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万能の良薬、、、それはプラセボ(≒思い込み)。。。

■「ゴジラ」を想像したら胃がんが消えた?
「病は気から」ウソみたいな本当の話
作家・高橋三千綱さんインタビュー

病気って「ありがたい」!?

―糖尿病、肝硬変、さらに食道がんに胃がんという大病相手の闘病をつづった、自伝的小説です。病気と闘う過程は、やはり人生を見つめなおす機会になったのですか。

いや、そんな大仰なものじゃないんです。僕はもともと特別な人生観は持ち合わせていないんです。思い出を作ることが人生だと思ってきたから、若いころからやりたいことをいろいろやってきた。馬で40日もロッキー山脈を旅したり、映画を作ったり、ゴルフにのめり込んだり。

医者から「余命4ヵ月」と宣告されて死を意識するようになると、頭に浮かんでくるのはそういう昔の思い出ばかりなんです。この作品はその思い出を書いてみたわけですが、「なんだ、俺の人生って大したことないな。なんとなく愉快に過ごしてきただけじゃないか」と。

でも、昔の思い出に浸るのもなかなかいいものです。そういう意味じゃあ、一度大病を患ってみるのもいい。若い頃の思い出が自然によみがえってきますからね。だからこの本は、健康な人に「一度、病気に罹ってみたいな」と思わせるための本なんです(笑)。

―大の酒好きだった主人公が、糖尿病になって医者から止められている酒をなかなか断ち切れず、肝硬変になって苦しめられる様が描かれています。

フィクションの部分はほとんどないんですよ。実際、酒はなかなか止められませんでした。

闘病もそれなりに大変でした。一番まいったのは食道がんの手術の2ヵ月後、胃の中にあった静脈瘤の処置のため再入院した頃でした。手術を受けようとしていたのに、医師から「血糖値が高くて手術できない」と言われて、自宅に帰された。そうしたらその3日後、肝性脳症になってしまった。肝機能が低下しており、処理されるはずのアンモニアが脳に回って、意識障害を起こしてしまったんです。

夜中に下着のまま庭を歩き回ったり、お腹に激痛が走るのでトイレに行ったら脂汗が一升くらい流れ出たり。結局その時は救急車に乗って緊急入院する羽目になりました。

こんなに家族に迷惑をかけるのなら、こっそり毒キノコでも準備しておいて、いっそ自分で死んでしまえばよかった、と本気で思いました。

―終盤では、保険適用されていない再生医療の一種、幹細胞療法も試したことが書かれていますが、その先は描かれていません。現在、体調が安定されているのはその治療効果のお陰ですか。

結論から言えば、期待したような効果は上がりませんでした。本来、自分の皮下脂肪から抽出した幹細胞を培養してまた体に戻すというやり方なのですが、私の場合は幹細胞自体が弱っていたので、他人の幹細胞を使ってやったのです。

そのせいもあるのかもしれませんが、私の場合、どうやら功は奏さなかったようです。いま体調をなんとか維持しているのは、「大丈夫だ」と自分で自分に暗示をかけているからです。あとは何もしていません。

胃にがんが二つあったんですが、その一つは毒蛇のような形をしていたので、「これをやっつけるにはゴジラだ」とひらめいた。頭の中で、ゴジラに放射熱線を浴びせられた毒蛇が溶けていくシーンを何度も何度も想像していたんです。で、1ヵ月後に検査をしたら、がんが消えていた。

嘘みたいな話ですが、本当なんです。医者が、腫瘍マーカーの値を見て「おかしい、おかしい」と言うほど。内視鏡検査をしきりに勧められていますが、病気で血液中の血小板が少なくなっているので、もしも検査の時に出血したら大事になる。だから内視鏡検査も断っています。

―ラストは、主人公が家族宛てに「リビングウィル(生前の意思)」を書く場面で終わっています。「痛み止めを打ってもまだオレに意識があるようだったら、そっと一本燗酒をつけてくれ」という一文が胸に迫りました。

どこかは言えませんが、僕は自分の死に場所をすでに決めているんです。そこで大好きな日本酒を飲んで逝くのが理想の死に方なんです。

そのときのために、とっておきの徳利からぐい飲みまで全部用意してあります。友人の陶芸家にいろいろ作ってもらったけどなかなかしっくりこない。尾道の古道具屋でたまたま見つけた江戸時代のぐい飲みがとても良かった。5000円くらいのものですが、これで最後に燗酒を飲んで死のうと決めているんです。

―お酒への愛が深いのですね。

酒は僕の親友だったんですが、病気で飲めなくなってその親友を失ってしまった。

そうなると時間を持て余しちゃってしょうがない。だったら仕事をしようか、と思い至ったんです。僕はそれまで長い間小説を書いていなかったから、世の中からは忘れ去られたような作家でした。

その僕が入院してからは3冊も出しましたからね。「ありがとう肝硬変」というのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、病気のお陰で執筆のエネルギーが増大したのは間違いありません。

この作品は確かに闘病記なのですが、病気の人ではなく、むしろ健康も仕事も人生のピークにあると自覚しているような人に読んでもらいたい。人は誰しも絶頂期には傲岸になりやすい。そういうときには気づきにくい、人間を重層的に見る視点を今作では描いたつもりです。読めばきっと、他人への接し方が柔らかくなると思います。

(取材・文/阿部崇)

[現代ビジネス]

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Posted by nob : 2016年02月15日 19:21