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言い得ている、、、そして確かにある、、、私の周囲にも。。。

■バカ上司とスーパー上司の“意味深”な関係
悪気のない行動が思わぬ“被害者”を生む

河合 薫

 困った上司、というのは、どこの会社にもいるものである。

 部下たちは時折、そうした上司の悪口を酒のさかなにしてストレスを発散させる。不思議なもので、自分がバカ上司と感じている人に対しては、周りも同じ思いを抱いていることが多い。だから、「あのバカ上司ときたら……」と誰かが口火を切った途端に、「そうそう。この間もさ〜」と同僚たちも乗り出してくる。まるでダムの堤防が決壊したかのように、不満を爆発させるのだ。

 バカ上司に対する不満は、インタビュー調査などでも耳にすることが多い。最初は「こんな言い方したらアレなんですけど、うちの上司が信じられないくらいバカで……」とためらいがちに話し出す。ところが次第に熱が入り、最初の丁寧な語り口がいつの間にやら辛辣で攻撃的になり、とめどなく不満を発散させるのである。

 もっとも、ここで言うバカ上司とは、イヤミを言ったり、やたらと威張っていたり、ゴマすりが上手だったりするイヤな上司とは本質的に異なる。

・方向性を示せない。

・こっちの言っていることを理解できない

・その都度、言っていることが違う

・一度、決定したことをすぐに変える

 このように決断力や理解力のない上司が部下をあきれさせ、バカ上司というレッテルを張られるのだ。

 部下たちには上司を選ぶ権限がない。どんなバカ上司であっても、毎日顔を合わせ、付き合わなくてはならない。だから余計にストレスもたまる。

 できる限り接触を避けようとしても、完全に無視することはできないから、「もう、何とかしてくれよ」とついつい悲鳴を上げてしまうのだ。

出世していくと、いずれは無能になる?

 「バカな上司=無能な上司」とイコールで結んでしまっていいのかどうか、迷うところではあるのだが、組織に無能な上司が多い理由を説明する際によく用いられるのが、「ピーターの法則」と呼ばれるものだ。

 これは、カナダ人教育学者のローレンス・J・ピーターが提唱した有名な法則である。「階層社会の各構成員は、各自の力量に応じて無能なレベルに達する傾向があり、分相応に出世したらそれ以上の出世は望まないに限る」といった示唆を世間に与えた。

 働く人は仕事で評価されると、一つ上の階層に出世していく。そして、いずれは自分の仕事が評価される限界の階層まで出世する。

 人間には能力の限界もあれば、出世に伴って仕事の内容が変わることにうまく適応できないこともある。例えば商品を販売する能力の高い人が、必ずしも管理職としての能力にも長けているわけではない。

 その結果、出世してたどり着いた地位がその人にとって「不適当な地位」と化し、周りからは「無能」と評されるようになってしまう。

 仕事ができることの報酬として昇進だけを用いると、管理職、すなわち上司は無能な人だらけになる。ピーターはこう警鐘を鳴らしたのである。

 ピーターの法則の変形版と言われているものに、「ディルバートの法則」がある。「企業は損失を最小限にするために、最も無能な従業員を管理職に昇進させる傾向がある」というのが、その内容だ。

 これは、米国の大人気漫画『ディルバート(Dilbert)』の作者であるスコット・アダムズの造語である。米IT企業でエンジニアとして働いた経験を持ち、現在はスコット・アダムズ・フッズという会社のCEO(最高経営責任者)でもある彼ならではの、何ともウィットに富んだ指摘だ。

 アダムズは1995年に米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した記事でこの法則を紹介。この法則をタイトルにした本も書き、それは全米でベストセラーになった。

 アダムズによれば、組織の生産性に直接的に関係しているのは組織の下層部で働く人たちであり、上層部にいる人たちは生産性にほとんど寄与していない。だから無能な人ほど、生産性とは関連の薄い上層部に昇進させられることがあると、皮肉ったのである。

 このディルバートの法則は学術的な根拠が希薄だとされているが、世間に広く支持された。確かに仕事ができるからという理由で出世しているとは限らない現実を考えると、かなり納得のいく法則でもある。

 でも、多くのビジネスパーソンが遭遇する困った上司たちは、ピーターの法則やディルバートの法則のような“組織の法則”によって生まれるべくして生まれた、無能な上司たちばかりなのだろうか? 本当は無能ではないのに、部下からバカ上司と見られている気の毒な上司もいるのではないだろうか?

 こうした疑問を抱いたのは、デキル上司の下で働く、ある管理職の嘆きを知ったからである。

 そこで今回は、バカ上司について、考えてみようと思う。

 大手広告代理店の部長である知人のA氏から聞いた話だ。

 いくつか問題があったため、部下の一人であるB課長を呼び出して説教を始めた。彼はかなりイライラして、随分と大きな声を出して、しかりつけたらしい。すると突然、B課長が泣き出したという。

 「50にもなる男が泣くんだから、よほどのことでしょ。驚いて、上がりまくっていたテンションも一気に落ちた。そして、彼の話を聞いたんだよね。そしたら、『僕は部長のようなスーパーマンじゃありません!』って、まるでせきを切ったように不満をぶちまけ出した」

 A部長はこう言った後、次のように漏らした。

 「いやぁ、本当にびっくりしたよ。でもね。話を冷静に聞けば聞くほど、B君の言っている通りなんだ。私自身がイライラする原因の一端も、結局は自分自身の行動にあったことに気づかされた。悪かったと正直反省したよ」

 延々と続いたB課長の不満の要点をまとめると、次のようになる。

・決定権のなさ——『おまえが決めろ』と最初は指示するくせに、決めたことを報告すると『そんなんじゃダメだ』と突っ返される。一度だって、私の意見が反映されたことがない。

・上司の思いつき——部長は何か気になることがあると、突然会議を始める。自分がやろうとしていた仕事をその都度、中断しなくてはならないので結果的に仕事が遅れる。

・自分をないがしろにする——自分を通さないで直接スタッフに指示を出すことがある。そのため、自分が把握していない指示をスタッフが実行していたりする。

・情報開示の少なさ——私は役員会議には出席していないので、経営の細かい動きまで具体的な情報を持っていないことも多い。ところが部長は、自分の知っている情報は私も知っていると思って話を進めることがある。

 さて、B課長の嘆きを聞いて、アナタはどう思うだろうか?

 もし、自分がB課長の立場だったら……と、想像してみてほしい。

 いったん決めたことでも部長からダメ出しされれば、一度、決定したことをすぐに変えるかもしれない。部長が自分の知っている情報は部下も知っていると思って話を進めることがあれば、その都度、言うことを変える必要に迫られるかもしれない。自分を通り越して部長が直接スタッフに指示を出すようなことがあれば、うちの上司は方向性を示せないと部下たちに思われるかもしれない。

 つまり、B課長の立場に置かれれば、誰もが部下からバカ上司と受け止められるような行動を強いられるのではないか、と思うのだ。

 「決断力がない」「理解力がない」──。こう部下が感じる上司の上には、A部長のようなスーパーマンがいるってことはないだろうか?

 そもそも直属の上司がバカで、その上の上司もバカだったら……。そんな会社はタイタニックと同じだ。沈没は時間の問題。さっさと脱出した方がいい。揺れながれであれ何であれ、どうにか航海を続けている会社であれば、多かれ少なかれ、B課長が感じるようなデキル上司が、バカ上司の上にいやしないか、と思うのだ。

スーパー上司に特有のA型行動パターン

 スーパーマンと呼ばれるタイプは、「A型行動パターン」と呼ばれる行動特性を持つ人が多い。

 これは、米国の心理学者、フリードマンとローゼンマンの2人が提唱したもの。「A型行動パターンの人は、できるだけ短い時間に、より多くのことを達成しようとする慢性的で絶え間ないもがきがあり、もしそう要求されたら、他の物事や他人と衝突してでもやり遂げようとする」とされる。

 A型行動パターンの人はまた、そうでない人に比べて、冠動脈疾患や心筋梗塞をはじめとするストレス関連疾患の発症リスクが格段に高いことも知られている。

 A型行動パターンにはいくつか特徴がある。例えば、競争心が強く、目標の達成に邁進する。攻撃的で、休むことを知らない。油断がなく、爆発的で性急な言動を取る。いつも時間に追われていて、そのために歩くのが速く、話すのも早口だ。そして、往々にして「自分はデキル」と確信している。自他ともに認める、デキル人であるケースが多いのだ。

 実際、先のA部長は、早口なだけでなく、常に目標に向かって突き進む。昇進意欲が高く、とにかく忙しい。そして、自分ですべてを把握していないと気が済まず、部下の行動も逐一知りたがる。また、自分に自信があるから、自分の意に沿わない部下の意見を却下することも少なくない。

 厄介なのは、これらの姿勢や行動は無意識のものであることだ。悪気はないけれども、ついついやってしまっているのである。そのため、本人はなかなか分からず、A部長のようにほかの人から指摘されて、初めて気づくことが多い。

 欧米と日本では、A型行動パターンの特徴が異なるという議論もある。ただし、何が異なるのかという点については意見もまちまちだ。いずれにせよ、日本で実施された多くの調査では、A型行動パターンの顕著な人は経営者や役員、部長クラスに多く、残業が長く、大量の仕事をこなすといった傾向が共通に認められている。

 これまで私が接してきた経営者、特に創業した会社を一代で大きくしたオーナー企業のトップには、A型行動パターンの人が多いように思う。

 話をB課長に戻そう。

 B課長の部下たちに、「Bさんは、ひょっとしてバカ上司ですか?」と確かめたわけではない。だが、A部長によれば、B課長の部下には、彼への不満を漏らす人が多く、中には「B課長の下では働きたくありません」と断言する者さえいたという。

 裁量権を持たない上司は、部下の目には何も決められない上司と映る。上司(=課長)の上司(=部長)から直接指示が来るようであれば、部下たちは「課長は無能だ」と思うだろう。いったん決定したことを、上司(=部長)にダメ出しされて頻繁に変えるようであれば、部下たちは「課長には決断力がない」と判断するはずだ。

 もちろん優秀な人であれば、スーパーマンが口を出さなくても済むような働きぶりを示すかもしれない。しかし、どんなに優秀な人でも、上司から常に攻撃的に早口でまくし立てられると、次第に何も言えなくなってしまうこともあるのではないか。

 自分の上司をデキル人と認めれば認めるほど、「この人が望む答えが出せなかった自分」にますます自信をなくし、簡単にできたことまで失敗してしまうこともあるかもしれない。

 下からバカ上司呼ばわりされる部下を作り出しているのは、もしかしたら、ものすごくデキル上司かもしれない。そう思えてならないのだ。

 「いやぁ、それは単にB課長に能力がなかったからでしょ?」と結論づけるのは簡単だろう。でも、B課長のような立場に置かれれば、よほどの人じゃない限り、同じようになるのではないか。人間の行動は環境に左右される。環境に流されずに打ち破ることができる人は、恐らくスーパーマンと周囲からも言われるようなごく一部の人たちだ。

 ならば、やはりB課長を批判するだけでなく、彼のようにちょっと情けなくて、部下からバカ上司と冷やかされるような上司は、その上のデキル上司が量産している可能性も受け入れるべきではないだろか。

 大体にしてこの世の中、そんなに優秀な人ばかりじゃない。そもそも優秀といわれる人がどのような人なのかさえ、私にはいま一つよく分からなかったりもする。

 それに優秀の対極が必ずしもバカとは限らない。その人がバカかどうかを判定するのは、結局のところ、部下たちの主観でしかないのだ。

部下を持たせる限りは、裁量権を保証せよ

 だからこそ、課長であれ何であれ、部下を持たせて仕事を任せる限りは、その人に裁量権を与えるべきだ。いったん任せたら、自分の意見と違うからといって簡単にダメ出しすべきじゃない。

 自分の思い通りに行動することだけしか求めないのであれば、いっそのこと、次のようにスタッフ全員に宣言して、課長の役割を明確にした方がましだろう。

 「彼に課長という肩書きはついていますが、皆さんの直属の上司は私です。ただ、私は仕事が多くて、いつも皆さんの話を聞けるわけではない。ですから、私がいない時は課長に伝言してください」と。

 そうすれば、部下たちはスーパーマンである部長を本当の上司だと思うので、課長をバカ上司呼ばわりしてストレスをため込むこともなくなるはずだ。

 裁量権を持たないことは、それだけでストレスの雨をもたらす。現に50にもなる男が大泣きするほどB課長は、強いストレスを感じていた。

 裁量権あるいは裁量度(job control)がない仕事とは、

・仕事上の意思決定を任されていない

・発言権がない

・自己の能力を発揮できない

・自己の能力を向上する機会がない

・自分のペースで仕事ができない

などを指す。

 裁量度のない仕事は、やりがいのない退屈な仕事だ。裁量度がないうえに、仕事の要求度が高いと、ストレスを強く感じるようになる。B課長のケースでは、A部長の行動パターンから想像するに、要求度はかなり高かっただろう。

 B課長の涙の理由は、高すぎる要求? それとも裁量度の欠如? 恐らくは両方なのだろう。

 そこで、だ。

 自分はデキル、と思っているアナタ。部下を抱える部下(ややこしい言い回しだなぁ)に対して裁量権を与えていますか?

 どのような裁量権を与えているのかを明確にしていますか?

 ついついせっかちになっていませんか?

 自分の思い通りに動いていないと、相手を頭ごなしに否定してはいませんか?

 これらの問いかけに対して、自分はどうかを振り返ってみてほしい。少なくとも「自分の後継者を育てたい」、「強い組織を作りたい」などと思っているのであれば、是非とも自問自答してほしい。

 もしも、本当にもしも、自分の権限を維持したいがゆえにわざと無能な人を課長に任命していたりしたら……。そんなことをしているアナタ自身が無能なバカ上司だと思うが、それは言い過ぎだろうか?
本当に困るのは、仕事に対する意識が低い人

 一方、もしアナタが部下で、直属の上司に対して「うちの上司は本当にバカ上司で……」と嘆いているならば、なぜそう思うのか、上司の何に対してそう思うのかを明確にした方がいい。

 自分の思い通りにやってくれないから、バカ上司だと思うであれば、バカなのは、上司ではなくアナタかもしれない。

 いや、バカとは言い過ぎだろう。だが、人間は自分の思い通りに動いてくれない人を、時にバカと思うことがある。そして、一度でもそう思い込むと、どんな行動を相手が取ろうと、相手が何を言おうと、公正な判断を下せなくなってしまう。バカと思う部分にしか意識が向かなくなってしまうからだ。

 自分の問題なのか? それとも上司の問題なのか? この点をはっきりとさせないで、ただ上司に対する批判ばかりを繰り返していると、自分もそのうちバカになっていくことだろう。

 私が思うに、本当に困った人とは、仕事に対する意識が低い人だ。

 平気で営業先のアポの日付を間違える。平気でクレームを無視する。平気で締め切りを守らない。

 どこの国のカレンダーを使っているのだか知らないが、日付と曜日の間違った書類をクライアントに提出したり、正式な書類の文字を間違えたりする。「そんなこと、小学生でも気をつけるでしょ」と思うようなミスを何度も繰り返す人はいるものだ。

 そう、何度でも繰り返す。そういう人は何度でも、懲りることなく繰り返す。間違っているという意識がないから、無意識に平気でバカなミスを繰り返すのである。

 小さなことを大切にしない人が、大きなことなどできるわけがない。こんな当然のことすら分からない人は、本当にバカだ。

 そんな人がどんなに大きな案件を取ってこようと、どんなに良い企画を考えようと、バカは治らない。わずかなミスから、台無しになるかもしれない。わずかなミスであるがゆえに、かえって大切なクライアントがあきれて去っていくこともある。

 で? そういうホンマモンのバカ上司にはどう対応すればいいのか?

 う〜む。これはかなり難しい。もう少し考察を重ねる必要があるので、それがまとまった時に改めて書きたいと思う。

 はい、中途半端に書いて、「まったく河合薫はバカだ」と読者の方々に必要以上にがっかりされないためにも、もう少し、ホンマモンのバカの実態調査を行いたい。しばしお待ちを。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2010年06月21日 02:11