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■【津山恵子のアメリカ最新事情】65万人が大手銀の預金口座を一斉解約―ウォール街にノー
米国では、スーパーマーケットなどで少額の買い物をする際、デビットカードの利用が日本よりもかなり多い。
預金残高から利用金額がすぐに引き落とされるため、月末などで少ない残高の範囲内に買い物がおさまるように、レジで買い物の一部を減らしていく人もよくみる。
その身近なデビットカードの利用に対し、バンク・オブ・アメリカが10月、月5ドルの手数料を取る計画を発表。ほかの大手金融機関も追随する動きをみせたため、多くの利用者が雪崩を打って口座を解約する「うねり」となった。
そのピークが11月5日に行われた「バンク・トランスファー・デー」だ。前出のバンク・オブ・アメリカ、シティバンク、JPモルガン・チェースなどの預金口座を解約し、地方銀行あるいは信用組合に口座を移そうという運動で、カリフォルニア州のギャラリー経営者、クリステン・クリスチャンさん(27)が、フェイスブックのページを作って運動を呼び掛けた。当初、友人500人を誘っただけだったが、あっという間に全米を巻き込む動きになった。
彼女が作ったページによると、バンク・トランスファー・デーへの参加を表明したのは、11月7日現在で86000人に上る。クリスチャンさんが米テレビなどに語ったところによると、彼女は個人とギャラリーの両方の口座をバンク・オブ・アメリカに持っている。しかし、デビットカードの手数料のほか、過去、同行のウェブサイトがダウンしていて送金ができず、電話で手続きした際に2ドルの手数料を取られた経験があり、「数々の手数料に辟易(へきえき)していた」という。
口座の移行先となった信用組合は、口座開設が急増。信用組合全国協会(CUNA )によると、運動の盛り上がりで10月は全米で65万人が口座を開設し、預金高は45億ドル(約3500億円)増えた。この65万人というのは、全米の信用組合が昨年1年間に獲得した口座開設数より5万人も多いというから、まさに預金の「大移動」が起きたことになる。
ツイッターで「爽快なエピソード」として広まっていた逸話がある。コンサルティング会社を経営し、デビットカードの手数料など取るに足らない大口の顧客が、少しずつ預金を信組に送金し、残高が一回で引き出せる金額になった際、支店に赴いて口座の解約を申し込んだ。対応した行員は「本日、私が引き出せる限度額を超えたので解約はできない」と言い訳し、引き止めようとした。その時の会話がくまなく紹介されている。ビジネスの口座を持っているなど、預金金額が多い人ほど、口座解約は面倒だが、それでも「移し替え」に参加したのには驚いた。
各地の信用組合は、バンク・トランスファー・デーをめがけて、勧誘の垂れ幕を掲げ、5日に殺到する顧客のために、通常土曜日は正午までの営業時間を延長した。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事「米で大銀行からの預金移し替え運動」は、週末に何千人もの米国人が小さな銀行や信組に詰めかけ、駐車場から道路の反対側まで車があふれた話を伝えている。
5日の週末だけで、どれほどの預金が移動したのかはまだ不明だが、これより前にバンク・オブ・アメリカはデビットカード手数料を徴収する計画を撤回。ほかの金融機関も検討を白紙に戻した。
もちろん、大手金融機関にとって、口座維持コストは、大口顧客よりも小口顧客の方がかかるため、預金の移し替えの影響は限定的だ。収益も大口取引から得る割合の方が圧倒的に高い。
しかし、「移し替え」運動は、米消費者の大手金融機関に対する不満や怒りをあらためて浮き彫りにした。サブプライムローンの焦げ付きから起きた金融危機で、消費者を不況に巻き込んだのにも関わらず、政府から資金注入を受けて経営破綻を免れた。それなのに、消費者からはさらに手数料を取るというので、我慢の限度を超えた。「ツー・ビッグ・ツー・フェイル(影響が大きすぎて破綻させられない)」というのは、消費者には理解し難い。
バンク・トランスファー・デーは、世界に広がった若者の反格差運動「オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街を占拠しよう)」とは全く別の運動として始まったが、これもまたウォール街の「負の面」を際立たせた。
米消費者によるウォール街への攻撃はしばらく続きそうだ。
[THE WALL STREET JOURNAL]
Posted by nob : 2011年11月14日 08:27