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■猪瀬直樹:首都圏でファンド創設、“第2東電”をつくる
1000万kWある老朽火力設備の更新が早急の課題だ
猪瀬直樹(いのせ・なおき)
首都圏の知事や市長たちが集まる会議で、官民連携インフラファンド創設を提案した。民間参入で“第2東電”をつくることで、100万kWの「東京都電力」だけでなく、火力発電の老朽化による深刻な電力不足に取り組んでいく。
11月8日、東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県と横浜市など政令市による会議(九都県市首脳会議、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・横浜市・川崎市・さいたま市・千葉市・相模原市)があった。そこで、石原慎太郎知事は、首都圏の電力を安定供給するうえで民間事業者の参入促進を図るため、九都県市の枠組みで官民連携インフラファンドを創設することを打ち出し、賛同を得た。その後に開かれたフォーラムでは、僕が詳細を補足した。
会議およびフォーラムでは、電力需給逼迫について危機感が共有された。震災以来、東北電力の供給力が圧倒的に不足している。そのため、電力使用制限令がかかっていた今夏でも、9回ブラックアウト寸前になっていた。
9月10日に電力使用制限令が切れて以降も、危機的な状況はつづいている。9月12日、夏の暑さがつづいたので東北電力はまた供給が足りなくなり、東京電力側が40万kWを融通した。東電管内から電力を供給しないと、東北電力管内でブラックアウトが起きる状況となっている。
新潟の東電柏崎刈羽原発は現在、7基(800万kW)のうち2基分で250万kWを供給しているが、定期点検でこの春までにゼロになる。震災で福島原発が止まり、東電管内では電力供給が900万kW落ちた。来春には、さらに800万kWもすべて失われる。
首都圏エリアに1000万kWの老朽火力が集中している
今年12月の東電の電力供給見通しは、約5500万kWである。一方、電力需要がだいたい5200万kWだと言われている。ところが、2007年の冬には、5500万kWをオーバーしたことがあった。
何とか東電管内ではこの冬を乗り切ったとしても、東電管内から東北電力管内に融通できる電力が少なくなるのは確実だ。東北電力は、70万kWぐらい不足すると予測されている。融通できる電力が足りなくなれば、ブラックアウトが現実のものとなりかねない。
この電力危機に、首都圏として対処していく必要がある。東京都は、東京湾に100万キロワットの天然ガス発電所を作るプロジェクトをスタートさせているが、もちろんそれだけでは足りない。原発事故で東電の経営が悪化しているなか、安定的な電力供給のためには、従来の東電一社独占体制に対して、官民連携による新たな枠組みを構築しなければならない。
いま福島第一原発事故をうけて原子力にかわり発電の主役は火力発電(3900万kW)が担っている。しかし、この東電の火力発電の4割は、運転開始から35年を超える老朽火力なのだ。東京電力の出力で1500万kW分もあり、更新投資額は1兆円を超えることを突き止めた。
しかも東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県という首都圏エリアに1000万kWが集中している。早晩、東電はこれらの設備の更新を迫られるに違いない。
独立発電事業者の新規参入を促す仕組みが必要だ
首都圏に1000万kWある老朽火力を新しい設備に取り替えることができればよいが、多額の賠償の支払いに迫られたいまの東電には無理がある。莫大な設備投資のために資金調達ができないからだ。
老朽火力の更新や、新規発電所の建設を着実に進めるには、これまでの東電頼みの構図を変えて、非東電の民間電気事業者の参入を促せばよい。自家発電した電力を東電に卸したり、東電の電線を使ってビルや工場に電力を販売したりする形態はこれまでもあった。たとえば、東電が自社の新規投資によってかかる原価より、安く卸してもらえば、発電コスト引き下げの誘因となり、ひいては電気料金も安くなる。
かつて90年代に電力自由化の流れが起き、発電部門への新規参入を拡大する「火力入札制度」が95年に導入された。ガス・石油などエネルギー関連メーカーや、鉄鋼をはじめとした素材メーカーなど発電設備をもった企業が参入している。たとえば住友金属鹿島製鉄所(茨城県)は50万kW、JFE東日本製鉄所(千葉県)は39万kW、東京ガスの横須賀パワーステーション(神奈川県)は20万kW超の出力の発電設備がある。
火力入札制度による新規参入者は独立発電事業者(IPP)と呼ばれ、東京電力のIPPからの調達量(07年度)は239万kWにまで伸びた。
新規参入のネックになるのが資金調達
しかし、その後、状況は一変する。1995年当時、1バレル=20ドル程度だった原油価格が、5年後の2000年度には30ドル、2005年度には60ドルへと3倍に上昇したのだ。東電は燃料費が高くつく火力ではなく、原子力への依存をつよめる。火力入札を義務化した制度も05年度には廃止された。
東電という巨大な独占事業体の資金調達力が失われているいまこそ、民間を育てるときではないか。東電の代わりに資金を調達し、発電する。“第2東電”をつくる、と言い換えてもよい。
政府の第三者委員会(東京電力に関する経営・財務調査委員会)も、東電以外の民間発電事業者の参入を提言している。既存IPPの反応も上々だという。
火力入札が実施された場合の参入の可能性等について、主要IPP事業者数社へのヒアリングを実施したところ、いずれも積極的なスタンスを示した(10月3日に公表された東京電力に関する経営・財務調査委員会の報告書より)
そのとき、最大のネックとなるのが、新規参入者のための資金調達だ。発電設備はインフラ産業で、大儲けはできないが長期的に着実な収益を得る。ただ、100万kW規模の「東京都電力」と異なり、既存IPPは比較的小規模だ。規模が小さければそれだけ収益も小さい。民間金融が初期投資をリスクと受け取れば、民間金融だけでは資本を集めることが難しくなる。
民間融資の呼び水となる官民連携インフラファンド
官民連携ファンド創設を提言したのは、初期投資の資金を確保するためである。具体的な形としては、有限責任の投資家(機関投資家、事業会社、外資系金融機関などを想定)と無限責任のファンド運営体が出資して、官民連携インフラファンドをつくる。この官民連携インフラファンドが、投資対象となる発電事業に出資・融資を行う。
官民連携インフラファンドが投資することで、民間金融機関からの融資も呼び込むことができる。呼び水となるお皿をつくれば、民間もお金を出しやすくなるというわけだ。
その際、国や自治体は、ファンド運営体に共同出資する形をとる。ファンドの運営および投資判断は、あくまでファンド運営体が行うので、リスクは遮断される。
11月10日には、国と東京都の協議会の場でも、電力問題について協力を求めた。東電や電力供給の問題は、東京も無関係ではない。最大の需要地である東京に意見を聞いてくれないといけませんよと忠告もしておいた。
しかし、政治の動きは依然として遅い。菅直人前内閣の“脱原発”は野田内閣ではどうなったのか、はっきりしない。柏崎刈羽を動かすのかどうか、東電の老朽火力発電をどれだけ取り替えるのか、明らかではない。電力供給について国があてにならない以上、首都圏の自治体が官民連携インフラファンドを主導して、“第2東電”のような世界をつくっていくことが求められている。
[復興ニッポン]
Posted by nob : 2011年11月17日 23:37