幸せは、いつも自分の心の中に探しにいく。。。Vol.2

 

脳科学者・中野信子が「人生では正解を選んではいけない」と言い切る理由 「幸せホルモン」を味方にする方法

「幸せを感じる」ことは、脳と体の相互作用

脳科学の観点で見ると、「幸せを感じる」という営みは、脳と体が絶えず行う相互作用に過ぎません。

そのとき、脳で分泌される神経伝達物質である「オキシトシン」の作用が、幸せの感情をもたらすことが明らかになっています。オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、まだそのすべてが解き明かされていない“謎多き物質”ですが、幸せのカギを握るたくさんの可能性があるとわたしは見ています。

そして、人の「幸せ」についての考え方は主観的なものであり、ひとつのものさしで測ることはできません。

見る人から見れば、たとえバカ騒ぎとしか思えない振る舞いでも、当の本人たちは仲間とわいわい騒ぐことで「みんなから愛されて幸せだ」と感じ、それによってオキシトシンがたくさん出る人もいるわけです。

「幸せのものさし」は人それぞれ

その一方で、ひとりきりの空間で心地良い服を着て、自分の好きな音楽を聴きながらリラックスすることで、オキシトシンが分泌される人もいるでしょう。

人それぞれ好みもちがえば、オキシトシンが出やすい環境もちがうということ。「あの人はいつも“ぼっち”でかわいそう」などと、一概にはいえないわけですね。

幼少期に培われた人間関係のなかで、愛着の対象や自分自身のことをどう思っていたかによって、幸せの価値観もそれぞれちがってくるのです。

あなたの選んだ選択肢に「間違い」はない

他者と幸せの大きさを競うことに、ほとんど意味はありません。

たとえば、世の中には多動的な人がいて、彼らは多くの人と広く浅く交流し、たくさんの情報を交わし合うことによろこびを感じ、そんな自分を肯定して生きています。とくに、いまの時代はSNSなどで情報過多になっているため、そうした交流をうまくやっている人が目立ったり、「幸せ」に見えたりもしま す。

でも、そうでない人たちが不幸せかというと、まったくそうとはいえません。むしろ、わたしは「幸せの基準はたくさんある」ことを、救いに思ったほうがいいと考えています。

「わたしはあの人よりも幸せじゃないかも」
「自分もあの人のように前向きに生きなければダメなんじゃないか」

もし、いまそんな思いや迷いを感じている人がいたら、わたしは脳科学者として、ひとりの人間として、このようにいいたいです。

「あなたの選んだ選択肢で生きることに、なにも間違いはないんだよ」と。

人間は成人するまでに14万8000回もの否定的な言葉を聞かされる

人はなぜ、自分と他人を比べて思い悩むのでしょうか?

それは、おそらくわたしたち日本人が、子どものころから「正解を選ぶ人生」というものに、あまりに慣らされてしまっているからだとわたしは見ています。

人間は成人するまでに、約14万8000回もの否定的な言葉を聞かされるとする説もありますが、これと同じように、わたしたちはあまりにも、「次のなかから正解を選びなさい」といわれ過ぎているのではないかと感じます。

選んだ答えを「正解」にしていくのが人生

しかし、大人になれば「選んだ答えを正解にする力」こそが試されることになる。

「甲斐性のない亭主を選んだけれど、なんとかわたしが出世させてやる」
「自分で選んだ奥さんだから、もう自分好みに仕立てるしかない!」

例として適切でないかもしれませんが……現実には、人生にはさまざまな「正解の仕方」があるわけです。

むしろ、選んだ答えを「正解にする」ことのほうがずっと大切ではないでしょうか。実際に自分が本当に正解を選んだかどうかは、死ぬまで、いや、死んでもわからないのです。「歴史にifはあり得ない」というのは、そういうことです。

本来、誰もが自分の好きなように生きていいのです。自分が感じる幸せの基準にもっと正直になって、そのうえでバランスをうまく取ればいいのです。

「自分の正解の基準」を見つけよう

そして、そんな自分をある程度肯定することも大切です。

とくに女性の場合、なんだかんだと婚活を話題にされることがありますが、「この人が相手で本当にいいのだろうか」と、多くの人が悩むでしょう。そのときに、「みんなが正解だと思う人」を選びたくなる傾向がどうも強いようです。

でも、あたりまえですが、「自分が正解だと思う人」を選ぶべきです。なぜなら、その選択には誰も責任を取ってくれないからです。本来は自分で選べる力を持ったはずの人でも、あまりに正解を求めるくせがついてしまっていることで、多くの人が苦しんでいるように見えます。

そんな自分の考え方のくせを乗り越えていくには、自分の正解の基準を、丁寧に自分の気持ちと向き合いながら見つけていくことだと思います。地味な作業ですが、これはとても大切なことです。

そして、その基準に則って選択をする自分を、自分で肯定するのです。

日本人は不安傾向が強い

繰り返しになりますが、その「肯定力」が心許なく感じるくらい、わたしたちは間違いを選ぶことを許さないように育てられてきたのかもしれません。

また、日本人はもともと不安傾向の高い人が多い遺伝子プールであるとされています。日本には自然災害が多く、それに備えるには楽観的な性質よりも、不安傾向の高いほうが生き延びやすい環境であったわけです。

自分の決断をなかなか正解と思いにくく、曖昧であったり、迷ったりしがちなことが日本人の性質を表しています。

「迷うこと」は人生の幅の広さの証明

でも、考えてみれば、「迷える」ということは、それだけ自分の可能性が残されていると捉えることもできます。

「この人で良かったのかな」
「この仕事で合っているのだろうか」

そのように人は迷いますが、迷うこと自体が、これからの人生の幅がまだまだ広いことを証明しているわけです。

自分なりの幸せを築いていくなら、まず自分の選択や決断をなにより重視する。

そして、迷ったとしても、その迷うことすら自分の「幸せ」の可能性を広げてくれるものとして、堂々と受け入れていく必要があるのでしょう。

[PRESIDENT Online]

幸せは、いつも自分の心の中に探しにいく。。。

生きがいがある人は知っている 人生で大切な4つの要素

 仕事のやりがいや働きがいを求める人が増えている。コロナ禍でリモートワークが推進される中、会社との関係や働き方を見直す機運が生まれていることも、その流れを後押ししている。どうすれば生きがいを見いだせるのか。ベストセラー『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』で紹介されているような強みと、幸せとの関係は? 幸福学研究の第一人者である慶応義塾大学大学院の前野隆司教授が解説する。

私は幸せの研究を行っています。「どんな人が幸せであるか」についての心理学的な基礎的研究と、人々を幸せにする物づくり・サービスづくり・組織づくり・町づくりなどの応用研究です。

そんな私から見て明らかなことの一つは、「自分の強みを明確に持っていて、それを生かせる人は、幸せな傾向がある」ということです。多くの研究者により、強みと幸せの関係についての研究が行われた結果として明らかにされた事実です。

つまり、幸せになるためには、強みを磨くべきなのです。逆に言うと、「強みが見つかっていない人は、幸福度が低い傾向がある」ということでもあります。つまり、強みは見つけたほうがよいと言えます。では、どうやって見つければいいのでしょうか?

自分の強みを見つけるには

「自分の強みが見つからない」という人がいます。まずは、それでいいのだと思います。強みはそう簡単に見つかるものではなく、人生をかけて探していくものなのではないでしょうか。

強みを探すコツは、いろいろなことをやってみることです。やってみないで考えていても、強みは見つかりません。なぜなら、強みとは、長年かけて習熟していくものだからです。長年かけて根気よく続けるためには、「面白いこと」であることが重要です。面白ければ続きますから。

「面白いと思うことが見つからない」という人もいます。こちらも、まずは、それでよいのだと思います。面白いことも、そう簡単に見つかるものではなく、人生をかけて探していくものなのではないでしょうか。

面白いことを探すコツは、いろいろなことをやってみることです。やってみないで考えていても、面白いことは見つかりません。なぜなら、面白いこととは、長年かけて習熟していく中で、面白さが増していくものだからです。長年かけて根気よく続けるためには、強みであることが重要です。他の人に負けない強みになっていたら、続きますから。

繰り返しになっていますね。つまり、「強み」と「面白いこと」は、鶏と卵の関係になっています。どちらかが見つからないと、他方も見つからない。 逆に、どちらかが見つかり始めると、好循環の因果関係ループが回り始め、どんどん、より強い強みと、より楽しいやりがいになっていきます。

つまり、「強み」や「面白いこと」は、やり続けないと深まらないのです。最初から強みだったり、最初から面白くてたまらなかったりは、しないのです。だから、最初は、ちょっとした強み、ちょっと面白いことから始めてみるしかないのです。しかも、始めないと深まらないのです。つまり、人は、いろいろなことにチャレンジしてみるべきなのです。

それでも、自分の強みがうまく見つからない場合は、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』で紹介されている資質が参考になるでしょう。〈クリフトン・ストレングス〉で見いだされる資質は、あなたの強みの源泉です。

あと2つの要素──強みと面白いことに加えて

さて、では、「強み」と「面白いこと」の2つを満たしていれば幸せなのでしょうか。欧米で流行っている〈ikigaiベン図〉によると、あと2つの要素がありそうです。

「生きがい」という言葉は、日本では、やや古臭い表現であるように感じられると思いますが、意外と欧米の人は「ikigai」という日本語を知っています。

英ミドルセックス大学の教授に言われました。「デンマーク語のヒュッゲ(楽しい時間、居心地の良い空間)のような幸福感よりも、日本人の ikigaiのような幸福感のほうが深くて素晴らしい」と。彼の話によると、ikigaiという日本語は「利他的に社会に貢献することを通して感じる幸福感」というニュアンスで欧米に伝わっているようです。

現代日本では、「生きがいは旅行」「生きがいは盆栽」のように、特に利他的ではない趣味について語るときにも使う言葉なので、欧米に広がっているニュアンスに私は驚いたものでした。

さて、欧米で広まっている〈ikigaiベン図〉を見てみましょう(図表1)。

ikigaiベン図では、「What you are good at」「What you love」「What the world needs」「What you can be paid for」の4つが円で描かれています。それぞれは重なり合っていて、4つの円の重なり合った中央の部分が「生きがい(ikigai)」であることを表して います。

それぞれについて見てみましょう。

「What you are good at」は、直訳すると、あなたが得意なこと。まさに強みです。次の「What you love」はあなたが好きなこと。言い換えれば、先ほどから述べてきた面白いことですね。そして「What the world needs」は、社会が必要とすること、「What you can be paid for」とは、あなたが収入を得られることです。

つまり、「強み」と「面白さ」に加えて、「社会が必要とすること」「収入を得られること」の2つも満たしていると、「生きがい」とも言うべき幸福感が得られるというわけです。

幸福度を高める4つの要素

これは、幸福学研究から見ても理にかなっています。強みが幸福度に影響することは冒頭で述べましたが、他の3つも同様です。

あなたが好きで面白くて仕方がないこと(What you love)に熱中するとき、幸福度が高いことが知られています。たとえば、物事を満喫している人は幸福度が高いことが知られています。また、強い熱中・集 中状態のことを「エンゲージメント」または「フロー」「ゾーン」と言います。ポジティブ心理学(幸福感についての心理学)の創始者であるセリグマン教授に よると、エンゲージメント(フロー、ゾーン)は幸福感を形成する5つの要素(PERMA:Pleasant emotion, Engagement, Relationship, Meaning, Accomplishment)のうちの一つです。

また、社会が必要とすること(What the world needs)を行っている状態は、利他的で、親切で、思いやりのある状態ですが、このような利他的な行動が幸福度を高めることは、さまざまな研究により検証されています。

さらに、一定の収入(What you can be paid for)が幸福度を高めることも知られています。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授によると、年収が7万5000ドルになるまでは、年収と感情的幸福は比例する傾向があるのに対し、年収が7万5000ドルを超えると、もはや年収と感情的幸福の間に有意な相関は見られなかったそうです。つまり、一定の収入になるまでは、収入が増加するほど人は幸せになっていきます。

〈ikigaiベン図〉に描かれた4つの円は、いずれも幸福度を高めるための要素なのです。なかでも、4つの円が重なった部分は、幸福度に寄与する4つの要因が重なっているのですから、特に幸福度の高い領域と言えるでしょう。生きがいを感じるわけです。強みを生かし、楽しくて仕方がなく、しかも社会に貢献し、お金までもらえるというのですから、幸せでないわけがありません。

4つの円が重なるところを探す

「仕事で給料をもらっているが、別に好きな仕事ではないし、強みを生かせていないし、社会に貢献している実感もない」という場合は、一番下の部分でしょう。「趣味のゴルフは楽しいが、別にうまくないし、もちろんお金を稼いでいない」という場合は、一番上の部分でしょう。

2つの円が重なっている部分にも名称が書かれています。

強みで、好きだが、社会貢献しておらず、お金ももらっていない部分が「Passion(情熱)」。好きで、社会貢献にもなっているが、お金をもらっておらず、強みでもない部分が「Mission(使命)」。社会に貢献していて、お金をもらっているが、強みでも好きでもないところが 「Vocation(天職、職業、生業)」。お金をもらっていて、強みでもあるが、好きではないし、社会に貢献していない場合が 「Profession(専門職)」です。

ちなみに、リクルートホールディングスが提唱している「Will、Can、Must」も、〈ikigaiベン図〉にある3つの要素に近いですね。 Will(やりたいこと)は「What you love」、Can(できること)は「What you are good at」、Must(しなければならないこと)は「What the world needs」にあたります。〈ikigaiベン図〉は、「Will、Can、Must、Moneyの4つが重なるところを探しましょう」というスローガン を図にしたもの、と言い換えることもできるでしょう。

 やりたいこと、やるべきことを棚卸しする

さて、皆さんが日々行っていることは、〈ikigaiベン図〉のどこに相当しますか?

なるべく重なっているほうが、より生きがいに近く、より幸せな活動だと言えそうです。ですから、「仕事をしてお金を稼ぎ、社会に貢献はしているも のの、まだ自分の強みは見つかっていないし、ワクワクするような仕事ではない」という人(Vocation)は、強みや楽しいことを見つけたほうが、幸福度が上がるでしょう。

「楽しくて仕方がない趣味はあるけど、仕事はそれとは別」という人は、できれば、楽しくて仕方のないことと仕事を一致させたほうが幸せでしょう。脱サラしてペンション経営を始めましたとか、農業を始めましたという人はこのタイプでしょうか。

一度しかない人生、「まあ仕事だから仕方がない」「どうせ自分はこんなものだ」なんて言っていないで、4つの円の重なるところを模索すべきではないでしょうか。

そう思って、私は「やりたいこと、やるべきこと棚卸しシート」というのを作ったことがあります。「いま仕事で」「いまプライベートで」「将来、現世で」に分けて、「やりたいこと」「できること」「やるべきこと」「気づき」を記入します。そして、全体を眺めて、気づきを得ます。

私が以前やってみたものを、図表2に掲載します。ぜひ、皆さんもやってみてください。少し時間がかかるかもしれませんが、きっと何か気づきを得られることでしょう。そして、さらに幸せになるためのヒント、生きがいのためのヒントが見つかることでしょう。

多くの人が、強みと、やりたくてしょうがないこと、社会のためにやるべきこと、そしてお金を得られることの重なる部分を見つけ、生き生きと幸せに生きていかれることを、心から願っています。

前野隆司(まえの・たかし)
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

[日経ビジネス]

このところまた若干全粒穀物摂取不足、、、あらためて心がけます。。。Vol.2

 

大麦、オートミール…全粒穀物の摂取を増やすと内臓脂肪や血糖値が改善

腸で発酵を促す食物繊維を豊富に含む全粒穀物の底力(中)

柳本操=ライター

腸の中で発酵する食物繊維や抗酸化物質などを丸ごととることができる、全粒穀物。さまざまな病気のリスクを減らすことがわかってきたが、なかでもメタボや 血圧、がんといった年齢とともに気になる病気のリスクを下げる働きに注目したい。今回は、大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授に、日本人を対象に確認さ れた大麦ごはんを用いたメタボ改善研究についてや、大腸がんとの関わりなど、全粒穀物を食べると体の中でどのようなことが起こるのかについて聞いていこう。

主食を大麦にすると満腹感が高まり、内臓肥満が改善する

前回は、全粒穀物を継続的にとる食生活によって糖尿病、心血管疾患、がんや脳卒中による死亡リスクが低下すること、数ある食品のなかでも全粒穀物は糖尿病発症予防に高い有効性を発揮することなどの世界の最新研究報告についてお伝えした。

テレワークが中心になり、運動不足によって体重が増え、健康診断の数値が悪化してきたり、糖尿病や高血圧、脂質異常症といったメタボリック・シンドロームが気になる人も多いかもしれない。ぜひ、すぐに取り組める食生活対策として全粒穀物の摂取を始めよう。

日本人はもともと全粒穀物を多くとる食生活を送っていました」と、大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授は言う。

1960年ごろまで、日本では大麦を代表とする雑穀がよく食べられていたが、食感の良い白米やパン食の普及とともに、主食は精製穀物に切り替わった。そ れにより食物繊維摂取量はしだいに減少。そして、1970年代から欧米型の食生活が主流となると、脂質過多(特に、動脈硬化のリスクを高める飽和脂肪酸の 摂取量の増加)が起こり、並行して食物繊維摂取量はどんどん減少。その結果、大腸がんなどの病気のリスクが上昇してきた。

だからこそ、体をリセットする食事の根幹として、日々の主食を全粒穀物にスイッチすることが健康維持には有効といえる。

食物繊維は便秘解消のためにとるもの、という認識だけではもったいない。では、数ある全粒穀物の中で、私たちは何を選べばいいのだろうか。青江教授が勧めるものの一つが、全粒穀物の中でも多彩な機能性を持つ水溶性食物繊維β‐グルカンを豊富に含む「大麦」だ(*1)。大麦は、そのメタボ改善効果が日本人を対象にした研究で確認されているという。青江教授は、白米を大麦ごはんに置き換えることによって、日本人の内臓脂肪肥満が軽減できるかを検証する研究を行った。1日2食の3割大麦配合ご飯(β-グルカン1日あたり2.8g)を12週間とることで、腹囲と内臓脂肪面積が有意に減少した(下グラフ)。

大麦のβ‐グルカンで内臓脂肪肥満が改善した
BMI25以上の成人男女50人を対象に、白米パックライス1日2食または30%もち性大麦 配合パックライス1日2食(β-グルカン1日あたり2.8g)を12週間摂取する試験を行った。その結果、もち性大麦摂取群では腹囲、内臓脂肪面積が有意 に減少した。(データ:ルミナコイド研究;18,1825-33,2014)

大麦の内臓脂肪肥満の改善効果について、青江教授は「大麦の水溶性食物繊維は、ねばねばとした粘性があるため、食べると胃の中でふくらみ、長くとどまります。また、満腹感を高める消化管ホルモンの分泌にも影響して食べ過ぎを抑え、食事のエネルギー摂取量を低減させることができます」と説明する。

青江教授は、朝食で大麦ごはんを摂取すると、白米ごはんを摂取した場合と比較して、満腹感が高まり、昼食時のエネルギー摂取量が有意に減少することを別の研究でも確認済みだ(*2)。また、朝食あるいは昼食に大麦を含む食事をとることで、次の食事の血糖値の上昇を抑えることや、血中コレステロールの低下作用も確認している。

つまり、大麦はダイエット、血糖値抑制、コレステロール抑制の効果が実証されているのだ。

*1 麦ご飯用の大麦は、外皮が除かれているため厳密には全粒穀物ではないが、食物繊維量は全粒大麦とほぼ同じであることから同等に扱える。
*2 Plant Foods Hum Nutr. 2014; 69(4): 325–330

もち麦、オートミール、全粒粉パン。いずれもメタボを改善

大麦というと、従来の押し麦のようなポソポソした食感をイメージするかもしれないが、すっかり人気も定着している「もち性大麦(もち麦)」は、冷めても硬くなりにくく、もちもちした食感が特徴で、食べやすい。

これまでの研究をもとに、青江教授は「もち麦を白米に3割混ぜたものを1日2食でβ-グルカンを約3gとることができます。内臓脂肪低減効果や、コレステロール正常化効果は、このような十分実現可能な量で得られるのです」と話す。

これらの研究を受け、日本では、大麦由来β-グルカンについて以下の3つが「機能性表示食品」に表示されている。

整腸作用

血中コレステロール正常化作用

食後血糖値上昇抑制作用

また、世界でも、β-グルカンを豊富に含む大麦やオーツ麦で、以下のような健康強調表示が認められている。

β-グルカンは世界でもその健康機能が認められている
(データ:日本食生活学会誌26,1,3-6,2015)

もちろん、全粒穀物はもち麦だけにあらず。いろいろな種類の全粒穀物がスーパーマーケットに並んでいる。

「大麦と同様に、β‐グルカンを豊富に含むのが、オーツ麦(オートミール)。オートミールでも大麦と共通した効果が得られると理解してください」(青江教授)

では、全粒小麦や小麦ブラン(オールブラン)はどうなのだろうか。これらには、不溶性食物繊維の1つであるアラビノキシランが含まれている。このアラビノキシランは、不溶性食物繊維でありながら腸内で発酵する働きがあることがわかってきたことは、前回もお伝えした通りだ。大麦やオートミールだけでなく、小麦を含めて全粒穀物全般にメタボ改善効果があるととらえて、食べやすいものからトライするといいだろう。なお、アラビノキシランは、全粒小麦粉や、小麦ブランには豊富で、そのほか大麦やオーツ麦、また量は少ないものの玄米や発芽玄米にも含まれている。

さて最後に、メタボ改善などの効果をしっかり得るために、どんな点に気をつければいいのかを聞いてみよう。青江教授は2つのコツがあるとアドバイスする。

1. 毎日とり、長く続ける

主食を全粒穀物に置き換えて、毎日、長い期間継続すること。「腸内環境を変えるには、コンスタントに腸内細菌のエサとなる食物繊維を送り届 けることが大切です。1日1回が習慣化しやすいのならまずはそこから始める。朝食でとるのを達成できたら、夕食にも取り入れてみる、というふうに回数を増 やしていきましょう。1日2回の全粒穀物で、ヒト試験においても効果が得られています」(青江教授)。

2. 多様な食材からとる

1種類だけに偏らず、いろいろな種類の全粒穀物をとろう。「大麦のβ-グルカンは、大腸の真ん中あたりまでで発酵する一方、全粒粉や小麦ブランに含まれる アラビノキシランは、食物繊維が絡まり合っているため、長い大腸を通過するうちに発酵を受けやすい状態に変わり、大腸の奥のほうで発酵します。腸の入り口から奥まで、まんべんなく発酵が起こるように、多種類の全粒穀物をとりましょう」(青江教授)。

血圧低下、大腸がんリスクを下げる働きも

全粒穀物の健康効果は多岐に及ぶ。最新研究から高血圧の改善や大腸がんリスク低下も期待できることが見えてきた。

高血圧は、心筋梗塞や脳卒中など突然死リスクを高くするが、その代表的な対策である減塩を継続するのは難しく、セルフケアではなかなか改善しにくいのが問題とされている。全粒穀物には、この高血圧のリスクを下げる可能性も見いだされてきている。

高血圧を発症していない19~68歳の日本人男女944人を3年間追跡した研究からは、これを裏付ける結果が得られた。この研究では、対象者に食事アン ケートを行い、全粒穀物の摂取量を評価したが、全粒穀物を「ときどき、またはいつも摂取する」グループは、「全く摂取しない」グループよりも高血圧の発症 リスクが有意に低かった(*3)。

この結果に対して青江教授は、「まだメカニズムは確認されていませんが、食物繊維をとることによって腸内の発酵が促されて産生される短鎖脂肪酸が、血圧調節を邪魔する腎臓の毒素を減らすのでは、と推測しています」と語る。

さらに、全粒穀物の摂取量は日本人女性の死亡率1位、男性の死亡率3位である「大腸がん」リスクと関連が強いこともわかってきた。

2019年に発表されたアメリカの研究(*4)において、全粒穀物の摂取量が少ない人では大腸がんリスクが高まる、と報告されたのだ(下グラフ)。この 研究は、食事とがんリスクとの関連を評価したもので、数あるがんの中でも、食事の影響が最も大きいのは大腸がん(結腸・直腸がん)だった。そして、大腸が んのリスクの中で最も関連が深いのが「低全粒穀物」、つまり全粒穀物の摂取量が少ないことだとしている。

*3 Nutrients. 2020 Mar 26;12(4):902.
*4 JNCI Cancer Spectrum (2019) 3(2): pkz034
全粒穀物摂取が少ないと大腸がんリスクが高くなる
米国で成人の約8万人のがん症例をもとに食事とがんリスクの関連について評価した研究。グラフの横軸は症例数で、数字が大きいほど影響が大きいことを示す。全粒穀物の摂取が少ない、乳製品の摂取が少ない、加工肉の摂取が多い、野菜の摂取が少な い、果物の摂取が少ない、赤身肉(未加工)の摂取が多い、甘味飲料の摂取が多いの7つの食事要因で見たところ、大腸がんは最も食事因子との関連が強く、食 事内容では、全粒穀物の摂取量が少ないとがん発症割合が高くなり、特に大腸がん(結腸と直腸)において大きい影響を示していた。次いで多かった食事因子 は、乳製品の摂取量が少ないこと、加工肉の摂取量が多いことだった。(データ:JNCI Cancer Spectrum (2019) 3(2): pkz034)

青江教授は、大腸がんリスクと全粒穀物の関連についてこう話す。

「腸内細菌叢(さいきんそう)の乱れは、腸内細菌の種類の減少(多様性の低下)や有用菌の減少をもたらし、炎症性腸疾患や肥満症、動脈硬化、糖尿病、が んなどの病気リスクを高めることが報告されています。いっぽう、全粒穀物をとると、豊富に含まれる発酵性食物繊維をとることができ、腸内の発酵によって短鎖脂肪酸が産生されます。この短鎖脂肪酸が、腸内を有用菌のすみやすい環境に整えたり、腸粘膜バリアを保護したり、炎症を抑えるといった働きをすることに関わるのではないでしょうか」(青江教授)

メタボ改善にも大腸がんリスク予防にも関わる短鎖脂肪酸を増やすには、全粒穀物をしっかりとることで腸内細菌叢を改善することが重要だ。

メタボ改善や大腸がん予防を念頭に、ぜひ毎日とりたい全粒穀物。最終回では、パン派、ごはん派がそれぞれどのように全粒穀物を取り入れていけばいいかを聞いていこう。

(図版制作:増田真一)

青江誠一郎
大妻女子大学家政学部食物学科 教授

[日経Gooday]

このところまた若干全粒穀物摂取不足、、、あらためて心がけます。。。

 

世界のエビデンス続々 私たちはもっと全粒穀物を食べるべき

腸で発酵を促す食物繊維を豊富に含む全粒穀物の底力(上)

柳本操=ライター

(驚)(汗)

肛門科医が教えるトイレの「正しい使い方」

「お尻の洗いすぎ」で引き起こされるトラブル

「お尻の洗いすぎ」になっていないかチェック

私の診療所では、患者さんの問診票に必ず衛生習慣に関する質問項目を入れています。次のようなものです。

1.温水洗浄便座機能について
・排便に関係なくトイレに入るたびに使っている
・自宅以外のトイレでも使っている
・温水で刺激しながら排便している
・15秒以上、洗浄している
2.入浴について
・肛門にシャワーを直接当てている
・肛門や外陰部をこすって洗っている
・せっけんやボディーソープで肛門や外陰部を洗っている
3.衛生習慣について
・お尻拭きやウエットティッシュなどで肛門を拭いている
・マキロンなどの消毒液で肛門を消毒している

多くの患者さんは、ほとんどの項目に丸をつけます。この記事を読んでいるみなさんの中にも、たくさん丸がつく方がいるかもしれません。実は、1つでも丸がついたら、お尻の洗いすぎ、ケアのしすぎです。

少し前までは病院でも「お尻はキレイに洗って清潔に!」と指導していました。しかし、弊害が出始めたのです。それは15年以上前のことですが、日本大腸肛門病学会で黒川彰夫医師によって「温水便座症候群」という病名が提唱されました。

これを受けて、医療の現場でも「お尻は洗いすぎないように」という指導方針に変わっています。お尻を洗えば洗うほど、ケアすればケアするほど、自ら病気を引き起こしてしまう可能性があるのです。

トイレに行けば必ず温水洗浄便座の洗浄機能を使い、お風呂ではせっけんをつけたボディタオルなどでしっかりこすり洗いをする人や、中にはアルコール消毒をする人までいます。

そうした行動をするのは「何回拭いても、紙に便がついている」「下着に便がつくから洗わなければいけない」という理由が多いのではないでしょうか。 お尻、とくに肛門は便の通り道でもあるため、“汚い”というイメージがあるため、「キレイにしておきたい」「清潔にしておきたい」という意識が高いようで す。

しかし、「洗いすぎ」はお尻のトラブルを引き起こす原因となります。それは、「皮脂膜」がなくなってしまうからです。皮脂膜は、皮膚の表面を潤している天然の油分であり、とても重要な皮膚のバリア機能を担っています。

皮脂膜は外部から有害な物質を侵入するのを防ぐだけでなく、弱酸性のためバイ菌の増殖を防ぎ、皮脂膜の中にいる常在菌が肌を守ります。また、皮膚の 表面が皮脂膜という油分で覆われているので、皮膚内部の水分が蒸発せずにすんでいます。肌を守り、水分の蒸発を防ぐ皮脂膜は、洗いすぎると簡単になくなってしまいます。そのため、洗いすぎたお尻は免疫力が低下して、さまざまなトラブルを引き起こすのです。

トイレの「正しい使い方」

会社ではなかなかトイレに長時間こもることができませんが、テレワークだとあまり時間を気にせずトイレに入りやすいものです。便がスッキリ出ないか ら出るまで待ってみたり、スマホや本を持ち込んで排便している間に数十分経っていたり……。どれくらい1日にトイレに滞在しているか思い浮かべてみてください。

トイレで読書するとはかどるという患者さんもいますが、そんなことは言語道断です。トイレでは、椅子に座るのと違い、肛門が座面よりも下になります。

ただ座っているだけでもお尻がうっ血し、無意識にいきんでしまっていることもあり、お尻に負担がかかります。そのため、痔などのお尻のトラブルを引き起こす可能性が高くなるのです。

お尻のトラブルを引き起こすトイレ習慣が定着している人は、まずはトイレでの過ごし方や温水洗浄便座の使い方を見直す必要があります。

はじめは洗わないと気持ち悪いと感じたり、物足りなさを感じたりするかもしれませんが、「正しいトイレの入り方」や「洗わないこと」が、お尻のトラブル防止につながるのです。

[東洋経済ONLINE]