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HIKARU復活!

第32号(File #32:2007.10.07発行)


◆ 〜ちさと〜 Vol.5◆


ちさとには、そもそも自身に対する疑いはおろか迷いすらも皆無だった。

ちさとの発想と言動は、ただただ自身の都合と快楽だけに満ちていて、
他人を思い遣るとか遠慮するといった感覚が
まったく欠落してしまっているのだ。

ちさとを取り巻く第三者達は、
それを自明のこととして従順に受け入れてしまっていたから、
ちさとにはタブーといった類いの要素がなく、驚くべきことに、
それは現在に至るまで何ら変わることなくつながってきているのだ。

善悪の基準も簡潔明瞭、ちさとの都合と快楽を満たしてくれるもの、
つまりちさとを護り貢献してくれるものだけが正しく、
その度合いに応じて優先順位も自ずと定まるのだ。

それでいて、ちさとの価値観は、すべて第三者による時間と手間、
モノやカネの度合いに応じて形作られているから、
あちらの水は甘いと誘われる蛍のように美しく光り輝きながら
浮世を定まることなく漂い続けるばかりで、
ちさとがその時々の自らの在り様について思い悩む姿など、
これまでの長い付き合いにおいてHIKARUもついぞ目にしたことはなかった。


柔らかな日差しがいっぱいに差し込む午後の教室の、
校庭の新緑を背景にした窓際の席で、
たおやかに髪を廊下に抜けていく春風に揺らす物憂げな美しい少女、
そのあたりだけが時が緩慢に流れているかのような、
まるでスローモーションのフィルムを見るように、
まばたきとともにゆっくりと上下する長い睫毛の揺れめきに、
HIKARUの視線は釘付けにされてしまっていた。
それが、忘れてきた教科書を借りにいった隣のクラスでの
HIKARUとちさとの初めての出会いだった。

「あの子は?」
HIKARUは教科書を受け取りながら尋ねた。
「新入りよ。ほとんど口も利かないし、
ちょっと奇麗だからってスカしてるの。もう感じ悪いったら」
「そうなんだ。じゃあ、これ借りる。また後でね」

その日以来、事ある毎に隣のクラスを覗いては、
いつも孤独なでも飄々毅然としたちさとの様子を
さりげなく伺うことがHIKARUの日課になった。

そうしたHIKARUの様子はやがてちさとにも伝わり、
そしてその時は唐突に訪れた。


夏休みも間近な息切れるように暑い放課後、
掃除当番を終えたHIKARUが下校しようと靴の紐を結んでいると、
透き通るように皮膚の美しい細くしなやかな指先が横からそっと伸びてきて、
HIKARUの後れ毛に触れていった。
視線を移すと、まだ容赦なく照り付ける戸外の日差しを背にした逆光の中に
ちさとが佇んでいた。

ちさとは、そのままHIKARUの手を取ると、
無言のまま校舎の脇の人目につかない一角にHIKARUを連れていった。

ちさとはHIKARUの右肩に左手をかけ、
ほんのりと冷たく湿った古い木造校舎の壁にHIKARUの背を押し付け、
その切れ長の妖しく潤んで揺れる眼差しでHIKARUを真っ直に見詰めた。

ちさとの唇がほころんだように見えたと同時に近付いてきて、
HIKARUの唇を優しく捉えた。
心臓の鼓動が止まってしまったかと思いきや、
そっと上唇を噛まれたり下唇を吸われたり、
首筋を長い舌で啄まれたり耳たぶに吐息を感じて、
HIKARUの鼓動は激しく高鳴り、
ちさとの透けるように白いしなやかな右手で左胸を支えられていないと、
その場にへたりこんでしまいそうになった。
ちさとの頚元からは淡いベルガモットのような甘い香りがしていた。


ちさと/Vol.6に続く


◆あらためてこんにちは

まぐまぐにご登録いただいている読者の皆さま、
あらためてこんにちは、HIKARUです。

まぐまぐで決められている配信期日までにメールマガジンを発行できず、
強制的に休刊扱いとなってしまい、
廃刊のお知らせが皆さまに届いているかと思いますが、
今回あらためて手続きをとり、また続きをお届けできることになりました。

物語の中でも、いずれ触れていくつもりですが、
私が終身旅行者として日本を離れてから、
既にもう八年の歳月が過ぎ去ろうとしています。

今回期日内にメールマガジンを発行できなくなってしまったのも、
旅先でPCを含めたほぼすべての荷物の盗難に遭ってしまったからです。

まぐまぐの読者の方々のメールアドレスは、
そもそもまぐまぐでの管理なので問題はありませんし、
盗難されてしまった私のPCは、こうした事態に備えて、
BIOSレベル、Windowsレベル、データの強力な暗号化による
三段階のすべて異なるパスワードにより保護されていますので、
自主配信をさせていただいている方々の個人情報についても、
漏洩してしまう可能性は限りなく小さいのでどうぞご安心ください。

これからもまだまだ続けていきますので、
あらためてよろしくお願いいたします。

HIKARU


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Posted by hikaru : 2007年10月09日 03:36