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■遅すぎた夜明け・M&Aが必ず日本に活力をもたらす
ご存知の方もいるかと思いますが、韓国サムスン電子の利益は日本の家電メーカーの両雄であるソニー、松下電器産業の2社を合わせても遠く及ばない金額です。ブランド力も先輩格のソニーを抜きにかかっています。家電は日本産業の代表選手ではありますが、なぜサムスンほどの業績を出すことができないのでしょうか。
理由は意外と簡単ではないのでしょうか。それはこの業界が何年も再編しなかったからです。ソニーと松下の合併がなくても、せめてこの2社を軸に大胆なM&A(企業の合併・買収)を行うべきでした。各社の経営陣は生き残りをかけて独自路線を目指すと主張しますが、その独自路線は結局大した独自色もないまま、ジリ貧の生き残り競争をしているに過ぎないのです。
しかし、今年に入って日本もようやくM&Aの時代に突入したのです。阪神電気鉄道と阪急ホールディングスの経営統合は世間の注目を集めましたが、勢いが増すばかりです。M&Aの中身も強い企業が弱い企業を救済するような古いパターンではなく、強みを補完し合い、グローバルな事業を展開するためのケースが増えました。
昨年5月、まだ私がソフトブレーンのCEOをやっていた頃、証券取引法違反で起訴されている「村上ファンド」の村上世彰被告と出会いました。正直言うと彼のM&Aに関する持論に私は大いに賛成しました。M&Aを通じた業界再編は個々の企業の事業再編よりずっと社会的な意味が重く、個々の企業の経営者にはできないことです。
村上氏が逮捕されるとは想像もできなかったため、彼の知識と能力を借りてばらばらになっているソフトウエア企業を、M&Aを通じて世界に通用するビジネスソフトウエア企業にすることを夢見ました。
読者の皆さんがご存知の通り、ソフトウエアは日本が世界で最も遅れた分野の1つです。大量な人材と大きな市場を国内に抱えながらも、ただの下請け開発から脱出して世界に通用するソフトウエアを作り上げる企業は日本にほとんどないのです。
結局、私の無能でこの考えはただの空想に終わってしまいました。しかし、M&Aがどれほど重要で、かつ実際にやるのが困難かは自分の体験を通じてしみじみわかりました。だから阪神と阪急の合併は本当にすごいことであり、想像を絶することでした。この2社の合併は重大な社会的意義をもたらし、多くの経営者とファンドマネジャーにコロンブスの卵を見せたのです。
大企業だけではありません。後継者問題は今、中小企業の最大の問題として浮上してきました。どんな優秀な中小企業にも必ず後継者問題がやってきます。また優秀な中小企業ほど、その前任者の優秀さと比較され、後任者がやりにくいのです。
これまでの社会風土として、「企業は公器」と言いながらも、社長が企業を自分の血縁者以外の他人に譲ることは一般的ではありませんでした。また、M&Aを意識していたとしてもそれは他社を合併する意味であり、自社を他社に合併させることではあり得ないのです。そのままジリ貧でもいいから身売りだけはしてはならないという、「国体維持」に近い感覚がありました。
しかし、遅まきながらそんな真っ暗と思われていたM&A市場にも夜明けがやってきたのです。一部の保守的な経営者の抵抗と関係なく「業界再編」という経済マグマが音を立てながら動き出したのです。この社会的な流れに経営者が対抗できない時代です。
日本は始まるまでは遅いのですが、始まったら速いとよく言われます。私もそう思います。大企業同士のM&Aが必ずこれまでにない社会の活力と全体の効率性を生み出すと思います。
この夜明けが遅すぎたことは悔やまれます。しかし、今後M&Aによって救われる業界と企業はたくさんあると思います。遅い夜明けではあるものの、社会全体がM&Aによって活性化するのを期待していた人たちにとっては、その分うれしさも一入でしょう。
宋 文洲(そう ぶんしゅう)
ソフトブレーン マネージメントアドバイザー
〔日本経済新聞〕
Posted by nob : 2006年11月28日 12:46