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本質的原因の所在。。。
■原発の行方、日本の行方
ホルマン・ジェンキンス
津波被災地で原子炉の緊急冷却に取り組む日本の原発関係者の苦闘ぶりはドラマ顔負けだ。しかし、一番重大なこと ― 人命と安全 ― に関して言えば、原発の闘いは添え物でしかない。列車全車両が消息不明になり数百名の安否が気遣われた。集落が丸ごと流されて、数千人の住民が命を奪われた。これまで、原発の作業員1人が死亡したことが判明しており、ほか数人が放射能中毒の兆候を示している。
環境劣化に関しては、映像の示すところ、津波の水が、上陸後、暗褐色に変色した。限りない量の汚染物質(下水、燃料、潤滑油、洗浄溶剤)が地面全体に広がり、帯水層へと染み込んだ。一方、放射線放出は、勇敢な原発作業員以外には、まだ重大な脅威とはなっていない。
10年近く前、意図的なテロ破壊に対する原発の脆弱性を米国民が危惧したとき、米原子力規制委員会(NRC)のニルス・ディアス委員長は次のような有名な演説を行った。「概して、原発はバランスのとれた描き方をされていないように思う。これはおそらく、原発のことをよりよく知る者すべての責任だろう。(原発事故の)結果にはっきりと言及しないという風潮が色濃く見受けられるからだ」
同委員長は続けて、史上最悪の原発事故であるチェルノブイリの結果をはっきりと示した。この事故では、黒鉛炉心原子炉が1週間以上、露天で燃えた。59 人の消防士と作業員が死亡したほか、避難やその他の対策をとらなかったことで、1800人の小児甲状腺がん患者の発生につながった(死亡に至ったケースはおよそ10件)。ディアス委員長はさらにこう述べた。「大量の放射能を浴びた場合に見られる早期一次潜在性健康影響には、白血病も含まれると予想されている。しかし、チェルノブイリに起因するとされる白血病の過剰な患者数はまだ検知されていない」
ディアス委員長の発言を粉飾してはならない。同委員長はリスクのまったくないエネルギーを提示していたわけではない。ではここで、日本について考えてみよう。日本はおそらく過去1100年間で最悪の地震に見舞われ、続いて、原発が津波に直撃された。日本が依存するその他の多くの産業システム(輸送、エネルギー、水道、食料、医療、公衆安全)が甚大な打撃を受け、機能を停止した。一つまたは複数の原子炉のメルトダウンはほぼ阻止されたようにみえるが、最悪の出来事はまだ起こり得る。
現実を客観的に判断して、「ほぼ阻止された」としてある点に注意が必要だ。全面的または部分的メルトダウンでは、格納構造の状態や、それ以上に、原子炉内部で起きていること、とりわけ、放出する必要があるであろう流体や気体に関して起きていることが分からない限り、どういう事態になるかは実のところ分からない。日本の場合、昨日の、使用済み核燃料の冷却失敗も、事情をさらに厄介にしている。これに一部起因して放出物が噴出したのは驚きだったが、より広範囲の公衆を脅かすものではなかった。東京電力は片付けるべき問題を山のように抱えているが、地域規模の天災によってさらに悪化した状況下においてさえ、チェルノブイリ規模の放出は回避される公算が大きそうだ。だとすれば、原発による今年の死者数は、炭鉱事故による死者数を下回ることになるだろう。
そこで、一つ、疑問が浮かぶ。世界には、発電に使えるガスと石炭がある。原子力は、政府の多くの支援を必要とする温室植物だ。環境団体は、おそらくいわれなき道徳的権限によって、炭素排出抑制こそが人類最大の課題だと長年主張してきた。風力と太陽エネルギーでどうにか差を穴埋めできると主張するという、現実逃避を選択していない環境団体は、化石エネルギーの唯一の代替エネルギーが原子力であることを冷静に認識してきた。
こうした環境団体は、一夜明けたらどういう立場に立っているのだろうか。温室効果ガスの二大生産国であり、急成長中の中国とインドには、計画中や建設中の原発が何十基もある。民主国家であるインドは、日本の震災への政治的反応によって方向転換する機がとりわけ熟している。環境保護主義者は、もし自らの地球温暖化のレトリックを信じているとすれば、現実主義的な原発支持をやはり表明するのだろうか。それとも、資金調達が容易でメディア受けする反原発のパニックに加わることになるのだろうか。
われわれにはすでにその答えが分かっているのではないか。世界が二酸化炭素排出量の協調的削減に取り組むというありそうもない事態においては、原子力が鍵だった。良くも悪くも、この可能性が今や消え去ったと考えるべきだろう。
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話は少し違うが、東日本大震災は、連綿と続く、日本経済の謎を浮き彫りにする。公式データでは、日本経済は20年間、年間成長率1%そこそこで停滞を続けている。人口も減少している。ばらまきの公共事業支出は、国庫を破産させつつあるようだ。政府債務残高は膨大で、手に負えない状態になっているように見える。
その一方、日本は今までにも増して輸出大国になっており、経常黒字は1980年代末の日本株式会社の全盛期以降、5倍に膨らんでいる。公共サービスは第一級だ。円は強い。金利は低い。日本国民は健康で、最新・最良のあらゆるものを十分に供給されている。高級ブランド業者にとって、日本は依然、最高のマーケットだ。報告されている失業率は5%を下回っている。
日本は保護主義批判をかわすために経済成長率を偽ってきた、との説がある。日本の沈滞は、おおかた、欧米観測筋の目にそう映っているだけのことで、欧米観測筋は国家主導的、銀行中心的、輸出志向型資本主義の粘り強いダイナミズムを把握できていないのだという。この説は、多くの人々にとってまゆつばものでしかないが、日本政府が再建のために新規の借り入れや支出を大々的に進めようとするなかで、その真偽について、興味深くかつ厳しい試練を受けようとしている。
(ホルマン・ジェンキンスはウォール・ストリート・ジャーナルの編集委員)
[WALL STREET JOURNAL 日本版]
Posted by nob : 2011年03月17日 00:20