は、陽性数がかなり増加しているように見えても、陽性率ではほとんど増えておらず、第1波後の「くすぶりの状態」の範囲内というのが私の結論です。

つまり、見かけ上、「第2波」のよう見える今の流行は、本当の第2波ではないと思われます。陽性率もわずかに上昇していますので、これを仮に「第2波」としても、とても小さな第2波ということになります。

今後、新型コロナウイルス感染症は、単純に検査陽性数だけではなく、陽性率や重症者数、死亡数に着目していく必要があると考えています。そういう意味では、真の第2波に備えることは、これまで以上に大切になるでしょう。

[マネー現代]

おすすめです♪

体が硬い男性に勧めたい驚異「1分ストレッチ」 “筋肉と腱が伸びる能力”は非常に大切

昨今、「体を柔らかくしたい」というニーズが高まっています。体が硬いとケガをする危険性も高くなりますし、柔軟性は高めておきたいものですが、「いい歳(とし)だからもう無理かな……」と諦めてしまっている人も多いかもしれません。

ですが、「どんなに年齢が高くても、体は柔らかくできる」というのは、フィギュアスケーターなどのプロアスリートから一般の人々まで幅広く指導を行うストレッチデザインの村山巧氏です。70代の高齢者もベターッと開脚できるようになるという、科学的で簡単な新ストレッチを教えてもらいました。

柔軟性が低いとケガをしやすくなる

私は、プロアスリートだけでなく、一般の方々にも柔軟クラスを開催していますが、とくに体の硬い方からのリクエストでは「前屈でベターっと手を床につけたい」というものがいちばん多いです。

柔 軟性を手に入れることは、「できた!」という達成感のためだけではありません。柔軟性、イコール“筋肉と腱が伸びる能力”は人間にとって非常に大切なものです。柔軟性が低く体が硬いと、ケガをしやすくなってしまいます。体が硬くなってしまったお年寄りにケガが多いのは、このことも大きな原因です。

ですが、「歳(とし)だから硬いのは仕方ない」かというと、そうではありません。体が硬くなる本当の原因は加齢自体ではなく、ストレッチ不足にあります。人間の体は使わない筋力や機能は年齢に関係なくどんどん退化するようになっています(難しい言葉では「廃用性萎縮」といわれます)。

例えば、足を骨折してギプスで固定し、1カ月間病院のベッドで寝たきりになると、筋力に自信がある20歳の男性でも驚くほど足が細くなってしまいます。逆に、80歳のおじいちゃんボディビルダーがいるように、日々鍛えていれば高齢であっても筋肉は成長します。

体の柔軟性も同じです。つまり、年齢に関係なくストレッチを日々の習慣にしていれば高齢者であっても体は柔らかくなりますし、していなければ若くても体は硬くなります。

実際に、クラスで私が指導する「PNF(脳科学)」×「筋膜リリース」の2つの科学的アプローチを掛け合わせた手法を実践していた75歳の女性が、ベターッと開脚できるほど柔軟な身体を手に入れています。

ストレッチを日々意識的に行わないと、日常生活の中では必要ない柔軟性がどんどん失われ、どんなに鍛えた人でも「普通の人」になっていきます。

前屈で手がベタっと床につくというのは、体の柔軟性を表す1つの指標です。

そこで今回は、前屈ができない参加者の皆さまから「魔法みたい」と言われる、簡単なエクササイズをご紹介します。

最短で効果を出す“トップギアストレッチ”

先述したとおり、私の確立したストレッチは、「PNF(脳科学)」×「筋膜リリース」の2つの科学的アプローチの観点を取り入れたものです。

PNF とは、もともとリハビリの世界で発達した筋コンディショニングの手法であり、筋肉を強く収縮させた後に弛緩させることで脳の運動系の神経を刺激し、短時間で筋肉や関節が本来持っている可動域を覚醒させるというものです。このPNFに基づくエクササイズを「脳科学アプローチ」と呼んでいます。

筋膜という名前は近年、よく耳にするようになりました。筋膜は全身を覆っている薄いボディスーツのようなイメージで、筋肉を保護したり、結合したり、円滑に動かせるようにする働きがあり、「第2の骨格」と言われるほど重要な役割を持っています。

こ の筋膜はずっと座っていたり、スマホを見続けたり、いつも右手でカバンを持って歩いたり、といった普段の生活のなかで一部の筋肉を使わずにいたり、逆に一部に負担をかけたりすることでどんどんゆがんでいきます。軽微な歪みは入浴・睡眠で解消されますが、ゆがみを放置すると次第に筋膜は固着して動きが悪くなってしまいます。

それが長年蓄積されると筋膜はいつしかガチガチにコリ固まり、筋肉や関節の可動域を制約するようになっていきます。

固着した筋膜のゆがみを正し、あなた本来の可動域を取り戻すエクササイズが筋膜リリースです。

前屈の際には頭から足裏まで体の後ろ側全体が伸びるのですが、ここでは経験上、とくに効果の大きい3カ所(足の裏/ふくらはぎ/ももの裏面)を取り上げます。

これらのストレッチは、最短で効果を出す“トップギアストレッチ”です。体の硬さには絶大な自信があった57歳の男性が、たったの8分のストレッチで床に指 がつくようになるといった例も多数ありますし、今では「柔軟王子」というありがたい愛称をいただいている私も、27歳まではガチガチの超合金のような体で した。

皆さんも、ご自身の体がどれだけ柔らかくなるかを確かめながら楽しく行ってみてください。

脳科学ストレッチによるアプローチ

脳科学アプローチでは、①短時間負荷をかけて抵抗し、②脱力する、という動きが特徴です。1、2で息を止めて力を入れる、3で大きく息を吐いて脱力、をリズミカルに繰り返します。「イチニ、サーン」と覚えてください。
<足の裏の脳科学ストレッチ>

手でつま先を反らすように力をかけ、足の裏の力で2秒抵抗したら、2足の裏を2秒脱力します。3回繰り返します。

 

<ふくらはぎの脳科学ストレッチ>

① ひざを手で押し下げ、それに抵抗してかかとを上げるようにふくらはぎに力を入れます。2秒抵抗します。

② ふくらはぎを2秒脱力します。3回繰り返します。

まず、エクササイズ前に立って前屈をし、手の指が床からどれくらい離れているのか、あるいはどれくらい床につくのか、はじめの状態を確認し、体の感覚を覚えておいてください。エクササイズ後に改めて前屈をしてみてください。ずいぶん体を倒しやすくなったことを実感できるでしょう。

<もも裏面の脳科学ストレッチ>

① 足首をつかんで上体に引き寄せ、もも裏側の力で2秒抵抗します。

②もも裏側を2秒脱力します。3回繰り返します。

※ひざが曲がると、もも裏側が伸びませんのでひざを伸ばして行いましょう。足首に手が届かない場合はハンドタオル等を足首に巻いて行ってください。

筋膜リリースによるアプローチ

それでは、筋膜リリースの手法に移りましょう。同じく「足の裏」「ふくらはぎ」「もも裏面」の3つにアプローチします。それぞれ1分を目安に行ってください。

<足の裏の筋膜リリース>

①手の指先で強めに足裏を押しほぐします。ゴルフボールやラップの芯などを踏んで転がすのも大変効果的です。真ん中だけでなく内側・外側もほぐします。

<ふくらはぎの筋膜リリース>

以下の写真ではフォームローラーという専用のツールを使用していますが、ビール瓶や水筒など円筒形のもので代用することが可能です。身近なもので工夫してみてください。

① ローラーにふくらはぎを乗せ、左右に揺らします。

② 余裕があればふくらはぎの上に、反対側の足を乗せて揺らしてみましょう。

今回は、下半身にフォーカスしたエクササイズを紹介しましたが、筋膜は全身でつながっていますので、1カ所の歪みがほかの部位の動きを制限します。拙著『自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ』を参考に、最短で全身の筋膜をゆるめ、柔軟性を高めるストレッチエクササイズを試してください。

著者:村山 巧
(画像:『自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ』より)

[東洋経済オンライン]

効果大であることは日頃体感していますが。。。

「肩凝り」「首凝り」「目の疲れ」を足の指から解消する

リフレクソロジー式 不調別マッサージ

足裏は“体の調子を映し出す鏡”であることを知っている人は多いかもしれない。そこで、足裏をほぐす基本のケアから、肩や首の「凝り」や、頑固な脚の「むくみ」などに効果的なセルフマッサージを紹介。リフレクソロジー式の反射区を使って、足裏から体の不調をリセットしよう。今回は、「肩凝り」「首凝り」「目の疲れ」。肩が凝っている人は、首の凝りや目の疲れも抱えていることが多い。足の指に近い「反射区」をマッサー ジすると効果的。凝りと疲れを一気に取ろう。

頑固な「肩凝り」「首凝り」は 目の反射区も加えて一気に解消

現代人にはもはや“付き物”ともいえる、「肩凝り」「首凝り」「目の疲れ」──。こうした首から上に出る不調の解消も、足裏の反射区を知っていると便利だ。

もちろん、首、肩、目にはそれぞれに関連しているとされる「反射区」(イラスト)はあるが、リフレクソロジストの市野さおりさんによれば「肩や首の凝りには、目の反射区を加えてマッサージするのがお薦め」だという。

「首や肩の凝りは目の疲れが原因だったり、反対に肩凝りから頭部への血流が悪くなり、目の疲れを生むこともある」(市野さん)。

該当する反射区に触れてみて、コリコリとした所を見つけたら、重点的にマッサージをしてみよう。肩や首の凝りに加えて、手が届きにくい肩甲骨まわりの凝りが足裏の反射区からほぐせるのも、足裏マッサージならではの特徴だろう。

足裏の反射区は左と右で関連している器官が違う

しっかり押してもみほぐし「肩の凝り」を取る

肩凝りを感じている人は、肩と肩甲骨(けんこうこつ)の反射区を集中的にマッサージしよう。

肩凝りは、主に肩甲骨の周りや、大胸筋(だいきょうきん)といった胸にある筋肉などが固まり気味で、肩の血液循環が悪くなっている状態。凝りがひどければ、肩の反射区も硬くなり、コリコリとしたしこりが見つかるはず。

しこりや痛みのある所は、凝りのひどいところ。柔らかくなるまで、しっかり押してもみほぐす。

足の小指と第4指の付け根付近が肩甲骨の反射区。手の親指を使い、指元に向けて下から上に3方向を押し進めて1セット。これを3セット繰り返す。
肩の反射区は足指の付け根にある。手を使って足指全体を反らし、足指の下にある肩の反射区にもう一方の手指を当て、押しこむように10回もむ。

親指の根元から側面に向けて押し「首の凝り」を取る

「首周辺が凝ると、脳に送られる血液の流れも滞り、頭痛やめまいが起きることもある」(市野さん)。

首の凝り取りは、親指の付け根にある後頸部の反射区から側面にある頸椎にある反射区までの小さなエリアを押す。凝っているとかなり痛いことがあるので、時間をかけて十分にもみほぐそう。

親指の根元にある、少しくびれた部分を手の親指で押しさする。最低5~6回、付け根から側面まで満遍なくほぐそう。

第2指の側面と下側を4方向にこすり「目の疲れ」を取る

長時間のパソコン作業や携帯電話でのメールなど、目を酷使する場面の多い現代では、いつも眼精疲労に悩まされるもの。

足の第2指の親指側と第3指側の根元から関節までが目の反射区。「指の側面と下側を満遍なくマッサージしましょう」(市野さん)。

手の親指を滑らせるように押し進めると痛い場合は、付け根部分を押しこんでもよい。目の奥のどんよりした疲れや、重いまぶたもスッキリしてくる。

足の第2指の付け根から関節までが目の反射区。手の親指を付け根から指先に沿わせて滑らせる。指の下側と側面の4方向を、押しさするように満遍なくマッサージしよう。

(取材・文:船木麻里/写真:岡崎健志/モデル:小町あかり)

市野さおり
看護師 リフレクソロジスト
[日経Gooday]

少量飲酒のがん罹患リスクVol.2

1日1合お酒を飲み続けると、がんのリスクはどのくらい上がる?

飲酒とがんリスク【前編】日本人における、少量飲酒によるがんのリスクは?

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

 日本人の最大の死因になっている「がん」。がんに罹(かか)りたくないのは誰もが共通に願うことだが、そのためにはどんな飲酒が望ましいのか。最近では、少量の飲酒でも体に悪いと指摘されるようになったが、がんについてはどうなのだろう。

 2019年12月には東京大学から、日本人を対象とした低~中等度の飲酒のがんへの影響を評価した論文が発表された。今回は、論文の発表者の1人である財津將嘉さんに詳しい話を聞いた。

 本誌において何度も紹介してきたが、「酒は百薬の長」「酒は全く飲まないより、少量飲んだほうがカラダにいい」と以前から信じられてきた。それがまた左党にとっては好都合だった。条件付きとはいえ、少量の飲酒がカラダにいいことを示す「Jカーブ効果」のグラフ(以前の記事を参照)は、言わば「水戸黄門の紋所」のようなものだったに違いない。

だが、ここ1、2年その流れが大きく変わってきた。世界的に飲酒の健康リスクが大きくクローズアップされるようになる中、少量の飲酒でもカラダに悪いという論文が登場したのだ。

詳しくは、昨年秋に本連載で取り上げた記事「お酒は少量であっても健康に悪かった!?」をご参照いただきたいと思うが、2018年の半ばに、世界的権威のある医学雑誌『Lancet』(ランセット)に、「195の国と地域を対象に飲酒のリスクを検証した結果、健康への悪影響を最小化するなら飲酒量はゼロがいい」という内容の論文が発表された。

この論文では、虚血性心疾患(心筋梗塞など)に対してはプラスの面がある(発症リスクが下がる)のは従来の研究結果と同じだが、がんなどに罹患す るリスクは少量であっても上がるため、その効果は相殺されてしまい、トータルで考えると、飲酒量は少ないほうがいい、さらには健康への悪影響を最小化する なら飲酒量は「ゼロ」が望ましいというのだ。

「飲酒量はゼロがいい」――。

この衝撃の結果を受け、酒量が減った人もいるのではないだろうか? 筆者も、である。「お得だから」という理由で、一升瓶で日本酒や本格焼酎を買うのをやめ、休肝日を週2回から3回に増やした(守れないこともあるが)。

酒好きからすれば、これまで以上に酒量を抑えるのはつらいが、「飲酒量が少なければ少ないほどいい」というのは確かなのだろう(泣)。ただ、「日本人においてどうなのか」についてはもう少し詳しく知りたいと思っていた。

前出の論文の対象は世界中の195カ国(および地域)である。この結果がそのまま日本人に当てはまるわけではないだろう(もちろんある程度は当て はまると思うが)。よく知られていることだが、欧米人がアルコールの分解能力が高いのに対し、日本人はアルコールに強くない人が一定数いる。お酒の影響も 同じというわけではあるまい。ところが、日本人を対象とした、少量飲酒におけるリスクを研究した論文はほとんど出ていないという。

と、そんなことを思案している中、2019年12月、東京大学から日本人を調査対象として、「低~中等度の飲酒もがん罹患のリスクを高める」とい う興味深い論文が発表された(Cancer. 2020;126(5):1031-1040.)。こちらは、新聞などの各種メディアでも取り上げられたので、目にした人もいるのではないかと思う。

日本人を対象とし、日本人の最大の死因になっている「がん」への影響を調査した研究というのだから、これは興味津々である。

日本にごまんといる左党のためにも、きちんと確認して、その内容をお伝えせねばなるまい。そこで今回は、論文の発表者の1人で、獨協医科大学医学 部 公衆衛生学講座 准教授で医師・医学博士の財津將嘉さん(3月まで東京大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学 助教)に話を伺った。

日本人を対象に、低~中等度の飲酒とがん罹患リスクを推計

研究の詳細に入る前に、まずは財津さんたちがこの研究を行った背景を確認しておこう。

先生、今回、なぜこういった研究に取り組まれたのですか? そう尋ねると財津さんはやさしい口調でこう話し始めた。

「従来から、多量飲酒者の健康リスクについては数多く指摘されてきました。これまで国内外における飲酒についての主な研究も、多量飲酒の人を対象としており、少量飲酒に関するものはほとんどありませんでした」(財津さん)

「それが最近になって、2018年に発表された『Lancet』の論文などにより、少量飲酒の危険性が示唆されるようになりました。しかし、この 研究の対象者は195カ国(および地域)にも及びます。人種により体質が異なるのはもちろん、医療環境など社会的背景も異なります。そこで『体質や社会的背景が近い日本人を対象としたら少量飲酒のリスクはどうなるのだろう?』というところから、私たちの研究はスタートしました」(財津さん)

「そして日本人の死因のトップはがんです。しかし、日本では低~中等度の飲酒とがんの罹患リスクに着目した研究は少なく、明確な結果も出ていませんでした。こうした背景から、低~中等度の飲酒によるがんのリスクをターゲットにしたのです」(財津さん)

なるほど。同じ人間であっても、外国人と日本人では体質が異なる。前述のように、日本人は欧米人に比べてアルコールの分解能力が低い人がいること はよく知られている。そして、日々の食事の内容、さらには医療レベルや病院へのアクセスのしやすさ、そして健康保険制度や企業や地域で行われる定期健診と いった社会的背景も異なる。だからこそ、財津さんは日本人を対象とし、さらに最大の死因であるがんに着目したわけだ。

今回、財津さんたちは、全国33カ所の労災病院の入院患者病職歴データベースを用いて、「新規がん患者」の6万3232症例と「がんに罹患してい ない患者」の6万3232症例を同定し、両群を比較することで低~中等度の飲酒とがん罹患リスクを推計するという症例対照研究を実施した。ここでは、年齢、性別、診断年、診断病院などをそろえて比較している。

対象者の平均年齢は69歳で、男性は65%、女性は35%。病院に入院する際に、1日の平均酒量やこれまでの飲酒期間(年数)も調査している。「この飲酒期間を分析の対象に加えているところが、この論文のポイントの1つです」と財津さん。

確かに、「飲酒期間」という要素があると、「いつも飲んでいる量を、このままずっと続けていったらどうなるか?」も見えてくる。これは左党にとって、かなり気になるところだ。

この研究においては、純アルコールにして23g(日本酒1合相当)を1単位として、1日の平均飲酒量(単位)に飲酒期間(年数)をかけたものを飲 酒指数(drink-year)と定義している。例えば、1日当たり日本酒1合の飲酒を10年間続けたら「10drink-year」ということになる。

1日1合を10年間飲み続けると、がんの罹患リスクは1.05倍

ここまでの説明で、研究の内容はよく分かった。続いて、いよいよ本題。研究結果について財津さんに聞いていこう。少量の飲酒におけるがんのリスクはどのくらいなのでしょうか?

日本人を調査対象にした本研究においても、少量から中等度の飲酒でも、がんのリスクは上昇するということが明確になりました。飲酒しなかった人が最もがん罹患のリスクが低く、飲酒した人のがん全体の罹患リスクは、低~中等度の飲酒において飲酒量が増えるにつれ上昇しました」(財津さん)

「そして、1日1杯(純アルコールにして23g)を10年間続けることで(10drink-year)、お酒を全く飲まない人に対し、何らかのがんに罹るリスクは1.05倍上がるという結果になりました」(財津さん)

少量の飲酒でもがんのリスクは上昇する、そして飲酒しなかった人のリスクが一番低い。つまり「飲まないにこしたことはない。飲むなら少量がいい」ということか…(がっくり)。

しかし、この1.05倍という数値はどう判断すればいいのだろうか。1.05倍とは、5%リスクが高くなるということ。リスクが上がるのは確かとはいえ、そんなに大きなリスクとも言えないような…。「思ったより低い…」と思った方もいるのではないだろうか。

先生、これはどう考えたらいいのでしょう?

「確かに、数値だけ見ると、その程度かと思われる人もいると思います。しかし、必ずしもそうとは言えません。この研究で導かれた1.05倍という 結果は『1日1杯(純アルコールにして23g)を10年間続けること』から算出されています。しかし飲む量が2、3杯と増えていけば、10年よりも短い年 数でがんのリスクが上昇するということになります。お酒好きの方の多くは、まず1杯で終わることはないですよね(苦笑)。また、これは適量を10年間飲み続けたケースの値ですから、20年、30年と飲み続ければ、その分リスクは上がります。決して軽視できる数値ではありません」(財津さん)

では、酒量が増えたり、飲酒期間が長くなると、リスクはどうなるのだろうか。それを示すのが下のグラフだ。

累積飲酒量とがん全体の罹患リスクの関係
横軸の累積飲酒量は、1日の平均飲酒量(アルコール換算で23gが1単位)に飲酒期間(年 数)をかけたもの。例えば、1日1単位(日本酒1合相当)の飲酒を10年間続けたら「10drink-year」。縦軸は、飲酒をしない人と比較した、何らかのがんに罹るリスク(オッズ比)。

これを見ると、飲酒量、飲酒期間が大きくなる(=累積飲酒量が多くなる)ほど、がんの罹患リスクが上がることが分かる。例えば、 50歳前後の人なら、20歳くらいから飲み始めているだろうから、飲酒期間は30年。これで1日当たり日本酒2合を飲んでいたら(=2単位)、 60drink-yearということになり、がんの罹患リスクは1.2(=20%増)程度になることが分かる。財津さんが話す通り、これは決して無視していい数字ではない。

筆者自身、日々節酒を心掛けているとはいえ、「1杯で終わる」ということは、なかなかできない。飲む量に比例して、短い年数でがんのリスクが上がっていくとなると、「大したことない」なんて言っていられないのだ。

◇     ◇     ◇

少量飲酒がカラダによくないことは予想していたとはいえ、やはり左党にとって残念な結果となってしまった。

ちりも積もれば山となる。酒もまた「ちょっとだからいいや~」と、少量を日々重ねていけば、がんのリスクは確実に上がっていくというわけか…。

酒豪はよく、「ビールなんて水と同じだから、飲んだうちに入らない」なんて言うことがあるけれど、とんでもない。カラダはしっかりカウントしているのだ。

ここまで、少量の飲酒とがん全体のリスクについて話を聞いてきた。しかし、一口にがんといっても、肺がん、胃がん、肝臓がんなど、さまざまな部位 のがんがある。飲酒により影響を受けやすい部位と、受けにくい部位があるだろうことは想像に難くない。果たしてどのがんのリスクが高くなるのだろうか。これについては次回触れたいと思う。さらに、財津さんがお勧めする「飲み方」についても聞いていこう。

(図版:増田真一)

財津將嘉(ざいつ まさよし)さん
獨協医科大学医学部 公衆衛生学講座 准教授

[日経GOODAY]