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歯と歯茎のケアは身体づくりの礎。。。
■スペシャリストが明かす「歯のケア」新常識〜「口内フローラ」が健康に直結していた!
心筋梗塞、脳卒中にも効果あり
口の中に棲む多種多様な細菌。もしこの細菌たちのバランスが崩壊したら……待ち受けているのは恐ろしい病気の数々だった! 歯のスペシャリストたちだけが知る「口内フローラ」の秘密が明らかに。
菌が口から血管へ侵入する
「腸内フローラ」という言葉を近頃よく耳にする読者も多いはず。腸内細菌叢(そう)と呼ばれる多種多様な腸内細菌の集合体を指すもので、このバランスが悪くなると人間の体に様々な影響を及ぼすと、今注目を集めている。
だが、同じように細菌がたくさんいて、腸内以上に多くの病気と関連した場所があることは、あまり知られていない。
「体の中で唯一、日常的に細菌が体内に入り込む場所、それは口の中です。口内にある無数の細菌がバランスよく保たれた環境、すなわち『口内フローラ』の維持が何よりも健康の近道なのです」
こう指摘するのは、鶴見大学歯学部探索歯学講座の花田信弘教授だ。
口の中には約1000億個の細菌が棲んでいる。そのうち、歯が生える前の新生児期や乳児期から棲みついている菌が優勢な状態にある、赤ちゃんと同じような口の中が、健全な「口内フローラ」といえる。花田教授が続ける。
「虫歯や歯周病を口腔内の問題でしかないと侮ってはいけません。腸内と違って、口の中は細菌が容易に血管へと侵入できるのです。これを『歯原性菌血症』と呼びますが、これが種々の病気の原因になるのです」
歯原性菌血症——聞き慣れない言葉だが、これこそが今、口内フローラを破壊する「元凶」として注目されている症状なのだ。
一般的に歯の悪化に起因する症状といえば、歯肉炎や骨髄炎など歯の周辺部が思い浮かぶ。ところが近年、それまで無関係と考えられてきた病気と、歯原性菌血症との因果関係が認められ始めている。
「虫歯や歯周病などによって口腔内にできた傷口から侵入した細菌が、そのまま血管に入り込み、全身を巡ります。すると気づかぬ間に血管で炎症が起きて、動脈硬化を引き起こします。口の中から侵入した細菌が心臓の血管で血栓をつくると心筋梗塞が、脳なら脳卒中が起こってしまう、というわけです」(花田教授)
歯原性菌血症は命の危機にまで及ぶ。そのメカニズムはこうだ。
血管内に侵入した細菌が炎症を起こす。そこに血管を修復しようとやってきたLDLコレステロールが、活性酸素によって酸化し、悪玉コレステロールに変化。すると今度はそれを除去しようと、細菌を消化する能力をもつ細胞のマクロファージが集まってくる。
そうして凝集したマクロファージが死んで堆積すると、血栓がつくられる。結果的に、多くの病気の原因となる動脈硬化をもたらすのだ。
歯と認知症の密接な関係
そうはいっても、細菌が体内に侵入するのは何も口だけではないはず。たとえば冒頭で説明した腸内で同様の症状が起きることはないのだろうか。
結論から先に言うと、それはほぼない。口から入った細菌が腸とは比較にならないほど危険だと断言できるのには、れっきとした理由があるのだ。
「確かに腸内の血管に細菌が侵入することはまれにあります。しかし、侵入したとしても必ず肝臓に続く門脈という栄養分の通り道に合流するため、肝臓に運ばれた細菌は解毒されてしまうんです。だからそれほど心配する必要はありません。
一方、口の中から細菌が侵入する場合はこの門脈は通りません。したがって解毒されることもなく、直接体内へと運ばれてしまいます」(花田教授)
これだけでも十分恐ろしい歯原性菌血症だが、その影響は動脈硬化だけにとどまらない。なんと細胞内のがん抑制遺伝子の機能にも影響を与えるというのだ。
「これまでがんという病は発がん性物質や紫外線、ウイルスなどが原因で、細胞内の遺伝子に欠損・変異が起こり、がん化すると考えられてきました。ところが、歯原性菌血症による血管内の慢性的な炎症でも、細胞内の遺伝子が後天的変化を起こし、がん抑制遺伝子が機能を停止し、細胞のがん化が進行することが近年わかったのです」(花田教授)
こうした恐ろしい歯原性菌血症の大本にあるのが歯周病だが、その歯周病自体がどうやらアルツハイマー型認知症とも関係があるようなのだ。
波多野歯科医院の波多野尚樹院長が解説する。
「ものを噛むという行為は顔や頭の筋肉を動かしますが、これがポンプの役割となって脳に大量の血液を供給し、活性化させます。もし、歯周病などで歯がなくなってしまうとその働き自体が失われてしまい、アルツハイマー型認知症を促すとされています。
名古屋大学の研究グループがおこなった調査では、70歳後半の健康な高齢者の歯の本数は平均9本だったのに対し、アルツハイマー型認知症患者の歯の本数は平均3本という結果が出ています。加えて認知症の脳にたまるアミロイドβの増加も同様の研究で確認されています」
咀嚼による刺激が脳の劣化を防ぐということはすでに言われてきたことだが、口内フローラが保たれていないと認知症に直結してしまうリスクが生じるわけである。
唾液は副作用のない万能薬
口腔内細菌の増殖を許すことがいかに危険か分かっていただけただろうか。
それではどうすれば増殖を阻止できるのか。ここで威力を発揮するのが唾液である。竹屋町森歯科クリニックの森昭院長も唾液の重要性を示している。
「唾液は、副作用のない唯一の万能薬だと私は断言します。唾液には殺菌効果があり、口内環境を正常に保つのに大きな役割を果たします。この唾液が少ない状態、つまり口の中が乾燥してしまうと、細菌が増殖して虫歯や歯周病が起こりやすくなってしまうのです」
日頃から唾液について意識することは少ないだろうが、生活習慣によって唾液量は大きく変わってくる。唾液を増やす方法を森昭院長が教えてくれた。
「現代人の中には、軟らかい料理の増加による顎の筋力の低下や、運動不足に起因する肥満の影響などで、口呼吸を行う方が増えています。ところが、この口呼吸が唾液量を減少させる原因なのです。
そこでふだんからきっちり口を閉じ、深い呼吸を意識することで鼻呼吸をしましょう。また、唾液が出るためには副交感神経を活発化させることも大切です。入浴時には熱いお湯ではなく、38度くらいのぬるめのお湯に半身浴で浸かることをおススメします」
意外な習慣が唾液を少なくさせていることもある。スマートフォンを操作する姿勢もその一つだ。
「スマホをいじっているときは、うつむき加減でじっとしていますよね。こうすると唾液腺の出口が圧迫されて、唾液が出にくくなってしまいます。メールやゲームに集中していると、緩い過緊張状態に陥り、交感神経が優位になって、さらに唾液が出にくくなるんです」(中城歯科医院の中城基雄院長)
食事の習慣を変えるだけでも、口内の悪玉細菌を減らすことは十分に可能だ。その方法とは糖質中心に偏っている食生活から脱却することにある。
「砂糖などの糖類が虫歯といった歯の病気に影響すると考えがちですが、それは小児期まで。成人以降はむしろ白米の主要成分であるデンプンなどの多糖類も歯に悪い影響を与えます。
多糖類は加熱された状態で口腔内に入ると、唾液により麦芽糖に分解されますが、これが悪玉細菌にとっては絶好のエサになります。白米に加えて、雑穀米や未精製の玄米などを積極的に取り入れてください」(前出の花田教授)
白米を我慢するのは辛いという人は、食べた後こまめに歯みがきしたほうがよさそうだ。
最先端の口腔ケア
では、その歯みがきの方法だが、正しくみがくかどうかで口内フローラの状態はまるで異なってくる。
ポイントとなるのは歯の表裏だけではなく、左右、つまり「歯のすき間」も加えた4面をきちんと磨くこと(上図参照)。歯ブラシでは磨けない歯のすき間には歯間ブラシやデンタルフロスが必須になってくる。
歯だけでなく、舌にも細菌は潜んでいる。特に舌の表面に付着した「舌苔」と呼ばれる汚れも歯ブラシで掃除する習慣をつけることも忘れずに。
正しい歯みがきの仕方を覚えたら、タイミングにも気を付けよう。
「歯みがきのタイミングですが、極端に言えば磨けるときに何度でも磨くべきです。必ず食後に磨かなくてはいけないわけではありません。大切なのは菌の数を減らすことなので、食前でも構いません。歯茎から血が出ても菌の除去のため、血が出なくなるまで磨きます。
ただし就寝前には必ず磨いてください。就寝中は菌が増えますから、その前にできるだけ菌を減らしておくのが重要になります」(前出の波多野院長)
最後に最新の口腔ケアを紹介しよう。それが「3DS」(「デンタル・ドラッグ・デリバリー・システム」の略)という治療法だ。開発者でもある前出の花田教授はこう解説する。
「毎朝、歯みがきのかわりに、歯型をとって作ったマウスピースに殺菌消毒薬を塗布して5分間装着してもらう方法です。この3DSで連日歯の表面を除菌していくことで、虫歯菌も歯周病菌も取り除くことが可能になります。また除菌効果は、一般的な歯みがきの数倍長持ち。前述の歯原性菌血症の予防にも絶大な効果を発揮しますよ」
健康保険はまだ使えないため、歯のクリーニングとマウスピースの作製および各種検査で、合計費用はやや高めのおよそ10万円程度。現在全国約200ヵ所での受診が可能となっている。
口内フローラを健康に保つことが全身の病気予防になる。誰もが知りたかった長生きの秘訣は、「歯」にも隠されていたのだ。
[現代ビジネス]
Posted by nob : 2016年03月14日 15:24