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原発の問題の本質。。。Vol.3/バックナンバー

■安倍政権は核廃棄物管理の国際機関の創設を
10万年の安全を解決する「三つの方法」
田坂 広志

 東京電力福島第一原子力発電所の事故から2年。日本のエネルギー政策は、今も混迷の中にある。日本のエネルギー政策はどこへ行こうとしているのか。福島第1原発事故の際に内閣官房参与として事故対策に取り組んだ田坂広志氏が、原発を中心とするエネルギーの様々な問題について、インタビュー形式で答えていく。

 第2回となる今回は、安倍新政権が直ちに取り組むべき第五の政策として、「核廃棄物の最終処分」の政策について、具体的解決策を伺う。

前回のインタビューで、田坂教授は、エネルギー問題と原発問題の解決のために、安倍新政権が直ちに取り組むべき「五つの政策」を提言されましたね。

田坂:そうですね。前回は、「五つの政策」のうち、四つの政策について語りました。

 第一の政策は、「核廃棄物の最終処分」の問題と、その前段の「使用済み核燃料の長期貯蔵」の問題に直ちに着手すること。

 第二の政策は、当面、実現の見込みのない「地層処分」の政策を凍結し、直ちに、最大数百年間の「長期貯蔵」の政策に切り替えること。

 第三の政策は、「長期貯蔵」の政策への切り替えに伴って、使用済み核燃料の発生量の「総量規制」を行い、「発生総量の上限」を定めること。

 そして、第四の政策は、核廃棄物の長期貯蔵と最終処分の問題について、全国民的討議を促すための「法律的枠組み」の議論を始めることでした。

では、田坂教授が提言される「五つの政策」の、第五の政策は何でしょうか?

田坂:第五の政策は、明確です。

 長期的な視点から「核廃棄物の最終処分」の政策に着手することです。

 すなわち、使用済み核燃料の「数百年の長期貯蔵」の政策は、その政策を緻密に整備し、国民の合意を創り、長期貯蔵を実現できたとしても、それだけでは、「最終的な解決策」にはならないからです。

 そして、ただ「未来の世代が解決策を見出すことに期待する」というだけでは、「問題の無責任な先送り」であり、「未来の世代への負担の押し付け」に過ぎないからです。

では、その「核廃棄物の最終処分」を実現するために、どのような政策を進めていくべきでしょうか?

「脱原発の政権」でも必ず直面する深刻な問題

田坂:そのことを述べる前に、最初に申し上げておきたいことがあります。

 この「核廃棄物の最終処分」の問題は、たとえ明日、「脱原発の政権」が生まれ、「脱原発の政策」に向かうとしても、必ず解決しなければならない問題だということです。

 すなわち、現在の日本が直面している問題は、ただ「脱原発」を目指し、「原発再稼働」を全面的に止めただけで解決できる問題ではないのです。

 しかし、一方、この問題は、たとえ「原発の安全性」を徹底的に高め、「原発再稼働」についての国民の了解を得たとしても、必ず突き当たる極めて深刻な問題でもあります。

 従って、この問題は、「脱原発」の立場であるか、「原発推進」の立場であるかに関わらず、直視すべき「厳しい現実」であるということを申し上げておきたいと思います。

たしかにそうですね。では、そのことを理解したうえで、「核廃棄物の最終処分」を実現するために、これから、どのような政策を進めていくべきでしょうか?

戦略的自由度の無い「国内地層処分」の一本槍政策

田坂:その政策を考えるとき、決して忘れてはならない大切な視点があります。

 それは、「政策の戦略的自由度」を高めておくことです。

 すなわち、最終処分の政策として、ただ一つの政策的選択肢に絞り込んでしまうという「決め打ち」をしないことです。その「決め打ち」をしてしまうと、将来、社会状況や政治状況の変化が起こったとき、柔軟に対応できなくなってしまうからです。

 実際、これまでの最終処分の政策は、「国内で地層処分を実現する」という政策一本槍で進んできたわけですが、一昨年の福島原発事故によって、原子力エネルギーに対する国民世論が大きく変わってしまいました。

 そして、昨年、日本学術会議が行った「現時点で地層処分の安全性を証明することはできない。従って、我が国で地層処分をすべきではない」という提言によって、この政策は大きな壁に突き当たってしまったわけです。

 そもそも、これまでの政策が、「地層処分」という政策一本槍になってしまった理由は、原発を推進していくためには「核廃棄物の最終処分方策」を国民に対して説明しなければならず、そのためには、「地層処分」という方法が、現時点で最も技術的に容易で、経済的に合理的な方法であるとの判断があったからです。

 しかし、もし、使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の「長期貯蔵」の政策に切り替える場合には、最長で数百年の「時間的余裕」(モラトリアム)を持つことができますので、「国内での地層処分」だけに選択肢を絞り込まず、それ以外のいくつかの選択肢についても、視野を広げ、柔軟に検討していくことが可能になるのです。

では、「国内での地層処分」以外の選択肢として、具体的に、どのような選択肢があるのでしょうか?

田坂:「海外での地層処分」という選択肢です。すなわち、日本国外に地層処分場を探すという選択肢です。

それが可能でしょうか? そもそも、有害廃棄物については、国境を超えての移動を禁じるという「バーゼル条約」があるのではないでしょうか? 日本国内の核廃棄物を海外で最終処分することについて、許されるのでしょうか?

田坂:「バーゼル条約」の精神は、基本的には大切な精神と思いますが、核廃棄物の場合には、問題の本質が、この条約の精神を超えたところにあると考えるべきでしょう。

 そもそも、「バーゼル条約」が想定しているのは「国境を超えての移動」という考えですが、核廃棄物の場合には、数万年から10万年の時間スケールでの安全性が問題となっているわけであり、この「国境」という概念を超えた問題を我々に突きつけてくるからです。

 すなわち、人類の歴史は、「国家の成立」という視点からみると、たかだか数千年の歴史しかないわけです。これに対して、数万年から10万年という時間スケールにおいては、そもそも「国境」や「国家」という概念が大きく変わっている可能性があり、「バーゼル条約」が提起している「各国の責任において有害廃棄物を最終処分する」という考えそのものが、意味を失っていく可能性があるわけです。

 言葉を換えれば、数万年から10万年の時間スケールで有害性を持つ核廃棄物の場合には、本来、「一つの国家」が責任を持って最終処分の方策を考えるよりも、「国際社会全体」が責任を持って最終処分の方策を考えるべき問題なのです。

 すなわち、核廃棄物の最終処分については、本来、「各国独自の制度」によって実施するべきではなく、「国際的な共同体制」によって実施することが望ましいわけです。

 その意味で、我が国は、原子力開発を進めてきた各国に呼びかけて、核廃棄物の長期貯蔵と最終処分に関する「国際的な共同体制」の構築を行うことも、政策的選択肢として真剣に検討すべきでしょう。

「海外での地層処分」という選択肢

それは、何年か前に話題となった、モンゴルなどでの地層処分構想でしょうか?

田坂:現時点で、具体的に、どの国という議論をすることは適切ではありませんが、もし人類全体として「核廃棄物の地層処分」の方策を検討する場合、世界全体を見渡したとき、日本よりも、数段、地層の安定性や地質条件、地下水条件、さらには社会条件の好適な地域があることも事実です。

 その意味で、「長期貯蔵」を行っている期間に、十分な時間をかけて「海外での地層処分」という選択肢を検討することは、一つの合理性を持っていると思います。

その場合、原子力開発を進めてきた各国からの賛同は得られるでしょうか?

田坂:例えば、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダなどを始めとして、すでに多くの国が数十年前から「核廃棄物の地層処分」の計画を進めてきていますが、現実には、住民や国民の強い反対など、「パブリック・アクセプタンス」(社会的受容)の問題に直面して、どの国でも、計画が思うように進んでいません。

 また、これから原子力開発を進めていく中国を始めとする発展途上国もまた、早晩、この核廃棄物の最終処分の問題に直面していきますので、もし日本が先導して、「核廃棄物の長期貯蔵と最終処分の国際的な共同体制」の構想を提唱するならば、各国からの賛同を得ていくことは、十分に可能性があると思います。

 それは、喩えて言えば、「国際原子力機関(IAEA)の核廃棄物版」を創る構想と言ってもよいでしょう。

その場合、「国内での地層処分」という選択肢は、全面的に放棄するということでしょうか?

田坂:いえ、そうではありません。前回述べたように、「高レベル放射性廃棄物を数十年後に国内で地層処分する」という現行計画については、当面凍結しますが、その場合も、「国内での地層処分計画」は、一定の規模で存続させていくべきでしょう。その理由は、二つあります。

 第一の理由は、「国際的な共同体制」を提唱する国としての責任において、地層処分に関する研究開発と技術開発を先導していくべきだからです。例えば、地層安定性や地下水特性を調査する科学的手法の研究開発や、核廃棄物を安全に閉じ込める工学的手法の技術開発などです。

 研究開発や技術開発において、そうしたリーダーシップを発揮しないかぎり、各国がこの構想に賛同してくれることはないでしょう。

 第二の理由は、こうした研究開発や技術開発の結果、将来、「地層処分の10万年の安全性を証明する科学」や「核廃棄物の10万年の閉じ込めを保証する技術」が生まれる可能性があるからです。

 冒頭に述べた「政策の戦略的自由度」の観点からも、この可能性を、現時点で全面的に否定するべきではないでしょう。

 この二つの理由から、現時点において「国内での地層処分」という選択肢を、すべて放棄するべきではないと思います。

すなわち、「海外での地層処分」と「国内での地層処分」という二つの選択肢を追求していくということですね?

「消滅処理」や「宇宙処分」という第三の選択肢

田坂:もう一つの選択肢、第三の選択肢があります。

 それは、「地層処分以外の最終処分」という選択肢です。

具体的には、どのような最終処分方法でしょうか?

田坂:現時点で考えられるのは、二つの方法です。

 一つは、プルトニウムやネプツニウムなどの長半減期の放射性核種を、特殊な原子炉で燃やし、短半減期の放射性核種に変換してしまう「消滅処理」(核変換)と呼ばれる方法です。

 もう一つは、核廃棄物を地球の外に打ち出してしまう「宇宙処分」という方法です。太陽に打ち込んでしまうという方法も、その一つです。

その二つの方法は、実現可能なのでしょうか?

田坂:「消滅処理」については、この技術の専門ではない政治家や有識者で期待する人が多いのですが、専門的に見ると、実は原理的に難しい問題があるのです。

 それは、この方法が、「長半減期の重元素」(プルトニウムやネプツニウム)の核変換を行って「短半減期の軽元素」(セシウムやストロンチウム)などにすることを目指しているにもかかわらず、実際には、核変換を行うとテクネチウム99のような「長半減期の軽元素」が生まれてきてしまうからです。

 従って、専門家の立場からは、この方法がすぐにでも実現するような楽観的議論は、するべきではないと思っていますが、これも、数百年先まで見据えたとき、何らかの新たな技術が開発される可能性を全面的に否定するべきではないでしょう。

 「宇宙処分」については、1970年代から80年代初めにかけて、真剣に検討されましたが、スペースシャトルの爆発事故によって、「事故を起こしたときのリスクが大きすぎる」との理由で、選択肢から外されました。

 ただ、この方法は、やはり将来の技術開発の可能性を考えるならば、依然として一つの選択肢であると思っています。すなわち、数百年の間には、「爆発などのリスクの無い大気圏外放出技術」を開発することは十分に可能であり、その可能性に挑戦するという政策的選択肢は存在するでしょう。

最後の課題は「コスト・ベネフィット」

では、この「消滅処理」や「宇宙処分」の技術が実現したならば、原子力エネルギーは推進することができるのでしょうか?

田坂:もし、この二つの技術が実現したとしても、最後に残る問題は「費用対効果(コスト・ベネフィット)」の問題でしょう。

 すなわち、この二つの方法は、仮に技術的に可能となっても、「核廃棄物処分のために必要となる費用(コスト)」が、「原子力エネルギー利用によって生まれる利益(ベネフィット)」を上回る場合には、原子力エネルギーを推進することに経済的合理性が無くなるからです。

 しかし、この「費用対効果」が成立しなくとも、この技術を使う可能性はあります。

なぜでしょうか?

田坂:冒頭にも申し上げたように、将来、原子力エネルギーの利用をやめるとしても、大量の核廃棄物は残りますので、「その核廃棄物の安全な最終処分をどうするのか」という問題が、引き続き存在するからです。

 従って、たとえ経済的合理性が成立しなくとも、かなりの経済的負担をすることになっても、将来の世代に負担を残さないために、この「消滅処理」や「宇宙処分」を実施する可能性はあると思います。

 それゆえ、こうした第三の方法についても、検討を進めていく必要があるのです。

 以上述べたように、核廃棄物の最終処分については、

1. 国内での地層処分
2. 海外での地層処分
3. 地層処分以外の最終処分

という三つの政策的選択肢を併行して進めていくことによって、今後、どのような社会状況や政治状況の変化が起こっても対応ができるようにしていくべきでしょう。

なるほど、それが「政策の戦略的自由度」を確保していくという意味ですね?

 では、もし仮に、近い将来、日本国内において「地層処分場の候補地」に手を挙げる自治体や地域が現れた場合には、どう考えればよいのでしょうか?

田坂:それは、ある意味で、一歩前進ですが、そこには極めて危うい「落し穴」があることに気がついておくべきでしょう。

 そのことについては、また、次回、お話ししたいと思います。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2013年03月22日 16:23