漫然と不調を感じるのであれば試してみる、、、私も劇的に復調しました。。。

■ADHDを「グルテンフリー」で克服した子供たちの話

まさか、と思うならば…

認知症だけでなく、癲癇、頭痛、うつ病、統合失調症、ADHD、さらには性欲減退を引き起こすきっかけが、最近の研究によってグルテンであると判明していると人びとに伝えると、「まさか。みんながグルテンに敏感なわけじゃないでしょう」という返事が返ってくる。

グルテンについて知られていることといえば、もっぱら内臓の健康であり、神経系の健康状態には注目されていないからだ――。

小麦やライ麦、大麦などの穀物の胚乳から生成されるタンパク質の成分、グルテンを含む食品を摂らない食事法、グルテンフリーはミランダ・カーなどのトップモデルや女優たちが実践したことで広く知られるようになった。

セルビア出身の男子テニスプレーヤー、ノバク・ジョコビッチ選手がグルテンフリーを実践し、パフォーマンスが向上したことを、著書『ジョコビッチの生まれ変わる食事』で発表したことも記憶に新しい。

そんななか、アメリカの神経科医、デイビッド・パールマター氏は、2013年に、『Grain Brain: The Surprising Truth about Wheat, Carbs, and SugarーYour Brain’s Silent Killers』を上梓。これまでとりあげられることがなかった、「グルテンが脳に及ぼす影響」について紹介し、またたくまに全米のベストセラーとなっ た。

同書は、認知予防の第一人者としても知られる、順天堂大学大学院教授・白澤卓二氏により日本語にも翻訳され、『「いつものパン」が あなたを殺す』(三笠書房)というタイトルで刊行されている。30年の臨床経験と実験室での研究を経たからこそ書けるこの一冊の中から、今回はうつや ADHDといった脳疾患とグルテンフリーとの関係に特化した部分を引用紹介する――。

ADHDのS君が回復した理由とは

私が初めてS君に会ったのは、彼が4歳になったばかりのころだった。母親は息子は何かおかしいところがあると思っていたわけではないが、幼稚園の先生にSくんの活発さは異常なので、一度医者に診てもらうのがいいと言われたのだという。

このことでS君を診察する医者は私が初めてではなかった。私のところに来る一週間前、母親が訪ねた小児科医は、S君は、「ADHD」だと診断し、リタリンの処方箋を出していた。

母親は息子に薬を飲ませることを心配し、私に相談に来たのだ。母親がまず話したのは、息子はたびたび怒りを爆発させること、そして、落胆するとどうしようもないほどおののくことだ。

S君にはこんな病歴があった。何度も耳の感染症に苦しみ、数え切れないほどの抗生物質を服用しており、私が彼を診たとき、耳の感染症予防のための抗生物質を、半年間服用しているところだった。この耳の病気以外にも関節の痛みをずっと訴えていた。

S君を診ている間に、3つの重要なことに気づいた。

まず口を開けて呼吸をしており、これは間違いなく鼻腔内で炎症が起きているという証しだった。次に、典型的な「目のまわりのくま」、つまり目のまわ りにアレルギー疾患に伴う黒い輪が出ていた。3番目として、非常に活発だった。10秒以上はおとなしく座っていられず、立ち上がっては診療室の隅々まで歩 き回り、診察台の周囲のものに手を出した。

私はS君にグルテン過敏症の簡単な検査を行ない、グリアジンという小麦タンパク質の一つに対する抗体の値を測定した。予想どおり、その値は正常と考えられている値より300パーセントも高かった。

ここまでの状況を見て私は、S君の抱える一番の問題である炎症の原因を標的にしようと決めた。炎症がこの幼い男の子に起きているほぼすべての事柄(たとえば、耳の問題、関節の問題、落ち着きのなさなど)における大きな問題になっていると考えたからだ。

私は母親に、グルテンフリーの食事を実践してほしいと説明した。

2週間半後、これ以上ない素晴らしい報告がやってきた。

幼稚園の先生から電話によると、S君の振る舞いが大幅に改善しているというのだ。実際、母親は息子が穏やかで対話しやすくなっていて、よく眠っていることに気づいた。薬によるものではなく、食事療法だけで大幅な改善につながったのである。

その2年半後、私は母親から手紙を受け取ったが、その中で彼女はこう語っている。

「Sは学校では読書や算数に優れていますし、活発さ過剰であることはもはや問題にはならないと思っています」

最初にS君がされたように、ADHDは小児科医が頻繁に下す診断の一つだ。

医学的に薬物治療が確立されているために、親たちはその治療法がもっとも「手早い修正」だと思い込まされている。ADHDは薬物で簡単に治療できる 特定の疾患であるという考え方自体は都合がいいが、米国では、気分を大きく変える効果のある薬物治療を何と生徒の25パーセントが定期的に受けているとい う学校があちこちにある。しかし、その治療の長期的影響はまったく研究されていないのだ。

2013年3月に米疾病予防管理センター(CDC)から発表されたデータによると、米国におけるハイスクール年齢の男子のおよそ5人に1人、および学齢期の子供全体の11パーセントはADHDだと診断されている。

そもそもグルテンフリーとは

そもそもグルテンとは「膠(にかわ)」を意味するラテン語で、タンパク質の混合物だ。粘着性のある物質として作用し、クラッカーや焼き菓子、ピザ生地などのパン製品をつくるときに粉をまとめる。

グルテンは発酵の過程で重要な役割を担っていて、小麦粉がイーストを混ざるとパンが膨らむ。

ふわふわのマフィンにかぶりつくとき、あるいは、ピザ生地を焼く前に丸めたり延ばしたりするとき、それができるのはグルテンのおかげだ。実は、今日食べられている、柔らかいけれど、噛みごたえのあるパン製品のほとんどについて、その粘着性はグルテンのおかげなのだ。

多くのアメリカ人は小麦からこのグルテンを消費している。また、地球上でもっともありふれた添加物の一つでもあり、加工食品だけではなく、さまざまな製品にも使われている。

グルテンはまさかと思うところに潜んでいるものだ。調味料やカクテル、さらには化粧品、ハンドクリーム、アイスクリームにも入っている。スープや甘味料、大豆製品にも隠れている。栄養機能食品、よく知られている調合薬にも入っている。

どんなタンパク質でもアレルギーを引き起こすことがあるように、グルテンもアレルギー反応を生む可能性がある。

いまや、グルテン過敏症と、何千年にもわたって医者たちにも理解不能だった脳疾患(統合失調症、癇癪、双極性障害、うつ病、さらに最近の自閉症やADHDなど)との結びつきは証明されている。これは問題なくグルテンを消化できる人や、グルテン過敏症の検査で陰性だった人にさえ当てはまる。

脳疾患も含めてすべての変性疾患を引き起こすのが「炎症」であることは、研究者たちにはかなり前から知られていた。そして研究者たちは、グルテン、さらに言えば高炭水化物の食事が脳に達する炎症反応の原因になっていることを見出しつつある。

炎症は必ずしも悪い反応ではない。体にとって有害であろうと思われるものに対する自己防衛を試みていることを示すという役目もあるのだ。

しかし、この炎症がコントロールできなくなると問題が持ち上がる。

炎症はそもそも比較的短い日数で治るものだ。ところが、この続くはずのないものが、いまや何百万人もの人たちにおいて続いているのである。

炎症が本来の目的から逸脱すると、さまざまな化学物質がつくられ、それらが細胞にとっては直接的に有毒になる。これによって、細胞の機能が低下し、 やがて細胞は破壊される。抑えのきかない炎症は、冠状動脈疾患(心臓発作)、がん、糖尿病、アルツハイマー病、それに実質上、思い浮かぶかぎりすべての慢 性疾患に伴う病的な状態、あるいは死の根本的原因であることがわかっている。

昔は炭水化物中心の食事ではなかった

過去260万年のうちのかなり長い間、私たちの祖先の食事は、野生の獲物、季節の植物や野菜、ときに果実などだった。今日では穀物と炭水化物が中心の食事をとる人がほとんどで、そういった食事の多くはグルテンを含む。

なぜ、これほどたくさんの穀物や炭水化物を平らげることが体にダメージを与えるかというと、穀物や炭水化物が肉や魚、野菜などといった食べ物とは違う方法で、血糖値を上昇させるからである。

穀物や炭水化物が脳を燃やし、炎症を起こす原因の一つは血糖の上昇だ。

血糖の上昇は脳に対して直接に悪い影響をもたらし、脳では炎症カスケード(「カスケード」とは「滝」の意)が始まる。

甘い飲み物だけでなく、穀物を主原料とする食べ物のせいで、私たちの食事には炭水化物による大量のカロリーが含まれている。

パスタ、クッキー、ケーキ、ベーグル、あるいは健康にいいらしい「全粒穀物」のパンのどれであっても、あなたがいつも口にしている炭水化物は、脳や健康の機能にとって、あまり役に立たない。

糖質やグルテンたっぷりの炭水化物は、単に脳の神経組織の発生を妨げ、時間をかけて進行する認知症のリスクを高めるだけではない。炎症性の炭水化物 がたっぷりで、脂肪が少ない食事は心の状態にも干渉してくる。認知症だけでなく、ADHD(注意欠如、多動性障害)、不安障害、トゥーレット症候群、精神 的疾患、偏頭痛、さらには自閉症などの一般的な神経病のリスクにつながるのである。

そして、一つだけ言えることがある。食事からグルテンを取り除く生活を採用することは、脳の病気を軽減するための何より確かな手段であり、この簡潔な「処方箋」はどんな薬物治療にも勝るのだ。

神経障害、精神障害、行動障害の症状の多くを改善するには、グルテンフリーを続けて、DHAや有害なバクテリアであるプロバイオティクスのような栄養機能食品を食事に加えるだけでいい。いま、肥満やアルツハイマー病が蔓延しているのは、おそらく、多くの人々が炭水化物をこよなく愛し、一方で脂肪やコレステロールを避けようとしているせいなのだ──

食事療法だけで治療できるなら

こうした薬に頼らない簡単な処方箋の効果を説明するために、もうひとり、当時9歳の女の子、KMの例をあげてみよう。

KMというかわいらしい9歳の女の子が、両親に連れられてやってきた。ADHDの典型的な兆候と「記憶力の悪さ」のためだった。

これまでのKMの経緯を聞く中で興味深かったのは、両親の説明によると、娘が考えたり集中できなかったりするのは「何日か続き」、その後は数日間「調子がいい」ということだった。

調べた結果、KMの問題として考えられることが二つ見つかった。グルテン過敏症と血中のDHA値が標準よりも低いことだ。

そこで私は厳重なグルテンフリーの食事と一日400ミリグラムのDHAの補給を指示し、人工甘味料のアスパルテームを口にしないように指示した。KM は一日にダイエットソーダを数本飲んでいると聞いたからだ。

3ヵ月後に会ったとき、KM の両親は娘の変化に感動し、KM 本人も満面の笑みを浮かべていた。新たに学力検査をしてみると、小学校3年生のKMの計算能力は5年生の初期レベルであり、学力全般としては4年生の中位 レベルだった。KMの母親から受け取った手紙を引用する。

「娘は今年3年生を終えました。食事にグルテンが含まれていたときは勉強、とくに算数が苦手でした。おかげさまで、娘はいま算数が得意になっています。学校の先生は、4年生を飛ばして5年生に進んでもクラスの中位くらいに入るだろうと言っています」

このような話は私のまわりではよくあることだ。

私にとってはごく当たり前に感いるある研究成果が、2006年に発表された。ADHDをわずらい、6カ月グルテンフリーを続けた人たちの「実施前」 と「実施後」についての非常に重要な調査である。この研究は3歳から57歳までにわたる広範囲の人たちを調べたものだ。6カ月後、改善度は明白だった。

「細かい点に注意しない」は36パーセント減った。

「注意力を保てない」は12パーセント減った。

「仕事を終えられない」は30パーセント減った。

「簡単に気が散る」は46パーセント減った。

「答えや引用文を唐突に言いだすことが多い」は11パーセント減った。

より多くの人たちに、もっと健康で、もっと頭のよくなるために、グルテンフリーの食事を実践してもらうこと──それが私の願いだ。

グルテンフリーの食事療法だけを通じて、神経系の病気を治せる、もしくは軽くできることがあるという事実は、とてもいいニュースだ。

多くの人はすぐに薬に頼ってしまい、まったくお金をかけずに生活習慣を少し変更すればいいだけの治療法に気づかない。ごく短期間、心理療法、あるい は追加的な薬物療法が必要な患者もいるかもしれない。しかし、多くの人は食品を替えるだけで問題は解決できる。最終的には薬を断ち、薬と縁のない生活がも たらす喜びを感じてもらいたいのだ。

グルテンを除外し、炭水化物を極力減らすことができれば、素晴らしい結果が得られるだろう。ほんの数週間で気分が向上するのに加えて、体重が減少し、エネルギーが高まる。脳の機能が高まるように、体の生来の治癒機能もさらに向上するだろう。

炭水化物の摂取を本当に必要な量だけに限定し、おいしい脂肪とタンパク質で穴埋めできれば、文字どおり、遺伝子のプログラムを組み直し、生まれたときに持っていた自然の状態に体をリセットできる。

これこそ、あなたにとって「頭の回転がよく、脂肪も燃やせる」状態なのだ。

食べるもので脳の運命が変えられる、薬に頼らない簡単な処方箋で健康を取り戻せる可能性があるというパールマター氏の提案は、非常に興味深い。

(記事構成/長谷川あや 原書本文構成/クリスティン・ロバーグ(Kristin Loberg)日本語版単行本翻訳/白澤卓二)

[GENDAI ISMEDIA]

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