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求められるどこででも仕事はできる、、、とこにでも住めば都、、、というニュートラルなスタンスに立つことから。。。

■東京は、住むには最高、稼ぐには最低
シンガポール・香港になぜ勝てないのか?
ムーギー・キム :プライベートエクイティ投資家

グローバル化の進展により、国の枠を超えて活躍する「グローバルエリート」が生まれている。しかし、そのリアルな姿はなかなか伝わってこない。グローバルエリートたちは何を考え、何に悩み、どんな日々を送っているのか? 日本生まれの韓国人であり、国際金融マンとして、シンガポール、香港、欧州を舞台に活動する著者が、経済、ビジネス、キャリア、そして、身近な生活ネタを縦横無尽につづる。

「キムさん、今度、『東洋経済オンライン』を大リニューアルすることになったので、また連載を持ちませんか? キムさんみたいなグローバル金融マンで、面白おかしく書ける人は、なかなかいないですよ」

日本橋のコレドの近くのオープンカフェで、30分遅れてシンガポールから到着した私は、ちょっと薄めのカツオのたたき(タレが多すぎて好みではなかった)をつまみながら、『東洋経済オンライン』新米編集長の、“おだて&ヨイショ”に乗せられていた。

私は以前、『東洋経済オンライン』で連載コラムを担当していた。その際はキャリア相談という形をとっていたが、最後は旅行記や恋愛の思い出など当初の約束を逸脱したコラムばかり書いていた。

今回も、「日本の一線で活躍するビジネスパーソンを惹きつけるコラムなど到底書けない」と固辞したのだが、編集長のおだてにすっかり気をよくし、久しぶりに無い文才を振り絞ってみることにした。

香港・シンガポール vs. 東京

私は幸運にも複数のグローバル企業での勤務経験がある。

日本・香港・シンガポールを拠点として、韓国、インド、中国、東南アジアなど幅広い市場の投資案件を見てきた。東京での勤務後、アジア金融センターの盟主を争う香港とシンガポールで勤務してきたので、そこで感じたこと、思ったことがユニークな書き物に変わるかもしれない。

加えて2005年以降の趣味は、バックパッキング旅行であり、インドやチベット、東南アジアやアフリカで経験したこともグローバルな視点で考えるヒントになるだろう。

何よりも私は日本で生まれ育った韓国人であるとともに、中華圏で働いてきた経験を持っており、この3国に尊敬と愛着と友人を有している。

何かといざこざの絶えないこの地域に、国際的な視点からささやかながら懸け橋的な役割を担えれば、これ幸いである。さて、そんな記念すべき第一回目のトピックは、国際金融で働く立場で見た、“香港/シンガポールと比較した東京”についてだ。

「キムさん、香港でどこに住んだらいいかな? できれば、キムさんが住んでいるのと同じアパートを紹介してほしいんだけど」(投資銀行時代の日本人同僚) 

「もし香港に出ていくなら、60インチの最近買ったというテレビくれない? 先月東京オフィスから香港に鞍替えしたんだ」(資産運用会社時代のインド人同僚)

「今度、シンガポールオフィスに移ることになって、新たにアソシエイトクラスの人材を雇いたいのだけど、現地のMBAホルダーを雇ったら日本よりも高いかな?」(コンサルティングファーム時代の同僚)

これらは過去1ヵ月の間に私の日本勤務時代の同僚から寄せられたメールである。

このほかにも、六本木でいつもお姉さんをナンパしていたジョニー・デップ似のヘッジファンドマネジャーの友達や、中国から日本へ留学し、日本の株価低迷とともに東京から香港へ移った中国人アナリストなど、最近、多くの投資銀行・資産運用会社時代の同僚が香港やシンガポールに移ってきている。

投資銀行、コンサルティングファーム、資産運用会社などビジネス界を代表する高給取りの皆さんが大挙して日本を離れ、香港・シンガポールを目指している。これはいったいどういうことなのか。

両方に住んで働いてきた私の経験から、日本のビジネス界・政策へのインプリケーションを探ろう。

1. 安い税金

やはりこれか、という感じだが、そのとおりである。まず香港にしてもシンガポールにしても、移ってくる人の大きな理由の1つが税金だ。

日本で社会保障費を含めて50%取られていた人(しかも社会保障費が返ってくる見込みは乏しい)にとって、すべて引っくるめて17%程度というのは驚きの安さである。ただし私の場合、ここ数年、円が対ドルで3割上がったものの、ドルにペッグされた通貨で給料をもらっているため、円建てサラリーは変わらなかった。

しかし、驚いたことに気前のいい某一流コンサルティングファームではエクスパット(本社から海外支社に派遣される社員)として赴任する場合、為替変動分も会社が見てくれるというのだ。

日本からユーロ圏のオフィスに移動したわが友人は、対円ユーロ安で給料が1.3倍くらいに膨れ上がった。私もサラリーの為替ヘッジをしてもらったらよかった、と後の祭りで悔いたものである。

税金の話に戻すが、連日税金の無駄遣いの話ばかり聞かされて、しかも約20年に及ぶ不況のさなか、社会保障改革の道筋が見えないまま税金を上げられる環境というのは、自由に世界中を移動できる高給取りのビジネスパーソンにとって耐えられないだろう。

これはいわば、「オマエみたいなグローバルに活躍できる、税金いっぱい払える金持ちは日本から出ていけ!!金持ちは入国お断りだ!!」と言われているようなものである。

しかしながら、「税金で出ていくやつは出ていけばいい、そんな非国民いらん!」と開き直っている経済音痴の為政者に限って、富裕層が流出し、そうでない人だけが国内に残るリスクを理解もしてなければ責任もとれないのだ。

フランスの友人が、次々と移住

日本国内の狭い視点だけで政策を議論してはいけない。世界に目を開けば、香港やシンガポールをはじめとする世界中の金融都市が金持ちビジネスパーソンを引き付けるための競争を展開しているのだ。

結果的に、世界は、これから稼ぐ若い金持ちを世界から引き付ける都市と、移動できない“そうでない高齢者たち”が取り残される都市に二分化されていく。日本はどちらの道筋を選ぶのだろうか。

実際に、最高税率を引き上げている国からは富裕層が流出しており、最近私の友人のフランス人の多くが、アムステルダムなどのヨーロッパ他都市や、シンガポール、香港に移住している(仏大統領オランド氏の最高所得税率の政策を参考に調べていただきたい)。

よく格差をなくすために最高所得税率や法人税を上げようと訴える人がいる。これは心情的には理解できるものの、結果的には貧しい人がさらに貧しくなるだけだ。国内だけで労働市場や資金の移動が閉じている時代ならまだしも、資本や労働力の移動が自由なこのご時世には逆効果だ。

ただ単に、ミッドタウンのオークウッドに住んでいる金持ちが、香港のエレメンツやシンガポールのラッフルズに移るだけだろう。そして銀座の高級バーがさらに倒産し、そこで働くお姉さんが集う高級ブティックに閑古鳥が鳴くのである。

2・アジア各国の、相対的市場規模の変化

日本の多くの会社は、縮小する国内市場から成長目覚ましいアジア市場に次の一手を託してきた。またグローバル金融市場では、ヨーロッパや北米や日本を避けた資金がここ10年、アジアに押し寄せている。

グローバルに資産を運用する投資責任者にとっての関心事項は、中国、インド、インドネシアをはじめとするASEAN等の巨大市場の成長をどれだけ取り込めるか、である。

そして、グレーターチャイナへの窓口として香港が、インド・ASEANへの窓口としてシンガポールが、存在感を大きく増している。P&Gのアジアパシフィックの本社機能が日本からシンガポールに移るニュースが大きく取り上げられたが、投資銀行や資産運用の業界では、一足先に、東京から香港・シンガポール移転の流れが起きてきた。

長期間の不況と失策に幻滅し、日本に投資したい外国人機関投資家は激減し、中国やインド、インドネシアへの投資熱が高まったため、東京オフィスは閉鎖か大規模人員削減の憂き目に遭った。そしてジャカルタの投資銀行で需給のタイトなインドネシア人バンカーが東京の需給が緩い日本人バンカーの2倍給料をもらう事態も発生している。

以前、日本の大学に留学し、日本の米系投資銀行で働いた中国人プロフェッショナルは、その多くが香港や上海市場に移り日本人同期の数倍のボーナスを稼いでいる。東京がアジアの金融センター、アジア太平洋市場のヘッドクオーターであれた時代は終わったのだ。

3.アジア各国へのアクセスが便利

住んでみるとわかるのだが、香港は、広東省に行くにしても上海に行くにしても北京に行くにしても便利であり、韓国や日本へも各3時間半で出張できる。シンガポールからはフェリーでインドネシアに行けるし、30分電車に乗って北上すればマレーシアとの国境である。インドのムンバイにも5時間足らずで着く。

日本から7~8時間毎回ビジネスクラスの旅費(たいていのグローバル企業で、6時間以上はビジネスクラス、というのが一般的な社内規定)を払って東京から出張してもらうより、近くのシンガポールや香港に住んでくれたほうが時間的にも経済的にも合理的なのだ。

加えて、空港から都心部が近いのも大きい。

香港ではIFC(インターナショナルファイナンシャルセンター)まで鉄道で30分かからず、タクシーでも20分程度だ。空港を出て、雨にぬれることなく自宅に20分で着くのは、出張が多い身にとって助かる。シンガポールに至っては10分程度タクシーを飛ばせば、15シンガポールドル(約1000円)程度でラッフルスクェアのオフィスに着くのである。

恵比寿からはるばる成田を目指していた頃は、国内の空港に移動するだけで実に2~3時間かかっていたが、これは海外都市に飛ぶフライト時間よりすでに長い。交通インフラの充実度というのは、“人を呼び寄せてナンボ”の金融都市にとって、競争力を左右する非常に大きな要素なのだ。

日本経済の相対的重要性が低下してきている中、日本としては、日本への窓口から都心部へのアクセス(時間・金銭的なものも含め)を高める政策をより積極化しなければならない。羽田空港の国際化はよくやった。あとは初乗り700円のタクシー代を他国並みの250円にすべきなのだが、その理由はまた次回以降に話そう。

4.日本国内の閉塞感

最後の理由は、日本の閉塞感だ。20年の不況と政治の無策で「何だか長期的に明るい社会像が描けない」という人は多い。そして一様に、香港やシンガポールに私を訪ねる友人が「活気や勢いがある都市はいいね」と口にする。

実は、私は日本出張が大好きで、羽田空港で礼儀正しい通関の人からあいさつされるだけで、サービス精神と礼儀の行き届いた皆さんを抱きしめたくなる(そうすると捕まるので実行してないが)。

レストランの食事はどこもおいしく、サービスも一様にフレンドリーで心遣いが行き届いている。ウエイターの方にちょっと声をかけたり右手を少し上げるだけで瞬時も逃さず走ってきてくれるのは日本くらいである(香港では最低5回は叫び、オーダーした商品の3割くらいは違ったものが運ばれてきて、一度もsorryと言ってもらうことなく、サービスチャージで15%取られていたりする)。

加えて羽田空港を出てタクシーに乗れば、20分の搭乗中、実に20回は謝ってくれる。実際に、羽田から汐留のコンラッドホテルまでの間、「何回すいません」と言うかを数えたところ、何の非もない運転手さんは実に18回も私に謝ってくれた。

過度の礼儀正しさは多少やりすぎ感もあるが、それでも日本での経験を最もスペシャルなものにしてくれるのは、この国に住んでいる人々の、お客さんへの礼儀正しさだ。これは香港やマカオ、上海のビルがひょっとしたら東京より立派になってしまっても、一朝一夕で追いつくことのできない文化的強さである。

東京で勤務した後、香港に移り住んだアメリカ系韓国人の友人は「東京は最高。住むなら東京。だけど仕事でおカネを稼ぐなら東京は最低でやはり香港がいい」と言っている。

これは私もある程度同感のところがある。しかしながら住みやすさとしては世界最高水準の魅力度を誇る都市が、働き先としてますます魅力がなくなっていくのはなぜか。

この残念な謎に関して、海外の視点から見た日本社会について言及しながら、次回以降、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

[東洋経済ONLINE]

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Posted by nob : 2012年11月25日 23:59