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こちらはまた新たな戦争のリスク、、、世界にもはや安全な場所はない。。。

■静かに「対イラン」軍事力増強をはかる米国

欧米諸国の「圧力と対話」戦略

 1月23日、欧州連合(EU)はブリュッセルで外相理事会を開催し、核開発を続けるイランに対する制裁措置として、イラン産原油の輸入禁止と同国中央銀行の資産凍結などを正式に決定した。この新たな制裁は、イランの原油、石油製品の輸入、購入と輸送に関する新規契約を禁じ、7月1日からは既存の契約分も含めて全面禁止としている。

 EUは中国に次ぐイラン原油の第二の輸出先で、イラン産原油輸出の実に18%を購入している。EUによる全面禁輸はイラン経済に大きな打撃を与えることになると見られており、イラン側の強い反発が予想されている。

 これに先立つ1月20日、EUの主要3ヶ国である英独仏と米中露の3ヶ国(通称EU3+3)は、「厳しい制裁を課すが、交渉のための窓は開かれている」とする声明も発表している。EUの外交・安全保障政策上級代表をつとめるキャサリン・アシュトン女史は、「EU3+3は常に(対話と圧力)を並行して行うことの有効性について明確にしてきた」と述べ、昨年10月21日にイラン政府に送った書簡を公開し、「我々は今もイランからの反応を待ち続けている」としてイラン政府に対話を呼びかけた。

 同じ日に、クリントン国務長官はドイツのウェスターウェレ外相との共同記者会見で、

 「我々は紛争を求めている訳ではないことを強調したい。イランの国民はよりよい未来を渇望していると我々は信じている。彼らはそのような未来を持つことができるはずだ。イラン国民は、彼らの政府が核兵器開発の道をきっぱりと断念しさえすれば、グローバル・コミュニティに再統合されることができるのだ。そしてそこで得られる利益を共有することができるのである。」

 クリントン国務長官は続けて昨年10月の書簡についても触れている。

 「昨年10月、E3+3メンバー国を代表してアシュトン上級代表がイラン政府に書簡を送り、もしイランが核計画について真剣に(我々の要求に)応じるのであれば、無条件に交渉する用意があることを伝えた。我々の立場は今も同じだ。EUは今日この書簡を公開し、イランからの回答を待っている。EUがこの(対話の)チャンネルを開き続けていることは重要だ、と私は考えている…。」

「落とし所」ない米・イラン関係

 オバマ政権とEUは、「圧力」のレベルを引き上げる一方で「対話」の窓口を開けて、イランを外交的な交渉へと向かわせようとしているようである。実際に水面下ではトルコなどの仲介によりEUとイラン間で接触がはかられたとも伝えられている。イラン側は「ホルムズ海峡封鎖」を示唆し、米空母に対して「この海域には戻ってこないように忠告する」と発表していたが、1月22日に米空母エイブラハム・リンカーンがホルムズ海峡を通過した際には何もせずに見過ごした。

 またおそらくはオバマ政権の圧力によるものと思われるが、イスラエルのバラク国防相は1月18日、イランへの軍事攻撃について「何の決定もしていない。(決定は)遠い先のことだ」と述べ、イラン攻撃に近く踏み込む可能性がないことを明らかにした。またイスラエル政府は、春に予定されていた米軍との史上最大規模の軍事演習を今年後半まで延期することも発表し、イランとの軍事緊張を一時的に和らげることに貢献した。

 欧米諸国はイランに対する「圧力」を強め、同時に「対話」を呼び掛ける作戦を展開しているが、イラン側がどのように出てくるかは定かでない。しかも、いくら交渉をしたとしても、イラン核開発問題の解決策が出てくる可能性は極めて低く、再び「交渉決裂→緊張」という流れに戻ってしまう可能性が高い。米国はイランが全てのウラン濃縮活動をストップさせない限り制裁の緩和に応じることはできないだろうし、イラン側がその要求に応じる可能性はほとんどないと考えられるからだ。

 2009年にオバマ政権はイランに対話を呼びかけ、対話を進めるための第一歩としての信頼醸成措置についてイラン側と協議をしたが、両国はそれにさえ合意することができなかった。その後両国共に強硬姿勢に戻り、米国は制裁措置を強化し、イラン側は核開発をさらに進めたことで、両国共に妥協のためのハードルを高く上げてしまっている。

 つまり、イラン核問題をめぐる米国とイランの対立は、すでに妥協のための「落とし所」がないところまで進んでしまっており、どちらかが、それまでの主張を全面的に取り下げない限り、解決しないところまで来てしまっている。しかもイランは3月2日に議会選挙、米国も11月に大統領選挙を控え、お互いに外交的な妥協をできるような政治状況にはない。

ペルシャ湾周辺で戦力を増強する米軍

 オバマ政権は決して軍事衝突を望んでいる訳ではないが、外交的な「圧力と対話」の戦略も、イラン核開発問題の解決には繋がりそうにない。現在の軍事的緊張は一時的に緩和される可能性があるが、根本的な解決策がない中で、また緊張が高まり、このままいけば破裂するところまで進んでしまう危険性がある。

 だから米国は、万が一に備えて、静かに湾岸地域における米軍のプレゼンスを強化している。米国防総省はクウェートに米陸軍歩兵部隊とヘリコプター部隊合わせて15,000名規模の緊急展開部隊を配備し、これまではイラクへの補給及び兵站宿泊基地として機能してきた在クウェート米軍基地の戦闘能力を強化している。これらの戦闘部隊は、イランとの軍事的な緊張を受けて、何らかの軍事的危機事態が発生した時に対処する「緊急対応部隊」としての役割を担っているとされている。

 このうちの4,500名は昨年12月にイラクでのミッションを終了した後そのままクウェートに移動した米陸軍第1機甲師団の第1旅団であり、同旅団は「移動型対応部隊」の役割を果たすという。

 また最近米国はペルシャ湾近辺にカール・ビンソン空母機動部隊を送り、前述したように1月22日には空母エイブラハム・リンカーンがホルムズ海峡を通過して同海域に留まっている。つまり米軍は、空母機動部隊を2個グループこの海域に送り、航空・海上戦力を倍増させてイランを牽制しているのである。

 またソマリア沖には米海兵隊遠征隊(MEU)を乗せたバターン両用即応グループが待機しており、2,000名規模の海兵隊が即応態勢をとってイランに睨みを利かせている。

 制裁強化による「圧力」と交渉による「対話」の2段構えでぎりぎりの外交を仕掛ける米国とEU。そして万が一に備えて着々と戦力を増強する米軍。EUによる全面禁輸が発動される7月1日に向けて、ペルシャ湾地域の軍事的緊張は否応なしに高まることになろう。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2012年01月27日 12:59