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、、、それは昨今健全な若者が増加しているということ。。。

■「収入さえあればいい」や「出世したい」派は1%、今どきの就職事情
個人は何を目指し、企業は何を用意すればいいのか
武田 斉紀

不況、震災下にあっても、大手企業志向が減っている

 新卒学生の就職状況は、昨年以上に厳しい。2012年3月卒の大学生では、7月時点の内定率は54.4%(昨年7月は6月は55.8%)と昨年より約1カ月遅れている(2011年8月8日、リクルート発表)。

 これには東日本大震災のために、大手企業を中心に採用活動時期を遅らせたこと、被災地での採用活動が進んでいないことの影響も大きい。特にここにきて数字が伸び悩んでいるのも気になる。内定をもらって他の企業を回らないとする活動終了率は、まだ40.9%にすぎない。

 例年なら10月あるいはそれ以前から、現大学3年生(2013年3月卒)に向けた企業からのアプローチが始まる。今年は申し合わせで新卒向け情報サイトのリクナビも12月開始となっている。現4年生の戦いは3年生向けの採用活動が始まっても終わりそうにない。

 ところがこうした不況や震災の影響で、学生の間ではますます大手企業志向が強くなっているのかと思いきや、そうでもないようなのだ。

 毎日コミュニケーションズの調査によれば、大手企業志向は前年比5.6%減って41.4%(「絶対に大手企業がよい」+「自分のやりたい仕事ができるのであれば大手企業がよい」)。一方、中堅・中小企業志向(「やりがいのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」+「中堅・中小企業がよい」)は、前年比5.8pt増えて、53.4%と過半数となっている。

 経団連の会員企業に対して行った調査によれば、選考時期を遅らせたり震災学生に配慮するとした企業は5割程度あるものの、87.5%の企業は「東日本大震災発生後も2012年春の採用計画を変更していない」と回答した(日経新聞2011年9月28日)。

 これは大手企業が採用を絞ったことで大手をあきらめる学生が増えたのでは、必ずしもないことを証明している。むしろ、中堅・中小企業に目を向ける学生が増えてきているのだ。リクルートによる調査でも、中小企業を希望する学生は増加傾向にあるという。

 そもそも大手企業に勤めることのメリットとは何だろう。私は4つの「S」と捉えている。「信用・仕事・資金・サラリー」だ。「信用」は「大手に勤めているんだ、すごいね」という親や友だち、恋人、周りの評価。お金を借りる時などにも表れる部分だ。

 「仕事」は「信用」にもつながるが、「(中小に比べれば)それほど苦労をして取りに行かなくても仕事がある」こと。大手企業にずっといると分からないものだが、中小企業に移った途端に肌身で感じる部分だ。

 3つ目の「資金」は「仕事」にもつながるが、資金があると「大きな仕事ができる可能性が高い」、「高度な教育、育成が行われる」といったところだ。4つ目の「サラリー」は給料だけではない。休日などの勤務条件、住宅などの福利厚生なども含むが、大手の中には福利厚生などは多くを廃止したところも目立ち、以前ほどのメリットにはなっていないようだ。

 大手企業のメリットばかりが気になって、子どもたちに大手を目指させているのはむしろ親の方かもしれない。しかしながら、親自身が大手企業のメリットだけでなく、デメリットにも気づいているはずなのだ。

 大手企業は組織が大きい分、一人の存在価値は埋没しがちだ。異動の可能性も大きい。異動がすべて悪いわけではない。新たなキャリアや経験は仕事の幅や能力を高めてくれるだろう。

 しかし大手企業の方が異動の頻度は高いだろうし、関連会社や子会社も多い分、出向や転籍となる可能性も高い。そのたびに自身のキャリアを見直す必要に迫られる。

 大手企業には転勤も多い。突然の転勤や海外赴任で家族や友人、恋人と離れ離れになる。結婚して子供がいれば、単身赴任か、家族ごとの転居の選択を迫られる。転居は家族の負担を強いることになる。共働きの場合はどちらかがキャリアを失うか、遠距離夫婦を選ばなければならない。

もはや「大手か中小か」でも、「勤め人か独立起業か」でもない

 また最近は、大手企業のリストラが止まらない。日本の象徴とされてきた「終身雇用」を大事にしているのはむしろ中小企業の方だと感じる。

 東日本大震災と福島第1原子力発電所事故の渦中にある東京電力(東京都千代田区)は、グループ社員の約14%に当たる7400人を削減する方針を発表した(asahi.com2011年9月28日)。大手企業ならではのメリットとされてきた企業年金についても、現役・OBともに給付利率の引き下げを求めることになるという。

 富士フイルム(東京都港区)は2005年以降、2度にわたる大幅なリストラで1万人以上を削減している。私はそれ以前に同社の関連会社を担当したことがある。窓口の課長は事あるごとに福利厚生の良さと、安定した雇用環境を自慢していた。隔世の感だ。

 同社は写真フイルムなどに頼っていた収益源が、デジタルカメラの出現によって根底から覆された。事業を根本的に見直し、カメラ本体にも本格的に進出、さらには基礎技術を応用して化粧品分野にまで拡大するなど、常識を覆す戦略で生き残りを図ってきた。大所帯を揺るがした環境変化に、短期間で対応して生まれ変わった姿には驚かされる。そして人員削減も同じようにドラスティックだった。

 かつては「雇用にだけは手をつけない」で知られたパナソニック(旧松下電器産業)の人員削減も止まらない。今年4月には2013年3月末(約1年半後)までに、全体の約1割に当たる4万人を削減すると発表した。

 もちろん中小企業の場合は、会社の存続自体がままならず、100%解雇となる場合もある。だが昨今「あそこだけは大丈夫」と言われた大手企業の破綻も相次いでいる中、学生たちが「必ずしも大手にこだわらない」とする理由も理解できる。

 会社勤めではなく、起業独立を選ぶケースも珍しくはなくなった。だが一時期注目されたほどには行動を起こす人は、欧米ほど増えていない。背景にはいくつかの理由があるだろう。

 1つは「起業してもうまくいく確率が低いと思われていること」。人を雇い、会社組織としてやるとなると、10年継続することが簡単ではないことは確かだ。だがもうすぐ10年を迎える立場から言えば、無理な拡大やリターンを狙わず、顧客を大切にしていれば続くものでもあると思う。

 また起業ではなく独立した個人としてやっていく選択肢もある。後ほど触れるが、それなりの力さえあれば元気にやっていける。

 2つ目は「雇用の安定が以前ほど望めないとはいえ、まだまだ最初に就職した会社で仕事人生を終える人が多い」という現実だ。リストラされた人は身の回りに珍しくはなくなったが、雇用を確保できている人の方が多数派だ。たとえ異動、転勤、出向や転籍となろうとも、家族のために我慢しようとする。結果「うつ」を訴える人が増え、働き盛りの自殺者は一向に減らないが。

 3つ目は2つ目とも関係するのだろうが、「日本人にはリスクを負ってチャレンジしようと考える人が少ない」ことだ。格差は広がりつつあるが、依然平均的に豊かな国なのだ。欧米や中国では、一発勝負をかけて起業する傾向にある。リスクがあろうとも、大金持ちになれるチャンスと考えられているからだろう。

 起業や独立には「自分で決められる自由を手にできる」という、約束されたメリットもある。実際に行動した人しか実感できないのであまり知られていないが、「楽しく働きたい」も「個人の生活と仕事を両立させたい」も「人のためになる仕事がしたい」も、自分次第だ。

 学生に就職観を聞いた調査では、「収入さえあればよい」「出世したい」を選んだ学生は、各々1.6%、1.1%しかいない(毎日コミュニケーションズ「2011年度就職戦線総括」 46P)。上位は「楽しく働きたい」(32.6%)、「個人の生活と仕事を両立させたい」(21.2%)、「人のためになる仕事がしたい」(17.5%)だ。

 突き詰めれば、今どきの学生の就職観はもはや「大手か中小か」でも、「勤め人か独立起業か」でもないのだろう。

「やりたい仕事」「感謝される仕事」をやり続けるために必要な力

 今どきの学生の就職観は会社規模や勤務形態以上に、「個性」や「多様性」がキーワードになっているようだ。

 他の調査を見ても、彼らが企業選びで重視する点の第1位は、「やりたい仕事ができる」だ。ポイントが高いのは他に「仕事もプライベートも充実させられる」「一緒に働きたいと思える従業員がいる」「自分を大きく成長させられる」など。一方で低いのは「家族・友人などに自慢できる」だそうだ(リクルート「就職活動中の大学生の就職活動に関する意見について」 5P)

 「やりたい仕事」は個人によって異なる。「仕事とプライベートのあり方」もしかり、「一緒に働きたいと思える従業員」も、「自分の成長を何で感じられるか」もしかり。これらの「個性」と「多様性」の背景には、一人ひとり異なる働く目的や価値観が存在する。

 「就職先の企業を選ぶ基準」について、40年前の1971(昭和46) 年に1位だった「会社の将来性」(27%)は、2010(平成22)年には8.3%にまで減少している。ダントツの1位となっているのは「自分の能力、個性が生かせるか」(34.8%)だ(日本生産性本部「働くことの意識調査」)。

 毎年「学生の就職人気企業ランキング」を発表して話題を作ってきたリクルートが、今年(2012年3月卒業対象)から発表をやめると宣言した。理由は「学生の価値観の多様化によって、一律で人気企業ランキングを発表する意義が薄れた」と説明する。学生による仕事選びが変化していることを裏づけている。

 新入社員の就労意識=何のために働くか、も変化している。1 位は「社会や人から感謝される仕事がしたい」(96.5%)、以下2 位「仕事を通じて人間関係を広げていきたい」(95.8%)、3 位「どこでも通用する専門技能を身につけたい」(93.4%)、4 位「これからの時代は終身雇用ではないので、会社に甘える生活はできない」(85.4%)。

 彼らは仕事より生活を優先しているわけではない。努力を放棄して、楽な生き方を選ぼうとしているわけでもない。むしろ「社会や人から感謝される仕事」を志向し、会社に甘えることなくどこでも通用する専門技能を身につけたいと考え、仕事を通じて人間関係を広げたいと考えているのだ。

 まとめると、今どきの若者は一人ひとりの基準「個性」や「多様性」の下に、「やりたい仕事」「感謝される仕事」を求めていると言えるだろう。過半数は「面白い仕事であれば、収入が少なくても構わない」(同8位、58.1%)とまで言い切る。

 働く環境は「大手か中小か」、「勤め人か独立起業か」にこだわらないとしても、「やりたい仕事」「感謝される仕事」をやり続けるためには、「個性」や「多様性」だけでは足りない。

 そこで求められるのは、私の言葉で表現すれば「ビジネス力」だ。

 「ビジネス力」を定義するなら、「働く環境によらず、お金に変えられる力」となるだろうか。お金の程度は人それぞれであり、ビジネス力の結果だと考えているが、生きていくためには必要なものだ。

 「ビジネス力」を「付加価値力」としてもよいが、最終的にはお金に変えられないと、継続して提供することができなくなる。ビジネスとしての価値を認められたとは言えないだろう。

 「ビジネス力」は会社に勤めていても十分に磨くことができる。大手企業か、中小企業かにもよらない。それぞれに力のつけ方がある。

 大手の場合は大きな仕事を経験できるし仕事はある、資金力によって選べる選択肢も多い。中小の場合は仕事は小さいかもしれないが、その全体を早くに任され把握することができる。責任あるポジションにも早くつけることで、「ビジネス力」は鍛えられる。

 「ビジネス力」の定義に「働く環境によらず」とつけたのには訳がある。1社で身につけた「ビジネス力」は、他でも生かせなければ異動や転職の際に「お金に変えられる力」にはならない。

個人は「ビジネス力」を鍛え、会社は働き続けたくなる魅力を用意する

 起業や独立をしなくても、「働く環境によらず、お金に変えられるビジネス力」を身につけることはできる。既に身につけている人も少なくないのだ。だが気がついている人は少ない。具体的な事例で紹介しよう。

 Aさんは長年、いくつかの広告代理店を渡り歩きながらコピーライターをしていた。しかしながら50代になって新たな職場を探すことになった。Aさんには、業界内での選択肢はほとんどなかった。私は彼の相談を受けて次のように話した。

 「“コピーライティングなら任せてください”とか、“○○業界には詳しいです”といった狭い捉え方をしない方がいいですよ。俯瞰してみればAさんの強みは、“社外に向けたコミュニケーションの企画立案ができるだけでなく、表現までできる”ことではないでしょうか。これならどこの会社でも通用するし、ニーズは無限にあります。そのうえで“○○業界は特に得意です”と言えば、貴重な人材として迎えられますよ」

 コピーライターだけにこだわるのであれば、その世界で探すしかないが、彼はそれだけでなくプランニングの力をもっと伸ばしたいと考えていた。Aさんは、ある消費財メーカーの広報宣伝の責任者として迎えられた。

 Bさんの例も興味深い。彼は大手ファストフードとチェーンレストランで店長をしていたが、次第に業界と仕事を変えたくなった。そしてプライベートでも興味のあったIT業界を目指そうと考えるも、これまでのキャリアと接点がないと悩んでいた。

 ところがある日のこと、店のカウンターに置かれた普段使っているPOS(販売時点情報管理)端末に目が留まった。早速POSを扱う会社にアプローチしたところ、“システムも分かり、かつ外食チェーンの現場にも詳しい”貴重な人材として採用された。

 「働く環境によらず、お金に変えられるビジネス力」という前提があれば安心して働ける。あとは該当する中から自分にとってより「やりたい仕事」や「感謝される仕事」を選べばいい。

 勤める側は「働く環境によらず、お金に変えられるビジネス力」を鍛えたい、そして一人ひとりの仕事に求める目的や価値観の下、「やりたい仕事」や「感謝される仕事」をしたいと考えている。では、会社側はどのようなスタンスで臨めばいいのだろう。

 まずは、自社の目指す目的や価値観を明確にして打ち出すことだ。目的や価値観が異なる人は、いくらうまいことを言ってくどいても、いずれは去ってしまう。ならば最初から万人にいい顔をするのではなく、自社のブレない姿勢を見せた方がいい。より近い人材、共感する人材が集まってくることになる。

 最近の学生が会社説明会で最も聞きたいことの第1位は「他社との違い」だという(ジョブウェブ調べ)。会社の考え方、社風や雰囲気、企業理念やビジョンを知りたがる。だから社長が直接語りかける説明会は人気がある。彼らは会社の目指すそれが、自分の目指す目的や価値観と合っているかどうか、また本気かどうかを見極めているのだ。

 次に会社が目指す目的や価値観に共感して集まった人材に対してするべきこと。それは「働く環境によらず、お金に変えられるビジネス力」を鍛えるチャンスを用意することだ。

 私の知る社長には、「社員に商売感覚、経営感覚がない」と嘆いている人は多いが、社員の「ビジネス力」を鍛えることは答えの一つになる。任せる仕事の規模は最初は小さくてもよい。仕事だけでなく、お金の入り口から出口までも含めて管理させることで、商売感覚や経営感覚は磨かれる。

 ただしそのまま辞められてしまっては、会社としてはもったいない。競合になる可能性だってあるだろう。育てた社員を引きとめるためには、「この会社で働くことのメリット」を強く感じてもらうことだ。

 例えば、ブレない目的や価値観の下で、「やりたい仕事」や「感謝される仕事」がずっとできること。頑張ったら評価される、大きな仕事ができる、社風や仲間がいいといった働きやすい環境が用意されることなどが挙げられる(このあたりの詳しい話は、また別の機会にお話ししてみたい)。

 自分の働く目的や価値観での会社選びは、若手社員だけでなく広がっていくであろうと想像する。雇う側と雇われる側。双方が対等な立場で、目的や価値観を共有できる仲間として集い、成長を目指す。一人ひとりが「ビジネス力」を養い自立できれば、それは今後日本企業が戦っていくうえでの強みとならないだろうか。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2011年10月05日 13:34