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放射性廃棄物処分と代替自然エネルギー開発は、それぞれ切り離して単独にて推進していくべき火急的課題。。。

■もっとも現実的な「原発ゴミの正しい処し方」

石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表]

 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、以前にも増して「脱原発」、「反原発」、「原発即刻ゼロ化」が強く叫ばれている。その理由の一つに、「原発から出る放射性廃棄物(核廃棄物)の行き場がない」という主張がある。いわゆる“原発ゴミ問題”のことだ。

 原発ゴミを棄てる場所(最終処分場)がないのだから、今すぐ全ての原発を廃止すべきだ――! こうした論調が、いわゆる“トイレなきマンション”説となって蔓延しているのだろう。

 確かに、最終処分場をどこにするのか、まだ決められていない。政府が最終処分場の選定をするための法制度を整備してから10年以上経過しているが、まだ見つかっていない。どの政策にも言えることだが、原子力政策についても、それに詳しい人よりも、それに詳しくない人の方が圧倒的に多い。だから、最終処分場が選定されていない現在、“原発即刻ゼロ化”の論調が広がってしまうのも無理からぬことかもしれない。

“原発即刻ゼロ化”の前に理解したい
「核燃料サイクル」に関わる用語

 ところで読者の皆さんは、“原発ゴミ問題”が論じられる時、「使用済燃料」と「高レベル放射性廃棄物」の違い、「再処理」と「直接処分」の違い、「中間貯蔵」と「最終処分」の違いを理解されているだろうか。更には、「核燃料サイクル」や「MOX燃料」の意味を理解されているだろうか。

 原子力発電事業のうち、原子燃料の製造や発電所の運転は「フロントエンド事業」、使用済燃料の再処理や放射性廃棄物の処分、原子炉の廃炉事業は「バックエンド事業」と呼ばれる。“原発ゴミ問題”は、「バックエンド事業」に関わるものだ。

 原子力発電に使用されるのは核燃料(ウラン)であるが、発電により使用されるのは全体の3~5%だけで、残りの95~97%は再利用できる核燃料(ウラン、プルトニウム)を含んだものだ。この残ったものが「使用済燃料」であり、それを「再処理」してウランとプルトニウムを採取する。この採取されたウランとプルトニウムを用いて「MOX燃料」と呼ばれる燃料に加工し、これを再び原発で使用する一連の工程を「核燃料サイクル」と呼んでいる。

 このMOX燃料は、有用な国産資源となる。現在、使用済燃料は国内に1万7000トンあるが、この全量を再処理すると、原油換算で15~23兆円分(1バレル当たり7200~1万1000円)、日本国内の原子力発電電力量の5年分、総発電電力量の1.5年分に相当する。これに関しては、2013年10月21日付け拙稿「使用済燃料1万7000トンは原油換算15~23兆円! 新基準適合を理由に全処理工程停止は妥当か?」に詳しい。

「再処理」の過程では、ウランとプルトニウムが採取された後に液状の廃棄物が生じるのだが、この廃棄物は放射能レベルが高いことから「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれる。日本では、「高レベル放射性廃棄物」について、ガラスと混ぜて固化処理することになっている。なお、「使用済燃料」を「再処理」せずにそのまま処分することを「直接処分」と呼ぶが、その場合には、「使用済燃料」そのものを「高レベル放射性廃棄物」の扱いで処理する必要がある。

「高レベル廃棄物」は最終的にどこかの場所に処分されなければならないが、日本では、ガラスと混ぜて固化処理されたもの(ガラス固化体)を地下300メートル以深に埋めることが有力視されている。これが「最終処分」だが、ガラス固化体は当初高温なので、それを冷却するために地上に「中間貯蔵」しておく必要がある。この「(ガラス固化体の)中間貯蔵」の期間は30~50年とされており、その後に「最終処分」される。その場所が「最終処分場」だ。

施行後10年以上進まない
最終処分場の選定

 その最終処分場は、未だ選定されていない。最終処分場を選定するための法制度が2003年に施行されてから10年以上経過しているが、最終処分場の選定にはまだ相当の時間を要すると見込まれている。政治と行政は、強い指導力がないとか、努力が足りないなどと言われても仕方ない。政府・与党は猛省しなければならない。

 具体的な最終処分場の選定方法や最終処分の在り方については、現在、経済産業省・総合資源エネルギー調査会「放射性廃棄物ワーキンググループ」で検討が進められている。先月30日に開催された直近の同ワーキングループまででは、次のような大きな方向性が示された。

―― 最終処分場の選定方法については、「国は、科学的により適性が高いと考えられる地域を示す等を通じ、地域の地質環境特性を科学的見地から説明し、立地への理解を求めるべき」として、地方自治体の公募によって最終処分場を選ぶという従来の方針を軌道修正し、国が前面に出て選定する。

―― 最終処分の在り方については、「(最終処分が)数世代にも及ぶ長期的な事業であることから、可逆性・回収可能性を担保し、将来世代も含めて最終処分に関する意思決定を見直せる仕組みとすることが不可欠」として、放射性廃棄物の地層処分後での『再回収』を可能とする。

 以上のように、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関して、「国が前面に出ること」と「将来における選択肢を拡げておくこと」が、原子力発電所の運営、使用済燃料の再処理、廃炉工程の作成など原子力関連施策を今後適切に進めていく上でも、極めて重要となっていくはずだ。

 最終処分場の選定に当たっては今後、政府・経済産業省が主導的に決めていくことになるだろう。従来の方法で物事が進まないならば、別の新しい方法で進めていくようにするしかない。最終処分場の選定場所が、清々しい気持ちで決まることがあるとも思えない。選定場所がどこになろうとも、猛反対運動は続いていくことが予想される。

増える追加の中間貯蔵コスト
原発稼働率上昇で賄うべき

 原子力発電事業は、開始から終了まで相当に永い期間を要する。全体で何年を要するのか、人類の誰も経験していないので正確なところはわからない。特にバックエンド事業に関しては、高レベル放射性廃棄物の最終処分の場所の選定だけでなく、国内における使用済燃料の再処理が円滑に進んでいないことなどの理由から、原子力事業全体が“破綻”しているのではないかとの懸念が流布されている。

 そこで、バックエンド事業の主な工程のうち、使用済燃料の再処理の前後について、予定通りに事が進まないことを見越しながら柔軟な政策運営を企図することができるよう、(1)再処理前の中間貯蔵と、(2)再処理後の中間貯蔵について、それぞれ1年延長するための費用を試算しておく。

(1)再処理前の中間貯蔵(使用済燃料を再処理する前の中間貯蔵)

「総合エネルギー調査会原子力部会中間報告(H10.6.11)」の中の「参考10 貯蔵施設の経済性試算について」に、原子力発電の使用済燃料に係るプール貯蔵(湿式貯蔵)とキャスク貯蔵(乾式貯蔵)のコスト試算が掲載されており、そのまま貼付すると資料1の通り。

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 まず、プール貯蔵(湿式貯蔵)を1年間行うことに要する費用について、詳細な内訳が公表されていないので、概算値としてプール貯蔵の運転費1395億円を40年で均等で支出するものと仮定すれば、次のように試算される。

 1395億円 ÷ 40年 = 35億円/年 ・・・ プール貯蔵を1年間延長する場合に要する費用

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 次に、キャスク貯蔵(乾式貯蔵)を1年間行うことに要する費用について、 上記の「総合エネルギー調査会原子力部会中間報告(H10.6.11)」で試算されているが、それを受けて「総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書(H16.1.23)」で、資料2〔=使用済燃料の中間貯蔵(キャスク貯蔵)費用の内訳〕のような試算が出されている。

 上記のプール貯蔵の場合と同様、詳細な内訳が公開されていないので、概算値としてキャスク貯蔵の運転費1200億円を5施設、保守的に40年で均等で支出するものと仮定すれば、次のように試算される。

 1200億円 ÷ 5施設 ÷ 40年 = 6億円/年 ・・・ キャスク貯蔵を1年間延長する場合に要する費用


(2)再処理後の中間貯蔵(使用済燃料を再処理した後のガラス固化体を最終処分するまでの中間貯蔵)

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 ガラス固化体の貯蔵費用については、「総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書(H16.1.23)」で提示されている資料3〔=返還高レベル放射性廃棄物管理費用の内訳〕から試算する。

 上記(1)の試算の前提とした使用済燃料5000トンUと同等のガラス固化体は約6300本と試算されるので、試算前提(ガラス固化体2880本)と同規模の施設は2.5箇所必要になると仮定する。管理費用のうち「貯蔵費 運転保守費」と「貯蔵費 その他諸経費」の合計1540億円が対象となることから、ガラス固化体約6300本を1年間貯蔵する費用は次のように算出される。

 1540億円 × 2.5施設 ÷ 40年 = 96億円/年 ・・・ ガラス固化体(約6300本)の貯蔵を1年間延長する場合に要する費用

 これは政府資料に基づいて行った一つの試算でしかない。政治や行政はうかうかしていてはいけないが、最終的に必要となる費用を確保するための手段を臨機応変に用意しておくべきである。こうした超長期的視野に立った幅のある政策運営を行うことが、もっとも現実的な『原発ゴミの正しい処し方』となろう。

 日本の原子力発電の稼働率は、諸外国に比べて相当に低いと言わざるを得ない。特に震災以降はほぼゼロで推移してきている。ここ10年程度での概ねの推移を見ると、欧米や韓国での稼働率は80~90%台だが、日本は震災前の2003~2010年までを見ても、70%未満でしかない。日本の原子力発電の稼働率を欧米並みに引き上げることで、これまで遅れに遅れてきた再処理や最終処分に係る費用に充てるための原資を捻り出すことを検討していくべきだ。

 こうした追加費用の総額は、使用済燃料を再処理するまでの期間や、ガラス固化体の中間貯蔵の期間を、最終的にどの程度にまで見込んでおくかにもよる。原子力発電からの収益をあらかじめ引き当てておくことで凌いでいける水準だと思われる。いわゆる“トイレなきマンション”説は、政府を急かす材料にはなるだろうが、本質的な危機を招くものにはならない。使用済燃料を再処理する前と後で、それらの貯蔵に係る時間軸をどのように設定するかが鍵となる。

[DIAMOND online]

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Posted by nob : 2014年05月19日 07:36