「運動は健康によい」と言われる。その鍵を握っているのが、筋肉だ。筋肉は脳の指令を一方的に受け取るだけでなく、脳に大きな影響を及ぼすこともわかってきた。その脳と筋肉の間を取り持つのが、マイオカインという物質だ。果たして、どんなものなのだろうか。(マガジンハウス『ターザン』2021年6月10日号特集「運動は、なぜ脳に効くのか?」より転載)
脳と筋肉の間を取り持つのが、マイオカインという物質。筋肉を作る筋細胞が分泌するもので、筋トレなどの運動で増えてくる。
なかでも、イリシンというマイオカインは、脳の神経細胞を活性化。脳の活動性を高め、認知症の予防につながることが示唆される。現在、65歳以上の高齢者の認知症の有病率は16.7%。6人に1人に上るから、運動で認知症が抑制できるなら、何ともありがたい話である。
さらに大切なのは、運動を介して仲間を作り、会話を楽しむこと。
「人とのふれあいは脳を活性化する。8000人以上を対象とした私たちの調査では、コロナ前と比べて60歳以上の約27%に認知機能の低下が見受けられました。外出自粛で運動量が落ち、人との会話も減ったことが関係していると考えられます」
運動すると脳内でも
メンタルを整える物質が出る
運動とメンタルの関わりを解き明かすうえでは、脳を作る神経細胞が分泌する神経伝達物質にもスポットを当てるべき。
「神経伝達物質は気分を左右します。なかでも重要なのが、セロトニンとドーパミンです」
セロトニンが不足すると、不安やうつに陥りやすく、うつ病患者ではセロトニンの分泌量が低下していることがわかっている。このセロトニンを増やすのに有効なのが、ウォーキングやジョギング、ダンスなどのリズミカルな有酸素運動である。
ドーパミンも、有酸素などの運動で分泌が増えてくる神経伝達物質。快楽や多幸感をもたらし、やる気や集中力を上げる作用が知られている。
セロトニンやドーパミンを増やすなら、辛すぎない負荷で運動するのがポイント。辛すぎる運動は長続きしないので、セロトニンやドーパミンを増やす効果も限定的だ。隣の人と笑顔で会話できるくらいの負荷を上限に、30分以上続けよう。
(取材・文/井上健二、監修/久末伸一【千葉西総合病院】)
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