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計測せずとも自明のこと。。。

■子どもたちの内部被ばくが止まらない
測ってこそ、得られるもの、始まることがある

 子どもたちの内部被ばく防止に取り組む市民グループ「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」や「福島老朽原発を考える会」、「国際環境NGO  FoE Japan」など、市民団体が5月下旬、フランスの検査機関「ACRO(アクロ)」に依頼して、震災直後に福島にいた子どもたち10人の尿を検査したところ、全員からセシウムが検出されたことは、拙文(『「原発別居」「原発離婚」が聞こえてきた』)で既にレポートした。

 これらの市民グループはフォローアップのため、7月にも同じ検査を実施し、9月7日、その結果を発表した。新たに加わった5人を含む15人の子ども全員から、再びセシウムが検出された。再調査の10人のうち、9人は数値が下がったが、1人は横ばいから微増。新たに加わった5人のうちの1人の数値は、1、 2回を通して最も高い数値だった。

 原発事故から11日で半年を迎えた。今後、福島に留まる県民が、より長期的な生活を考えた場合に直面する大きな課題の1つに「内部被ばく予防」がある。

 農林水産省や厚生労働省、内閣府などは農畜産物や水のモニタリング調査を行い「暫定規制値以下のものしか、市場には出回っていない」と言うが、「子どもの内部被ばくをできる限り減らしたい」と考える親に対して、具体的な対処法などが十分に示されているとは言えない。

 県は高線量地域に住んでいた人を対象にしたホールボディカウンター検査や尿検査などの内部被ばく検査を始めたが、まだまだ対象者は広がっておらず、一部の県民に実施されているというのが現状だ。

 フランスのACROには、この市民グループだけでなく、首都圏で暮らす子どもたち3人からも依頼があり、検査を実施した。結果はいずれも検出限界値以下だったが、内部被ばくに対する不安を抱く人は、福島を超えて関東、首都圏にも広がっているのが現実だ。

 では、検査結果の具体的な数値を見てみよう。

 2回目も検査を受けた子どもの前回と今回の数値をセシウム137でみると、

・9歳男子 1.22 → 0.70(単位はベクレル/リットル)
・9歳女子 0.93 → 0.46
・6歳男子 0.88 → 0.40
・7歳男子 1.30 → 0.40
・8歳女子 1.19 → 0.46

 など、9人の子どもが減少。初回検査で10人のうち最高値だった上記の8歳女子は、数値が6割ほど下がった。セシウム134の検査と合わせ、数値の減少率は2割から7割だった。

 一方で、数値が上がった1人は、

・16歳男子 0.78 → 0.87

 この男子はセシウム134については0.76 → 0.74と、マイナス0.02の微減だった。

 今回が初回で、両回を合わせて最高の数値となったのは

・17歳男子  セシウム134 → 1.82
 セシウム137 → 1.65

 調査結果を報告した「福島老朽原発を考える会」の青木一政さんは、特に数値が微増した16歳男子1人の結果について、「セシウムの生物学的半減期は40日から90日程度と言われているが、前回以降微増した子どもがいたことは、呼気や飲食物などからの内部被ばくが考えられる」と説明し、引き続き内部被ばくを防ぐ対策が必要であると訴えた。

 親からの聞き取りでは、検査を受けた子どもの家庭は、マスクを着けさせたり、食品に気を付けたりと、いずれも何らかの防護策を取っており、意識が高いと言っていい。では、事故以降、数値が下がった子どもと、微増した子どもに分かれた理由は何だろうか。

 同会などは、「避難の有無」も大きな要因ではないかと推測する。数値が下がった9人は、圏外などに一時的、あるいは現在も避難しているのに対して、微増の1人は福島県内で引き続き生活している。

 父母などから、子どもの生活状況について聞いた結果、数値が下がった9人の子どもの生活状況は、
[1] 山形県、北海道、宮城など他県に避難あるいは一時的に滞在した。
[2] ペットボトルの水など、飲食に気を付けた。
[3] 外出時にマスクを着用させた

 微増した1人は、
[1] 1回目の検査以降も福島県内で生活した
[2] 野菜をよく食べた(県外産が手に入りにくかった)
[3] 文化部の部室の近くに、高い線量を示す側溝があった

さらに前回、今回を合わせて、最も高い数値が出た1人は、
[1] 震災後に水汲みのため屋外に滞在した(3月13〜16日まで合計10時間程度)
[2] 部活動は運動部の活動(平日3〜4時間、休日は4時間練習)
[3] 生野菜、キュウリ、キャベツ、玉ねぎ、牛乳、チーズなど好んで食べる。食材は特に県内産かどうかは気にしなかった

などだった。

 原発建家の爆発直後の初期段階の被ばく量の違いや、その後の呼気や食品からの放射性物質の摂取など、子どもの内部被ばくの要因はさまざまだと考えられる。

 生活状況だけで原因を断言できるものではなく、不確定要素が多かったり、現実問題として低線量の内部被ばくのエビデンスなど、データや調査が不足していることなどから判断は難しい。市民グループは「より広範囲の子どもを対象に、精度の高い検査を継続して行って、内部被ばく防止に取り組むことが必要」と述べている。

 わが子の尿から再度、セシウムが検出された2人の父母に話を聞いた。

 9歳女子の母親(35)は、まず、初回の結果が出た当時をこう振り返る。

 「(セシウムが)出るだろうなとは思っていたので、1回目の結果が出た時には、『やっぱり内部被ばくしていたんだ』と確認した感じでした。震災直後は福島市内に住んでいて原発のことはほとんど考えず、原発事故が起きても『放射性物質が飛んでくるかもしれないけれど、福島は離れているから、原発事故の影響はないだろう、大丈夫だろう』と漠然と思っていました。3月15日には下の2歳の子のために、(9歳女子と)一緒に、ガソリンがないので自転車でおむつを買いに行ったりしていました。当時は放射線量も、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)も公表されていませんでしたが、もしも内部被ばくしたとすれば、この時ではないでしょうか」

 この家庭では、初回の検査後の6月、山形県米沢市に避難した。避難する前の4月から5月にかけて、学校に対して「父母のボランティアで通学路の放射線量を測りたいので、学校にある計測器を貸してほしい」と要望したところ、「校舎を測るものだから」という理由で断られたという。

 5月に学校給食の牛乳が岩手県産から福島県産に切り替わっていたことを校長から偶然聞いて知り、「なぜ、ほかの保護者に知らされないのだろう。学校の説明が不十分なのでは」と疑問を抱いた経験もある。

 では、前回に続き、今回もセシウムが検出されたことについては、どう思っているのだろうか。

 「数値が半分ぐらいになったと聞いても、どれぐらいのものなのか、正直分かりません。数値が出てしまったのは本当に残念ですが、私の子どもが出ているから、周りの子も出ている可能性はあると思います。こうやって測ることで、みんなに知らせることができて、結果として注意喚起ができて良かったと思います。出た以上はその結果を受け止めて、これからも予防対策を取っていきます。半分に減ったのは素直にうれしかったですが、減っていくメカニズムを勉強したり、今後の対応なども工夫していきたい」という。

 6歳男児の父親(45)にも話を聞いた。この家庭では、父親が率先して内部被ばく対策に取り組んだ。3月下旬に山形県米沢市に一時避難していたが、1回目の検査後の6月中旬から新潟県佐渡市に母子のみが避難した。父親は仕事の都合で、福島市内で単身生活を送っている。原発事故のために家族がバラバラで生活をする、典型的な「原発別居」の家庭である。

 「2度目で数値が下がったことは、1回目の検査以降、気を付けてきたことが間違いないということが証明された感じで良かった。今までやってきたことを、これからも続けていきたいです」

 この父親も最初の検査結果について、「1回目の検査から、出るだろうと思っていて、やっぱり出たという感じでした。知らないで悶々としているよりも、結果を見て、迷いがなくなりました。家族が一致して、『良いと思えること、やれることを何でもやろう』と決められたので、かえって良かったです」という。

 「2回目はゼロではなかったものの数値は下がったので、もうしばらく“転地療養”として、福島を離れて佐渡で生活させたいと思っています。次も検査をしてもらえるのかは分かりませんが、ダメなら、民間で尿検査をやってくれるところもあると聞いたので、考えてみようかと思います。子どもの場合、福島を一時的でも離れることが効果的なのではないでしょうか」。

 この2人の父母に共通しているのは、2回にわたりセシウムが検出されたものの、「検査して良かった」と一様に話している点だ。聞き取り調査での父母のコメントでは、「できれば避難してからの検査もしていただきたい」「検査をしていただけたことに感謝」「事実を受け止め、次に親としてすべき行動を考えることができた」と、検査を肯定的にとらえている声が多かった。

 住民グループが初回の尿検査結果を発表した後、高木義明文科大臣(当時)はその結果について、「この値では、専門家の話では、直ちにと言うと、またいろいろ語弊がございますが、極めて低いレベルだと、こういうことが言われております」と見解を述べた。当初政府は、健康被害の心配を訴える市民に対して、「ただちに健康に影響はない」と言い続けてきた(最近ではこのコメントは全く聞かなくなった)。

 ところが、わが子の尿からセシウムが検出されたという父母らに話を聞くと、「現実がどうなっているのかが分からない」という不安、そして「現実にどう対処すべきか」という対応策の不明確さを訴える声があった。

 実際に測ってみて、「セシウムが検出された」といううれしくない結果ながらも、「行動できるすべがあることを知ったことは良かった」と話している。ただいたずらに情報に右往左往して不安がっていたのではなく、「現実が示されない現状」や「何もできないでいる状況」に不安を抱いていたことが分かる。

 多くの人が気付いている通り、国民に細部を伝えず、「直ちに健康には影響がない」と言い続けるのは、まさに「よらしむべし、知らしむべからず」の「愚民政治」(国民を愚かなものとして扱う)、あるいは「牧民政治」(国民を家畜のように飼い慣らす)という古いパターナリズムによるものだ。

 だが、現代はまさに複雑な社会。東大アイソトープセンター長児玉龍彦教授が前回コラムで指摘した通り、「インフォームド・コンセント(説明と同意)」の時代なのだ。

 先進国の医療現場では、すでに「インフォームド・コンセント」(説明をして同意する)だけではなく、その先の患者の決定を支援する「インフォームド・コンセント・アンド・メイキング・ディシジョン」(十分な情報提供と説明により患者が同意・決定し、患者の意思決定を尊重し、支援する)が必須になっている。政治や政策にも必要な内容だ。

 今回の検査でのセシウム再検出について、中川正春文部科学大臣は9月13日の会見で、放射線医学総合研究所の見解から「5月下旬からセシウム値は減少していないが、横ばい、もしくは微増は1ベクレル以下と小さく、誤差の範囲内。問題になるレベルではない」と述べた。ただ、再度言うが、「まずは現状を知って、少しでもわが子の体内のセシウムを減らしたい」と考える親にしてみれば、この検査を受けて、まずは現状を知ることが重要だった。

 政府は、専門家の判断を採用して「直ちに健康に影響はない」とただコメントするだけではなく、政治に求められる「その先」や「次の手」が必要だった。それは、現実がどうなっているかを数値や科学的な実証で具体的に「可視化」して示し、県民の選択や決定を全力で支援しつつ、ともに問題に取り組むことが必要だったのではないか。中途半端な発言や情報提供が、結果的に父母らの不安を助長してしまったのではないかと思えてならない。

 「起きてしまったことは仕方がないが、将来に向けて、子どものためにできることをしていきたい」。そんな思いから、わが子の被ばく結果数値の公表に同意した母親。「出たのは残念だが、結果として注意喚起ができて良かった」という言葉。可視化されない問題は放射能だけではなく、内部被ばく予防の政策にもある。

 数値が高い、低いだけを言うのではなく、「現実を可視化して直視し、子どもの内部被ばくの予防策を知りたい」という親の願いは、その意図する通りに、国や県、学校現場などに十分伝わっているのだろうか。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2011年09月16日 20:15