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目指せ!脱原発産業大国日本!!

■核兵器数千発分のプルトニウムがゴミと化す!?
原発大国ニッポンが「廃炉大国」になる日

日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。

国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――出生や死亡の見込みが中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦直後の人口とほぼ同じ規模だ。

どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?

――この連載では、高齢になった未来の私たちのため、そしてこれからの時代を担うことになる子どもたちのために、日本の将来をいろいろな角度から考察していきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。

「廃炉」コストは
4日分の電気料金でペイできる

「40年以上経過した原発は“廃炉”にする」。前政権の民主党が掲げた政策だ。廃炉というのは、炉を停止し、設備を解体していくことだよ。なんだか莫大なお金がかかりそうだけれど、いったい費用はどのくらいなんだろう?

 原子力研究バックエンド推進センターによれば、「福島の4基は別として、通常の廃炉であれば、1基につきだいたい550億円くらいと見積もられています。ただし、使用済み燃料の再処理費用は入っていません」とのこと。

 550億円というと巨額なイメージがあるけれど、東京電力の電気料金などによる収入は、1日あたり約147億円(※)。単純計算だけれど、4日分もあれば廃炉費用がひねり出せる金額だ。

(※)2012年3月期の売上高:5兆3494 億円=電気料収入+地帯間販売電力料+他社販売電力料を365で割った金額

 民主党は、ほかにも「原子力規制委員会が安全だ、と確認したものだけ再び稼働する」「新しい原発は作らない」などの政策を提示していた。実現に向けた具体的な道筋は明らかにしていなかったけれどね。

 安倍新政権はこの方針を見直す意向だ。前政権が認めなかった上関原発(山口県)の着工についても、「検討する」としているよ。

 政権交代によって、180度変わってしまったエネルギー政策。国民はどう思っているんだろう?

 昨年8月、国は「2030年の電力に占める原発の割合」について国民の意見を聞いた。その結果、「原発ゼロ」を望む人が46.7%にのぼったんだ。ところがNHKが今年1月、安倍政権の「見直し」についてアンケートを行ったところ「反対」は21%で、「賛成」はなんと43%。昨年夏とはみんなの気持ちが逆転してしまったみたいだ。

 原発が稼働している社会と、稼働原発ゼロを実現し、廃炉を進める社会。2030年の僕らは、どちらの社会に生きているんだろう?今の日本人は、ちょうどその分岐点にいるのかもしれないね。

じつはすでに減っていた!
日本のエネルギー消費量

 石油などのエネルギー資源を持たない日本。エネルギー自給率4%と、海外からのエネルギー輸入に頼っている日本の状況を心配する人は少なくない。

「たしかにあと1、2年は冬と夏、電力不足に悩まされるかもしれない。しかし、原発を稼働させなければ、迫りくるエネルギー危機を乗り越えられない、というのは間違い。これから日本には急激な人口減少が訪れるのですから」

にしむら・よしお
東京工業大学卒業。工学博士。『日経エレクトロニクス』編集長を経て、2002年2月、東京大学教授。退官後、東京工業大学監事、早稲田大学客員教授などを歴任。現在はフリーランスジャーナリストとして活躍。著書に『産学連携──「中央研究所の時代」を超えて』(日経BP社)など

 こう話すのは、元・早稲田大学政治経済学術院 客員教授で技術ジャーナリストの西村吉雄さんだ。

「国立社会保障・人口問題研究所によると、2030年の日本の人口は、2004年のピークから10%ほど減少すると推測されている。さらに、2050年には3269万人と26%減り、9515万人に。1億人を割る見込みです」

 人口が減れば、当然ながら消費エネルギーだって減る。経済産業省の報告書(「2030年のエネルギー需給展望」でも、「人口が減少すれば、経済的な需要や生産年齢人口も減る。エネルギー需要は押し下げられるだろう」と述べられているよ。

 同省によれば、2030年度の最終エネルギー消費(発電、送電ロスなどを差し引いたエネルギー消費)は2005年度と比べ、最大16.2%減る見込みだ。エネルギー需要は、人口減少によって自然に減る。省エネ努力をすればもっと減るに違いない、というわけで試算されたのが、この数字だ。ちなみにこの金額には、3.11後におこなわれたような節電の効果は反映されていない。

「しかも、エネルギー消費量はじつはすでに減っているんですよ」(西村さん)。

 経済産業省の「平成22年度 エネルギーに関する年次報告」を見てみると、たしかに産業部門のエネルギー消費は、1995年頃から徐々に減る傾向に。さらに、2008年のリーマンショック以来、ぐっと落ちているのがわかる。

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 もちろん、不況の影響は大きい。「じゃあ、景気が回復して産業が復活すれば、エネルギー危機の可能性もあるんじゃない?」と思うかもしれない。

 西村さんの話によると、それがそうでもないらしい。

「脱工業化が起こり、工業中心からより情報や知識、サービスなどが重視される産業が主流になった。エネルギーをたくさん使う、製鉄などの産業も減ってきています」。

 しかも、製造業では以前より、効率よくエネルギーを消費するようになっている。オイルショック前の1973年度と2009年度を比べてみると、経済規模は2.3倍に、生産量は1.5倍になったのに対し、エネルギー消費は0.9倍、つまり1割減った。エネルギー効率を表す「エネルギー消費原単位」も、グラフのように大きく低下しているよ。

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なぜ国は原発にこだわるのか
資産の「使用済み核燃料」がゴミに変わる日

 西村さんの言うとおり、人口減少時代を迎える日本が将来、エネルギー不足に陥る危険性はそう高くなさそうだ。当面の電力ピークも、火力発電や天然ガスなどを使えば、節電でどうにか乗り切ることは可能だろう。そのことは、3.11後、すでに実証済みだよね。

 じゃあ、どうして国はそこまで原発にこだわるんだろう?一般に言われているように、コストが安いエネルギーだから?

「そんなことはありません。発電コストは低めでも、建設費はべらぼうに高い。原発の建設費が高いのは、すでにニュースや新聞で報道されているように“総括原価方式(そうかつげんかほうしき)”という料金の設定方法をとっているからです」

 総括原価方式では、資産の大きさに比例して、電気料金を決められるようになっている。具体的に言うと、発電所の土地や費用、使用済み核燃料などの「特定固定資産」に3%をかけたものを、人件費や燃料代などの原価に加え、電気料金収入を算出する仕組みだよ。つまり、高い費用をかけて作った原発を持てば持つほど、電力会社にはお金がたくさん入ってくる、ってことだ。

 なお、立命館大学の大島堅一教授の研究によれば、原子力の発電コストは水力よりも高く、火力よりやや安いことがわかっているよ。

 もうひとつ、注目したいのは「使用済み核燃料」が、電力会社の資産として扱われていること。

「使用済み核燃料、つまりウラン燃料の一部は、青森県の六ヶ所村で“中間貯蔵”されています。これを処理すれば、もう一度、原発の燃料として使える可能性のあるウランやプルトニウムを取り出すことができるからです」

 再処理すれば、ウラン238という物質も取り出すことができる。そのままでは使えないが、プルトニウムと一緒に燃やすことで、核燃料として使えるプルトニウムに転換することが可能だ。使用済み核燃料、つまりゴミを再処理して再び燃料にする――この夢のようなサイクルを可能にするのが、高速増殖炉「もんじゅ」だ。

「つまり、使用済み核燃料は、将来、利用することが可能だというので、“資産”として扱われています。もし廃炉にしてしまえば、使用済み核燃料はただのゴミと化してしまい、電力会社は一気に資産を失ってしまうわけです」。

 もっとも、もんじゅは1995年にナトリウムが漏れて火災が発生。2010年に運転を再開するも、またもやトラブルを起こし停止したままだ。1950年代頃は欧米も高速増殖炉に高い関心を寄せていたけれど、ちゃんと稼働させるのはあまりに難しく、どこもやめてしまった。いまだに保持しているのは日本だけ。また、六ヶ所村の再処理工場も、まだ本格的な稼働はしていない。

日本が保有するプルトニウムは
核兵器“数千発分”

 電力会社が廃炉を嫌がるのはわかるとして、国が廃炉に積極的でないのはなぜだろう?

 その秘密は、使用済み核燃料を再処理することで取り出せる「プルトニウム」にある。なんといっても、プルトニウムは核兵器の材料になるからだ。

 じつは、西村さんたち研究者やジャーナリストは、福島第一原子力発電所の事故を、第三者の立場から調査、分析し、結果を書籍やウェブなどで発信する「FUKUSHIMAプロジェクト委員会」を立ち上げている(活動費用は賛同者の寄付金などでまかなわれた)。

 ところが、過去にさかのぼって資料を調べれば調べるほど、原発問題の行きつく末は軍事問題なのだということがわかる――と西村さんは言う。

「1954年に保守3党から最初に原子力予算が提出されたとき、中曽根康弘氏ら中心メンバーは『原子兵器を使う能力を持つことが重要』という意味の言葉を述べています。また、1969年にまとめられた『わが国の外交政策大綱』には、当面核兵器は保有しないが、核兵器を作るためのお金や技術力は保っておくべきである、と書かれているんです」

 プルトニウムを保有することの良し悪しは別として、西村さんは「これ以上のプルトニウム製造は、安全保障の面から見ても必要ないはず」と言い切る。

「すでにフランスやイギリスで再処理し、保管してある日本のプルトニウムの量は、核兵器数千発分に相当します。だから国際的に見れば、日本は“準核保有国”という位置づけなんです」

使用済み核燃料プールは6~12年で満杯に
今こそ「脱原発産業」を起こせ

 いずれにしても2030年まで、今、全国にある54基の原発を維持し続けることはできないだろう。それまでには、ほとんどの原発が老朽化してしまうからだ(ただし、「急激な温度変化などのトラブルがなければ100年間もつ」と主張している人もいる)。

 それに、ほとんどの原発では、使用済み核燃料を保管している「使用済み核燃料プール」が、あと6~12年で満杯になってしまう。いくら国が原発を維持したくても、現実的には難しそうだ。

 もちろん廃炉するとなれば、いろいろ頭の痛い問題も出てくる。ひとつはゴミと化した使用済み核燃料をどうするか。フランスやイギリスで再処理されて、戻ってきた高レベル性廃棄物の放射線量はとても高い。安全なウラン鉱石になるまでには10万年もかかるとされているんだよ。

 また、原発によって生活を支えている地元の人にとっては、廃炉は大きな痛手だ。

「話し合いを重ねながら時期を見ることが大切。場合によっては廃炉交付金なども必要になるかもしれない。廃炉そのものをビジネス化していく道も考えられます」(西村さん)

 動力試験炉「JPDR」や、解体中の新型転換炉「ふげん」を除き、まだまだ廃炉の実績のない日本。海外では解体作業で大活躍しているロボットも、「日本では試作品が作られるばかりでメンテナンスもされず、お蔵入りの状態。ほとんど活用されていない状況」(原子力研究バックエンド推進センター)だ。

 でも、54基を廃炉していく間には、海外にも通用するノウハウや人材を蓄積できるかもしれない。

「原発ゼロの社会になっても、廃炉や使用済み核燃料の処理は続けなければなりません。そのための専門家も必要です。九州大学の吉岡斉教授は、原発依存から脱けだしていくための知識や技術を『脱原発工学』と名付けている。日本はこれから脱原発工学の専門家を養成し、脱原発産業を起こすべきだというのが私の考えです。

 脱原発産業は成長産業です。世界中に脱原発を必要としている国がある。その需要は百年以上にわたって伸び続けるでしょう」

 日本を「脱原発産業大国」にしなくては――と西村さんは語る。

 廃炉は550億円と労力を費やして終わりの、むなしい作業じゃない。その経験は、中国などの新興国が人口減少時代に突入したとき、必ず役立つことだろう。人口減少のトップランナー日本に生きる僕たちは、今、「廃炉時代」を生き抜く知恵を求められているのかもしれないね。

参考文献:
『FUKUSHIMAレポート』(FUKUSHIMAプロジェクト委員会 日経BP社)

[DIAMOND online]

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Posted by nob : 2013年01月25日 08:44