飲酒のデメリット、ここにも。。。

筋トレ後にお酒を飲むと、せっかくの効果が台無しに?

「筋肉の合成が飲酒によって抑制される」ことが研究で明らかに

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

コロナ禍によって自宅で筋トレをする人が増え、また、自宅でお酒を飲む人も増えている。世の酒好きは、筋トレ後の飲酒を楽しみにしながらトレーニングに励んでいるかもしれない。だが、それは「百害あって一利なし」だとしたら? 筋トレと飲酒の関係について、立命館大学スポーツ健康科学部教授の藤田聡さんに聞いた。

酒飲みは筋トレをしても効果が薄い…?

 「筋トレ始めました」

何だか夏の定番「冷やし中華始めました」みたいだが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛を機に、筋トレを始めた人がなんと多いことか。

多分に漏れず筆者もその1人で、軽量のダンベルや腹筋ローラーを買い込み、せっせと自宅筋トレを行っている。そのおかげが、なんとなーく、うっすらと腹部に縦線が入ってきたような…。

しかし、しかしである。日々30分近く筋トレを行い、プロテインだって飲んでいるのに、思ったようには筋肉がつかない。筆者と同様のことを口にしているのが、周辺の酒飲みたちだ。

筋トレの方法が間違っているのか、それとも酒が影響しているのだろうか? そういえば、酒飲みたちの多くが、トレーニング後のビールやハイボールを楽しみにしている(筆者も)。もしや、酒が筋トレに何らかの影響をしているのではないだろうか…?

ネットで検索すると、「筋トレ後のアルコールはNG」という記事も散見する。これはもう識者に聞くしかない。立命館大学スポーツ健康科学部教授で、『図解 眠れなくなるほど面白いたんぱく質の話』などの本を監修している藤田聡さんにお話を伺った。

藤田先生、筋トレの後にお酒はNGという記事を目にしたのですが、真意はどうなのでしょう?

「残念ながら本当です。筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼします。それを示す研究結果もあります。ちなみに筋トレ前に飲んでも、血中のアルコール濃度は急激には下がらないので、結果はあまり変わらないですね」(藤田さん)

ショック…。覚悟はしていたけれど、やはり筋トレとアルコールは相性が悪いのだ(涙)。

ではなぜ、筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼすのだろうか。筋肉の合成の仕組みを踏まえつつ、教えていただいた。

アルコールによって筋肉の合成率が下がる

「筋トレを行うと、筋肉を合成する生理作用が高まります。その際、筋肉の合成を高めるスイッチとなるmTOR(エムトール)という酵素が細胞内で働き、たんぱく質の合成が活性化されます。mTORを作用させるには、筋トレ以外に、たんぱく質を摂取して血中のアミノ酸の濃度が高まることが有効といわれています。ところが、筋トレ後にアルコールを飲んでしまうと、このmTORの作用が抑制され、筋肉の合成率が3割程度も減るという研究があるのです」(藤田さん)

藤田さんが見せてくれたその研究結果を見ると、一目瞭然だ。

筋トレ後のアルコール摂取と筋たんぱくの合成率
筋トレを行った後の2~8時間の筋たんぱくの合成率を表したもの。オーストラリアのRMIT大学で、8人の運動習慣のある健常者(平均年齢21.4歳)を対象にした研究。(PLoS One. 2014 Feb 12;9(2):e88384. を基に作成)

オーストラリアのRMIT大学で行われた研究では、トレーニング後に、(1)プロテインのみ摂取、(2)アルコール+プロテインを摂取、(3)アルコール+糖質を摂取という3つのパターンを比較した。結果、(2)のアルコール+プロテインのパターンでは、プロティンのみ摂取した場合より、筋肉の合成が24%減少し、(3)のアルコール+糖質のパターンでは37%減少することが分かった。

汗水たらして一生懸命筋トレしても、その後にアルコールを飲んだら効果は激減ということか。そりゃ、いくら筋トレしてもカラダにキレが出ないはずである。肩を落とす筆者に、藤田さんがこんな情報を教えてくれた。

「筋トレ後のアルコールの影響は、女性に比べ男性のほうが大きいと考えられます。アルコールを飲むと、男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が抑制されます。テストステロンは筋肉の合成と深い関わりがあるため、それゆえに男性のほうが筋肉の合成の落ち込みが大きいのではないかと考えられます」(藤田さん)

一瞬、「女性には影響が少ない」とぬか喜びしてしまったが、話の続きを聞くとそうではなかった。

「だからといって、『女性は安心して飲んでいい』というわけではありません。女性でも、筋肉の合成にアルコールが悪影響を与えていると考えられますし、 また長期的に毎日多くのアルコールを飲むことで健康に被害があることは変わりません。アルコールの影響を軽視しないようにしましょう」(藤田さん)

どれぐらいの量なら影響があるのか?

ところで、先ほどの研究で気になるのが、被験者が飲んだアルコールの量である。どのぐらいの量を飲むと、筋肉の合成にこれぐらいの影響が出るのだろう?

「この研究では、体重1kg当たり1.5gのアルコール摂取と、かなり多めの量を飲んでいます。体重が80kgの被験者が120gのアルコールを摂取しているということになります。ウォッカ60mLを4杯なので、どう考えても日常的に飲む量とはいえませんよね」(藤田さん)

…ということは、もっと少ない量であれば、筋肉の合成に影響はあまりないということなのだろうか? また、お酒の種類によって影響の大きさが変わったりしないのだろうか。わずかな希望を持って、藤田さんに聞いてみた。

「現在、どれくらいの量なら問題ないか、というデータはありません。ただ、先ほど挙げた研究の結果から推測すると、筋トレから十分に時間を空ければ、ビール(350mL)1~2缶くらいであれば影響が少ないのかなと思います」(藤田さん)

筋肉の合成が高まるのは筋トレの直後で、その後、合成率がだんだんと下がっていく。先ほどの研究も、2~8時間後の合成率について調べたものだ。そのため、十分に時間を空けて、少な目の量のアルコールを飲む分には、影響は少ないのではというわけだ。

「それから、お酒の種類はあまり関係なく、トータルのアルコールの量が問題になります。ですので、ワインのように、食事とともにゆっくり飲めるお酒か、低アルコールのお酒を選ぶようにするといいと思います。血中のアルコール濃度が急に上がらないようにするのがポイントです」(藤田さん)

朝筋トレして、夜ビール1缶ならOK?

明確なエビデンスはないにせよ、「350mLのビール1~2缶は許容範囲」と考えると、筋トレラブの酒好きとしては、ちょっとホッとする。

ホッとしたところで、藤田さんに気になる質問を1つ。先生ご自身は筋トレ後にお酒を飲むのでしょうか?

「きましたね、その質問が(笑)。僕は朝トレーニングして、夜にほぼ毎晩、ビールを1缶(350mL)飲んでいます。自宅ではこれ以上、飲みません。筋トレ直後に飲まないのは、筋トレ後の筋肉の合成のピークが1~2時間後だから。夜にお酒を飲むのであれば、朝に筋トレを行うのが効率的ではないかと思います。筋トレを行う時間帯による筋肉合成の差は少ないと考えられます。さらに言うと、注意しているのは空腹で飲まないということです。体内におけるアルコールの吸収を緩やかにし、血中アルコール濃度を急激に上げないようにするためです」(藤田さん)

朝筋トレ! これは良さそう。オンライン取材で、パソコンの画面越しでもわかる引き締まった藤田さんの姿を見ると、説得力大である。

「大切なのは、継続する、習慣化するということ。私の場合、トレーニングは毎朝30分で、筋トレとジョギングを15分ずつです。筋トレは、部位を日によって『今日は下半身』『今日は上半身』のように変えれば、飽きずにできます。筋トレは、やり方によっては週2~3回でも効果は出せますが、『明日にすればいいや』などと言い訳して先送りしそうなので、毎日することにしています」(藤田さん)

藤田さんが言うように、何より大事なのは「継続」。筋トレの効果がイマイチという方は、酒量と筋トレの時間を見直すと同時に、飲みを優先してサボっていないかを振り返ってみよう。そして、繰り返しになるが、「トレーニング直後に飲むのは絶対NG」だ。

次回は筋肉の合成に欠かせないたんぱく質の効果的な摂り方について、引き続き藤田さんにお話を伺っていく。

(図版制作:増田真一)

藤田聡(ふじたさとし)さん 立命館大学スポーツ健康科学部 教授
[日経Gooday]

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