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■成長中国、外資たたき

 トウ小平(トンシアオピン)氏が広東省や上海市などを歩き、改革・開放の重要性を説いた「南巡講話」から15年。「外資を増やせ。恐れるな」というトウ氏の号令のもと外資誘致に猛進してきた中国で「外資たたき」の動きが出ています。ルイ・ヴィトンやスターバックスといった有名ブランドが「標的」になっているのが特徴です。外資に対する姿勢の変化の背景を探りました。(北京=吉岡桂子)

◆競争相手を「退治」か 浙江省、ヴィトン燃やす

 ルイ・ヴィトンやトラサルディなど1足で数万円もする高級靴の箱に、「劣質輸入革靴」と大きな張り紙。浙江省杭州市のゴミ処理場で、欧州製の有名ブランド靴が数百足も燃やされた。06年12月末のことだ。

 燃やしたのは、浙江省工商行政管理局。店頭での抜き取り調査の結果、靴底の強度不足やサイズ表示が中国式ではないといった理由で、有名ブランド靴の8割弱が品質基準を満たしていないとした。浙江省内での「不合格商品」の販売は停止された。

 浙江省は中国有数の靴の産地。欧州にも猛烈な輸出攻勢を仕掛け、スペインでは反発した地元業者によって浙江省の靴を焼かれたこともある。

 同管理局はホームページを通じて、「欧州連合は中国製靴の輸入に高い関税をかけてくる。一方で、中国が輸入した欧州製靴は(中国製の)3〜10倍以上の値段ながら品質合格率はわずか24%だ」とコメント。今回の処分と貿易摩擦の関連性を示唆した。「利益集団化した企業が政府に強く働きかけている」(肖敏捷・大和総研上海事務所代表)状況も、背後にはある。

 浙江省での「海外ブランド退治」は初めてではない。06年は、東芝やヒューレット・パッカードなど外資4社のノートパソコンも落雷対策などで不合格とした。05年にはソニーのデジカメの品質を問題視。欧州製の洋服やケンタッキーフライドチキンについても、品質の基準違反を指摘した。

 浙江省は外資に依存せず、地場企業を中心に経済成長を遂げた中国では数少ない地域。それだけに、競争相手となる外資に対する目は厳しい。処分の効力は省内だけだが、その内容は報道を通じて全国に伝わる。東芝が該当機種の販売を中国全土で自粛したように、浙江省の処置は全国に波及する可能性がある。

◆庶民の不満、そらす狙い 上海ではシャネル不合格

 シャネル、バーバリー、アルマーニ——。海外高級ブランドの25種程度の洋服に対し、上海市工商行政管理局は1月、染色の定着度など品質問題を理由として、店頭からの撤去を命じた。不合格品の大半が輸入品で、最高価格は6万元(約93万円)、と発表された。対象となったブランドの店には、ベンツで乗り付ける中国人客もいる。

 上海市の処分には、「海外ブランドを購入できる金持ちたちをたたいた」との見方もある。フランス紙「フィガロ」は、「上海当局は、やみくもな高級ブランド信仰を非難し、市民に合理的で質素な生活を重んじるように働きかけている」と分析した。

 上海は外資を誘致し、国有企業と合弁させることで、経済の急成長を続けてきた。高級ブランド品の販売の伸びも著しいが、多くの農民や庶民にとっては依然として手が届かないのが実情だ。上海での最近の「外資たたき」には、成長の豊かさの恩恵からもれた人々の不満の矛先をそらそうとする、当局の意図も読み取れる。

◆母国に自信、評価変化 故宮のスタバ撤退運動

 「国家主席をしていなければ、スターバックスコーヒーに通っていただろう」。06年4月の訪米時に胡錦濤(フーチンタオ)国家主席が持ち上げたスタバが、中国で批判にさらされている。

 北京市内にある明・清王朝の宮殿「故宮」の中で00年に開業した店舗に対し、「中国文化を踏みにじる」として、撤退を求める声が高まっているのだ。誘致した故宮側は、6月末までに対応を決める。

 中国大陸で200以上もの店舗を展開するスタバ。消費者たちの評価の変化は、外資に対する国民の見方が変化したことの反映だ。世界第4位の経済規模にまで急成長を達成した母国への自信が、消費者たちを「外資信仰」から解き放つ原動力になっているようだ。

 中国は外資をテコに世界の工場となり、急成長した。輸出の6割は外資系企業が担っている。

 中国政府はいま、「自主創新」をかけ声に、外資に代わる自国企業の育成を急いでいるが、外資ブランドがあふれるなかでの方針転換は難しいのが実情。国民感情も揺れており、外資誘致の旗振り役だった商務省の関係者は「扱いが難しくなってきた」とこぼした。

◆(視点)外資への目、厳しく

 アヘン戦争以降の歴史的体験や現在の政治体制を理由に、外国に対して独特の警戒感を持つ中国。しかし、経済については外資誘致の開放政策が「国是」だった。それが成長に直結したから、批判も目立たなかった。

 だが、外資なら「熱烈歓迎」という時代は過ぎた。環境や品質、企業市民としての立ち居振る舞いに対する視線は、日々厳しさを増す。歴史問題を理由に、日本企業は感情的な批判にとくにさらされやすい。中国における外資への意識や要求の変化を見誤らないようにしたい。

◆キーワード

〈中国の外資政策〉 中国は06年からの5カ年計画で、外資誘致の目的を「不足する資金や外貨の穴埋め」から、「環境配慮・省エネを含む先進的な技術、経営管理の導入」や「経済発展が遅れた内陸の重視」へと転換した。企業への課税や工業用地の分譲における外資優遇策も見直すことが決まった。中国が79年から06年までに吸収した外資の直接投資額は累計6837億ドル。世界貿易機関(WTO)に加盟した01年以降で約半分を占める。

[朝日新聞]

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Posted by nob : 2007年02月12日 18:41