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これからの主流。。。

■【あの有名人から学ぶ!がん治療】愛川欽也さん たくさんの器具に繋がれた最期ではない

 2014年12月に末期の肺がんが発見された愛川欽也さんは2015年の年明けより在宅医療を受けられました。3月に、自宅に介護ベッドや点滴器具が入るのが目撃され「重病説」流れました。このあたりから、愛川さんのがん闘病が世間に知られることになりました。

 しかし、在宅療養の場合は、家に出入りする人は限られています。愛川さんのように介護者(奥様のうつみ宮土理さん)がおられる場合は、主治医と1〜2名の訪問看護師くらいなので、終末期を静かに過ごしたい人や、有名人の愛川さんのようにプライバシーを大切にしたい場合には在宅療養は適しています。

 しかし、未だに、「在宅療養だとがんの痛みが心配だ」と危惧される人がおられます。私はそれは杞憂にすぎません、と申し上げたい。今や、病院やホスピスと全く同じ質の緩和ケアが自宅でも受けられる時代なのです。モルヒネに代表される医療用麻薬も、自宅でも病院と同じように使えますし、夜間などに急に痛みが強くなった時にいつでも使えるように、在宅医は予め頓服薬(レスキュー)を用意しています。

 そして、在宅医療の場合は、自然の経過にまかせて徐々に枯れていく最期、つまり“平穏死”になります。肺がんの末期と聞くと、酸素吸入や痰の吸引器など、たくさんの器具に繋がれた最期を想像する方がいるかもしれませんが、在宅医療の場合、それらの管とはほぼ無縁です。こうした事実は、2014年の日本肺癌学会において、私は肺がんの専門医の方達にも講演しましたが、病院の専門医の方でも、私の話に首を傾げる人がいましたから、市民にはあまり知られていない真実かもしれません。

 愛川さんは自宅に介護ベッドが搬入されてから1ケ月程度で旅立たれています。これは自費でなく介護保険を使えばその日のうちに搬入できます。自己負担は1ケ月、2000円程度。市役所に介護認定の申し込みをすれば末期がんの場合は、すぐに認定結果が出ますし、出る前(つまり申し込んだ当日)から介護保険が使えることもあまり知られていないことです。肺がんに限らず、末期がんの平均在宅療養期間は1〜1.5ケ月です。認知症の場合は、介護のために仕事を辞める介護離職が社会問題になっていますが、がんの場合は介護休暇で済むことが大半です。私の診療所では、年間約90名の人を在宅でお看とりしていますが、半数が末期がんで、半数はがん以外の病気、つまり老衰などです。しかも末期がんの場合、在宅看取り率は9割以上なので、ほとんどの方が最期まで在宅で過ごされているのが実態です。愛川さんがなぜ病院でなくて在宅で亡くなられたのか? 疑問を呈する週刊誌の記事もいくつか見かけましたが、こうしたケースは珍しいことではありません。芸能人や有名人ならば尚の事です。愛川さんが亡くなられた後、妻のうつみさんが記者会見を開きました。

■ご家族の言葉と大病院の医師の言葉から考えよう!

 <うつみさん記者会見から(2015年5月10日)>

− 私は病院へ行く、入院させるという考えは、頭にちらとも浮かびませんでした。自宅で、私の横で、私も頑張ってなんとか元気にさせたいと思いました。病院に、なんていう2文字は浮かんだことがありません。病院へ行ったら治るものですか? それよりも、愛川が家が好きだということを知っているし、私の横にいるのが好きなことを知ってるので、うちに来てくれるお医者様と一緒に頑張りました。手を握っていました。ずーっと。手を握って、ずーっと。

 「病院に行けばもっと長生きできたのでは?」という記者の質問を受けて、うつみさんは、「病院へ行ったら治るものですか?」と返しました。この言葉に、うつみさんが在宅療養という選択肢になんの後悔も持っていないことが伺えます。私も日々、愛川さんご夫婦と同じようなケースの患者さんを診ていますが、皆さん迷いがありません。迷いが生じるのは、遠くに住んでいる長男や長女が「今すぐ大病院へ行こう」と突然介入し、夫婦の決断を壊すときです。そういうときは、在宅医も彼らとの話し合いに多くの時間を費やすことになります。

 さて、もう一つご紹介しましょう。愛川さんの死を受けて、民放の某人気情報番組で大病院の肺がん専門医の方がお話されたことです。

 <某人気報道番組でのキャスターと大病院の専門医のやりとり>

 キャスター:60%以上の方がご自宅で療養したいって言われていますが、現実にはなかなかないというのは、どこが原因ですか?

 大病院の専門医:まずひとつは介護する人がいないということです。実際にいないのではなく、やりたいんだけど体力的にはなかなかできない。精神的にもつらい。急に何が起こるかわからないので怖いと。そういう状況があります。

 キャスター:家族の承諾もいると。

 大病院の専門医:ただまあ、その状況でなかなか踏み切れないんですよね。お金もかかる。しかも、一番困るのは突然、急変した時にどうしていいかわからない。

 キャスター:病院よりも(医療費が)安くなるっていうことはあるんですか?

 大病院の専門医:国が払うお金は安くなります。しかし、保険のカバーされている中では、なかなか十分な介護ができないという現実もありますね。

 キャスター:お医者様に定期的に来てくださいって言ったら、来てくださるんですかね?

 大病院の専門医:それは来てくれるのですけど、抗がん剤に対応できる在宅医が周りにいるかという問題もあります。我々が行くわけにいきませんので。対応してくれる在宅医がいる場合は、僕らはもう任せています。対応できない場合は必ず我々のところ(大病院)に戻ってきていただいて、相談させていただく。

 キャスター:やっぱり病院に相談するのが一番ですか? 自宅でやりたい場合は。

 大病院の専門医:ただ、全部できる在宅医もおられますので……なかなか医者(在宅医)のスキルと言いますか、一様ではないので。

 この病院の専門医はおそらく在宅医療の現場を一度も見たことがないのでしょう。“肺がん”はよく知っていても“肺がんの在宅療養”に関してはご存知ないようです。こうしたネガティブなコメントをテレビで披露されてしまうと、在宅での希望が萎える患者さんも出てくるはずで、在宅医の私としては非常に残念です。  「何かあれば病院に戻って来てもらう」ということですが、私の場合はそのような指示をすることはありません。患者さんや家族がそれを希望された時のみ病院に戻ることが稀にあります。

 一方、「在宅医のスキルが一様でない」という指摘はその通りかもしれません。医療用麻薬は在宅でも普通に使えますが、現実には医師のスキルに差があるので啓発や再教育が急がれているところです。私は、今回の出来事で、笑顔で満足して在宅療養を楽しんでおられる患者さんの様子を、病院の医師にもっとフィードバックしなければいけないと改めて思いました。

 愛川さんは、肺がんでも大切な最期の時間を大切な人と住み慣れた自宅で生活できることを多くの国民に教えてくれたように思えてなりません。愛川欽也さん、ありがとうございます。ご冥福をお祈り申し上げます。

■ 長尾和宏(ながお・かずひろ) 長尾クリニック院長。1958年香川県出身。1984年に東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。阪神大震災をきっかけに、兵庫県尼崎市で長尾クリニック開業。現在クリニックでは計7人の医師が365日24時間態勢で外来診療と在宅医療に取り組んでいる。趣味はゴルフと音楽。著書は「長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)、「『平穏死』10の条件」(同)、「抗がん剤10の『やめどき』」(同)。

[夕刊フジ]

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Posted by nob : 2016年01月07日 22:10