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核心をついているコラム。。。

■ 伊藤公紀教授に聞いてみました/温暖化問題って「ワナ」なんですか?

地球温暖化対策を最大の焦点に掲げた北海道洞爺湖サミットが閉幕。結局、温室効果ガス削減についてはさほどの進展は得られなかった印象だ。はたして、CO2 を問題視する現在の論調は、人類を幸せに導いてくれるんだろうか。2008年4月号『地球温暖化問題は正確な「真実」なのか?』で、冷静な意見を聞かせてくれた横浜国立大学大学院教授の伊藤公紀氏は「温暖化問題にはワナがある」と警告する。いったい「ワナ」とは何なのか。伊藤教授を再び訪ね、その警告を聞いてみた。


□工学博士 伊藤公紀氏

横浜国立大学大学院工学研究院教授。1950年福岡県生まれ。環境計測科学などの分野で日本を代表する研究者。今年5月に出版された著書『地球温暖化論のウソとワナ』(ベストセラーズ※共著)が大きな反響を呼んでいる。ほかに『地球温暖化埋まってきたジグゾーパズル』(日本評論社)、『暴走する「地球温暖化」論』(文藝春秋)などがある。


□温暖化の原因はCO2と決めつけるワナ

「現在の地球温暖化問題で、もっとも不自然なのは極端に二酸化炭素(CO2)排出量だけが問題視されていることです。気候変動にはさまざまな要因がある。ところが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でCO2が主な原因と指摘されたことで、世の中は暴走を始めているのです」(伊藤氏)

ノーベル賞も受賞したIPCCの報告書では「20世紀後半の気温上昇は、人為的なものである確率が高い」と結論づけている。人為的な原因のひとつとしてCO2がある。CO2が主な原因とするのは気候モデルによるコンピューター・シミュレーションから導かれた結論だ。でも「科学の世界でコンピューター・シミュレーションが使われるようになったのは、ほんの20年ほどの出来事。しかも、モデルに使用するパラメーター(媒介変数)をいじることで、結果は大きく変わります。気候モデルによるシミュレーションは、まだ未成熟な科学です」と伊藤氏は指摘する。

さらに、2003年に実施された気候科学者へのアンケート調査によると、現在の気候変動は人為的なものだと思うかという問いに対する回答は、賛成が全体の 3分の1程度、中間や反対の態度を表明する科学者も多い。実は、まだよくわかっていないのが実情なのだ。「気候変動が人為的なもの。まして、CO2が主因であるという意見が科学の総意と決めつけてしまうことこそ、人類が陥る第一の落とし穴、つまりは“ワナ”といえるでしょう」(伊藤氏)。

「最近の研究では、CO2が2倍になったら気温が何度上がるかという『気候感度』が低いこともわかってきた。気候変動に対応して環境をマネジメントするためには、もっと複雑な要素を考えていく必要があるはずです」と伊藤氏は言う。原因が曖昧で、削減による効果もよくわからない現状であるにもかかわらず、政治や社会がCO2削減という目標だけを掲げて突っ走っている事実には、どこか不自然な作為を感じてしまう。ことに日本はCO2削減のために巨額のお金を投じようとしているのだ。


□CO2が生み出すビジネスチャンス

「ナポレオン・ボナパルトは、『人を動かすのは恐怖と利益だ』と言ったと伝えられています。現在の地球温暖化問題は、まさに恐怖と利益によって動いている」と伊藤氏。氷山が崩れ落ちるセンセーショナルな映像をメディアが流して恐怖を煽り、CO2削減を大義名分とすることで、新たな「利益」が生まれつつある。わかりやすい「利益」のひとつが『排出権取引』だ。現役の金融ビジネスマンであり、『排出権取引とは何か』などの著作もある北村慶氏に、そのあらましを聞いてみた。

「排出権取引」で、日本の損得勘定は?

先日の北海道洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策として2050年までにCO2排出量を半減することが合意されました。京都議定書において、日本は、 1990年比6%の削減義務を負っていますが、実際には減るどころか、逆に6%以上も排出量が増えており、目標達成は困難な状況です。

「排出権取引」で、日本の損得勘定は?このため、日本政府は2年前から、中国やブラジルなどから排出権を購入しています。つまり、私たちの税金が、すでに中国などに流れ始めています。京都議定書に基づき、技術を供与することで、発展途上国での排出量を抑え、何もしなかった時に出たであろう排出量との差分を、日本が減らした量としてカウントしているのです。日本は世界最大の排出権購入国として認知されており、これに目を付けたヘッジファンドなどから排出権を高値で購入せざるを得なくなるリスクが囁かれ始めています。

日本では、削減が義務付けられているのは国だけであり、経済界の反対により企業の削減は義務化されていません。一方、EUでは国の義務を企業レベルにまで分割して課しています。そして、割当られた排出量以下にCO2を削減できた企業は排出権を売り、削減できない企業は排出権を買う、という市場取引が成立しています。というのも、削減目標未達成の企業には1トンあたりのCO2に100ユーロの罰金が課せられているからです。EUはこの排出権取引制度を世界に拡げようとしており、ブッシュ後の米国の新政権も同様の制度を導入し、EUとリンクする可能性が高くなっています。

「排出権取引はマネーゲームだ」いう批判もありますが、その導入は世界の趨勢となっています。私たちは、まずは税金が排出権購入にどのように使われているのかに関心を持つ必要があります。そして、中国の8分の1と言われる極めて資源効率の良い社会を築き上げた実績を背景に、地球温暖化問題をビジネスチャンスと捉え、高い技術力で稼いでいく“したたかさ”が求められているのです。


□日本の行動は『自殺』に近い?

排出権取引を巡り、巨額の金が動きつつある世界の情勢。でも「国際的な排出権取引は、もともと排出が少ない国の丸儲け。各国の削減努力に対するインセンティブにはならない。そもそも排出権取引は、京都議定書の実効性を高める手段のひとつとして考え出されたものですが、現在ではかえって世界全体でのCO2排出量を増やすのではないかと危惧されています」と伊藤氏は警告する。そもそも、CO2を削減しようという目標は、地球規模の気候変動を食い止めるために掲げられたはず。本来であれば気候変動に関わるさまざまな要因を総合的に考慮して、最善の方法を探るべきなのだ。

「CO2 の削減だけを突出した指標として政治が動き、金が動いて、そこに群がる利権が生まれつつある。本来、政策とは物事がどっちに転んでもいいように実施されるべき。官民が一体となってCO2削減一辺倒の動きが繰り広げられている日本の現状は、すでに大きなワナに落ちていると言わざるを得ない」(伊藤氏)ということだ。

こうした現状に警鐘を鳴らしているのは伊藤氏だけじゃない。地球電磁気学や北極圏研究の世界的権威である赤祖父俊一氏は、その著書『正しく知る地球温暖化』のなかで、CO2排出削減について各国首脳が「何回会議を開いても合意に達することができないのは、IPCCが予測する大災害、大異変を信用していないか(IPCCの初代委員長は2020年にはロンドンもニューヨークも水没し、北極圏のツンドラ帯は牧場になると予言していた)、各国間の利害関係や自国の経済問題の方が重要課題であるからであり、会議は実際には温暖化問題の対策会議ではなく、裕福な国と貧困国の争いの場になっているからである」と指摘している。

日本だけじゃない。デンマークの統計学者、ビョルン・ロンボルグも「人類が過去数世紀で大気中の二酸化炭素濃度を大幅に引き上げ、地球温暖化に貢献したというのは議論の余地がない。でも議論の余地があるのは、そこでヒステリーを起こして、前例のないお値段でとんでもないCO2削減プログラムに大盤振る舞いするのが唯一の対応なのか、ということだ」(著書『地球と一緒に頭も冷やせ!』より引用)と問題を提起している。

最新の科学的な知見に照らすと、従来の地球温暖化問題の常識もぐらついている。つまり「CO2排出を削減しないと地球に大災害が起こる。CO2排出を減らせば確実に致命的な地球温暖化は防げる。世界のCO2排出量はちゃんと減らせるというのはすべて過大評価であり、はっきり言えば間違い」(伊藤氏)なのだ。それなのに、CO2削減という大義名分に先走り、巨額の金を投じようとする日本の行動は「『緑の切腹(Green Harakiri)』と皮肉った外国人記者がある」(『正しく知る地球温暖化』より引用)と赤祖父氏は指摘している。


□CO2が悪者にされる本当の理由とは?

北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減するとの目標を「認識」するという合意がなされた。同時に、原子力エネルギー基盤整備を進めるという合意も盛り込まれている。

「そもそも、IPCCは国内の原子力発電を推進しようとする英国などのイニシアチブで生まれた経緯があると指摘されています。かつて、大気汚染を理由に推進しようという世界的な動きがありました。今度はCO2削減を理由にして、原子力発電を推し進めようとする“力”が存在しているのではないでしょうか」(伊藤氏)

さらには、バイオ燃料の推進についても、北海道洞爺湖サミットの合意文書に盛り込まれている。食糧危機や、耕地にするための森林伐採などの問題を抱えるバイオ燃料。廃棄物や廃炉の問題は未解決のまま進められる原子力発電。「CO2だけを悪者に仕立て上げ、原子力やバイオ燃料を進めることで、世界はCO2による地球温暖化とは比べものにならない危険を抱え込もうとしているともいえます。現状の地球温暖化問題に潜む、最大のワナがここにあるのです」と伊藤氏は危惧するのだ。

「もちろん、無駄を減らして、CO2排出が少ないクリーンで快適な社会の実現を目指していくのはよいことです。でも、そもそもの目的は地球規模の気候変動に対応しようということだったはず。CO2削減だけに固執する現状は、徳川綱吉の『生類憐みの令』に似ている。動物の命を守るために、人を処刑するのは本末転倒ですからね。気候変動は人為的でない要素も多い。真に豊かで幸せな世界を実現していくためには、CO2削減以外にもバランスよく取り組んでいかなければいけないことがたくさんあるはずです。この記事を読んだ人たちが、一人でも多く、広い視野に立つ“気候問題の達人”になっていただけたら、世の中も変わっていくのではないかと期待しています」(伊藤氏)

環境に優しい暮らしを心がけるのは正しいことだ。でも、CO2削減だけに固執してお祭り騒ぎをするのは決して正しいことじゃない。われわれは今、もっと冷静に地球全体の幸福を考えなければいけない時期にあるということなのだ。


□みんなが気持ちいい世界になるといいのに

2001 年のこと。日本EVクラブという市民団体の活動で、手作り電気自動車で日本を一周するイベントホームページの編集長をやったことがある。途中、屋久島を一周する時には臨時ドライバーもやらせてもらった。世界遺産にもなった屋久島は、水力発電だけでほとんどの電力をまかなうことができている。まん丸な島の雄大な山と海。その狭間にへばりつくようにして、人の暮らしが点在している。電気自動車で原生林を貫く林道を走りつつ、人と自然のバランスは、このくらいがちょうどいいのかも知れないと考えたことを覚えている。

たとえば、海の真ん中に浮かぶ貧しい島国で、ダムをつくるような場所もなく、電力が足りなくて、でも、CO2を出すのはけしからんという論理で火力発電所(きっと小規模でいいのに)がつくれないとする。島国の人たちは、電気が足りない不便な生活を強いられることになるんだよね。これは、やっぱり正しいことじゃない。21世紀の終わりごろ、世界が海に沈むことなくみんなが豊かになっていくためには、もっとほかにやるべきことがあるはずだ。

今、我が家では朝顔とゴーヤを育てている。日陰を作って遮光して、冷房の効率を高めるエコロジー、なんてのは言い訳で、朝顔はキレイだし、ゴーヤは良く育って美味しいんだよね。屋久島のバランスが「ちょうどいい」とすると、東京なんて大都会で暮らすこと自体、そもそもエコロジーとしては正しくない行為なんだもの。せめて、自分が「気持ちいい」と感じる暮らしをしたいと願って行動しているつもりなんだけど。

気持ちいい暮らしを実現するために大切なのは、禁じることより楽しむことなんだと思う。世界中に原子力発電所を作れるようになれば、技術的にアドバンテージのある日本は儲かるのかも知れない。でも、原発って気持ちよくないんだよなぁ。

編集/チャージャー編集部
取材・文/寄本好則

[月刊チャージャー]

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Posted by nob : 2008年08月09日 23:51