「こんまり」こと近藤麻理恵は、「片づけ」プロフェッショナルとして、世界で最も知られる日本人の一人となりました。麻理恵さんの世界進出の戦略を手掛けてきたのがプロデューサーであり夫でもある私、川原卓巳でした。初めて書き下ろした書籍『Be Yourself』では、麻理恵さんと二人で歩いてきた「自分らしく輝く」ための道のりをご紹介しています。
今回は麻理恵さんや僕と同じように「捨てる」「手放す」ことに独自の美学を持っている寺田倉庫の前社長兼CEO(最高経営責任者)の中野善壽さん。著書『ぜんぶ、すてれば』にも書かれてある「捨てる」哲学が人生を豊かに生きるコツと話す。前編(「寺田倉庫元社長が語る「人間は抜けているくらいがちょうどいい」)に続いて、後編では守るべきものがないほうが挑戦できると語る(構成:宮本恵理子)。

川原卓巳さん(以下、川原):インタビューの前編で中野さんは、「失敗の定義は人それぞれ違うはずだから、自分の物差しを変えれば、失敗と思っていたものもそうではなくなる。小さなことでも成功と思えば成功。すべては自分が評価するのだし、失敗は成功のための準備だと思えば何も怖くはないのだから、心配するより動き出せ」とおっしゃいまし た。

中野善壽さん(以下、中野):時間の使い方だってそうです。新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増えたのに、無為に過ごしている人がどうも多いようです。金曜の17時から月曜の9時まで、あるいは平日の仕事を終えてから寝るまでの時間の過ごし方があやふやで、明確ではないんです。これはもったいない。その時間でできることはたくさんあるはずなのに。

川原:自由な時間を与えられても、 自分のために使うのが下手ですよね。自分の内側に関心を持って問い続ければ、自分が今どういう状態で、何をしたいのかが見えてくるはずです。それが分からなくなるほど、周りの期待や評価に合わせて、自分の声を置き去りにしている人が多いということなのでしょうね。

コロナ困窮の若者に自宅を提供

中野:一人の時間が増えるのはいいことだと思います。寂しさや孤独を感じる時間は、人間の成長にとって重要です。一方で、人と交わる時間も同じくらい重要。つまりはバランスです。

僕はこのコロナ禍の10ヵ月ほど、収入を失って家賃も払えなくなった若者たちに自宅の一部を提供してきました。狭い家に6人くらいを住まわせていると、「一人の時間が欲しいな」と思うようになる。けれど、「休業補償がようやく入ったから」と若者たちが出ていくと今度は寂しくてしょうがない。つくづく、人間は都合よく環境に慣れてしまうものだと実感しました。

川原:自宅を提供されていたというのも、すごい話ですね。

中野:僕は、大金は持たない主義で、若い頃から寄付をしてきたから、お金持ちではないのですが、世の中の金持ちはもっとこういう人助けをやるべきじゃないか、と思いますよ。

政府が配る10万円に文句を言うより前に、個人ができることもあるはずです。民間企業もお上の指示待ちではなく、もっと知恵を絞って思い切った行動をしたほうがいい。

例えば、本当に困っている若者が駆け込むのはいわゆるサラ金、消費者金融なんですから、もっと緩和策を敷いて即金で借りやすくしてあげればいいはずです。返せない分は政府が補償すればいい。こう言う時はスピードが何よりも大事なんですから。

消費者金融の事業者は、若者がもっと気軽に寄れるように、カフェを併設したりして明るい雰囲気を出せばいい。

川原:現実の本質を見ていらっしゃいますね。それに気づいても言えない人が多いのに、中野さんは発言できるのは余計なものを全部捨ててきたからでしょうね。

中野:消費者金融のイメージが悪いのは、そこに行かざるを得ない人たちを差別しているからでしょう。僕は、社会にとって必要な金融機能だと思いますよ。

川原:どうプロデュースするかという問題なんでしょうね。弱者を救う少額貸出の金融システムとして、グラミン銀行は社会的評価も高いけれど、日本の消費者金融はコソコソと行くところだというイメージがあります。

中野:まさにブランディングだと思います。

何もないからこそ挑戦できる

川原:「みんな借りようぜ! 人生一発逆転を狙え!」というキャッチフレーズに変えるだけでも、かなりイメージは変わるでしょうね。

中野:返せなくなった時の救済措置さえ考えていけば成り立つはずです。こういう社会改革を担えるのは、やはり若い世代です。現職のリーダーたちはできていません。現実を知る世代が一つひとつ、ギャップを埋めていくことで、社会は前進すると思います。

川原:若者には現実の課題が身近にあるし、何も持っていないからこそチャレンジもできる。やっぱり「何者でもない」は強みなのですね。

中野:守るものが増えると弱くなってしまいます。身軽が一番。だから僕は家も賃貸だし、クルマも高級時計も持ちません。何も持たないと、新しいものを常に吸収できるんです。

僕はこれまでずっと台湾と日本を行き来していて、新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけで50数年ぶりに200日以上連続で日本に滞在しています。東京の地下鉄の乗り換えもバッチリできるようになりました。

身軽になる手始めとしてクルマを手放すのはオススメですね。運動量が増えて、足腰も強くなりますし。次に家の引っ越し。子どもが巣立ったら、60平米以下の賃貸マンションで十分です。老後資金も貯め込み過ぎないこと。5000万円を超えた分は、全部寄付すればいいんですよ。

川原:お金は動かさなければ意味がありません。どんどん循環させて未来のために使う提案に僕も大賛成です。

中野:自分さえよければいいという考えではダメです。個人も企業も守りに入ってはいけません。

川原:そうやって循環型の社会をつくりながら、僕は、世界の中の日本の存在感を高めていきたいと思っています。僕が得意なのは、人やモノや場の価値を見つけて売り出していくこと。だからこれからも日本から世界へのプロデュースをどんどんやっていきたいと思っています。

中野:応援しています。オンラインの仮想空間の中で国境や世代を超えてつながれるネットワークも増えてきたことですし、仲間もどんどんできるでしょう。

川原:中野さんのような先輩方の力も借りて、未来を好転させる輪をつくっていきます。

まずは行動してみよう!

本連載を読んでくださって、ありがとうございます。

書籍『Be Yourself』では、これまで僕が経験してきたことから、あなたに伝えたいと思ったことを書かせていただきました。

一つひとつを順番に試してもらえたら、確実に人生が変わる。そう確信しています。

だからこそ、まずは実践してみてください。行動してみてください。動いてみてください。

情報は世の中にあふれています。本を買わなくたって、ネットサーフィンをするだけでもたくさんの情報を得られます。

でも、知っているだけでは人生は変わりません。本を読んで、「やってみよう!」という気持ちになって、まずは動いてみる。

もし書籍『Be Yourself』を通じて、何かを感じていただけたなら、その情熱のまま、小さくてもいいから簡単なことから始めてみてください。動き出すと、人生は確実に変わります。そして、その変化を起こした自分をほめてあげてください。

紛れもなく、あなた自身が決断した第一歩なのだから。

種明かしをすると、僕はこの本を、昔の自分の背中を押すつもりで書きました。

書いては消し、何度も練り直し、思った以上に時間をかけることになったのは、「何者にもなれないんじゃないかと焦っていた過去の自分」「やりたいことに蓋をしていた過去の自分」と対話を繰り返していたから。

当時の自分でも臆せず行動に移せるよう、実際に行動できる内容に整理し、各章の最後には実践すべきチェックリストも用意しました。また書籍『Be Yourself』の巻末には、自分を知り、活かし、発信し、環境を変えて、磨き続けるためのチェックシート記入見本も用意しています。

自分らしく輝くのは決して難しいことではありません。新しい一歩を踏み出しましょう!

本書の主な内容

■第1章 自分を知る

まずは片づけから始めよう
あなたの魅力は「外」ではなく「内」にある
過去を手放しても「ゼロ」にはならない
「やりたくない」を書き出そう
あなたの「好き」が稼げるかは考えなくていい
時には堕落しきってみよう

■第2章 自分を活かす

時代の文脈を読む
まずは誰か一人の役に立とう
一つずつ丁寧に。途中で失敗してもいい
脱マウンティングのススメ
MUSTの円を小さくする
「今、有名か」は関係ない

■第3章 自分を発信する

最初は良き「受信者」になろう
お金を払って受け取ろう
最前列でかぶりつけ
得意な表現方法を選ぼう
最初はリツイートだけでいい
つながるチャンスを逃さない

■第4章 環境を変える

環境を変える5つのサイクル
てっぺんを目指さなくたっていい
「当たり前」の基準を変える
手を挙げるだけで抜きん出る
上手に「助けて!」と言ってみる
GIVEのしすぎに注意しよう

■第5章 自分を磨き続ける

シルクのパジャマで自分を大切に
早起きで地球を独り占め
夫婦のミーティングは散歩をしながら
午後イチはご褒美タイムから始めよう
身近な人を「さん」付けで呼ぶ
本来のあなたに戻してくれる人を大事にする