高タンパク&高ビタミン!

筋肉を健康に保つにはビタミンC摂取が大切

筋肉には、骨格に付着してこれを動かす「骨格筋」、内臓を構成する「平滑筋」、心臓を作っている「心筋」があるが、食事からのビタミンC摂取量が骨格筋量と関連していることが英国の研究で明らかになった。

骨格筋量は加齢に伴って減少し、筋力や身体機能の低下につながる。

研究は42~82歳の男女1万3000人以上を対象に行われた。骨格筋量は生体インピーダンス法で測定した。7日間に摂取した食べ物と飲み物をすべて食 事日記に記録してもらい、ビタミンC摂取量を算出したところ、平均は男性89.8mg/日、女性93.7mg/日だった。血液中のビタミンC濃度の平均は 男性56.9μmol/L、女性68.9μmol/Lで、ビタミンCが不十分な人(50μmol/L未満)は男性の34.7%、女性の16.8%を占め た。なお20歳以上の日本人のビタミンC摂取量は102mg/日と報告されている(平成30年国民健康・栄養調査結果)。

解析の結果、男女ともに、食事からのビタミンC摂取量が多い人ほど、また血中ビタミンC濃度が高い人ほど骨格筋量が多いことが確認された。食事からのビタミンCは果物、野菜、ジュースの順で多く摂取されていた。

研究者らによれば、骨格筋に必要な脂肪酸の代謝に関わるカルニチンや、皮膚や腱などを構成するコラーゲンの合成にビタミンCが重要であるという。加齢による筋肉減少を抑えるにはビタミンCの摂取も大切なようだ。

八倉巻尚子=ライター

[日経Gooday]

飲酒のデメリット、ここにも。。。その2

筋肉を増やすなら、お勧めの酒のつまみはどれ?

赤身の肉や魚、鶏のささみなどで動物性たんぱく質を摂取しよう

葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

せっかく筋トレをしても、直後にお酒を飲んでしまうと、その効果が台無しになる…。トレーニング後の飲酒を楽しみにしていた酒好きな人にとって衝撃的な事 実を、立命館大学スポーツ健康科学部教授の藤田聡さんから聞いた。それでは、筋肉を増やすなら、どのようにたんぱく質をとるのがいいのか、酒のつまみなら 何がいいのか、引き続き藤田さんに教えてもらおう。

 アルコールは筋肉の合成に影響を及ぼし、筋トレ後に酒を飲むと筋トレの効果が台無しになる。

前回分かった衝撃的な事実は、筋トレラブの酒飲みにとって、かなりショックだったのではないだろうか。立命館大学スポーツ健康科学部教授で、『眠れなくなるほど 面白い 図解たんぱく質の話』などの本を監修している藤田聡さんは、「筋トレを行うと、筋肉の合成を高めるスイッチとなるmTOR(エムトール)という酵素が細胞内で働きますが、筋トレ後にアルコールを飲んでしまうと、このmTORの作用が抑制され、筋肉の合成率が3割程度も減るという研究があります」と話す。

ただし、藤田さんも実践している、「朝に筋トレを行って、夜にビール1缶程度なら許容範囲」というやり方は、量こそ少ないけれど救いになった…、はず。

筆者は、藤田さんに取材して以降、筋肉の合成が高まっている筋トレ直後に酒を飲むのはやめた。そして、すっかり“朝トレ派”となったのだが、筋トレ後、汗を拭きながらプロテインを飲んでいて、ふと思った。

「当たり前のように筋トレ後にプロテインを飲んでいるけど、これでホントにいいのだろうか? また、日頃の食事では何を食べればいいのか、そして酒と合わせるつまみには何をチョイスするといいのだろうか?」と。

そこで前回に引き続き、しっかりと筋肉をつけるためのたんぱく質の話を藤田さんに伺おう。

筋肉の水分以外は80%がたんぱく質

まずは、たんぱく質の基本的なことを、改めて藤田さんから教えていただこう。先生、筋肉と言えば「たんぱく質からできている」ということは知っていますが、私たちのカラダの中で、たんぱく質はどんな役割を担っているのでしょう?

「体を作る筋肉皮膚内臓などの組織、ホルモン酵素などは、ほぼたんぱく質を材料として作られていて、特に筋肉においては、水分以外の約80%がたんぱく質によって構成されています。また、筋肉のたんぱく質は緊急時に分解されてエネルギー源としても使われることがあります」(藤田さん)

カラダの大部分はたんぱく質からできているということか。たんぱく質がいかに大切かが分かる。また、たんぱく質は気を付けていないと不足がちになる、とも聞く。やはり毎日とるべきなのだろうか?

「はい、毎日摂取する必要があります。食事などで取り込まれたたんぱく質は、アミノ酸へと分解され、体の各部位でたんぱく質に再合成されます。体内では、たんぱく質の合成とアミノ酸への分解が常に行われており、またアミノ酸の一部は燃焼されたり排泄されたりしてなくなるので、たんぱく質を毎日新たにとらなくてはならないのです」(藤田さん)

毎日摂取するとなると、気になるのはその量。素人考えだと、「カラダにいいならたくさんとればいいじゃないか」と思いがちだが…。

「1日当たり3食合計60~70gが理想です。中高年の場合は体重1キロ当たり、0.4gを目安としてください。この計算式でいうと、体重50kgの女性であれば1食当たり20g、3食合計で60gとなります。私自身もこの計算式を利用しています。また、1食で1日分をまとめてとろうとせず、必ず3食に分けてとるようにしましょう」(藤田さん)

1食でどうすればたんぱく質20gがとれるだろうか。肉・魚であれば、部位にもよるが100g当たりだいたい20g程度のたんぱく質を含んでいる。豚ヒレ肉なら2~3切れ、サバなら1切れ、イワシ缶1個が目安になる。

また、卵1個のたんぱく質は約6.2g、牛乳200mLで6.8g、納豆1パック(50g)で8.3g程度だ。ご飯やパンなどの穀物にもたんぱく質は含 まれており、ご飯は茶碗に軽く1杯でたんぱく質が3.8g、食パンなら6枚切り1枚で5.6g程度になる。これらを組み合わせて、まずは1食20gを目指 そう。

がんばれば何とかとれそうな量だが、「朝や昼は時間がなくて、食事の準備が十分にできず、そこまでの量をなかなかとれない」という方もいるだろう。だがご安心を。「たんぱく質は、プロテインでとってもOKです」と藤田さん。

「プロテインは、肉からたんぱく質を摂取した場合よりも、筋肉の合成が早いと言われています。だからといって、食事の代わりにプロテインだけで済ますことは、あまりお勧めできません。あくまでも補助と考えるようにしましょう」(藤田さん)

藤田さんによると、筋肉の合成だけを考えればプロテインのほうが効率がいいのかもしれないが、肉や魚を食べるのはほかの栄養素をとるためでもある。そのため、食事で不足した分、プロテインで補うという考え方がいい、というわけだ。

筋トレ後1~2時間以内にプロテインを飲むのが効果的

「筋トレで筋肉をつけたい人は、プロテインは筋トレとセットにしましょう。飲むタイミングは、厳密に考えなくてもいいとも言われていますが、筋トレの後1~2時間以内に飲むと筋肉の合成が高まるのでより良いと考えられます」(藤田さん)

なお、プロテインを飲むと、それだけで満腹感が得られることがある。そのため、「ダイエット中の人は、食前にプロテインを飲めば、お腹がある程度満たされるので、食事を食べ過ぎることがなくなるかもしれません」という耳よりな情報を藤田さんに教えてもらった。逆に高齢者の方は、食前に飲むと食事が十分にとれなくなるかもしれないので、食後に飲むといい、とのことだ。

ところで、たんぱく質というと、大豆などの「植物性たんぱく質」、肉などの「動物性たんぱく質」に分けられるが、藤田さんが筋肉を増やすためにお勧めするのは「動物性」だという。

「動物性のたんぱく質の利点は、アミノ酸が豊富で、バランスよく含まれているということ。また必須アミノ酸の一種で、筋肉の合成を促すロイシンが豊富なこともお勧めする理由の一つです」(藤田さん)

ロイシンと筋トレがmTORを刺激して筋肉合成を促す

ただし、動物性たんぱく質を摂取するために肉や魚を食べるときに注意したいのは、脂質のとり過ぎだ。藤田さんは、「赤身肉やカツオなど、できるだけ脂肪が少ないものを選ぶようにするといいでしょう」とアドバイスする。

おつまみで言うなら、鶏のから揚げよりも鶏のグリルマグロやカツオなどの赤身の刺身にすれば、脂質のとり過ぎは防げそうだ。ささみの梅しそ巻き、だし巻き卵なども良いかもしれない。また、植物性たんぱく質でも、特に含有量が多い高野豆腐の煮物などはお勧めだ。

なお、筋肉を増やしたいというよりも、筋肉量は維持しつつダイエットしたいという方は、納豆や豆腐などの植物性たんぱく質をとると、脂肪の燃焼効果も期待できるという。

藤田さんによると、「たんぱく質だけでなく、筋肉の合成を促進する食べ物も一緒にとったほうがいい」とのこと。中でも「ビタミンB群とビタミンDは積極的にとるべき」だという。

「ビタミンB群は運動後の疲労回復をサポートし、ビタミンDは筋肉の合成を促進します。これらは、意識して、たんぱく質と一緒にとってほしい栄養素です。また、ほかにも、ビタミンC、亜鉛、鉄、糖質、カルシウムなどをバランスよくとることが大切です」(藤田さん)

ビタミンB群のうちB6は、アミノ酸の再合成を手助けする働きがあり、赤身の魚やささみに多い。ビタミンDは青魚などに多く、また日光を浴びることで体内で合成される。

筋トレラブの酒好きの多くは、「筋肉=たんぱく質」という図式が頭にあるので、ついほかの栄養素をないがしろにしがちかもしれない。また、カラダを絞り 込むため、糖質制限をしている人も少なくないが、「糖質が不足すると、筋肉の分解につながるので注意してください」と藤田さん。筋トレで筋肉をつけたいな ら、糖質もきちんととらなければならないのだ。

寝酒や“夜筋トレ”は避ける

さて、たんぱく質の効果的な摂取の仕方が分かったところで、食事以外の生活面で注意したいことや、トレーニングのコツなどを藤田さんに伺ってみよう。

「お酒が好きな方へのアドバイスとしては、寝酒は極力控えてください、ということ。寝酒は睡眠の質を低下させ、夜中に目が覚めて逆に睡眠不足になったりします。睡眠不足になるとストレスホルモンが分泌され、筋肉を分解する働きが強まります」(藤田さん)

筋トレをはじめとする運動は睡眠の質を高めると言われているが、21時以降に運動すると交感神経が刺激され、なかなか寝付けなくなったりと、逆効果に。「夜に筋トレする場合は、20時くらいまでに終わらせるといいでしょう」と藤田さん。

筆者は、前回の取材以降、自宅での朝筋トレがすっかり定着したが、このところの新型コロナの影響で、会社帰りにジムに行くことが難しくなっている人も多いのではないだろうか。

「ジムに行くのはハードルが高いのであれば、まずは日常生活の中で運動習慣を身につけるようにしましょう。エスカレーターではなく階段を使う、バス停1つ分歩くなど、ちょっと意識を変えるだけでも運動量は増えます」(藤田さん)

初日は「着替えるだけ」でもOK!

これから筋トレをスタートしようと思っている方は、自分のペースで徐々に運動の習慣を身につけていけばいい、と藤田さんは言う。「いきなりダンベルを買 うのではなく、自分の体重を重りとして使う、スクワット、腕立て伏せなどの自重トレーニングや、プランクなど、器具を使わず、自宅でできることから始めて みましょう」(藤田さん)

「最初から完璧なトレーニングプランを立てて、それを実行しようと思うと面倒ですよね。それより、初日はトレーニングウエアに着替えるだけでもいいんです。次の日は、まず着替えた後に、『せっかく着替えたんだし、筋トレしようかな?』と思えるかもしれない。そうやって無理なく体を動かしていきましょう」(藤田さん)

挫折しやすい自宅筋トレも、確かに着替えるだけでもいいと思えば気が楽だ。飲んだ翌朝にしんどいときでも、「まず着替えだけ」と思えば重い腰が上がるし、それから「せっかく着替えたし筋トレするか!」となったらもうけものだ。

コロナ前より自宅にいる時間が長くなった今、「朝筋トレ+たんぱく質摂取」で、筋力を増やし、多少飲み過ぎても太りにくいカラダを目指したいものである。

藤田聡(ふじた さとし)
立命館大学スポーツ健康科学部 教授

[日経Gooday]

蔓延する日本人の寿命を削る悪習慣

日本人がやりがちな「寿命を削る」2つの悪習慣

外出自粛、リモートワークの人ほど要注意

日本人がやりがちな「寿命を削る」2つの悪習慣とは? パーソナルトレーナーの鈴木孝佳氏による『疲れない体を脳からつくる ボディハック』より一部抜粋・再構成してお届けする。

コロナ禍を受けて、リモートワークが推進されている現在。普通に通勤していた頃よりも心身の疲労を感じる人が増えています。その原因は脳と体の「刺激の偏り」にあるかもしれません。

ヒトは本来、自然の中で暮らす生き物で、日中は動いて夜は休むという生活を送ってきました。夜の間はしっかりと脳と体を休めることで、疲れやゴミを取り除いてリセットする。朝日がのぼり、あたりが明るくなるのと同時に起きて元気に活動する。刻々と変化する自然の中で生き抜くために、ヒトは脳と体のあ らゆる機能を最大限に働かせていたのです。

ずっと体を動かさないとどんな悪影響が出るのか

さて、最近の自分の生活を振り返ってみたとき、この「ヒトらしい生活」を送れていると言えるでしょうか? 体を動かさず単調な生活を繰り返していると、実は脳は使わない機能を捨ててしまいます。

体を動かす脳がサビつけば、体もサビつきます。「脳への刺激があるかないか」というインプットの違いは、体のアウトプットにもすぐさま変化をもたらすのです。

例として、目を通じて脳に刺激(インプット)を送り、体を柔らかくする体験テストをしてみましょう。

①直立姿勢から足を閉じて前屈し、地面にどこまで指が近づくか確認する
②元の姿勢に戻り、20秒間“寄り目”で鼻先を見つめる
③再度、前屈をして確認する

寄り目だけで体が柔らかくなるテスト、いかがでしたか? 変わらなかった方もいらっしゃるかもしれませんが、これを試していただいた方には、テスト前は半信半疑でも、深く前屈できるようになり、「魔法!?」とよく驚かれます。

前屈が苦手な方の多くは「体がかたいから」「筋肉が短いから」と考えています。しかし、このテストでわかるように、問題は筋肉の状態ではなく、目の使い方。スマホなどで偏った目の使い方をしていると、視覚情報とつながっている脳の機能も狭まってしまうのです。

そのため、目の運動を行い、脳への刺激(インプット)を増やすと、体のアウトプットである姿勢や柔軟性、筋力は簡単に変わります。テストで前屈がしやすくなった方は「体の動きやすさは筋肉の問題ではなく、脳への刺激の問題」だと体感できたのではないでしょうか?

脳への刺激が不足すると体はどんどん機能を失い、不調をきたすようになります。運動不足は世界的にも問題視されています。WHO(世界保健機関) は、2018年に世界中の14億人以上の成人(18歳以上)が運動不足で、2型糖尿病や心血管疾患、がん、認知症などにかかるリスクが高いことを発表しました。[※注1

これらが“生活習慣病”と呼ばれるように、無意識に過ごしている日々の習慣はダイレクトに健康へ影響しています。暴飲暴食や喫煙などの生活習慣が病気の原因になるのは、誰もが知っていることです。

実際に毎年の健康診断の結果を見て、お酒を控えて塩分を気にする方も多いはずです。しかし、すこし古いデータですが、日本における2007年の生活 習慣病での死亡者数(図)を見てみると、過度な塩分やアルコールの摂取、糖尿病を引き起こす高血糖よりも「運動不足」のほうが死者数が多く、おおよそ5万人もの方が亡くなっています。

(出典:『疲れない体を脳からつくる ボディハック』より)

運動不足も、喫煙や飲酒と同じように健康を脅かす問題の1つなのです。

「座りすぎ」が日本人の生命を削る

また近年では、“座りすぎ”と死亡リスク増加との関連が研究されています。54カ国の死亡者数の3.8%にあたる43万人弱が、毎日、長時間座って過ごす生活習慣によって死亡しているという研究発表もあります。[※注2

実は日本人は「世界一座っている」という調査結果もあるほど、1日の大半を座って過ごしている人が多い国です。[※注3

明治安田厚生事業団体力医学研究所の調査によれば、1日9時間以上座っている成人は、7時間未満と比べて糖尿病になる可能性が2.5倍も高くなります。日本の糖尿病にかかる医療費は世界第5位ですが、もしかすると“座りすぎ”と関連しているのかもしれません。[※注4

“運動不足”や“座りすぎ”といった身近で何気ない毎日の習慣が不調を招き、場合によっては命に関わるということがおわかりいただけたかと思います。自粛生活やリモートワーク中、家で座ってばかりの方は、ぜひちょっとした時間だけでも立ち上がるようにしましょう。

【参考資料】
[※注1]Worldwide trends in insufficient physical activity from 2001 to 2016: a pooled analysis of 358 population-based surveys with 1·9 million participants(Regina Gutholdとその他、2018)
https://www.thelancet.com/journals/langlo/article/PIIS2214-109X(18)30357-7/fulltext
[※注2]All-Cause Mortality Attributable to Sitting Time Analysis of 54 Countries Worldwide(Leandro Fórnias Machado Rezendeとその他、2016)
https://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797(16)00048-9/fulltext
[※注3]日本人の座位時間は世界最長「7」時間! 座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫? その対策とは…(スポーツ庁「DEPORTARE」)
https://sports.go.jp/special/value-sports/7.html
[※注4]公益財団法人 明治安田厚生事業団「MYライフ・ドック®通信 第1号」
https://www.my-zaidan.or.jp/tai-ken/information/lifedoc/doc/lifedoc_01.pdf?190401[東洋経済ONLINE]

股関節ストレッチ2

骨盤の柔軟性を高める「骨盤歩き」「かかと突き出し」で、効率の良い歩行技術を高めよう!

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

身体の柔軟性が怪我の予防に繋がるのはご存じと思うが、身体のパフォーマンスも高める効果も期待できる。登山では、骨盤の柔軟性を高めることで垂直方向への重心移動がスムーズになり、効率の良い歩き方へと繋がる。今回は、そのトレーニング方法を紹介する。

 

こんにちは。登山ガイドの野中です。これまでに、心肺機能や筋力以外に重要となる、登山に必要な身体機能として「柔軟性」について多く解説してきました。

日本人は正座が出来るために、膝関節の柔軟性が高い傾向があります。その一方で、比較すると足関節と股関節の柔軟性が不足しがちです。そのため、日ごろの講習会でも足関節と股関節の柔軟性に重点を置いて指導を行っており、これまでの連載でも解説を行ってきました。

中でも股関節は、下肢の根元の部分に位置するため、股関節の柔軟性は歩行姿勢や歩行動作に大きな影響を与えています。加えて、股関節の動きと連動している骨盤(腰)の柔軟性も重要となってきます。

そこで今回は、骨盤周囲の筋肉の柔軟性と可動域を増やすトレーニング、特に日常の中で取り組めるトレーニング法についてご紹介したいと思います。日々取り組んでおくことで、効率の良い歩行動作が出来るようになっていきます。

 

骨盤の動きを司るのは体幹部の筋肉

骨盤を回旋させる(前後に振る)動きを司るのは殿筋群ですが、骨盤を挙上・下制させる(上下に振る)動きを司っているのが、腹斜筋(腹筋の両脇の筋肉)や腰方形筋です(下図参照)。

これらの筋力が不足していたり、日ごろ動かさないことで硬くなっていたりすると、骨盤の動きが悪くなります。そこで、骨盤の回旋と挙上・下制への意識です。

骨盤を回旋(前後に振る)させる動きと、骨盤を挙上・下制(上下に振る)させる動き

骨盤が動くことで脚が動きやすくなるため、下肢の筋肉の負担が減り、重心移動がしやすい安定した歩行が出来ます。

逆に考えると、骨盤の動きが悪いと脚が動きにくく、下肢の筋肉への負担は増して重心移動がしにくい不安定な歩行となります。特に段差が多い登山道や 登り下り共に垂直方向への重心移動が多くなる登り下りでは、骨盤を動かしながら歩けているかどうかが、効率の良い歩行の鍵になってくるのです。

つまり段差が連続する道が苦手だという方は、この骨盤の動きが少ない可能性が高いと言えます。自分が該当すると考える人は、今回ご紹介するトレーニングに早速取り組んでみてください。

 

おすすめトレーニング法:かかと突き出しと骨盤歩き

骨盤を動かすトレーニングとして長座の姿勢からお尻を使って歩く「お尻歩き」というのが一般的に知られています。

お尻歩きの様子。骨盤を立てて、左右の脚を交互に動かして、文字通りお尻で歩いていく

お尻歩きの動作は、股関節を大きく屈曲させた状態で運動するため、登山での姿勢・動きとは大きく異なります。そこで勧めるのが「かかと突き出し」になりま す。かかと突き出しでは、登山に近い、身体が直立している歩行時に近い体勢となり、骨盤の動きを向上させることが出来ます。

就寝時など仰向けに寝転がった時に出来る運動なので、毎日寝る前に行うことをオススメします。

あお向けに床に寝転び、骨盤からかかとを押すように突き出す

 

この「かかと突き出し」で骨盤を動かす感覚を掴んだら、次は実際に歩きながら行う「骨盤歩き」にも挑戦してみましょう。骨盤の動きを中心として歩くように するため、あえて「ロボット歩き」のようになるべく膝関節を曲げないようにしながら歩きます。骨盤を挙上・回旋させる動きだけで前進していく運動です。

街中でこの歩きをしていると怪しい人だと思われるはずですので、誰も見ていない場所や、室内などで時間を見つけて取り組むようにしてください。

デスクワークなど同じ姿勢を長時間とり続ける生活が多い現代人にとって、骨盤周囲の体幹部の筋力が衰えたり、硬直が起こりやすくなったりします。

不安定な歩き方による身体への影響は、舗装路を短時間歩く分には問題は生じにくいですが、長時間の登山歩行には大きく出てきます。効率のより登山歩行を実現するために、脚だけでなく、骨盤、上半身と全身が上手く連動して動かすことが出来る状態を目指しましょう。特に、骨盤は上半身と下半身を繋げる重 要な部分です。意識的にトレーニングすることをオススメしたいと思います。

なお、私が主催している「山の歩き方講習会」「登山歩行技術講習2Days」は主に10-5月に定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください

野中径隆(のなか みちたか)
Nature Guide LIS代表

[YAMAKEI ONLINE]

股関節ストレッチ

ストレッチで股関節の柔軟性を高めれば、登りも下りも楽になる。股関節周囲の筋肉のストレッチ方法

理論がわかれば山の歩き方が変わる!

股関節周囲の柔軟性は、登山では欠かせない要素となっているものの、どうして重要なのか/どのように柔軟性を高めれば良いのかについて、わからない人も多い。そこで今回は、取り組んでもらいたい股関節周囲の筋肉のストレッチ方法について解説する。

 

こんにちは。登山ガイドの野中です。先月の記事では骨盤周囲の柔軟性について解説しました。今月はこの続きとして、股関節周囲の柔軟性について解説していきたいと思います。

人間の体は股関節を中心として脚を前方に上げる(屈曲させる)と90度以上曲げることが出来ますが、反対に脚を後方に上げる(伸展)動きは15~20度程度が一般的です。

股関節屈曲(左)と、股関節伸展(右)

このように、人体の構造上、股関節は屈曲させるよりも伸展させる動きが苦手であると言えるでしょう。

しかし、人間の脚の動きは股関節が起点となって動いています。脚を後方へ動かす(伸展させる)可動域が狭いと、上手く前方へ体を推進させることが出来ません。その代償として、足先を使った「蹴り足」動作に依存する歩き方になってしまいがちです。これでは、ふくらはぎの筋肉への負担が大きくなるうえに不安定となり、落石を起こりやすい歩き方になってしまいます。

また、下山時の歩行では、後ろ足が体重を長く支持し続けることで、着地時の衝撃が大きくなる「ドスン着地」を防いでいます。しかし、脚を後方に動か す(伸展させる)可動域が狭いと、着地をする前足での衝撃を吸収するだけの歩き方になり、着地衝撃が大きくなります。そのため、スリップしたりバランスを 崩したりしやすく、膝関節や大腿四頭筋への負担が大きくなってしまいます。

「股関節のストレッチ」と言うと、一般的には股関節を左右に開くストレッチを想像する方が多いかもしれません。しかし、歩行時に足を左右に動かす機会は少なく、前後に動かすことが大半です。大きな段差など一歩が大きくなるシチュエーションでは、大きく前後に股関節を動かす必要性があるのです。

効率の良い登り、安定して歩行速度を制御する下り、どちらの状況でも、股関節を伸展できる柔軟性を持っていると楽に歩くことが出来ると言えます。

そこで、今回は股関節周囲の筋肉のストレッチ方法を複数紹介しますので、日常的に柔軟性向上に取り組んでみて頂ければと思います。

 

腸腰筋のストレッチ

上半身が前かがみにならないように注意しながら伸ばす

 

大腿筋のストレッチ

両手で上半身を支えて、大腿部と上半身が一直線になるように倒す

 

腸腰筋・大腿筋の同時ストレッチ

バランスを崩しやすいので壁などに片手を置き、つま先か足首を持って伸ばす

 

タオルを活用したストレッチ

足首を掴むことが難しい方は細く折ったバスタオルを使って足首を保持し、ストレッチすることが可能

 

上記、4つのストレッチはいずれも、写真の姿勢よりもさらに胸を張って、首を後ろに倒すと、さらにストレッチ効果が高まりますので試してみてください。以下の動画で確認しながら試すと効果的です。

動画では、これら4つのストレッチ法と合わせて、最後にダイナミックストレッチもご紹介しています。登山前の準備運動の際には、通常のストレッチ(静的ス トレッチ)よりもダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)の方がおススメです。特に冬場の登山の前のウォーミングアップに活用して頂ければと思います。

なお、私が主催している「山の歩き方講習会」「登山歩行技術講習2Days」は主に10~5月に定期的に開催しています。詳しくはホームページをご覧ください。

野中径隆(のなか みちたか)
Nature Guide LIS代表

[YAMAKEI ONLINE]