« 公正さと公平さは健全な人間関係と社会構築の礎。。。 | メイン | 様々な立場と視点。。。Vol.4 »

もはや企業として終わっているのに終わらせられない、、、もたれ合う政府と業界に開いた口が塞がらない。。。

■世界が震撼!原発ショック
悠長な初動が呼んだ危機的事態
国主導で進む東電解体への序章

東京電力の福島第1原子力発電所で起きた事故は峠を越える手前にまできた。原発は一民間企業の負うリスクを超えたものだと明らかになった。それでも東電はすぐにはつぶれない。あまりに悠長な体質がもたらした初動ミスが東電解体への序章となるだろう。(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男、小島健志、柴田むつみ)

 ある政府関係者は東京電力の対応に怒りをあらわにする。

「(3月14日に)2号機の燃料棒が露出したとき、東電側は『全員撤退したい』と伝えてきた。撤退したら終わりだった。絶対に止めなければならなかった」

 あの時点で撤退とは無責任極まりない。この政府関係者は、事故の初動から東電の対応に不信感を抱いていた。

 地震発生時の11日、福島第1原子力発電所1~3号機は自動的に止まったものの、津波により外部の設備が使えなくなった。予備の電源も失われ原子炉内を冷やすシステムも動かなくなった。炉内を冷やさなければ、燃料棒が溶け深刻な事態を招く。東電はまず電源を復旧しようと電源車を送った。しかしそれをつなぐ部分が水没しており結果的に失敗した。

 そのうちに1号機では炉内の熱で水蒸気が発生し、圧力が高まっていった。破裂しないうちに放射性物質を含む水蒸気ごと逃がし、圧力を下げる必要があった。これをベント(排気)という。「ベントをやらなければならなかったが、本店は非常に消極的」(政府関係者)という状況だった。

 福島第1原発の現場責任者は、吉田昌郎・執行役員発電所長である。その陣頭指揮は光っていたようだ。「吉田所長は勇敢で現実的だった」と政府関係者は言う。「しかし、本店を経由してしか現地に連絡できなかった。だから12日朝、菅直人総理がヘリで現地に飛び『ベントしろ』と言った。吉田所長の背中を押しに行ったんだ」(政府関係者)。

 はたして12日午後、ベントが行われたものの、格納容器内で発生した水素が建屋に漏れ、水素爆発が起こった。14日には3号機でも水素爆発が起き、安定的だった2号機でも炉心の水位が下がり、燃料棒が露出して空炊きという非常に危険な事態となった。水を入れる必要があった。

 冒頭の「全員撤退」という話が飛び込んできたのは、そのときである。政府側はあわてた。

 政府側が現地に連絡すると、吉田所長らが懸命に注水作業をしているところだった。そして、「水が入った」と言っているのに東電はいっこうに発表しない。

「とにかく、本店と現地に温度差があった。そもそも予備電源が切れたときの想定がなくて驚愕した。最初から自衛隊でも警察でも使えと言っていたのに、本店はあまりにも悠長だった」と、政府関係者は言う。

 プラントメーカーの東芝首脳も唇をかむ。

「最も原発を知っている技術者たち専門家集団は地震直後からスタンバイしていた。東電の本店の廊下にもいた。しかし部屋に入れてもらえなかった。東電とメーカー、官邸が仲間になれたのは地震発生の3日後だった。もっと早く手を打てたはずだ」

 それに対して、東電の武藤栄副社長は「全員撤退については言っていない。プラントや通信の状況が悪いなかで、ともかく人身の安全が重要だという判断で、プラントの保守や保安に必要な人間だけを現場に残し、それ以外の人を一時的に避難させた」と言う。初動についても「状況を見ながら適切に判断してきた。最大限の努力はした」と話す。

 いずれにせよ、当初は東電内で事をすませようとしたことは間違いないようだ。政府は15日朝、東電と一体となって危機対応に当たるべく統合対策本部を設置した。

 事態を好転させたのも本店ではなく現地の英断だった。18日にはプラントの電源を復旧させるため、送電線から回路を引き下ろす作業が行われた。そのさなか、自衛隊によって3号機の原子炉内を冷やすための放水作業も続いた。

 東電関係者は興奮気味に語る。

「放水作業のなか電線工事をすることは作業員の安全を確保できるものではなかった。何が起こるかわからないからだ。本店と現地は何時間も議論した。本店は『自衛隊の放水は止めてもらえ』とまでなった。だが吉田所長が『やる』と判断した」

 ぎりぎりの選択だったが、この工事は成功。現場でも本店でも拍手が起きた。「本店がいろいろと言っても吉田所長は『評論家はいらない』と取り合わなかった。彼がいなければ現場も本店もパニックだったろう」(東電関係者)。

 本稿執筆の22日時点、電線の工事は進みプラントに電源がつながった。電源の復旧は原子炉を制御するうえで大きな意味を持つ。

それでもすぐつぶれない
経営が直面する難題

 国内のみならず、世界を恐怖に陥れている福島第1原発事故。その張本人である東電の今後については、「事後処理に莫大なカネがかかる。さすがにつぶれてしまうのではないか」と思う読者が多いだろう。だがじつはそう簡単にはつぶれない。東電の“懐”は、五つの点で無事なのだ。

 まず増資で得た資金だ。東電は昨秋、29年ぶりの大規模公募増資を行い、約4500億円を得ている。本来は海外投資など成長分野に投じる資金だったが、今回の事故の対策費に充てざるをえない。

 次に巨額な引当金だ。原発関連を単純に積み上げると、解体費用など約2兆円の引き当てがすでにすんでいる。福島第1原発だけで案分しても約 7000億円分あるのだ。もちろん、再処理や新潟県中越沖地震の復旧費など「直接は関係しない」(東電広報部)というが、用途の変更ができれば使うことができるだろう。

 さらに原子力損害賠償制度もある。日本原子力産業協会によると、津波や地震の場合、1発電所1200億円までは政府から賠償金が支払われる。すでに政府に補償契約料を支払っているためだ。それ以上になっても政府が必要と認めれば「援助」がある。今回の震災が「異常に巨大な天災地変の場合」となれば話は変わる。なんらかの「政府の措置」がなされる可能性がある。

 そして最後は“伝家の宝刀”を抜けばよい。電気料金の値上げである。国の許認可が必要なものの電力会社が社会に必要とされる以上、値上げは不可避となるだろう。いずれにせよ収支の帳尻を電気料金で合わせることができる。

 メガバンクなども総額約2兆円の緊急融資を計画。メガバンク関係者は「名前は変わってもつぶれはしない」とみる。まさしく“焼け太り”である。

 しかし、今後1年間という短期で見た場合、キャッシュフローの点では大きく二つの難題がある。

 1点目が電力の供給だ。現状は約3800万キロワットの供給能力に対して、東電の藤本孝副社長は「なんとか夏までに5000万キロワットの供給力を確保したい」と述べる。夏は冷房により需要が約6000万キロワットまで増える。冬も暖房により約5000万キロワットは見込まれ、綱渡りの状況が続く。

 なぜならば、電力はためることができない。「同時同量」といって、最も需要の高まる時間に合わせて供給力を上げなければならない。ガスタービンの新設や他の発電所からの電力購入、燃料の調達など、費用を度外視してなりふり構わず供給力を高めなくてはならない。

 オール電化営業もストップした。東電の島田保之執行役員営業部長は「節電と計画停電をお願いしているなか、進められる状況ではない」と言う。計画停電か節電か、はたまたサマータイム導入など制度変更かといった、国民を巻き込んだ停電への備えをしていくことになる。電気料収入は少なくとも2割程度は減るだろう。

 2点目は原発への対策だ。福島第1原発の1~4号機は海水が入っており廃炉は免れない。むろん、7~8号機の新設計画は白紙とならざるをえない。20年ぶりに着工した東通原発の建設も凍結。柏崎刈羽原発への津波対策も急務となる。

 収支も悪化する。東電は柏崎刈羽原発で1基110万キロワット分が稼働したら、燃料費等を抑えられ、月に約90億円の収支改善に至るとしている(2011年3月期第3四半期決算)。この前提を踏まえ福島第1、第2原発の910万キロワット分が単純に停止し続けると考えると、月に約750億円の収支悪化につながっていく。「金の卵を生む鶏の首を自ら絞めた」(他電力の原子力関係者)というとおり、原発はキャッシュの源泉だったのだ。

一民間企業の限界を露呈
不可避の電力体制の再編

 これだけではすまない。すでに東電解体、電力再編へと波紋を広げる一石は投じられている。

 今回の事故から原発のリスクは一民間企業で負えないことが証明された。東電が内向きに解決しようとして初動が遅れたことからも、今後は政府の関与を強める声が当然上がってくる。そもそも、世界的に見ても政府の関与を直接的に受けずに民間が原発を稼働している国はまれだ。

 今、原発は発電電力量の約3割を占める。これを止めれば、ほとんどの地域で計画停電が必要となる。原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「現実的に原子力がやめられないのなら国が責任を持ってやればよい」と話す。核のゴミである使用済み核燃料の廃棄等も民間で負えるリスクを超えている。東電が手に負えないものを地方電力会社が負担できるわけがない。原子力部門の分離、国営化が現実味を帯びてくるだろう。

 また今回、東日本の周波数は50ヘルツで西日本は60ヘルツと、東西の電力が融通できないことが広く国民に知られるようになった。

 現在東西の電力は計100万キロワット分しか融通できない。これは「送電線を両方から引っ張る必要のある周波数変換所よりも発電所を建てたほうが経済的」(藤本副社長)というからだが、実際は電力会社が相互に乗り入れ競争することをいやがっていた節もある。

 だが、一橋大学大学院の橘川武郎教授が「周波数の問題は電力会社間の競争を生み、自由化を促すことになる」と指摘するように今後大きな問題となりそうだ。変換所の増設が地域独占を崩すことにつながるからだ。

 いわゆる「東東合併」もありうる。東電よりも東北電力の経営はさらに厳しい。復興費のみならず経営地盤の被災により、電気料金を回収することすら難しい状況が続くだろう。経営が悪化すれば東電との合併により両社とも大合理化を迫られるかもしれない。

 電力だけではない。ガス会社や石油会社を巻き込んだ総合エネルギー会社の誕生もありうる。世界の資源獲得競争が激化するなかで、国の資金を得ながらエネルギーの安定供給を担う企業があってもおかしくはない。

 いずれにせよ、東電や現在の電力体制がそのまま残ることはないだろう。原発ショックが一段落すれば、東電ひいては電力業界の解体、再編が始まるのは必定である。

[ダイアモンド・オンライン]

ここから続き

Posted by nob : 2011年03月29日 21:52