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そのとおり!!!Vol.21
■アベノミクスよりすごい景気対策がある
大前研一の日本のカラクリ
大前 研一
1943 年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。
日本経済をダメにした元凶は、自民党政権だ
株高円安のご祝儀相場で順調なスタートを切った安倍政権。それに対して総選挙で大惨敗を喫してかろうじて生き残った民主党は、野党として方向性を示せないでいる。いくら「民主党を潰すわけにはいかない」と言っても、比例復活組が党代表になるご時世では、夢も希望もない。
しかし、民主党にとって捲土重来を期す秘策がないわけではない。
GDPデフレーター、名目GDPともに、日本は20年間世界の逆をいっている!
先の総選挙で国民にとって最大の関心事は「景気と雇用」だった。民主党が国民にそっぽを向かれた大きな理由の1つは、経済成長に関して無策だったからである。安倍政権の経済政策である「アベノミクス」に敗れたのだ。掛け声だけのリップサービスで株価を押し上げ、円安に導いた安倍政権だが、アベノミクスで日本経済が本当に再生できるのかが試されている。
図を見てもらいたい。1990年以降、日米欧の成熟国でGDPデフレーター(実質GDPを算出するための物価指数)が下がり続けているのは日本だけ。つまり長期デフレが続いているのである。さらに名目GDPがフラットなのも日本だけで、このような先進国は、ほかに例がない。この22年間の経済状況で、民主党が政権を担当したのはわずか3年半で、ほとんどは自民党政権。つまり日本経済をダメにした元凶は、ピークであった89年以降の自民党政権が舵取りを間違ったからだ。この間、130兆円もの公共投資を実施しながら、日本経済を押し上げることができなかった。
民主党としてはその点を突くべきで、先進成熟国の中で日本経済だけが20年以上も沈み込んでいる原因を分析し、対策を国民に提示すべきなのだ。
他国と比べて日本経済だけが異常な状況にあるのは、日本独自の原因があることを意味する。P・クルーグマンのインフレターゲット論を安易に持ち出す竹中平蔵氏のような輸入学者にしても、安倍首相の金融政策ブレーンに起用された浜田宏一エール大学名誉教授(内閣官房参与)にしても、どれだけ日本経済における問題の本質を理解しているかは、疑問だ。経済学者は過去の経済を分析して理論をつくるが、冒頭で述べたように日本経済の状況は世界に類例がなく、また21世紀のサイバーやボーダレス経済を織り込んだ経済理論などないのだ。
はっきりしていることはアベノミクスの「3本の矢」のうちの金融と財政では、「失われた20年」の間に自民党政権が行ってきた経済政策とまったく同じでメンツも同じだ。
景気回復に成功した(と錯覚している)小泉政権時代にあやかって、竹中平蔵氏や飯島勲氏を政権に取り込むなどデジャビュもいいところ。上述の図で見たらわかるように小泉政権時代にも株価はともかく日本経済は落ち続けていた。3本目の矢である経済成長に関してはフランスもアメリカも結局、選挙公約だけで何ら有効な手が打てず、実際には財政削減で財政赤字を圧縮せざるをえない状況に追い込まれている。
民主党に捲土重来のチャンスがあるのはまさにこの点なのだ。2005年の郵政選挙において自民党は296議席を獲得して大勝したが、年金問題が争点になった2年後の参院選で民主党が躍進。さらに09年の衆院選では自民党は、119議席という大敗を喫して、民主党に政権を明け渡した。
日本人の“民意”は「郵政民営化イエスかノーか」「政権交代イエスかノーか」の単純選択で決まる傾向があるから、大勝から大敗に簡単に揺り戻しが起きる。すぐに記憶をゼロリセットする日本人にとって、オセロをひっくり返すような選択が3度起きない理由はどこにもない。要は同じような状況をつくり出せばいいのである。
民主党としては、政権を担った3年半の総括と反省をきちんとしたうえで、日本経済をここまで悪くしたのは自民党であると一大キャンペーンを展開し、「アベノミクスで同じ失敗を繰り返そうとしている。またもや無駄遣いで借金を増やすのか」と訴えるべきなのだ。もちろん、先進国で日本経済だけが異常な状況に陥っている原因を分析し、処方箋も提示する必要がある。
この問題を解決するためには、今の日本人のマインドを理解するところから始める必要がある。私が言うところの「心理経済学」である。
日本人は1500兆円の個人金融資産を持っているが、これがマーケットに出てくれば公共投資など必要ない。1500兆円の1%が市場に出てきても15兆円となり、安倍政権が発足直後に閣議決定した経済対策費、10.3兆円の補正予算を軽く上回る。
景気回復のポイントは政府が何をやるかではなく、1500兆円の持ち主である個人が何をするかだ。それが政策の中心であるべきなのに、そのことに言及した政治家は1人もいない。
今の日本政府には金がない。金がない状態で国債を刷れば、そのまま国民の借金になり、国民が預けている金融資産を食い潰す。この矛盾した循環を断ち切り、1500兆円の金融資産が自然にマーケットに出てくるようにすることが、デフォルトを招かずに日本の景気を持ち直す唯一の方法なのだ。政府が使うのではなく個人が使う、というこの単純な図式を理解することが第一歩だ。
平均3500万円を墓場に持っていく
個人金融資産の8割以上は、50代以上の世帯が保有している。しかし戦中、戦後の貧しい時代に育った高齢者世代というのは、貯蓄奨励で生きてきたうえに、政府を信用しない人たちだ。従って、いざというときに備えて資産を使わずに、平均3500万円を墓場に持っていくのである。
だから話は非常に簡単で、金を使う気にならない彼らの凍てついたマインドを溶かして、1500兆円の金融資産が買い出動するような政策を1つずつ出していくことに尽きる。
アベノミクスのような20世紀の金融緩和や財政出動政策では、1500兆円の個人金融資産はピクリとも動かない。「国土強靭化計画」で防災対策を施し、老朽化したインフラをつくり直しても、経済波及効果は見込めない。新しい橋を架けたり、トンネルを掘ったりすれば交通が便利になり少しは経済効果が見込めるかもしれないが、崩れかけたトンネルや壊れかけた橋を直しても、交通量は変わらない。1000年に一度やってくるかもしれない津波のためにスーパー防波堤をつくっても、投資に見合った雇用が生まれるだけで経済誘発効果はゼロだ。
90年代に自民党政権が公共投資でばら撒いた130兆円が何の経済効果もない無駄遣いだったことは、福井俊彦元日銀総裁が認めている通りだ。
勤労貯蓄をよしとして生きてきた高齢世代にどうやってお金を使わせるか。その答えを導き出すのに、難しいマクロ経済学は必要ない。要は「3500万円持って死んでいくことが本当に幸せなのか」と資産リッチな高齢世代が自分自身に問いかけたくなるような政策にすることが大切なのだ。
彼らに「国が全部面倒を見てくれるとしたら、3500万円でやりたいことはないか?」と聞いてみればいい。答えはいくらでも出てくるだろう。
「家は建て直せないまでも、キッチンとお風呂場ぐらいは改修したいし、バリアフリーにしたい。でも改修費用が700万円もかかるから……」
こう思っている人に向けて、「家を500万円以上かけてリフォームした場合、その領収書を持ってくれば、残りの人生は税金を納めなくていい」などの特例を設ければ、喜んでお金を使うはずである。
また日本の生前贈与は被相続人が亡くなったときに清算して相続税を支払わなければならない仕組みである。たとえば親の資産8億円から4億円を生前贈与されたとしても、相続税の支払いが大変だと思うから、親が死ぬ前に使うことは待とうとなる。せいぜい相続税を払って、残ったら使うくらいで、経済誘発効果のない生前贈与なのだ。
法定相続人でも愛人でもいいので、生前贈与されたお金を使った場合にそれらを証明する領収証があれば、その分は相続時に清算する相続財産の対象外にする――。こうした方向で相続税法を少し改正するだけで若い世代への生前贈与、つまり富の移転はもっと進むだろうし、そのお金がどんどん市場に出てくるはずだ。
しかし今後予定されている相続税の増税はこれらと発想がまったく逆である。最高税率を上げて、基礎控除を下げれば、資産家も小金持ちも財布のヒモを固くするばかりだ。
先行きどうなるかわからない将来不安の中で、「今、お金を使ってしまったらミジメになるかもしれない」と思っているから日本人は貯金に手を付けない。その気持ちを「お金を使ったら人生は豊かになるし、子供や孫からも感謝される」という方向に変えることが大切で、そのアイデアなら拙著『大前流 心理経済学』(講談社)にいくらでも書いてある。要は金を持っている人に使わせる政策に集中することである。民主党は逆に高校無償化や個別補償などで富の分配に拘りすぎたから景気が上向かなかったのである。
日本は世界で最も高齢化が進み、その高齢世代が個人金融資産の大半を握っている。その世代の心理を理解して、お金を使いたくなるような政策を提示できれば、アベノミクスが馬脚を現し始めたときに民主党にも再びチャンスが巡ってくる。
[PRESIDENT online]
Posted by nob : 2013年02月22日 21:29