(驚)(汗)Vol.3

 

1年間で2万人が死亡…じつは風呂に「10分以上」入ってはいけなかった…!

大量の突然死を招いている

浴槽に身を沈め、こう呟く。「ふう~極楽、極楽」。その一言を最後に、あなたは本当にあの世へと旅立つことになるかもしれない。日本人が愛してやまない入浴が、大量の突然死を招いている。発売中の『週刊現代』が特集する。

ヒートショックじゃない

熱い湯に身を浸し、ホッと一息。一日の疲れが吹き飛び、目を瞑り何もかも忘れる一瞬―。そのまま二度と目を開けず、死んでしまう人が増えている。

「昨年の暮れのことでした。70歳になったばかりの夫が入浴しているのに、風呂場から水音がまったくしないので心配になり、様子を見に行きました。

浴室を覗くと、夫は目を閉じて浴槽でじっとしている。『風呂場で寝ちゃダメよ』と声をかけたところ、一瞬目が開いたため安心して居間に戻りました。

しかし、その後も風呂場が静まりかえっているので再び様子を見に行くと、夫が膝を抱え、湯に顔をつけた状態で浴槽の中に沈んでいたのです」

年末に起きた不幸をこう語るのは東京都在住の女性(63歳)である。

「すぐに119番通報をしたのですが、救急隊が到着した時にはすでに心肺が停止しており、心臓マッサージなどの処置を受けても脈が戻らなかったのです。

夫はこれまで心臓や血圧などの異常はありませんでした。なぜ急にこんなことに……。夫はそのまま病院で亡くなりました」(同)

死の直前にお湯を大量に飲んでいたため、最終的な死因は「溺死」とされた。問題は、なぜ風呂で意識を失ったのかだ。妻が話していたように、男性に心臓や血管の異常は見られなかった。

実は、男性は病院に運び込まれた時、重度の脱水症状を起こしていた。「浴室熱中症」である。

浴室熱中症とはどのような状態を指すのか。帝京大学医学部教授で、熱中症研究の権威である三宅康史氏が解説する。

「端的に言うと、浴槽の湯の熱によって体が過度に温められ、夏場に発症する熱中症と同じような症状を引き起こす状態のことです。

熱い風呂に浸かっていると、体温が上昇します。汗をかいて体温を外に逃がそうとしても、頭以外は湯船の中にあるため、放熱のしようがありません。

若い人であれば体の表面に熱い血液を集めて熱を逃がすことができますが、高齢者は血液を循環させる力が低下しているため体内に熱い血液が滞留し、心臓に負担がかかります。

こうなると脳へ流れるはずだった血流が減少し、意識障害を引き起こす。意識障害が進めば、気を失って倒れこんでしまう。これが心臓や血管に異常がなくても意識を失ってしまう理由です」

1990年代頃から、浴室での死亡事故の多くは「ヒートショック」によるものだと考えられてきた。

寒い脱衣所にいた直後に風呂場で熱いシャワーを浴びたり、湯船に入ったりすることで血圧が急激に上がる。それに耐えきれずに心筋梗塞や脳梗塞を起こして死に至るのがヒートショックだ。

しかし、最近になって浴室での死亡事故の原因の大半はヒートショックではなく、熱中症なのではないかという見方が有力視されるようになってきた。

ジャーナリストの笹井恵里子氏が語る。

「厚生労働省は’12年10月から’13年3月にかけて、入浴関連事故についての調査を行っています。この調査結果をもとに東京歯科大学の鈴木昌教授らが行った推計によると、日本では年間、およそ2万人が入浴中に亡くなっていると考えられます。

一方で、千葉科学大学の黒木尚長教授の研究データから入浴中に体調不良になった人の84・2%が、その症状からして浴室熱中症だと推測されています。

こうしたことから、実際にはこの2万人の大半がヒートショックではなく、熱中症により亡くなった可能性が高いと思われるのです」

「気持ちいい」が要注意

浴室熱中症の怖い点は、冒頭の70歳男性のように、既往症がなく、本人も家族も「健康だ」「元気いっぱいだ」と思っていたのに、ある日突然、犠牲になってしまうことだ。

昨年の11月に浴槽でうたたねをしていたところ意識を失い、浴室熱中症と診断された埼玉県在住の65歳男性が語る。

「あの日は長引いていた風邪が治り、4日ぶりに温かい湯船に入ることができる日でした。体を思い切り温めてやろうと張り切って、湯温をいつもの40度から42度に上げて入浴したのです。

お湯に浸かってしばらくすると、全身から力が抜けるような、ふわふわとした感覚がやってきました。それが気持ちよくて、ついつい湯船で目を閉じてしまいました」

しかし、男性が次に目を覚ました時、彼は病院のベッドに寝かされていた。

男性の娘(48歳)がその日の父の様子について振り返る。

「父はもともと長湯で、1時間以上お風呂に入ることも珍しくありませんでした。あの日もお風呂に入ってから10分間ほどは鼻歌が聞こえていたのですが、気が付いた時にはそれが止まっていた。

時計を確認すると父が入浴してから30分以上が経過していたので心配になって見に行ったところ、浴槽のへりに仰向けでもたれかかるように湯に沈んでいたのです」

娘が慌てて救急車を手配したおかげで男性は一命をとりとめたが、医師からは「あと数分発見が遅れていたら溺死していた」と告げられた。

「先生からは体が温められすぎて熱中症と脱水を起こしていた、と言われました。また、入浴中に感じたふわふわとした心地よい感覚は、リラックスしたことによる眠気ではなく、熱中症による意識障害だとも言われたのです」(同・男性)

このように、高齢者はお湯により体が温められている心地よさと、熱中症の症状との区別がつかなくなってしまう。

細胞が死滅していく

ここで気になるのが、湯温と熱中症の関係だ。

前出の笹井氏の調査によると、65歳以上の高齢者の自宅の風呂の温度は42度と43度に設定されている場合がもっとも多いという結果が出ている。

だが、取り立てて「熱い湯」というイメージのない42度の湯温でも、浴室での事故は頻繁に起きている。

「慶應義塾大学の伊加賀俊治教授らのグループによる研究では、42度のお湯に10分浸かるだけで体温が1度上昇するというデータが示されています。体温が1~2度上昇するだけでも人体に異変は起きうるのです」(笹井氏)

深部体温と熱中症の関係を、この分野の権威である千葉科学大学の黒木尚長教授が補足する。

「人間の体温は、40度以上になるとそもそも脳が耐えられず、意識障害を起こします。その後も体温が上昇し続け、42・5度を超えると次は細胞が死滅していく。

こうなると死滅した細胞からカリウムが体内に流れ出し、高カリウム血症という状態に陥るのです。高カリウム血症は心室細動を引き起こし、人間を死に至らしめます」

高カリウム血症を起こさずとも、意識を失ってしまえば溺死の原因となり、死亡のリスクは高まる。また、体温が40度を超えなければ意識障害は起きないのではと考える方もいるだろう。しかし、それは大きな間違いだ。

前出の三宅氏が続ける。

「熱中症による意識障害は脳の働きが高熱によって低下するほか、脱水で脳の血の巡りが悪くなってしまった場合にも起こります。体温が37度から38度の間でも、体内の水分量が不足している場合は、意識障害を引き起こす可能性があります」

医療機器メーカー・テルモの調査によると、日本人の平均体温は36・89度となっている。42度のお湯に10分入ると体温が1度上昇することは先に述べた。

つまり10分の入浴で、日本人の体温は熱中症の初期症状である倦怠感や頭痛を覚え始める38度近くまで上昇するのだ。

この時点で多くの高齢者は湯船から立ち上がろうと思っても、体に力が入らず湯船から脱出することが不可能となる。この「10分」という時間を境にして、それを超えた途端、あなたが浴槽で命を落とす危険度が跳ね上がるのである。

程よい湯加減と思っていても、10分以上入っていると死のリスクがどんどん高まっていく。前出の伊加賀教授の研究によれば、26分入り続けることで体温は40度まで上昇する。

あなたは知らず知らずのうちに意識を失い、そのまま死んでしまう。これが浴室熱中症の怖さなのだ。

10分以内にするためには

ならば、入浴自体をやめたほうがいいかと言えば、そうではない。適切な入浴が健康の維持に役立つということも立証されている。東京都市大学教授で医学博士の早坂信哉氏が解説する。

「私たちの研究では、定期的な入浴の習慣がある人はそうでない人に比べ、要介護になるリスクが3割軽減されているということが明らかになっています。

また、今は新型コロナウイルスの影響で家にこもりきりという方も多い。そのため、積極的に温浴により血流を促してあげるべきです」

では、浴室熱中症のリスクを回避しながら入浴を楽しむためにはどのような注意が必要なのだろうか。早坂氏が続ける。

「浴室事故回避のために、消費者庁も41度以下のお湯での『10分以内』の入浴を推奨しています。

その上で試していただきたいのが、10分間続けて入浴するのではなく、5分湯船に入ったあと、体を洗うなど一旦湯から上がり、その後また5分間湯に入るという方法です。

一度湯から上がることによって、上がり続けるはずの体温が横ばいもしくは低下するため、体への負担を大きく減らすことができるのです」

また、脱水を防ぐためには入浴前の水分補給も大切になってくる。

「大塚製薬が行った研究によると41度のお湯に15分入ると、汗として約800㎖の水分が失われると明らかになっています。このことからアルコールやカフェインの入っていない飲料をコップ1杯程度は飲んでから入浴することを習慣づけるべきです」(前出・早坂氏)

湯に入る時間を10分以内に調整するほか、そもそも全身で熱い湯に浸かることを避けるという対処方法もある。前出の笹井氏は、入浴前の足湯の有効性を提唱する。

「41度以下のお湯だとぬるく感じてしまう人は、入浴前に、先に足湯に入ることをお薦めします。湯に浸かっている面積が少ないため、足湯だと熱中症になる心配がなく、体が温まる感覚が得られるのです」

さらに、脱衣所や居間といった居住空間の室温を上げることも効果的だ。

「WHOは冬季の家屋内の温度を最低でも18度以上に保つよう勧告しています。しかし、国土交通省の調査によると日本の家の9割がこの条件を満たしていないのです。

居間の室温は平均で16・7度、脱衣所に至っては12・8度と冬の日本の家はかなり寒い。居住空間を今より2度から5度温めれば、無理に熱くて危険な温度の湯に入浴する必要もなくなり、リスクを低下させます」(笹井氏)

過ぎたるは及ばざるがごとし。冬の寒い日、熱い湯船に体を沈めて一息つくのは至福の時間だが、その幸せは死と隣り合わせであることも覚えておきたい。入浴時間が10分以上、それは死を告げる刻限かもしれないのだ。

発売中の『週刊現代』ではこのほかにも「大反響第3弾『特売のタマゴを買ってはいけない』『生卵なんて食べてはいけない』」「結 局、大学なんて関係ない ソフトバンク新社長に学ぶこと」「人生、最後の最後に失敗しないために」「すべての異変は『のど』から始まる」などを特集で掲載している。

『週刊現代』2021年2月20日号より/YAHOO JAPANニュース

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