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運動は健康の源。。。
■運動はがんの進行を抑えるってホント?
「運動とがん」
がんは長年、日本人の死因第1位の座を独占し続けています。多くの人にとって最も怖い病気でしょう。
では、がんだと宣告されたら、私たちはどうしたらいいのでしょうか。もちろん、医師と相談しながら、積極的に治療に取り組むことになりますが、自分でできることもあります。そのひとつが「運動」です。
がんといえば重病です。運動なんかしていいの? と思われるかもしれません。確かに症状や進行度にもよりますが、「運動できる人はした方がいい」というのが最近の定説になっています。
報告されているエビデンス(科学的根拠)をいくつか紹介しましょう。1つは、大腸がんと診断され、転移のない男性668人を20年間観察した研究です。20年間で258人が死亡し、うち88人は大腸がんが原因でした。「1週間の運動量」を見ると、運動量が多いほど死亡率が低く、最も運動量が多かったグループは、まったく運動しなかった人たちに比べて大腸がんによる死亡リスクが47%も下がっていたそうです(*1)
前立腺がん患者を追跡調査した米国ハーバード大学の研究でも、「週3時間以上のウォーキング」をしている人たちのがん再発・転移、死亡のリスクは57%下がっていたそうです(*2)。
*1 Arch Intern Med. 2009 Dec 14;169(22):2102-8.
*2 Cancer Res.2011 Jun 1;71(11):3889-95.
ドクターランナー(事故にそなえて選手と一緒に走る医師)として多くの市民マラソン大会やトライアスロン大会に出場している、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック(神奈川県横須賀市)院長の奥井識仁さんは、「運動によって大腸がんや前立腺がんの進行は抑えられます。実際、米国にはランニングやウォーキングでがんを抑えようという患者のサークルがいくつもあります」と話します。
奥井さん自身も、長いこと前立腺がんと運動の研究を続けています。前立腺がんと診断された患者102人(平均74.8歳)に、ホルモン治療と併行してウォーキングを指導しました。8年間で48人が死亡、うち20人(41.7%)は前立腺がんが原因でしたが、「1カ月に120km以上のウォーキング」をしている人たちは、死亡率が半分に抑えられたそうです。
ウォーキングは前立腺がん患者の死亡リスクを抑える
平均74.8歳の前立腺がん患者に、治療と併行してウォーキングを指導した。1カ月120km以上のウォーキングを実行した人たちは死亡リスクが半減。前立腺がんによる死亡はゼロだった。(データ提供:奧井院長)
「雨の日も風の日もやる必要はありません。1日6km、月20日を目安に指導しています」(奥井さん)
筋肉の成長に男性ホルモンが使われる?
では、なぜ運動によって前立腺がんの進行が抑えられるのでしょうか? 奥井さんはテストステロン(主要な男性ホルモン)が筋肉で消費されるからではないか、と考えています。
前立腺がんはテストステロンをエサにして増殖する性質を持ちます。そのため、治療はテストステロンの分泌を抑えることが基本になります。運動によってテストステロンが筋肉で使われると、前立腺がんのエサになる量が減るのではないか、というのが奥井さんの仮説です。「大腸がんの場合も同じく、運動でIGF(インスリン様成長因子)が筋肉で使われることが、がんの進行を抑える大きな要因になっているように思います」(奥井さん)。
これらはまだ解決しないといけない問題が多くあります。運動とがん抑制の関係については、いまだにメカニズムがほとんど分かっていないためです。「もっと多くのサンプルを集めて、日本全体で考えていくべきテーマだと思います。米国のように、がん生存者が積極的に治療データを後世の研究のために残して、日本のがん治療に役立てるシステムが必要です」と奥井さんは話します。
[日経Gooday]
Posted by nob : 2017年11月28日 12:03
目指せPPK!
■「ピンピンコロリ」を実現する5つの習慣
長寿国・日本の現実は「寝たきり大国」だ。ほかの国に比べて「ピンピンコロリ」は少なく、「ネンネンコロリ」が際立って多い。なぜなのか。そして、「ピンピンコロリ」を実現するための5つの習慣とは――。
日本は世界でも指折りの長寿国として知られています。しかし、その実態は、最期まで元気に活動して天寿をまっとうするピンピンコロリ(PPK)は少なく、男性は平均9年、女性は同12年も介護された末に死んでいくという、ネンネンコロリ(NNK)が他国に比べて際立って多い「不健康長寿国」なのです。
■病院は決して安全な場所ではない
なぜでしょうか。最大の理由は、病院などの病床数の多さにあります。日本では人口当たりの病床数がアメリカの4倍以上あり、患者の入院期間も3倍近く長いのです。
病床数が多ければ、いざというときすぐに入院できるので安心だと日本人は考えがちですが、後期高齢者の場合、病院のベッドで点滴の針を刺したままトイレにも行かず過ごしたら、間違いなく寝たきりになるでしょう。ベッドがたくさんあってすぐに入院できる一見理想的な環境が、逆に寝たきりの高齢者を増やしている。これが日本の現実です。
また、これも多くの人は誤解していると思いますが、病院は決して安全な場所ではありません。病院に近づけば医療事故や薬害などの危険にさらされます。
たとえば肝臓がん。酒の飲みすぎが原因だと思われがちですが、男性の肝臓がんによる死亡率を見ると、新潟、岩手、秋田など酒どころといわれる県では低く、比率の高い福岡や大阪の3分の1程度でしかありません。実は、肝臓がんは飲酒ではなく、医療事故によるC型肝炎ウイルスの感染が最大の発症要因なのです。
医療事故がどれくらい起こっているか知ったらびっくりすると思います。EUの公式資料によれば、病院の医療事故で死亡した人数は年間約15万人。そのため、EU域内に住む人の約53%が、病院は危険なところだと認識しています。
わが国の実態は公表されていませんが、数十万人規模での医療事故や薬害が起こっていると思われます。
■歯科医にはこまめにかかったほうがいい
では、どうすればNNKを避け、PPKを実現できるのでしょうか。それはなんといっても医師に頼りすぎず、自分の健康は自分で保つのだという気概が持てるような支援環境を公的に整備することです。そのうえで各種の情報を調べ、納得のいく治療を受けるようにしましょう。
一方で、歯医者さんにはこまめにかかったほうがいいようです。私たちの調査では、「かかりつけの歯科医師がいる」と答えた人が長生きでした。どんなメカニズムが働いているのか明確なところはわかりませんが、私は次のような仮説を立てて追跡調査をしています。
まず、歯科医の支援を受けることで望ましい口腔ケアの知識が得られ、高齢になっても歯と口の健康を保つことができる。食は生きることの基本ですから、歯や口が健康であることには大きな意味があります。また、定期的なケアを受けるため、歯医者さんへ「お出かけ」していることも健康長寿には望ましいのです。
■「ピンピンコロリ」を実現する5つの習慣
生活習慣という切り口から見ると、次の5つの習慣を身に付けることがPPKには大事だということがわかってきました。
1、運動。毎日やらなくても週に1回運動していれば、生存率がかなり高くなることが証明されています。
2、質のいい睡眠。
3、朝食。食べないと脳や身体機能が活性化しません。その際、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品を食べ腸内細菌を増やして体温を高めると免疫力が高まり、がんになりにくくなります。
4、禁煙。発がん物質を含むたばこは百害あって一利なし、確実に寿命を縮めます。
5、適度な飲酒。私たち研究チームが高齢者1.3万人を対象に3年間追跡調査したところ、男性では毎日飲酒する群、女性では週に1、2回飲酒する群の死亡率が最も低く、逆に死亡率が高かったのは男女とも「ほとんど飲まない」と回答した人たちでした。
■「地域活動にも積極的」がPPKの必須条件
日本では多くの人が誤解しているのがコレステロール値の評価です。高コレステロール群と低コレステロール群では、明らかに前者のほうが長生きです。コレステロールはビタミンDや細胞膜、がん免疫細胞の材料であり、体の中で重要な役割を担っています。その一方、コレステロールを下げる薬の服用により死亡率が高まることが証明されています。
環境や住居も健康長寿に大きな影響を与えます。都市部よりも長野県のような地方で平均寿命が長いのは、水や空気がきれいだというのも理由のひとつ。夏になるとホタルが乱舞するなど、多様な生物が生きられるところでは、人間も長生き。考えてみたら当たり前のことなのです。
日本では毎年約1万7000人がヒートショックで亡くなっていますが、風呂場が寒すぎるなど家の中の温度較差が原因です。これは住宅の断熱・気密性能を向上させる無垢材の活用で改善します。また、クロス張りの壁を珪藻土や土壁に変えればホルムアルデヒドなどの害がなくなり、湿度調整もうまくいくため睡眠の質が高まります。こうした住環境の良質化もPPKのためにはぜひ取り組みたいポイントです。
そして、忘れてはならないのが心の健康。年をとっても生きがいを持ち、地域や趣味の活動にも積極的に参加しているというのはPPKの人の特徴であり、必須条件だともいえます。65歳を過ぎても生きがいを持って働くというのも、要介護にならないための賢明な選択だといっていいでしょう。
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▼これがピンピンコロリの条件だ!
・かかりつけの歯科医師を持つ
・口腔をケアし良好な状態を保つ
・やや太めの体形である
・総コレステロール値が高い
・お出かけが好き
・断熱に優れ土壁を使った健康住宅に住む
首都大学東京名誉教授
放送大学客員教授
星 旦二
[PRESIDENT online]
Posted by nob : 2017年11月23日 15:30
なるほど、、、あらためてダウン。。。(納得)
■ダウンの下にたくさん服を着込むのが残念な理由
リスク対策.com
寒さが本格的になってきました。今回は防寒の話について、アウトドア流防災ガイド・あんどうりす氏が解説します。
本日は、中間着の断熱についてお話します。
実は断熱の話は「テントと車中泊、どっちがあったかいと思いますか?」という記事ですでに触れてあります。答えられなかった方、こちら↓をどうぞ。
■「災害対策もかねて、テント泊デビューはいかが?夏のキャンプにも災害時にも使えるテント選びを楽しもう!」(2016年7月21日)
世の中に断熱材はたくさんありますが、動かない空気の層が優秀な断熱材ということを書きました。ですので、中間着として効率よく動かない空気の層を作れば、断熱材になるから暖かいという訳です。
冬になると、重ね着をします。それは、薄い服でも、重なった服の間に空気の層を作り出すことができ、暖かくなるからです。
フリースは、風のある日にアウターとして着ると寒いですが、風を防げば、空気を繊維にためこむことができるので、暖かい中間着になります。ウールも発熱機能があるし、加えて、空気をためることができるので、ウールのセーターはあったかいのです。
ダウンジャケット、たくさん服を
着こんだ上に着てませんか?
ところで、山ではたくさん空気をためる人気の素材なのに、都会では空気をためずに着られている残念素材があります。
それは、ダウンジャケットです。たくさん服を着込んだ上にダウンを着ている人、いませんかー?
ダウンはみなさんの体温で暖まると羽をふくらませます。その膨らんだ羽が空気をたくさんつかまえて動かない空気という断熱層を作るから暖かくなる素材です。熱源である体温から離してしまうと、せっかくのダウンの性能が発揮できなくなってしまいます。
もちろんファッションでどのように着るのもアリですから、普段は寒くてもどんな格好でもいいのです。でも、イザという時は、もしダウンを持っているなら、汗を素早く吸収・発散し、快適な状態を保つインナーのすぐ上に着るか、素肌に直接着てしまってください。羽がふくらむので、少ない衣類で効率良く暖がとれます。
体温で温めて羽をふくらませるので、体温が普段から低い人、寝たきりの方にダウンの服や布団を用意してあげても暖かくできません。鳥類は37度くらい平均体温があるということなので、しっかりふっくら羽をふくらませますし、体温が高めの元気な子どもが着ると、力士に変身できる仮装の服みたいにダウンをふくらませることができるのはそのためです(笑)。
布団といえば……当然、羽布布団は肌の近くに着てくださいね。ダウンの中に毛布なんてありえないです。ダウンである意味がなくなります。どうしても毛布を使いたいならダウンの上に置くべきですが、その時に毛布が軽ければいいのですが、重ければせっかく膨らんだ羽をつぶしてしまって、やっぱり意味がなくなります。
同じことは衣類でもありました。2年前、「インナーダウン」という言葉がでてきました。いよいよ、アウトドアみたいに、みんな、ダウンを効率よく着るように変化してきたのかな!と、喜んだのもつかの間、こんな事例を数多く電車で見てしまいました。
重たい背広の下にダウン着てるし……。そこには羽がつぶされ、ちっとも空気層ができていないインナーダウンがあったのでした。
何が違っていたかというと、インナーであることが大事なのではなくて、ダウンをインナーにすることで、体温を伝えて動かない空気という断熱層を作りだすことが大事だったのです。なのに、インナーにすればいいとだけ覚えた方が失敗した例でした。
ダウンの縫い目は水に弱いものも。
雪の日は要注意。絶対濡らしちゃダメ!
失敗例はまだあります。ダウンはまだまだ理解されていないのかなあと思います。
レインウェアの記事で、最近、災害現場でのニュースキャスターは全員、アウトドアのレインウェア(透湿防水素材)を着ていることを書きました。でも、大雪の現場ではまだ間違っています。
雪でもダウンを一番上に着ている方、多いです。寒いといえば、ダウンって感じなんでしょうかね。
ダウンは、水に濡れると羽をしぼめてしまいます。空気を蓄えられません。こんな時、ダウンをつつむ素材が、透湿防水素材なら濡れません。撥水性能があるものも増えましたが、ダウンが偏らないよう小分けされた縫い目から水が染み込みやすいので、完璧ではありません。そして撥水性能は落ちやすいものでもあります。山では命に関わるので、ダウンは絶対に濡らしてはならないものです。大雪の現場であるなら、濡れないためにダウンは一番外に着る服ではないほうがよいでしょう。
大雪の中継で、「ダウンを着ていますが、寒いです」とお話しされていることが結構あるのですが、「それはダウンで濡れて水が染みているから寒いのでは……」とつっこみたくなる場面はいまだに多いです。
ところで、北海道や海外のパウダースノーの場合、撥水性能があればコロコロっと落ちていく感じなので、縫い目から染みてこなければしばらくは大丈夫です。でも、水分を含んだ本州の雪ですと、すぐ染みてきます。雪質によっても判断を変えていただければと思います。
ダウンはきちんと
たたまなくてもOK!
さて、ダウンは空気を蓄えますが、圧縮すると、空気をためないので、コンパクトに収納できます。だからこそ、シュラフ(寝袋)としても人気です。化繊のシュラフも空気をしっかりためてダウンに劣らない保温性能を持つものが出てきましたが、収納のコンパクトさではまだまだダウンが上という状態です。自然のメカニズムのすごさを感じてしまいます。
ちなみに、ダウンの収納の仕方、講演後に収納している場面を目撃されると目を白黒されたりします。そして、「この講師、雑にダウンをしまっている」という心の声が聞こえてきます(笑)。
きちんとたたむと同じ部分がシワになってしまいます。そうすると、そこの断熱性能が劣化します。野外では、そんなことが命に関わる場面もあります。だから、ぐちゃぐちゃに、収納袋につめこむのが正しいアウトドアでの収納方法なのです!雑ではなく、命を守る、正しい、そして楽な収納方法なんです。
ぐちゃっとしてしまうと「シワは?」と気にされる方も多いようですが、ダウンの性能がいいと、そしてきちんと体温の近くにあると、すぐ膨らんで復活します。ダウンがシワになるなら、たたみ方より、膨らませて着ていないからかもしれません。
とはいえ、たくさん着るとへたってきます。そんなダウンが家にあれば、お洗濯したのち、部屋着やパジャマにしてあげるのもおすすめです。夜にトイレなどに行ったとき温度差が気にならなくなるくらい、最強あったかパジャマになります。暖房代も節約できます!夜中の授乳も、寒くなかったです!
ということで、持っている人がたくさんいるダウンの服、ちゃんと動かない空気で断熱層をつくることで、災害時や寒い時、寒くないようにしてください。
その寒さ、グッズが足りないのではなく、着方がまずいのかもしれません!
[DIAMOND online]
Posted by nob : 2017年11月22日 09:38
確かに、、、私の心身は共感しています。。。
■「睡眠は90分サイクル」は誤り、眠りの科学は俗説だらけ
『最新の睡眠科学が証明する 必ず眠れるとっておきの秘訣!』
「90分の倍数の睡眠時間をとれば、目覚めがよい」「22時から深夜2時までが睡眠のゴールデンタイム」「7時間睡眠が寿命を延ばす」。知ってる、知ってる、とうなずく人が大半なのかもしれない。が、実はこれらすべて間違い、もしくは不正確な「睡眠神話」なのだそうだ。本書『最新の睡眠科学が証明する 必ず眠れるとっておきの秘訣!』では、「睡眠神話」はじめ、睡眠にかかわる俗説が次々に論破されていく。その過程を読み進めると、私たちはなんとたくさんの根拠のない話に縛られてしまっていることか、と驚くことになるだろう。
著者は、脳内物質の研究をしていたが、発見した物質がたまたま覚醒にかかわっている物質だったため、睡眠研究の道に入ったという(ちなみに、要約本文でも紹介している、覚醒を維持する「オレキシン」という物質が、著者が発見したものだ)。以後、睡眠について、学問的に研究を積み重ねてきた。著者の提案する、必ず眠れる睡眠法は、「眠りへのこだわりを捨てる」ことを基本に据えた、ごくシンプルな方法だ。けれどそれこそまっとうな方法なのだろう、と自然に納得させられる説得力が、本書にはある。
また、本書は、病としての不眠の解説や、睡眠薬の種類や使い方にまで言及している。眠りについて真剣に悩んでいる方には、まず本書をおすすめしたい。人間の健康は、よく食べて、よく活動して、よく寝ることで成り立っている。その要素のひとつである「眠り」について、誠実に、真摯に語られた1冊である。(熊倉 沙希子)
本書の要点
(1)睡眠システムと覚醒システムは互いに抑制しあっており、優勢なほうに切り替わるようになっている。この切り替えに影響するのが、体内時計と、睡眠負債という概念である。加えて、覚醒を促す要素としてストレスや情動がある。
(2) 眠りを意識しすぎると、その情動によって覚醒が促されてしまうので、眠りにこだわりすぎないことが安眠へつながる。
(3) 寝ないといけないと意気込まず、寝室で15分眠れなかったら居間にいったん戻り、眠気を感じたら寝室に行く、というふうにするとよい。
要約本文
◆巷にあふれる睡眠神話
◇「睡眠は90分周期」ではない
睡眠にまつわる話の中には、根拠が乏しいのに多くの人が信じている、「睡眠神話」と呼ぶべきようなものがある。
そのうちのひとつが、「睡眠のサイクルは90分周期である」というものである。睡眠の状態として、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」があることはよく知られている。眠っているときには、この2種類の状態が規則正しく交互に繰り返されるのだ。繰り返しの1単位が「ノンレム睡眠+レム睡眠」であり、それが90分だというのが、「90分周期」という俗説の根拠となっている。
しかし、じつは、「ノンレム睡眠+レム睡眠」にかかる時間には個人差があり、また日によっても変わってくる。1時間以内のこともあれば120分のこともあるのだ。
加えて、ノンレム睡眠とレム睡眠が、それぞれ深い眠りと浅い眠りだという言い方も間違っている。それぞれの状態は、質的に全く異なるものなのだ。ノンレム睡眠のあいだは脳の活動が低下しており、そのため筋肉の活動も低下している。自律神経は副交感神経が優位になっているので、心拍数や血圧や、呼吸数も下がっている。一方で、レム睡眠のあいだ、脳は覚醒しているとき以上に強く活動している。自律神経も激しく変動しているが、体が暴走しないように神経系や感覚系は完全に遮断されている。そのため、こちらは金縛りのように体に力が入らない状態となっている。
◇睡眠に「ゴールデンタイム」はない
よく「22時から深夜2時までが睡眠のゴールデンタイム」であり、そのあいだに「成長ホルモンが活発に分泌される」から、ゴールデンタイムにきちんと眠ろうと言われる。こちらも根拠がない睡眠神話である。
成長ホルモンが睡眠中に分泌されるのは確かだが、それは特定の時間に起こることではなく、就寝後最初にあらわれるノンレム睡眠のときに起こる。睡眠中、「ノンレム睡眠+レム睡眠」の組み合わせは4~5回繰り返されるが、そのうちで一番深いノンレム睡眠があらわれるのが、就寝後最初のサイクルなのだ。そのときに成長ホルモンが分泌されるので、「何時に寝るか」はじつはあまり関係がない。要は深いノンレム睡眠に入れるかどうかなのである。大切なのは寝る時間帯ではないのだ。
◆睡眠をつくりだす脳、覚醒をつくりだす脳
◇なぜ夜眠くなって、朝起きるのか?
私たちは、朝起きて、夜眠くなる。このことには、2つの要素がかかわっているという。
ひとつは、「概日時計」、つまり体内時計である。24時間ぴったりの周期ではないが、おおむね1日周期で、昼夜で覚醒の出力を調整するリズムを刻んでいる。もうひとつは「睡眠負債」である。これは一種の考え方で、起きている時間が続くにつれて脳内になにかが溜まっていって、睡眠をとるとそれが解消されるという概念だ。睡眠物質の存在について研究が進められているが、今のところその正体については明らかになっておらず、物質が存在するにしてもひとつの物質では説明できないということがわかってきている。
◇脳内のシステム
「概日時計」と「睡眠負債」が睡眠と覚醒に影響を与えているとして、そのとき脳ではどのようなシステムが働いているのだろう。
睡眠にかかわるのが「視床下部」という領域だ。視床下部は4グラム程度しかない、ごく小さい領域だが、自律神経系の中枢であり、様々なホルモンの分泌をコントロールしている。視床下部の前のほうにある「視索前野」では、睡眠中に、神経細胞から「GABA」という抑制系の神経伝達物質をつくっている。その物質が覚醒にかかわる領域を抑制するため、睡眠という状態がつくりだされるのである。
一方、覚醒にかかわる領域が、視床下部と隣り合う「脳幹」である。脳幹は、呼吸や血液循環などを統制する中枢であり、生命維持を司る。この中の、「脳幹網様体」という部分には神経細胞が集合しており、ここから脳全体へさまざまな命令が出されている。そのなかで、「モノアミン」や「アセチルコリン」といった神経伝達物質を介した命令は、覚醒状態をつくりだしながら、睡眠にかかわる領域を抑制している。
睡眠システムと覚醒システムは、お互いに抑制しあっており、どちらかが優勢になるとスイッチがパチンと切り替わるという関係だ。そして、覚醒を適切に維持するための脳内物質が、オレキシンという物質である。
◇時間帯や状態によって眠れないときがある
体内時計の時刻に合わせて、体は体温や血圧、ホルモン濃度などを調整している。前述のオレキシンも、体内時計の情報を受け、朝に活発になる。
ただ、この体内時計をもとにした、覚醒のための体の出力は、単純に昼にピークがあって夜に下がるというものではない。午後2~3時ごろは一時的に出力が下がり、毎日の就寝時間の前にはぐんと上がり、寝る直前から急に下がる。
意外なことだが、就寝数時間前は眠くならない時間帯なのだ。これは、おそらく、就寝時間に向けてどんどん増えている睡眠負債を抑えるために、覚醒のための出力が上がるのだと考えられている。
しかし、こうした時間帯に関係なく、授業中に眠くなったり、夜中に見たい番組があれば起きることができたりする。これは、モチベーションや気持ちの高ぶり、ストレスによる興奮などが、脳幹の覚醒にかかわる機能や、オレキシンをつくる神経細胞に影響するからである。また、満腹と空腹の場合の血糖値の違いは、オレキシンの生成に影響するため、栄養状態も覚醒に大きくかかわるといえる。このように、睡眠と覚醒には、体内時計と睡眠負債に加え、モチベーション・情動・ストレス・栄養状態も関係しているのだ。
【必読ポイント!】
◆よりよい睡眠をとるためのTips
◇眠りにこだわりを持たない
よりよい睡眠をとるためのコツを考える前に、不眠のしくみについて著者はページを割いている。
何か気になることがあって眠れない、というのは自然なことだ。というのは、前述したとおり、感情の高ぶりやストレスが、脳に作用して覚醒状態をつくるからである。この場合、眠れるようになるには、ストレスや不安のもとになっているものを解決するしかない。
「夜に眠れなくて日中に障害がある」ということが週3回以上、3ヵ月以上続くと、臨床上不眠と診断される。眠れない原因が解消されているのに、不眠が続いてしまうのは、「眠れない」ということ自体に意識が向いてしまうからだ。毎日同じ寝室で「眠れない」苦痛を味わうと、いつの間にか寝室と苦痛な体験が結びつき、無意識に操作されてますます眠れなくなってしまうのである。
以上をふまえると、逆説的に、眠りにこだわりを持たなければ、不眠恐怖をつくらないで済む。睡眠をとらないとうまくいかない、とか、特定の時間に眠らなければ、という思い込みをなるべく排し、眠りに関心を向けすぎないことが安眠への第一歩である。
◇15分眠れなかったら居間に戻る
ほかにも、本書で紹介されているTipsの中から、いくつかを紹介しよう。
不眠に陥るのを避けるためには、寝室で眠れない体験を繰り返さないようにするのが大切だ。だからこそ、眠くてしょうがなくなるまで寝室には行かず、また、寝室で15分眠れなかったら居間に戻ってみるとよい。寝つけないのに寝ようとすると、情動が高まって、体が覚醒状態に向かってしまう。
「寝ないといけない」と意気込まず、眠くなったら寝室に行く、15分眠れなかったら居間に戻る、ということを淡々と繰り返す。すると、眠気は溜まっているはずなので、最終的には必ず眠れる。
ワンルームに住んでいる人は、「寝室」を「寝床」と考えて、同じように15分眠れなかったら寝床を離れるというふうにすればだいじょうぶだ。
◇必要以上に早く寝ようとしない
スムーズに眠りにつくためには、「いつ寝るか」も大切である。体内時計のくだりで述べたように、夕方から夜にかけて、人間には「眠れない時間帯」がある。溜まってくる睡眠負債に対抗するために、覚醒出力が上がる時間帯である。たとえば、夜11時に寝る人ならば、直前の8時から10時くらいにかけては、一日で一番眠れない時間帯だ。これは「睡眠禁止帯」と呼ばれている。
そのため、翌朝早く起きなければいけないという場合に、早めに寝ようとすると寝つけなくなってしまう。睡眠禁止帯にあたってしまうからだ。翌朝早く起きる必要がある時にも、普段どおりの時間に寝て、次の日の睡眠で睡眠不足を解消するのがよい。
また、睡眠禁止帯は、夜に明るい光を浴びると後ろにずれてしまう。体内時計そのものが光によって後ろにずれこむからだ。そうすると、いつも寝る時間が睡眠時間帯に入ってしまって眠れなくなる。睡眠に悩んでいる人は、夕方以降明るい光を浴びるのは避けたほうがよいだろう。
◆眠りのギモン
◇忙しくて寝る時間が取れないときにはどうすれば?
OECDの調査によると、日本人は世界で2番目に睡眠時間が短い国だという。一律何時間眠れば健康ということはなく、一人ひとり最適な睡眠時間があるものだが、それよりも短い睡眠時間でやりくりしている人は多くいることだろう。
短い睡眠時間に慣れるという人もいるが、残念ながら、短時間睡眠が習慣になったとしても脳や体が慣れるということはない。夜間の睡眠時間を一定の時間に制限して反応速度を観察する実験でも、日を追うごとに反応は遅くなるだけで、慣れるという現象は起こらなかったという。
したがって、7時間睡眠が必要な人は、じゅうぶんなパフォーマンスをするには7時間寝るしかない。休日にリズムをくずさないよう「プラス30分以内」に多く寝るか、平日のすき間の時間で短い睡眠をとるしかない。足りない睡眠は別のなにかで代用することはできないのだ。
◇シフトワーカーは不眠になりやすい?
現代人の眠りの特徴のひとつとして、仕事の都合で生活リズムが不規則な人も多いということがある。
体内時計によっていろいろな機能が低下している夜に働くというのは、本来は良くないことだが、シフトワーカーを続けていても普通に生活できているのなら、心配はいらない。日中の活動に支障がないのなら、睡眠は十分にとれているということなのだ。
多くの動物は、まとめて夜眠るのでなく、寝たり起きたりしている。人間も、大昔は今とは違ってまとめて眠るスタイルではなかったかもしれない。
だから、シフトワーカーの人は、多少負担があるとしても生体として適応する能力があるのだといえる。したがって、普通に生活できているとしたら問題はない。ただ、シフトワーカーの人には一方で不眠症やうつ病が多いことも知られており、そうなってしまった場合は働き方を変えることだ。
櫻井武(さくらい・たけし)
[DIAMOND online]
Posted by nob : 2017年11月10日 16:03