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■クローズアップ2007:地球温暖化分析・IPCC報告書 地球、危険水域に

 地球温暖化は疑う余地がなく、人間活動が原因と確信する−−。国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は温暖化懐疑論を明確に否定し、異常気象との関連も認めた。先進国に温室効果ガスの排出削減を義務付けた京都議定書の約束期間は来年始まるが、報告書は世界各国に待ったなしの対策を迫っている。【田中泰義、山本建、ワシントン・和田浩明】

 ◇膨大データ「人為的」証明

 「かなり強力な報告書だ。大西洋のハリケーン強大化は、海面の温度上昇と見事に一致している」。温暖化人為論を早くから提唱した米マサチューセッツ工科大のケリー・エマニュエル教授は、今回発表された報告書をこう評価した。

 地球温暖化が人間活動に起因するということは、日本ではいわば常識。だが、米国を中心に産業界から、それを否定する“科学的”な反論が根強くあった。今回の報告書はこれを強く打ち消すものであり、会議では、99%を示す「ほぼ確実」の表現さえ検討された。科学者がそれほどまでに自信を持って「温暖化は人為的」と表現したのは、01年の第3次報告書から6年間に、膨大なデータが集まったからだ。

 前回の報告書ではわずか1章だった観測成果は「地表面と大気」「雪氷、永久凍土」「海洋」の3章に増えた。「海洋」の執筆に携わった花輪公雄・東北大教授(海洋物理学)は「単純に考えれば、観測データの量が3倍に増えたといえる」と説明。報告書で「モデルとその検証」の章を担当した住明正・東京大教授(気候力学)は「モデルは荒唐無稽(こうとうむけい)と批判されてきたが、IPCCの十数年間の観測との比較から、でたらめではないと分かってきた」と指摘する。

 ◇危機感共有、難しく

 「米国が最大の科学的データを提供した」。米国のスノー大統領報道官は1日、今回の報告書に対する米国の貢献を強調した。経済活動と温暖化の因果関係をあいまいにするよう、ホワイトハウスが政府機関の気象学者に圧力をかけたとの批判への反論でもある。

 昨年11月の中間選挙で、温暖化対策に積極的な民主党が勝利したことなどを踏まえ、米国に政策の変化を期待する声が内外で高まっている。米産業界は、10年間で二酸化炭素(CO2)の10%削減を義務づける勧告を出した。だが、連邦レベルでの強制措置導入は、民主党政権誕生の可能性がある08年以降との見方も根強い。今後の米国の取り組みが問われる。

 「このままの(温室効果ガス)排出が続けば、人類は経験したことのない温暖化した時代に突入する」。鈴木基之・中央環境審議会会長ら科学者が2日、緊急メッセージを発表した。しかし、パリでの会議では、09年には米国を抜いて世界一の排出大国になる中国が、人間活動が温暖化を招いた可能性について「極めて高い」とする表現に反対するなど、危機感を共有しているとは言えない。

 日本は05年に閣議決定された「京都議定書目標達成計画」の見直し作業が進められており、より実効性のある対策が求められる。欧州と連携して米国や中国の取り組みを促していかなければ、温暖化は防げない。

 「世界自然保護基金」(WWF)のジェームズ・リープ事務局長は報告書を「早急な排出削減を各国政府に求める警鐘」と位置付け「欧州連合(EU)は30%の排出削減を掲げるべきだ」と提唱。グリーンピースのステファニー・タンモアさんは「前回報告が警告だとすれば、今回は最後の叫びだ」としている。

 ◆気温上昇シミュレート

 ◇1度↑、30万人が死亡/5度↑、主要都市水没

 ◇海洋の酸性化を初指摘

 英政府の依頼でニコラス・スターン元世界銀行上級副総裁がまとめた「気候変動の経済影響」(スターン報告書)は1〜5度の温度上昇で、どのような影響があるのかを分析している。

 例えば1度の上昇でも5000万人が水不足に悩み、30万人がマラリアなどで死亡。EU(欧州連合)が目指している2度以内の上昇でも、アフリカの作物収量が5〜10%落ちる。また、5度になると、東京やニューヨーク、ロンドンなど主要都市が海面上昇の危機に直面すると警告する。

 一方、IPCCによるとこのままの経済成長が続いた場合、東アジアなどでは21世紀末に平均気温が3・3度上昇する。03年、3・8度高くなった欧州では、5万人以上が亡くなった。報告書でも極端な暑さや熱波、豪雨の発生が増す可能性が高い、と触れた。

 国立環境研究所の原沢英夫・社会環境システム研究領域長(環境工学)は「高齢化と温暖化が重なって、熱中症患者が増えるのでは」と懸念する。また、報告書は初めて海洋の酸性化が進むと指摘。茅根創・東京大助教授(地球惑星システム学)は「生態系に与える影響は大きい」と語る。

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 ■ことば

 ◇IPCC

 88年に設立された国連の組織。各国政府から推薦された科学者が三つの作業部会に分かれ、5、6年ごとに地球温暖化に関する科学的根拠とその影響、対策の3項目について評価を見直す。報告書にまとめて公表し、今回は90年、96年、01年に次いで4回目。96年に初めて人間活動が温暖化を引き起こしている可能性について触れた。今回は01年の第3次報告書以降、約65万年前までにさかのぼる大気の分析や観測網の充実を踏まえ報告書を作成した。

[毎日新聞]

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Posted by nob : 2007年02月03日 20:15