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何者にもならず、何処にも属さず、何も遺さない、、、近しいスタイル私の自然発生的漂流生活もはや二十有余年。。。Vol.2

■僕らの時代のライフデザイン

全編からの抜粋

今、同時多発的に起きている「新しい生き方」とは?
もっと自由に生きるためのソーシャルキャピタル
山口揚平×米田智彦 対談【後編】

「好き」で生計を立て、自由に生きるために今最も必要なものとは何か。『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』の著者・山口揚平さんと、『僕らの時代のライフデザイン』の著者・米田智彦さんが語り合う、僕らがもっと自由に、もっと豊かに生きるためのソーシャルキャピタルとは。

お金で買えない価値を生む“聖域”が
日本全国に続々と出現中

米田智彦(よねだ・ともひこ) 1973年、福岡市生まれ。青山学院大学卒。研究機関、出版社、ITベンチャー勤務を経て独立。フリーの編集者・ディレクターとして出版からウェブ、ソーシャルメディアを使ったキャンペーン、イベント企画まで多岐にわたる企画・編集・執筆・プロデュースを行う。2011年の約1年間、家財と定住所を持たずに東京という“都市をシェア”しながら旅するように暮らす生活実験「ノマド・トーキョー」を敢行。

山口揚平 (やまぐち・ようへい)ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役。早稲田大学政治経済学部卒。1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業した。企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供、2010年に同事業を売却後、12年に買い戻した。現在は、コンサルティングなど複数の事業・会社を運営する傍ら、執筆・講演を行う。専門は貨幣論・情報化社会論。

米田:僕が最近強く思うのは、お金がなくても信用だけで生きていける人が本当にけっこうたくさんいるんだな、ということ。信用によってお金以外の価値を直接交換することで豊かさとかハッピー、生きがいなどを感じられるんですよね。

 そこに気づいた人が出てきたことが、ここ数年の一番の変化なんじゃないかな。そんなバカなと思う人も多いかもしれないけど、それはここ数十年の都市だけの常識で、日本は昔から貨幣以外の価値、信用が生む価値というのが生活にも商売にも深く関わっていたわけです。

山口:確かにそうですね。たとえば田舎に移住した友人を訪ねていくと、地元の人だけが知るうまい米とかうまい酒が出てくる。でもそれって、関係性や信頼がないと不可能なことじゃないですか。要するに、そういうものは金で買えない。そういう生活を毎日送っている彼らに接すると、大してお金は持っていないかもしれないけれど、全体の価値と信頼の総量、つまり可視化されていない豊かさの総量は十分に大きいなと思いますね。

米田:それがお金だけじゃないキャピタルなんですよね、きっと。言葉にすると、ソーシャル・キャピタルということになるんでしょうけど。

山口:そう思います。価値と価値を交換するという贈与経済の本質的な意味は、何かをあげて何かをもらうと、文脈が途切れず「流れる」ということなんですよ。そしてさらにまた、それを誰かにあげようとする。それが延々と続いていくんです。

米田:確かにお歳暮とかでもそうですけど、何かを贈るとお返ししなきゃいけないと思いますもんね。流しそうめんみたいに1回流れができれば、「贈り、贈られる」という関係性がずっと続いていく。その分、ご縁が深まるわけです。それって経済そのものですよね。

山口:本当にそう思います。僕は昨年12月、フェイスブック上に「Gift」というサービスを立ち上げたんですが、これは友だち同士で自由にモノや知識をシェアしたり、使わなくなったものを無償であげたり貸したりできるというもの。

 たとえば引っ越しのときに要らなくなったベッドを“出品”すると、それを欲しいという人から連絡がくるんです。そこで繰り広げられるやり取りが、すごく面白いんですよね。ちなみに僕は自宅の空いている部屋も無償で貸し出しています。ちょうど今、ベルギーから友だちが来て、泊まっていますよ(笑)。

米田:ぼくも2011年1月から1年間、家もオフォスも持たずにトランク1つで東京を旅するように暮らす「ノマド・トーキョー」という生活実験型プロジェクトをやったとき、自分の持っているものを何かあげる代わりに、その人の家に3泊4日させてもらったりしましたね。

 お金を払って泊まるんだったら簡単なんです。でもそれじゃ結局、その人と仲良くなれないまま、お金の関係だけで終わってしまう。お金を使わずに初めて会った人のところに泊まり、コミュニケーションをとりながらどうやって今までゼロだった関係を一夜にして築くか、というところに面白さがあったんです。

山口:お金で何かを買うとそこで文脈が断絶するけれど、価値を交換することで関係が強まり、深まるんですよね。

米田:フィールドワークを通して、資本主義が入り込めない、お金で買えない価値みたいなものを生み出す場所、つまりアジール(聖域)みたいなものが日本中にポコポコ同時多発的に登場しているなと気づきました。その価値というのは、資本主義の論理からすると全然儲かってないし、むしろ貧困化じゃないかとか、甘いとか青臭いっていう論で片づけられるのかもしれないけど、僕はそこにすごく魅力を感じていて。もしかしたら今の20代とか若い世代が、そこで新しくブレークスルーする可能性があるんじゃないかなと期待しているんです。

 そのためにも、これから実践のなかで、みんなで試行錯誤を重ねていく必要があると思いますね。ここ数十年で隣の家から僕らは醤油も借りられない極端な貨幣でしかすべてを交換できない生活を送って来たわけだけど、少しそういう部分に戻っていくような気もしています。

「お金」は豊かさを構成する
パラメーターの1つにすぎない

山口:僕はお金を絶対的な存在ではなく、豊かさのなかのパーツの1つにすぎないと考えているんです。今まではお金しか数値化されていなかったから、それを絶対的な拠り所とするしかなかった面もあるけれど。

米田:豊かさ全体だってブータンで話題になったGNH(国民総幸福度)じゃないけども、最近は可視化されつつありますよね。たとえばフェイスブックの「友達」の人数などもいい例かもしれません。国民総幸福度じゃなくて、「個人総幸福度」みたいな指標があってもいいんじゃないか。これは経済的な豊さを否定するという単純な話じゃない。お金が必要なのは当たり前だけど、それだけを求めて他を否定するんじゃなくて、もっと総合的な自分の人生を考えるという指標ですね。僕は新刊『僕らの時代のライフデザイン』の中で「自・職・住」の三位一体のバランス、ということを書いたんだけど。そこにはお金も心身の健康も働くこと、住むこともすべて入っていて、すべてつながっている。

山口:そうですね。愛があふれている状況とか親密な関係とか、豊かさを構成する各パラメーターが今後もっと可視化されて計量化されるようになってくれば、お金はますます相対的な存在になる。ドラクエでいうところの、「攻撃力」「守備力」「すばやさ」「運のよさ」とかいうのと同じように、各パラメーターが個人にとってパラレルに存在する状況になっていく気がしますね。

米田:なるほど。でも、ある個人において「お金」が10でも「健康」が0だと、どうなんだろう?それでは全体としての幸福度はあまり上がりませんよね。また、お金っていうものも現実的には一番便利なものだから、やっぱり0というわけにはいかない。どのパラメーターもそこそこの数字じゃないと、結局は幸福や豊かさから遠ざかってしまうんじゃないでしょうか。

 ただ、パラメーターに偏りのある個人でも1つだけ幸福度を上げる方法がある。攻撃力が10で防御力が0の人でも、治癒力の高い人がパーティーに入れば補えるのかもしれないんです。つまり、社会の形成の仕方とかコミュニティのあり方が今後どう変わっていくかで、個人の豊かさの有り様も影響を受けるんじゃないかなと考えていて。

山口:僕もコミュニティは重要だと思いますね。新たな関係が作られたり、その関係が外れて別の関係が作られたりすることが無数に行われるのが、生物界の本来あるべき正しい姿だから。もちろんそれは、ガシッとつながって身動きが取れなくなるような地縁社会ではなく、自分で主体的につながっていくコミュニティを指すんですけれど。

米田:「移動できる」とか「往復できる」ということが大切ですよね。たくさんのコミュニティとつながっていると、1つのところに依存しなくていいし、依存されなくてもいい。だからバランスもとれるんです。

山口:昔の電話交換師みたいな世界を、自分のなかで再現すればいいんですよ。つまり、さまざまなコミュニティポートフォリオを持って、そこのなかで自由につながったり、外れたりすることができることがこれからは重要なんじゃないかなと思う。

米田:住まいについても、子どもができたら海外に移住して、育ったら日本に戻ってくるというような多拠点でも全然いい。固定化されない流動的なコミュニティや住まいが必要になっていると思いますね。それは決して立脚点がないということじゃなく、同時並行でいろんなことが進んでいくだけ。自分にとっては、ある時点ではどれも大切だし、どれも外せないわけですから。そのなかで自分に足りない部分を誰かに補ってもらったり、許してもらったりすることが、たぶんお金に換算できない幸福度につながるんでしょうね。

山口:米田さんが本にも書いていらっしゃった、「何をやっているかわからない人」というのが、その1つの形ですよね。しかも今はそれが、ある種ブランドになるわけです。

米田:そう、ブラックボックスみたいなもので、そこに投げると何が出てくるかわからないけれど、でも何かやってくれそうだ、と思われる人。山口さんもやっぱり、ブラックボックスみたいな人ですよね。良い意味で何をやってるかよくわからない(笑)。僕も出版からソーシャルメディア、プロダクトの開発まで、いろんなことを相談される。それで、自分が面白そうだなと思ったらとりあえずやってみる。関わってみる。最初はお金にならなくても、どこかで仕事につながっていくし、最終的には仕事にしていくんです。

 今は情報ツールは溢れているけど、ただじっとしていても何かを得ることはできない。でも、何かを入力すれば、必ず出力はある、みたいな。だから、自分がからまずはアクションを起こす。そして、差し出す、贈ること。その積み上げがその人の信用につながっていくし、総合的な実力とし認められ、評価につながっていくと思います。

時間とエネルギーの投資が
数年後のソーシャルキャピタルを生む

山口:僕の仕事の1つは、アーティストとかヨガのインストラクターとか劇団を運営している人とか、そうやって好きなことをやっている人たちがちゃんと生活していけるよう、マネタイズかキャピタライズする手伝いをすること。うまくいけば2年か3年先、出資したプロジェクトから資本を引き上げるときにお金になったりするんです。でももしかしたら、1円にもならないかもしれない(笑)。

米田:でも、お金にならないからといって、そのプロジェクトに意味がないかっていったら、そうじゃないですよね?

山口:まったくないですね。最初にお話ししたように、僕自身30歳までは、食えるなかでどう好きなことをやるかばかりを考えていたけれど、今は逆。好きなことをまずやって、そのなかでどうやって食っていくか、頭を使って小細工を考える(笑)。お金っていうのは、あくまでもガソリンなんです。「ガソリンがないからどうしよう」と思うことはあっても、儲からないから価値がないとは考えない。

米田:これは直感としかいいようがないんだけれど、僕もライフワーク、つまり直接的にお金にならない自分の中の表現活動みたいなことが、必ず未来に対しての何らかのヒントになっている気がするんですよね。

「ノマド・トーキョー」だってそう。あれは別に仕事じゃなく僕が勝手にやった実験プロジェクトだったわけですが、いつの間にかそこから派生して、いろんな面白い仕事が舞い込んでくるようになったんです。今まで出会えなかったような人から連絡をもらえることもあるし、話を聞きたいと言われることもある。こうやって働き方や生き方についての本を書いたり、メディアやトークでしゃべるなんてことも全然想像していなかったし、ましてや山口さんみたいなコンサル業界で生きてきた人と対談するなんて、2~3年前には考えてもみなかった(笑)。

 今の流行を追いかけるのではなくて、自分のなかでもっとも切実なことって何だろうと内観して見つめてみて、一番プライオリティの高いことに時間とエネルギーの投資をすると、それがお金になるかどうかは別として、2~3年後に必ずソーシャルキャピタルのリターンがあると実感していますね。でも、こういうことも逆算してやってきたんじゃなくて、やっぱりやりながら考えて、柔軟に方向転換しながらだんだんとわかってきたことなんです。

山口:それを長く続けている間に、“勝ちパターン”ができてきますよね。こうやって自分の好きなことをやっていれば、こういう形でかえってくるな、と。するとますますある程度の安心感を持って、よくわかんないものにも手を出せるようになる(笑)。

米田:確かにそう思います。僕の場合、体感としては2年周期ぐらいですかね。それくらいで世の中も変わっていくから。特に3.11以降の2年間って、すべてのものが大きく変化しましたよね。2年前は新しい生き方とか働き方にこれだけ注目が集まるとは、僕も思っていなかった。だからこそ、今何かを発信する意味があるとすごく感じています。ただドラクエ的に言うと、お金とか資本を直接的に生み出す力は僕には1とか2くらいしかないので、そこは誰かと組んでパーティーを作ったほうがいいかもしれない(笑)。

山口:いや、でもね、好きなことをやるためにどうやって自分でマネタイズやキャピタライズするのかという知識やリテラシーに関しては、もっと流行るべきだと僕は思っているんですよ。なぜなら流行ることによって、みんながますます自由に生きられる社会になっていくわけだから。あるいはマネタイズやキャピタライズ自体を自分に替わってうまくやってくれる、プラットフォームビジネスみたいなものが生まれてくるのかもしれないよね。

米田:その可能性は十分にありますね。自分でできないことは専門家を見つけてきて、頼むとか。

山口:それに伴ってお金以外のコミュニケーションツール、たとえば「助けて」と声に出す勇気を持つにはどうすればいいかとか、人と打ち解けるにはどう微笑めばいいかとか、感謝の気持ちをどう伝えるかとか、そういうリテラシーも知るべきだと思う。

 旅行も体験型ツーリズムに変わっているじゃないですか。面白い人に会って、田舎の農家でおにぎりをもらえるかどうかっていうのが旅の醍醐味になっているでしょう?仕事だけでなく、人生を楽しむため全般に、ちゃんとコミュニケーションできる力が不可欠になっているんです。近い将来、そういう知識や技術を学べるカリキュラムみたいなものや、体系化して言語化した本が出てくるような気がしますね。

米田:それは近々絶対に必要になるでしょうね。コミュニケーション能力って単にものを売る営業力という面だけじゃない。関係性を生み出す能力なんだと思います。今日は興味深い話ができて本当によかったです。ありがとうございました。(談)

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Posted by nob : 2013年03月19日 08:30