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言い得て妙。。。Vol.17/成熟した自由競争社会への入り口。。。

■大前研一氏が斬る「就活」
「新卒一括採用」に国際競争力なし
「就活」が日本をダメにする

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

世界についていけない
日本の「新卒一括採用」

─最近の新卒採用について、どのように思われますか。

 日本の新卒採用は、世界の流れについていくことがまったくできていない。新卒で会社に入ってくる人は、ひ弱だね。今のままでは、グローバル化に対応することなんてできるわけがない。彼らは国内の企業できちんと働くこともできないと思う。

 私が1970年に日立製作所に入ったときの同期生は、約1000人。新卒一括採用を行っていた。大企業は入学難易度がそこそこの大学を卒業した学生を大量に雇い、時間をかけて育てていた。育てる辛抱強さを失った今もこのスタイルだ。こんな事を未だにやっているのは日本だけ。強いて言えば、韓国のごく一部ぐらいしかない。

 「大学を卒業した学生の内定率が8割を切った」と大騒ぎをしたり、「新卒後、3年過ぎた者も“新卒”とみなす」としているのは、まさに本末転倒で日本しかない。

─海外の新卒採用は、どのようになっているのでしょうか。

 私はアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)の大学院やスタンフォード大学などにいたが、「卒業者の内定率」といった言葉は聞いたことがない。彼らはある程度の大きさになり、完成された会社に入ることを「恥」ぐらいに思っている。

 初任給は学生ひとりずつ交渉によって決まる。新卒時で希望する会社に入れなかったとしても、その後実績を積み上げていけばその履歴によっては入るチャンスが何回でもある。

─日本が参考にすべき国はあるのでしょうか。

 ドイツには有名な大学がない。ある大学に入り、そこで卒業するのではなく、いくつかを渡り歩いて学び、単位をとり、卒業するケースが多い。卒業後は、30歳くらいまでに生涯をかけて取り組む職を決める。それまでは世界を旅して「さまよえる鳥」という意味のワンダーフォーゲルのようなことをしている若者も多い。

 日本人のように学校などで「世界を学ぶ」のではなく、世界各地を実際に見て回っている。だから国際競争力を肌身につけるんだ。ユニクロや楽天のように、社員が英語を話せるようにするだけでは、本当の国際感覚は身につかないよ。

 大学に進学する予定のない学生たちは、18歳までは「デュアルシステム」のもと、週に2日座学をやり3日は企業で実技を学ぶ。このコースを選んだ 6割くらいの人は大学へ行かず実習をやった企業に就職する。面接で見知らぬ人を採用するというケースは少ない。手に職をつけて社会に出るから、早くから収入を得て生活も社会も安定することになる。

─日本の新卒者は、ダメですか。

 どこでも通用しないから、本当に困っているんだね。22歳になっても、鉛筆1本売ったこともない。それで面接などで「営業をしたい」と言うのはおかしいだろう。日本の会社は、こういう人をよく採用するね。

 それどころか、政府は大卒後3年以内を新卒扱いにして雇用した企業に助成金を支給するとしている。こんな甘いことをしているのは、日本しかない。これでは、企業社会に汚染をまき散らすようなものだよ(苦笑)。日本には、弱い者、というより学生時代にまじめに学んでこなかった者を助けるという悪い癖がある。

 私も会社を経営しているから、そのような人を面接したことがある。20~30の会社の試験に落ちていると、自分がどこの会社を受験しているのか、わからなくなっている。面接で「ここは、どういう会社でしたっけ?」と聞いてくる。面接を受けている会社の研究も、志望動機も薄弱なんだ。これでは、採用されないのが当たり前。卒業後2年目も3年目も、内定を得るのは無理だろう。あれでは老人になっても「新卒扱い」だよ。

 こういう若者が現れるのは、親や教師にも非がある。もっとも責められるべきは人事部長だ。相変わらず「いい大学を卒業したから」ということだけで採用している。こんな人事部長はクビにすればいい。そういう会社は新しい才能を取り入れていないんだから、滅びるしかない。

─日本の若い人が海外で働くと、どうなるでしょうか。

 外資系企業で外国人と競い合えば、多くはひ弱だから、即死する。出世する人は、ほとんどいない。

 日本の場合、下馬評が低く、さほどマークされていない人が強い。その多くは、文部科学省の学習指導要領などによる、プログラムやスケジュールから外れているところで才能を開花させていることが特徴だ。

 スポーツ、音楽、芸術、ゲームなどの分野で、特にティーンエイジャーに多い。海外で早くから鍛えられ、世界のトップレベルが見えている。日本人は目標を与えられたときは強い。明治維新もそうだ。日本人でなく、文科省の指導要領に問題がある、ということだよ。

就職人気ランキングや内定率に一喜一憂

─新卒採用は、どのようにするべきと思われますか。

 私ならば、日本人を雇う場合、22歳の新卒は採用しない。一番本人の潜在力を見るのに向いてない年齢だからだ。日本での教育を受けてきた新卒は、キャラが立っていない。採用するうえでの判断が難しい。もっとキャラが立った人を入れないと、今の時代は会社が滅びる。

 大きな採用方針をいえば、国籍に関係なく、優秀な人を雇う。年齢のターゲットは、1つは28~32歳。新卒で社会に出て5、6年荒波にもまれた頃だろう。社会の厳しさなど悲哀を味わっているほうがいい。

 例えば、月に25万円を稼ぐのに、こんなに大変なのか、と体でわかっているほうがいい。「前の会社でこんな苦労があったけど、こう乗り越えた」と面接で説明をしてほしい。こちらは実務能力や人生に対する取り組み方などの判断がしやすいし、会社の求めているものとのミスマッチを防ぐことができる。

 32歳よりも上の人は、社会人になり、すでに10年以上の月日が経つ。きっと悪い癖が身についている。これを直していくのにまた4、5年かかる。だから、雇うことはしない。

─もう1つの年齢のターゲットは、どのくらいでしょうか。

 ドイツの「デュアルシステム」を意識したもので、12~18歳までの間、ゲームなどの能力が非常に優れた者を雇う。システムや新しい仕事のやり方などを任せたい。ファストフードでアルバイトをやりすぎているような連中はマニュアルを覚え込んで、それを仕事だと勘違いする悪い癖がついているので採ってはいけない。

 学校の偏差値が低くとも構わない。日本の学校教育は多くの教科の総合点で競わせているが、平均点の高い人や常識がありすぎる人は限界を突破できない。ビジネスの現場で稼ぐ人は何か突出したものがある。会社は本来、こういう人を雇うべきだ。

 私の2人の息子も中学校の頃から様々な学校をドロップアウトした。親に似ているのかな(苦笑)。

 小さい頃から、それぞれがある分野には抜きん出るものがあった。長男は今、ウェブ系の会社を経営し、社員が50人になっている。次男はゲームのクリエーションや、アーキテクチャに長けている。大企業から大きなプロジェクトを依頼されたり、海外で講演もしている。2人とも10代から好きなことをしてきて、業界で少しは知られた存在になった。文科省が求めるような「優秀な学生」だったら、今のように自分で稼いでいくようにはなれなかっただろうね。

─お子さんたちには、どのような教育をされていたのですか。

 我が家では、息子がよくゲームをしていた。そこで「ゲームなんかしないで、宿題を」とは言わない。むしろ「宿題なんかしないで、ゲームをしろ」と言う。ゲームのほうが、頭をはるかに使う。イマジネーションも必要だ。これらの力は社会に出たら、すぐに使うもの。

 うちの息子は中学校もドロップアウトしかけて名誉卒業だ(苦笑)。コンピューターばかりやっていたからね。それでも難関の南カリフォルニア大学のIT学部に受かったからね。でも、そこも中退しちゃった。

─親は子どもが内定を得ることができないと嘆いています。

 今なお親も学校も就職人気ランキングや内定率に一喜一憂しているね。生保などはランキングの上位に位置するけど、間違いなくいずれ破たんする。日本人の寿命が延びているのに、昔の頃のライフテーブルでビジネスをしているから、今は「死差益」で多少儲かっているだけのこと。

 メガバンクは国策でつぶさないね。国内では金融庁の言いなりでなんとかなるが、運用する力や企業を評価して抵当なしで貸す力など全くない。これじゃ海外では通用しない。国に生かされている、飼い殺しにされている業界に憧れる、なんて気持ち悪くないのかね。

 有名大学を卒業し、ランキング上位の会社に入る学生は、真っ先に失業する。手に職もなく、失業後は苦労するだろう。世界の荒海を泳いでいかなくてはいけない21世紀経済の中では決して優秀ではない。このような学生たちを集めて満足しているから、日本の大企業はダメになる。

学歴も分別もなかった「戦後第1世代」

─日本は戦後、国際競争力が強かったはずですね。

 日本は第2次世界大戦で負けた直後の、「戦後第1世代」が長く経済界を引っ張ってきた。

 松下電器(現パナソニック)の松下幸之助さんも、三洋電機の井植歳男さんも、本田技研工業の本田宗一郎さんも大学を卒業していない。学歴だけで採用していくことがいかに馬鹿げているかがわかる。本田さんは浜松高等工業学校を「名誉卒業」だから。この人たちは恐れを知らない。分別を知らない。これは強い。

 日本の学校を卒業したり、良い家に育ったりすると、分別だけはしっかりする。分別があったら、アメリカのGMがあれほどに強いときに、トヨタやホンダは闘いを挑まないよ。当時の欧米では、「日本の戦後第1世代」の経済人が何をするか、理解ができずに恐れていた。

 経営者がサラリーマン化して、困難をブレイクスルーする力が弱くなった。これが、国際競争力を失った、最大の理由。今は無から有をつくることが求められる時代。新しいものを生まない限り途上国とのコスト競争になるから、勝てないんだよ。

─子どもが内定を得ることができずに困っている親にメッセージを。

 「子どもが大学を卒業したのに、就職先がない」と嘆く親がいるならば、子どもに500万円ぐらい与えてみればいい。どうせ遺産相続させるくらいなら、与える方が効果的だ。

 そして、「好きなところへ行って地べたを這い、5年後、別の人間になって帰って来い。そのとき、今後どのような人生を生きていくのかを言え」と突き放せばいい。途上国ならば3年間は暮らせるだろう。その後の2年は本人が現地で稼げばいい。

 日本にいてそのカネで中古のポルシェを買って遊んでいるようならば、もう投資する必要はない。その瞬間に、子どもの将来がわかるじゃないか。残ったカネは相続させずに、自分達で人生エンジョイするために使ってしまう。子どものために汗かくのは20歳まで、と決めたらどう?

(聞き手/編集部 伊藤 悟 文/吉田典史)

[WEDGE infinity]

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Posted by nob : 2014年03月29日 11:28