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■普通の若者が携帯小説 ベストセラーも続々
「活字離れ世代」が、自分たちの言葉を持ち始めた。作家志望でもない普通の若者たちがケータイで書いた小説から、数十万部のベストセラーが続々と生まれている。これは新しい文学なのか、それとも一過性のブームなのか。出版不況のなか、本を売るのに四苦八苦している文芸関係者たちは、困惑を隠せない。
暴走族の元メンバーだった群馬県の男性(24)は05年秋、無料の携帯小説サイトに、「私小説」を書き始めた。
〈僕は…生きていてもいいですか? 僕は…もう一度、笑っていいですか?〉。題は「また会いたくて」。ぐれ始めていた中学生が強気な少女と出会い、バンド活動という生きがいを見つけるが、少女の死で再び荒れ……。すべて自分の体験に基づいた話だった。
■サイトで人気
掲示板に多くの反響が寄せられた。「もう少しだけ生きてみようと思えました」「夢をもう一度目指そうと思います」。ついにサイトの人気ランクで1位になり、昨年8月に出版されると2カ月で10万部を突破した。
SINKAと名乗るこの男性は「これまで2行以上の文を書いたことがない」ほどの国語嫌いだったという。執筆は、自分の過去と向き合うため。中古車販売の仕事の合間に携帯端末で毎日少しずつ打った小説が、ベストセラーになった。「 」が17回連続する個所もあり、ドラマのシナリオや漫画に近い。
彼のような「ケータイ小説家」が今、急増している。この携帯小説サイト「魔法の図書館」(http://4646.maho.jp/)に掲載されている小説は70万タイトル。この半年でほぼ倍増し、書籍化される作品も次々と出てきた。
05年秋以降、出版されたのは11人の共著を含む15作品。作者はみな20代で「メイ」「百音(もね)」などネット上の名前で執筆している。初めて小説を書いた人ばかりなのに軒並みベストセラーに。美嘉さんの「恋空」は上下巻で124万部に達した。
福岡県の短大生、凛(りん)さん(20)の「もしもキミが。」は、昨年12月発売ですでに40万部を超えた。帯には「日本中の女子高生が号泣した」。以前から携帯小説の読者で、電車の中などで携帯で書き始めたという。
■会話と独白で
携帯の画面に表示できるのは100字程度。そのため、携帯小説は一文が短くて情景描写も少なく、多くが会話と独白で構成されているのが特徴だ。
プロの作家でも1万部を超えるのが難しい時代に、いとも簡単に数十万部を売り上げる携帯小説は、出版業界に衝撃を与えている。主人公の恋人が死ぬことが多いなどストーリーがワンパターンで、表現も稚拙だとして、「小説ではない」と批判する人もいる。
「恋空」などを出したスターツ出版の山下勝也取締役は「一世一代の自伝的小説が、普段本をあまり読まない中学、高校生の心に刺さったのだろうが、作家の創作力という面ではまだまだかもしれない」と話す。
SINKAさんは今、チャイルドセラピストになるため通信教育で勉強中。凛さんは幼稚園の先生になるのが目標だ。2人ともプロの作家になるつもりはないという。
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〈キーワード:携帯小説〉 先駆けは00年にYoshiさんが配信した「Deep Love」とされる。テレビドラマ化されるなど人気を集め、出版社やIT企業が次々と携帯小説サイトを立ち上げた。携帯の通信高速化とパケット定額制による通信料の値下げで、読者は04年ごろから10代~30代を中心に爆発的に増加。小説以外も含む携帯書籍の売り上げは、04年度の12億円から05年度48億円に上った。
〔朝日新聞〕
Posted by nob : 2007年02月11日 14:05