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現実は小説より奇なり、、、私の周りにも驚くやら呆れるやら様々な二人が、、、そういう私自身も。。。

■「ただトモ夫婦」の衝撃
なぜ「草食系イクメン」は「おひとり妻」とうまくいかないのか?

 「『ただトモ夫婦』? また勝手に、こういうワード作って!」

 と、読者の皆さまに怒りを買うかもしれない。
 だが、どうかお許しいただきたい。1年半前から取材を続けてきた20〜30代の夫婦の言動は、「ただトモ(ただの友達)」と命名せずにいられないほど、衝撃の連続だったのだ。

 たとえば、リビングルームやオーディオラックを「ここからこっちが私」「こっちはあなた」と、はっきり陣取りする夫婦。また両開きの冷蔵庫を、ドアポケットの片側ずつ“妻ワールド”と“夫領域”に分ける夫婦。真ん中にあふれた分には「アユミ」「タケシ」など、それぞれの名前がポストイットで貼ってあった。まるで会社の冷蔵庫のようだ。

 「夫婦の会話はツイッター」と話す20〜30代男女も、予想以上に大勢いた。「渋谷なう」「これから二次会」などとつぶやけば、フォロワー(ツイッター仲間)にも伴侶にも、一度に状況が伝わる。そのほうが、いちいち妻(夫)一人に連絡するより便利でラクだ、という。なるほど、合理的だ。

 さらに驚いたのは、妻も夫も都内にいるのに、1年以上も“別居婚”や“週末婚”を続ける夫婦が、何組もいたこと。

 理由もまた驚く。「夫がガンプラを捨ててくれないから、私(妻)の荷物が運べない」とか、「妻が“ひとり時間”が欲しいって言うから、なんとなく」など。ほとんどが、やむを得ざる事情ではない。子供がいるのに年末年始、それぞれの実家に帰って過ごす、という夫婦も数多く目にした。「そのほうが気楽だし、(母の)おせちの味も自分に合うから」の声も多かった。

 とても夫婦とは思えない。気が向けば連絡しよう、時々なら一緒に住んでもいいけど、といった、そこそこ仲のいい仲間のよう。まるでただの友達、「ただトモ夫婦」。私はその実態を、今月発売の拙著『ただトモ夫婦のリアル』(日本経済新聞出版社)にまとめた。

「ただトモ」夫婦は時代の必然?

 ここでお断りしておこう。私は20〜30代のただトモ夫婦に、再三ビックリさせられた。でも彼らを「ヒール(悪役)」とは捉えていない。むしろいまの時代に合った、賢い男女だと思う。

 そもそもなぜ、ただトモ夫婦が20〜30代に多いのか。最大の理由は、やはり男女平等の時代に育ったからだろう。

 彼らは幼いころから、当たり前のように男女平等の学校教育を受け、就職する時点ですでに「均等法(男女雇用機会均等法)」が施行(86年)されていた。その上のバブル世代(40代)に比べて、圧倒的に平等志向が強い。

 また、現20〜30代は、男性でも非正規雇用が少なくない。右肩上がりどころか「右肩下がり」しか体験していない彼らは、男の自分ひとりが働いて、妻子を一生養うことには不安がある。当然だろう。結婚情報サービス・オーネットの調査(09年)でも、20〜30代の未婚男性のうち約8割が「未来の妻に、働いて欲しい」と答えている。

 実はすでに、いま0〜3歳未満の子をもつ母親の3割以上、末子小学生の子をもつ母親の7割近くが、なんらかの職をもって働いている(2007年 総務省調べ)。共働きが増えれば、夫婦別ポケットの家庭も増える。自分のお金で買うからこそ、“オレ領域”“妻ワールド”との割り切りも生じるわけだ。

 寝室だって同じように別々だ。現に30代夫婦の約2割は「夫婦別寝室」(08年 パラマウントベッド調べ)。起床時間や就寝時間も、得てしてバラバラ。だから「ただトモ」にもなりやすい。

 子供時代から個室を与えられ、ひとり時間やひとり遊びを楽しむことも多かった、いまの20〜30代。結婚したからといって、「休日はいつも伴侶と行動すべき」「家族に合わせるべき」とも考えない。夫婦や家族それぞれが緩くつながりながら、でも一人で行動したいときはする。

 そう、20〜30代夫婦が「ただトモ」になるのは、時代の必然なのだ。

妻が「イクメン」を欲する理由は…

 ただトモ夫婦の夫は、いま話題の「イクメン(育児に前向きな男性)」にもなりやすい。

 私の1年半にわたる取材でも、マクラーレンのベビーカーやディディモスのおんぶひも、レーマーのチャイルドシートなど、欧米のパパ用育児グッズに関心を示す20〜30代夫が多かった。とくにオシャレに関心が高く「形から入る」草食系のパパほど、イクメン度が高いようだ。

 彼らはもともと「父親のような働きバチにはなりたくない」「会社にだけ尽くす人生は嫌だ」と考える世代。

 年功序列・終身雇用の枠組みが崩壊したいま、会社にどれほど尽くしても自分を守ってくれる保障はない。だからこそ、彼らは企業人としてだけでなく、「夫として」「パパとして」の自分を強く意識する。ワークライフ・バランスに関心が高く、家事や育児に前向きなイクメンになりやすいのは、そのせいでもある。

 一方の20〜30代妻にとっても、夫の協力は嬉しい限り。
 とくに昨今は不況の影響もあって、おうちごはんや「おうち洗い(ワンピースなどをクリーニングに出さずに洗濯機で洗うこと)」など、妻たちの家事負担が増えている。夫が忙しいのは重々承知だが、それでもある程度は分担してもらわないと、自分が潰れてしまう。多少稼ぎが少なくても、家事・育児を手伝ってくれる夫のほうが、ウェルカム。「オレについて来い」といった上から目線のオレオレ系夫より、疲れた心身を労わってくれる癒し系夫のほうが、心地よい。

 取材前、私はこう考えていた。結婚・出産後も仕事を続けたいと願う「働きマン」タイプのママと、家事や育児に前向きな「草食系イクメン」のパパ。この二人は、お似合いのベストカップルになるのではないか、と。妻は「家庭内労働をシェアして欲しい」と考え、夫は「シェアする代わりに、結婚後も妻に働いて欲しい」と願う。その双方の思惑が、うまく一致するのではないかと。

 だが現実は、予想と違った。

 妻に「あなたも、家事や育児を手伝ってくれない?」と言われれば、草食系夫の多くは「いいよ」と優しく応える。妻が自分を頼ってくれた、あるいは二人で楽しい時間を共有できる、と思うから。

 でも、ただトモ妻が「手伝って」と願う先には、まったく別の思いがあった。
 多くの妻は、夫に家事・育児を手伝ってもらい、その浮いた時間を「ひとり時間」に充てようと考えていたのだ。実際にも、20〜30代の妻がいま一番充実させたいと願うのは、ひとりの時間。彼女たちの世代は、結婚・出産した後も、夫や子供と離れてひとりになりたいという「おひとり妻」欲求が強いのだ。

家を出て行く妻のテーブルを運ぶ夫

 複数の調査からも、妻たちのおひとり妻ニーズがはっきり読みとれる。
 たとえば、博報堂生活総合研究所の「夫婦関係20年変化」。この調査で「一番充実させたい時間は?」との問いに、妻の最も多かった回答は「自分のプライベートな時間」。20年前と比べ10%以上も増え、なんと65%にものぼった。

 対する夫はどうか。これがまた驚く。同調査で、「夫婦一緒の時間(を充実させたい)」と答えた夫は9%増え、40%に達しているのだ。逆に妻では、同じ声が20年前より9%減り、26%に留まった。

 つまり働く夫たちは、不況の影響もあって「早く家に帰りたい」「妻や家族ともっと触れ合いたい」と感じているのに、妻は「ひとりになりたい」と強く希望する。この20年間で、夫婦間のギャップがグンと大きく広がってしまった格好だ。

 バブルの時代、妻たちは「亭主元気で留守がいい」と公言し、夫の愚痴を言ったり煙たがったりした。でも、ただトモ夫婦の妻たちは違う。多くは、いまの夫に大きな不満があるわけではない。気が向けば手もつなぐし、人前でチュッとキスもする。

 ただし、様々な要因から「ひとりになりたい」と「おひとり妻」欲求が高まれば、得てして夫の存在自体を忘れる。取材した中にも、「えっ?!」と驚くほどある日突然、夫や子供を置いておひとり妻を楽しむようになった妻たちが、何人もいた。

 さらに驚いたことがある。それは、おひとり妻に慣れた女性ほど、夫への愛が冷めるまでの時間が早いこと。恐ろしいことに、ほんの数ヶ月前まで「ラブラブ」を公言していた妻に限って、「あの人とは、もうムリ」「夢ばっか語る」「ひとりになりたい」「別れちゃいました」とケロリと話していた。

 しかもその離婚さえ、「解散しよっか」のひと言で済ませた妻が、複数いたのだ。別れるその日、夫が会社を休んで和気あいあいと妻の引っ越しを手伝い、テーブルを運んでやっているのも目にした。その清々しい笑顔が、いまも忘れられない。

 世は婚活ブームの真っ只中。相手を探してさすらう結婚難民も多い中、20〜30代のただトモ夫婦はやっと結ばれた男女のはず。それなのに、なぜ妻たちは「ひとりになりたい」と願うのか? いとも簡単に別れを切り出すのか?

 次回は、妻たちの「おひとり妻」欲求のナゾに迫りたい。

[日経ビジネス]


■「シロガネーゼ」が「おひとり妻」となる理由
“西原理恵子”になれない、妻たちの自縄自縛

 前回、私が「ただトモ夫婦(ただの友達同士、のような夫婦)」と呼ぶ、イマドキの20〜30代夫婦についてご紹介した。

 彼ら約100人への1年半に渡る取材は、とにかく衝撃の連続だった。なぜリビングルームや冷蔵庫を“妻ワールド”と“夫領域”に分けるのか? なぜ夫(妻)との会話を、毎日ツイッターだけで済ませるのか? なぜ「夫がガンプラを捨ててくれないから」といった理由だけで、1年以上も“別居婚”を続けるのか…?

 そして最も驚いたのは、前回の最後でもご紹介した、20〜30代妻たちの「おひとり妻」欲求と、あまりにも大胆なその行動だ。

見慣れない女性が布団に…

 深夜0時、とあるマンションの一室。

 コンビニ弁当を片手に、静かに玄関の戸を開けて入ってきたタクヤさん(29歳)は、思わず「えっ?!」と声をあげた。

 いつもなら、妻が息子(3歳)と添い寝しているはずの和室の布団。そこに、見慣れない中年女性がぐったり横たわっていたからだ。

 いったい誰が…? 怖々灯りをつけると、それは妻の実母。「なんだ」とホッとひと息ついたのも束の間、今度は妻の姿が見当たらない。「すみません」と小声で実母に声をかけ、揺り起こすタクヤさん。遠慮がちに「あの、アズミ(妻。26歳)はどこへ行ったんでしょうか?」と聞くと、意外な答えが返ってきた。

 「さあ。私も、『ちょっと出てくるから、息子を見てて』としか言われてないから」

 だが翌日もその次の日も、妻は戻ってこない。携帯電話も圏外。ふだんは楽観主義の実母も、さすがに3日目には「まさか」と、事故の可能性を口にした。それまで平静を装ってきたタクヤさんも、遂にガマンの限界に。たまらず警察に捜索願いを出した4日目の夕方、妻は涼しい顔で戻ってきたという。
 「ごめんごめん、つい(気が)緩んじゃってさ」

 妻は3日間も、どこへ行っていたのか。

 「それが、ちょっとリッチな熱海の温泉旅館に、ひとりで泊まってリフレッシュしてきたって言うんですよ」(タクヤさん)

 このとき「ふざけるな!」と妻を叱りつければ、また違ったかもしれない。だが、タクヤさんは怒らなかった。自分は毎日仕事に追われ、家事や育児を満足に手伝えていない。その引け目を、少なからず感じていたからだ。

 結果的に、その配慮は裏目に出た。妻は許されたと感じ、その後もたびたび「失踪」するようになったのだ。さすがに4日間もの連泊はないが、それでも「湯河原に行ってきます」「2日で戻るね」と短いメモを残し、いまもひとりで、たびたびいなくなるという。

「ナオちゃんを喜ばせようと思って」にキレる妻

 一方、「せめて土日ぐらい、ひとりで自由に遠乗りしたかった」と話すのは、外資系金融の社員で4歳の娘の母・ナオコさん(35歳)。

 2年前、大きなプロジェクトを任された直後から強いストレスを感じ、娘を感情で怒鳴るようになった。「このままじゃヤバイ」と感じていたという。そこで会社帰り、夫に内緒で通い始めたのが、バイクの教習所。

 自宅にバイクが届いた朝は、さすがに夫も「なんで(先に)言わないの?」と憮然とした、とのこと。だがバイクの購入費用は、ナオコさんが稼いだお金。遠乗りに出るからと娘を預ける際のベビーシッター代も、彼女の懐から出ていく。夫はそれ以上、口を挟みにくかったのだろう。

 それから1年近く「ひとりバイク」に熱中し、ドライビングを楽しんでいたナオコさん。ところがある土曜の午後、彼女は衝撃的な光景を目にした。なんと夫が、ナオコさんとまったく同じメーカー・機種のバイクにまたがって帰ってきたのだ。

 「ナオちゃんを喜ばせようと思って」と無邪気に笑う夫。それを見て、「「私の世界に入って来ないで! 頼むからひとりにしてよ」って腹が立った」とナオコさん。「初乗りにつきあってくれない?」と夫に甘えられた瞬間は、思わず背筋がゾッとした、とのこと。いまは夫が苦手な「海」でのサーフィンで「おひとり妻」するのにハマっている、と言う。

ママであり、妻であり、女でありたい

 ここまで読んで、ナオコさん、アズミさんら、ただトモ世代の妻たちの身勝手な行動に、「おいおい」と腹を立てた男性も多いだろう。女性の皆さんも、「いくらなんでも極端過ぎ」「私とは違う」と感じたかもしれない。

 私も最初はそうだった。でもやがて、「いや待てよ」と立ち止まるようになった。彼女たちほど突飛でないにせよ、1年半の取材を通じて、同じように「おひとり妻」を欲する20〜30代の妻たちを山ほど目にしたからだ。

 たとえば「週1回は、ひとりで“カフェお茶”します」「バーゲン時期は、子供を預けてひとりショッピング」など。「そうしないと窒息しそう」など心の叫びととれる声も、何度も聞いた。私もママたちの生活に密着したとき、ひとり時間がないと自分という存在を見失いそうになったから、分かる気はする。

 とはいえ、ナオコさんやアズミさんのような極端な「おひとり妻」までもが登場するようになったのは、なぜだろう。

 理由はいくつか考えられる。いまの30代やその下は、独身時代から「おひとりさま」を楽しむ女性が多かったこと、概して夫の物分りがいい世代であること、働く妻が増え、ある程度自分の裁量でお金を使える妻が増えたことも、影響しているだろう。

 でもそれだけでは、どうにも説明がつかない。あれこれ悩んでいたとき、私はあるクルマのCMで流れていた一説を思い出し、「原因はこれかもしれない!」とひらめいた。

 それは、「私たち、主婦で、ママで、女です。」。

 2008年12月、トヨタ自動車がコンパクトカー・パッソ セッテのCM(シリーズ第1弾)で掲げたキャッチコピーだ。

 当時、パッソ セッテがメインターゲットに据えたのは、子育て中のスタイリッシュなママ。ひと昔前なら、化粧もオシャレも忘れ、家で育児に専念した時期でもあった。

 が、いまのママたちは違う。あるときは「よきママ」「よき妻」として、子供や夫と時間や思い出を共有する。でもあるときは、女友達と「女」として、趣味のおけいこやショッピングを楽しむ。CM(第1、2弾)でも、富岡佳子さんや堂珍敦子さんら、30代主婦に圧倒的な人気を誇るモデルたちが、ママ友とテニスやフラダンスに出掛けるシーンがいきいきと描かれた。

エスカレートする女たちの欲求

 主婦でママで、でも女(オンナ)であることも忘れたくない。なんと欲張りなことか。

 かつては、俄然「主婦(妻)」「オンナ」のイメージが強かった「VERY」(光文社)も、いまは「ママ」も含めた3つの顔を持つ30代の読モ(読者モデル)らが、誌面を彩る。

 主婦だけでもオンナだけでもダメ。「ママ」であることも重要なのだ。

 同誌の特集タイトル「母さん、夏の終わりに豹になる!」(2010年9月号)を見ても、主婦、ママ、オンナのスリーカードを持つ女性を称えている様子が分かる。結婚しても子供がいない(ママでない)私は「半人前」と見なされたようで、正直言うとおもしろくない。

 私の記憶では、創刊当時(1995年)は違った。同誌が描いた「シロガネーゼ(白金界隈に住む主婦)」や「ニコタマダム(二子玉川界隈に住む主婦)」は、平日の日中、白金や二子玉のオープンカフェでランチする、ハイソな専業主婦のイメージ。

 この頃は、「ママ」のカードを持たないDINKSの女性が、もっと前面に出ていたように思う。一般に子もちのママより、自由になる時間やお金が多いから。優雅なイメージを演出しやすかったのだろう。

 でも、時代は変わった。いまや20〜30代のシロガネーゼたちも、白金台駅前のブックオフカフェに集い、「シェラトン都(ホテル)でお茶するのはもったいない」「実はこれ、ユニクロなの」「娘とおそろ(お揃い)なの」などと言い合っている。専業主婦の気ままさや贅沢をひけらかす時代は去り、ママ友や子供と「等身大でオシャレに遊ぶ自分」に、チェンジしようとしているのだ。

 「もう一度働こうかな」といった声も、本当に多かった。多少忙しくはなっても、生活に潤いが欲しい、家庭以外の居場所が欲しい。主婦でママでオンナで、そのうえ「プチキャリア」も手に入れたい。女性たちの欲求は、時代に応じてどんどんエスカレートしていく。

ロイヤルストレートフラッシュを目指す

 現実にも、すでに末子小学生の子を持つママの7割近くが、なんらかの仕事に就いている。20〜30代の独身女性に取材しても、「ちゃんと結婚して、出産して、仕事もそこそこ続けたい」「ママになっても、オンナを忘れたくない」といった声が、大多数だ。

 そう。主婦、ママ、オンナ、そして(プチ)キャリア。この4枚のカードを揃えた「フルハウス」な女性こそが、イマドキの妻たちの憧れ(下の図を参照)。

 誰が強制したわけでもない。たぶん20〜30代の女性たち自身が、フルハウスな偶像を描き出し、いつしか「私も4つ全部、手に入れなきゃ」との思いを強くしていったのだろう。

 実際に、4つ全部を完璧に手に入れるのは難しい。私が知る限り、「ロイヤルストレートフラッシュ」が出るほどのレアケースだ。

 考えてみれば、20〜30代女性が憧れるアムロ(安室奈美恵)やヒロスエ(広末涼子)だって、ママは続けても「主婦(妻)」のカードは、いったん手放した。あのマルチな勝間和代さんだって、私がラジオ番組でご一緒した際に、「仕事も主婦業も100%なんてムリ」「仕事60%、育児40%、合計で 100%って考えればいいんですよ」と言い切っていた。

 そう、主婦もママもオンナもキャリアも、全部に全力投球してフルハウスのカードを揃える。そんなことは、現実には不可能に近いのだ。

自分を追い詰めた挙げ句の「リセットしたい」衝動?

 でも20〜30代妻の多くは、まだそのことに気づいていない。追い求めればきっと手に入る、それこそがオンナの頂点だ、と思い込んでしまう妻もいる。

 だからこそ、「私は4つ全部をこなせない」「こんなはずじゃなかった」と落ち込み、いまの自分が嫌になる。「全部忘れてひとりになりたい」「リセットしたい」との思いも生まれる。

 それがたぶん、「おひとり妻したい」という欲求となって噴出し、時として「蒸発したい」「夫に内緒で遠乗りしたい」といった、極端な行動を生む。そしていつの間にか、夫は意識の隅に追いやられ、結果的に「一緒にいたいときだけ同居する」といった、「ただトモ夫婦」の増殖につながっていくのではないだろうか…?

 「毎日かあさん」の作者で人気漫画家の西原理恵子さんは、いわゆるバリキャリのシングルマザー。彼女はかつて、毎日新聞紙上(2007年9月7日)の「手抜き育児のススメ」で、こんなことを言っていた。

 ——勉強、生活、食事って、全部面倒見てたら、そりゃ殴るのも無理ないよ。それで「きょうもつい子どもを怒ってしまった」って夜に落ち込む。そんなことやめて食育なんて無視しましょうよ——

 彼女は気づいているのだ。主婦、ママ、オンナ、キャリア、その4つすべてに全力投球するのは、土台ムリだと。4つのカードをすべて完璧に揃えたフルハウスな女は、現実にはほとんど存在しないと。私は堂々と手抜きして、できることだけを必死でやる、それでいいじゃないかと。

 私もそう思う。いまの20〜30代の妻たちは、あれもこれもとハードルを上げ過ぎだ。これ以上、自分で自分の首を絞めることはない。「全部忘れてひとりになりたい」「リセットしたい」と思うほど頑張り過ぎる必要もない。

 週に1日、あるいは月に数回、夫や子供と離れて「おひとり妻」すること自体は、決して悪くないと思う。息抜きは、誰にだって必要だ。だから、私は妻であり母であり女である女性たちに言いたい。どうかちょっとずつ息抜きして、自分を追い込まないで欲しい。欲張り過ぎないで欲しい。たぶん夫たちも、同じように願っているはずだから。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2010年09月20日 23:59