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様々な立場と視点。。。Vol.3

■今の放射線は本当に危険レベルか、ズバリ解説しよう
「水道水、牛乳は飲んでも大丈夫か」「暫定規制値とは」「チェルノブイリと何が違うのか」――第一線の専門家にインタビュー

小瀧 麻理子(日経ビジネス記者)、山根 小雪(日経ビジネス記者)

 東京電力福島第一原発での事故の影響で放射線被害の波紋が広がっている。

 菅直人首相は3月23日、福島産のほうれん草や小松菜、茨城産のパセリや原乳など一部の農作物について摂取や出荷制限を自治体トップに指示。東京都も同日、金町浄水場(東京・葛飾)で水道水1リットル当たり、210ベクレルの放射性ヨウ素を検出し、乳児向けの安全性を示す暫定規制値を上回ったとして、1歳未満の乳児に飲ませることを控えるよう求めた。

 「暫定規制値とはどのようなものか」「チェルノブイリでの食物の放射線汚染と比べて何が違うか」……。実際に、福島の前線で放射線対策の指揮を執る専門家2人に見解を聞いた。

 1人目は、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーに就任した長崎大学大学院の山下俊一・医歯薬学総合研究科長。チェルノブイリ原発事故の影響調査に携わる被曝医療の専門家である。2人目は、チェルノブイリ原発事故で米国医療チームのリーダーとして被曝治療に携わったほか、JCO東海村臨界事故でも救命活動に従事したロバート・ゲール医師。放射線被曝治療や骨髄移植が専門である。インタビューは3月22日と23日に実施した。

(聞き手は日経ビジネス記者、山根小雪、小瀧麻理子)

―― 農作物などから「暫定規制値」を超える放射性物質が検出されています。食べても大丈夫なのでしょうか。

 山下俊一教授 「暫定規制値」というのは、一生食べ続けても何の影響も出ない数値です。未然防止の観点で作ったもので、安全サイドに立った数値なのです。ですから、今のレベルなら暫定規制値を超えた食品を、飲んだり食べたりしていても、健康に影響を及ぼすことはありません。

 ただ、どれだけ食べ続けても安全なのかは、暫定規制値と比べても判断できません。(綿密なリスク評価に基づいて決めてある)カドミウムなどの含有基準値と、放射線の暫定規制値の決め方は違うのです。

 絶対に安全な暫定規制値は超えている。だが、健康に影響があるのかどうか判断がつかない。だから余計に不安がかき立てられている。今後、どれだけ食べても安全なのかという、規制値を作ることになるでしょう。

確認されているのは、甲状腺がんが唯一

―― 放射線物質には、ヨウ素やセシウムなど様々な種類があります。

 山下 気をつけなければならないのは、放射性物質の「ヨウ素131」です。チェルノブイリ原発事故から25年。12万人のデータがあります。実は、発がんなどの疾患で確認されているのは、甲状腺がんが唯一なのです。そして、甲状腺がんを引き起こした原因が、ヨウ素131です。

(編集部注:放射性物質でないヨウ素は甲状腺ホルモンの構成物質で、人間にとって必須の元素である。体内には常に存在しており、海藻などから取り込んでいる。甲状腺には、ヨウ素を取り込んで貯める機能がある)

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 ただ、ヨウ素131は(放射能が半分になる)半減期が8日と短い。尿からも排出されやすい物質です。甲状腺に貯まることだけが心配です。それを防止する効果がある「安定ヨウ素剤」が話題になり始めたのはそのためです。

(編集部注:安定ヨウ素剤は、甲状腺が「ヨウ素131」を取り込まないように、あらかじめ放射性物質でないヨウ素を摂取するための薬剤)

 ただ、チェルノブイリのデータでは、発がんなどの発症率と放射性物質の被ばく量には、明確な関係性が見られません。どれだけ摂取したら発症すると、はっきり言えるものではないのです。

 ちなみに、半減期が30年の「セシウム137」は、体内に入ると筋肉へ行きます。ただし、チェルノブイリの症例を見ても肉腫など筋肉のがんは1例もありません。この点からも、注意しておくべきはヨウ素といえます。

―― なぜ牛乳から高濃度の放射線が検出されるのですか。

 山下 牛が食べる餌の量はべらぼうに多い上、牧草と一緒に周囲の土も食べています。しかも、甲状腺だけにたまるのではなく、牛乳に濃縮される傾向があります。牛乳中の放射能は、餌や土に降り注いだ放射線のほか、牛が呼気で吸入した分もありそうです。

 いずれにせよ、局所的かもしれませんが、かなりの量のヨウ素が降り注いだのではないかと予想します。

―― 体重の軽い子供は放射性物質の影響を受けやすいと聞きます。母乳をあげても大丈夫ですか。

 山下 お母さんが取り込んだ放射性物質は、母乳にも濃縮されます。お母さんが被曝した可能性がある場合には、授乳は避けるのが基本です。また、妊婦が被曝した場合も、多少は胎児に移行します。

 甲状腺がんの発症を抑えるには、安定ヨウ素剤が有効です。被ばくの恐れがある場合には、影響を受けやすい妊婦や小さな子供に優先的に安定ヨウ素剤を飲ませます。

 ちなみに、「年間の被ばく線量が100ミリシーベルトを超えると健康被害が懸念される」という基準は、影響を受けやすい1歳児を対象に算出したものです。

―― 福島県いわき市など、原発から20~30kmの屋内退避のエリアで、安定ヨウ素剤の配布を行っています。

 山下 被ばくの恐怖のなか、安定ヨウ素剤を飲んで屋内退避エリアで耐え忍ぶよりは、避難を優先するのが筋です。

 福島第一原発の状況次第で屋内退避は解除されるのかもしれない。もしくは、状況が悪化して屋内退避が避難に変わるのかもしれません。

 20~30kmの屋内退避エリアの方々は、どうしたらいいのか判断もつかず、子供たちを外で遊ばせることもできず、相当なストレスがかかっています。一刻も早く正確な情報を公開すべきです。

放射性物質は同心円状に広がるわけではない

―― そもそも、いま原発から20kmまでが避難地域、20~30kmは屋内退避という対応は適切なのですか。

 山下 放射線がどのように拡散しているのがわからないため、適正かどうかの判断はつきにくい状況です。

 放射性物質は原発を中心にした同心円状に広がるわけではありません。風向きなどによって、濃度の濃いところもあれば薄いところもある。例えば、30kmを超えていても、線量の多いところは避難すべきかもしれないし、薄いところは避難の必要はないかもしれない。

 文部科学省が運営している「SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)」などを使えば、どこに放射性物質が拡散しているのか分かります。こういったデータは随時公開すべきです。私のような医療の専門家は放射線量のデータがないと何もできません。

(編集部注:「SPEEDI」は原発などの施設から出てくる放射線物質が、どういった方向に拡散していくのか、どの程度の被ばくがあるのかを算出するシステム。インタビューは3月23日)

―― 正しい情報を伝えることが何より大切ですね。福島県で「放射線健康リスク管理アドバイザー」に就任されました。

 山下 医療関係者としては、福島の人々に、正しい放射線の知識を持ってもらいたい。そのために、福島県で放射線についてのリスクコミュニケーションを始めました。

 意識しているのは、悲観的に伝えすぎないこと。「病気になるリスクはゼロではないかもしれないが小さい」と、地元のラジオやテレビなどを通じて説明しています。正しい判断を下せるようになるためにも、放射線恐怖症にならないでもらいたい。

 また、医療関係者とも対話をしています。医療関係者の方が、放射線への知識があるだけに恐怖心が強いのです。

 今回の問題で、メディアの責任は重大です。政府や関係機関が正しい情報を出し、それをメディアが正しく市民に伝えなければなりません。その上で、市民は正しい行動をする。今、この3つがすべて欠けています。パニック状態にあると言ってもよいでしょう。

 それなのに、放射線の危険性を煽る報道が続いている。特に、海外メディアはセンセーショナルな表現をしています。

 3月22日は日本外国特派員協会で、海外メディア向けに記者会見をしました。海外メディアは、安全ありきで報道するので、危険性を訴えるのは仕方ないのかもしれません。ですが、冷静な判断ができなくなるような、あまりにセンセーショナルな報道はやめてもらいたい。

 我々日本人は、逃げ出さず、この未曾有の災害に向かい合わねばなりません。しかも福島県は、地震に津波、原発の3重苦を負っています。今、福島県の人々は、生活インフラが崩壊しています。放射線を怖がって多くの薬局が店を閉めているので、医師は処方箋を書くこともできません。支援物資も届きません。それでも、地元で踏ん張ろうとしている人が大勢いるのです。

 放射線の健康への影響が判断できるように、正しい情報を迅速に出してもらいたい。そして、力を合わせて福島県を支援していかなければならないと、思いを強くしています。

*   *   *   *   *

―― 1986年のチェルノブイリ事故での、放射線被害の実態はどのようなものだったのでしょうか。

 ロバート・ゲール博士 当時は、消防作業員など204人の現場作業者がチェルノブイリからモスクワまで運ばれてきて、そのうち急性放射線障害で亡くなったのは29人でした。9割は助かりました。

 一般の住民はどうだったか。当時数十万人が避難しており、約6000人が甲状腺がんになりました。理由は爆発により広範囲で飛散した放射性の「ヨウ素131」です。

 甲状腺がんになった6000人のほとんどは、当時の被曝年齢が16歳以下の若年層で、ほとんどが食事、特にミルク摂取によるものでした

 放射線が拡散する前、あるいは直後に安定ヨウ素剤を服用しておけば、予防ができたかもしれませんが、当時、旧ソ連内には物流のシステムも十分になかった。日本の場合は、こうした予防的な措置を取ることは十分に可能であるし、酪農が盛んだった旧ソ連・北欧・東欧に比べて、普段から海藻などヨウ素の摂取量が多い食生活をしています。チェルノブイリのような大規模な被害になるとは考えられません。

 このほかのがんについては、正直に言ってはっきりした因果関係は証明することは難しい。特段白血病の発病者が増えているという結果もない。

地面に吸収されてしまうと、ほぼ永久に残る

 もちろん、30年から40年の長い目で見れば結果は変わってくるという指摘もありますが、被曝以外にも、喫煙など様々な要因があり一概には言えません。現在、福島第一原発から出ている放射線の値で言えば、喫煙による発ガンリスクのほうが遙かに高いと言えます。

 チェルノブイリと今回の根本的な違いには、原子炉の種類の違いがあります。チェルノブイリでは、原子炉の外側にある、放射線の最終的な漏れを防ぐ格納容器がなかった。原子炉が爆発し、今回のざっと1000倍以上の放射線が出ていたと思います。臨界が起きたJCO東海事故では破壊力の大きい中性子線が出ました。現状、放射性物質のほとんどが格納容器に収まっている福島とは状況が全く異なり、これから健康被害が出るとしても、チェルノブイリに比べてはるかに小さいと思います。

―― 現在退避している福島県の住民は再び、元の場所に住むことができるのでしょうか。

 ゲール 問題は放射性物質がどのような形になっているかです。

 例え、放射線が漏れてしまっても、ガスの形で大気中に拡散していれば、拡散効果があり、いずれは基準値を下回る水準に下がってきます。福島原発ではあれだけ給水を続けているのだから、水や海に溶けているはずです。

 一方で、仮に土壌汚染という形で地面に吸収されてしまうと、半永久的に残ってしまうことになります。チェルノブイリでは放射性物質そのものが飛散し、地面に落ちて、吸収され、土壌汚染が起きました。何日間か滞在するならば健康には問題ありませんが、若い人が長く住むことはお勧めできません。

 重要なのは、私たちは日常的に放射線を浴びていることをきちんと理解することです。

 米国のコロラド州デンバーに住んでいる人はニューヨークに住んでいる人の6倍の放射線を浴びているが、発がん率に差はない。一般論としては、浴びる放射線を減らすことが重要だが、一方で日常的に浴びているという事実をきっちり認識すること。過剰に反応しないことは大事です。

―― 水や海に溶けているという話が出ましたが、魚などの海産物を食べるのは危険なのではないですか。

 ゲール 水はもともと、放射性物質を希釈するのにもっとも便利で有効的なものです。だからこそ、原子炉の燃料も水に浸っているわけです。

 加えて海にはもともとヨウ素が含まれている。放射性ヨウ素が流れたからと言って、特定の魚に放射性物質が集中するのには、相当期間、大量のヨウ素が流れなければ起こりません。

 放射性物質には半減期もあります。ヨウ素131の場合は8日で半減する。ヨウ素131が検出された水道水をコップに入れておけば、1カ月後にはほとんど問題なく飲めるということです。

 チェルノブイリのときには放射性物質そのものが広範囲に飛散しました。放射性物質が雲で運ばれ、雨となって落ち、コケや草などに付着しました。それをトナカイや牛が食べ、肉やミルクの放射能レベルが上がる生物濃縮が起きました。今回の事件では、現状では放射性物質そのものが飛び散るという問題は考えにくい。風評で日本の魚を食べなくなるのはおかしいです。

 ほうれん草やミルクも同じです。ほうれん草ならば冷凍して何十日か置いておけばいいでしょう。ミルクも捨てずにチーズにさせて長期間熟成させたり、粉ミルクにするなど、時間をおけば問題なく食べることができます。

 今回も全く放射線が飛んできていない地域もあるはずで、慌ててすべて捨てる必要は本来はありません。

―― 各国で日本の農産品をボイコットする動きも出ています。

 ゲール どこの国も輸出入基準を設けていますが、放射線のような場合は、後で消費者から文句を言われないように、とにかく保守的になる傾向があります。そのほとんどは科学的、医学的なものではなく、政治的な理由です。

 だからといって日本産以外の農産品がきちんと検査されて安全かといえば、決してそうとも限らないでしょう。

 何度も言いますが、放射線は日常的にあるということをきちんと理解し、危険値以下であれば大丈夫であるということを忘れないことが大事です。ただし、そのためには、政府は放射線とはどのようなものか、どのような対策が必要か、もっと説明が必要です。

―― 東京都の水道水に暫定規制値を上回るヨウ素が検出されました。飲んでも大丈夫でしょうか。

 ゲール 暫定規制値というのは、影響を受けやすい子供が、大量に摂取したときのことを想定して考えられた基準なので、とても保守的な基準です。

 イメージとしては100万分の1の危険を防ぐような発想です。なので今の値であれば大半の大人は問題ありません。

 避難対象地域の人などは、安定化のためのヨウ素剤を飲むという手段もありますが、ヨウ素そのものにも毒素がある。子供には大きな副作用を引き起こしかねません。

 こうした対処法は絶えずバランスを見ながらです。なので一般の人たちに判断するのは難しい。医師など専門家の判断に必ず従ってください。

*   *   *   *   *

 放射性物質の健康影響を判断する上でに、迅速に正しい情報を公開することが欠かせない。だが、専門家たちは「データが足りない」と口を揃える。

 放射線災害医療研究所の郡山一明所長は、こう主張する。「データから正しい評価をするのはスペシャリストである専門家の仕事。政府はジェネラリストなのだから、専門家の意見を聞いて判断を下す役割だ。それなのに、専門家に全く情報が届いていない」。

 長崎大学大学院の山下教授も、「震災が起きた3月11日は長崎県にいた。長崎にいると、メディアを通じた情報しか入ってこない。震災4日後に福島入りして、初めて状況が分かったほどだ」と明かす。

文科省がついに「SPEEDI」のデータを公開

 特に情報公開へのニーズが高いのが、前述の「SPEEDI」だ。放射性物質の拡散状態をシミュレーションできるSPEEDIのデータがあれば、避難すべきかどうかの判断や、健康への影響が推し量れる。だが、文部科学省は公開に前向きではなかった。

 この状況を、元原子力安全委員会委員長の松浦祥次郎氏(現在は原子力安全研究協会理事長)は、「SPEEDIは元々、災害などで放射線物質が漏れたときに正しい情報を公開するのを目的に作ったシステムです。なぜ公表されないのか分からない」といぶかっていた。

 こうした周囲の声に押されて、政府は3月23日夜、ようやくSPEEDIによるシミュレーション結果を公開した。そのデータによると、原発から30km以上離れていても、場所によっては年間100ミリシーベルト以上の被曝線量になる可能性があるという。

 松浦氏は、こう続ける。

 「確かに、原発から外部に漏れ出している放射性物質の量を正確に把握できないとSPEEDIの予測精度は下がってしまう。それでも、東京電力の記録を見れば、どれだけの核燃料が原発内にあったのかは分かる。放射性物質の漏えい率を仮に決めてシミュレーションした結果と、各地の放射性物質の測定結果をつき合わせて、ズレがあれば漏えい率を修正すれば良い。福島第一原発から、どの放射性物質が、どのように拡散しているか分かるはずだ」

 福島第一原発では、最悪の事態を避けるべくギリギリの作業が続いている。このまま収束していくのか、それともさらに深刻な状況に陥るのか。福島の人々の不安は計り知れない。情報公開が進まなければ、健康への影響を評価することすらできないのが実情だ。

■変更履歴
3ページ小見出し下2段落目(チェルノブイリと~小さいと思います)に加筆しました。また、4ページ下から6段目に「説明が」を加筆しました。本文は修正済みです [2011/03/24 14:50]
1ページ表の横、「血中での濃度」は「放射能」、2ページ目小見出し「文部省」は「文科省」、3ページ小見出しから2段落目「臨海」は「臨界」の誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2011/03/24 21:55]

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2011年03月27日 12:05