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電力改革決戦、春の陣/知恵と情報を結集し自らの頭で考えよう Vol.2

■「46都道府県に使用済み核燃料を分散して保管する」
福島第一原発4号機建屋に入った唯一の国会議員、馬淵澄夫・元国交相との対話(上)
山岡 淳一郎

 前回「『枝野VS東電』『原発再稼働』ではない問題の本質」で、錯綜する電力改革論議の論点を整理し、その本質が根本的なエネルギー政策の練り直しであることを示す見取り図を提示した。そこで浮き彫りになったのは核燃料サイクル問題の重要性。明確な意思表示をする政治家が少ない中で、馬淵澄夫・元国交相は「原子力バックエンド問題勉強会」を立ち上げ、「技術的、経済的に核燃料サイクルはフィクション」と問題提起を投げかける。馬淵氏にノンフィクション作家の山岡淳一郎氏が真意を聞いた。

山岡:現在、エネルギー政策の新方針「革新的エネルギー・環境戦略」の策定(夏)に向けて政府内でさまざまな議論が進んでいます。東電の国有化や原発再稼働など派手な話題に世間の耳目は集まりがちですが、電力改革の本丸は、むしろ総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会で議論されているエネルギーの「ベストミックス選択肢」。ここで原発をどう減らすか、他の電源とどう組み合わせるかが論じられています。

 そしてベストミックスと非常に密接に関連しているのが原子力委員会で検討中の「原子力政策大綱」の練り直し。とくに「核燃料サイクルの選択肢」をつくること。原発を減らせば、必然的に核燃料サイクルは先細る。原発がゼロになれば、使用済み燃料を再処理して軍事転用できるプルトニウムを抽出し、MOX燃料をつくって原発でリサイクルする意味はなくなります。ベストミックスと核燃料サイクルは、電力改革で極めて重要なテーマですね。

馬淵:そうです。電力改革論議のメインストリームです。

山岡:馬淵さんは原発の推進派、反対派、立地選出議員など民主党内73名の議員で「原子力バックエンド問題勉強会」を組織され、先ごろ「第一次提言」をまとめられました。そもそも使用済み燃料の処理問題に突っ込もうと思われたきっかけは何だったのですか。

「押しつぶされそうな恐怖を感じました」

馬淵:理由は二つあります。第一に菅総理から原発対応の首相補佐官に任命され、国会議員でただ一人、福島第一原発4号機の建屋内に入ったことです。補佐官となって、すぐに陸海空で漏れ出る放射性物質の封じ込めと4号機の耐震補強工事を命じました。大きな余震で、4号機の核燃料プールが崩れたら、再臨界もありうる。恐るべき状況でした。他の工事は無線でリモート化できたけど、4号機燃料プールの耐震補強は、高線量下の有人作業が避けられませんでした。これには判断に、もの凄く苦しみました。でも、やんなきゃいけない。要員確保も難しい短サイクルタイムでの作業にゴーを出した。そして工事の現認のため昨年6月11 日、4号機建屋に入ったんです。

山岡:6月じゃ、通電していないから、真っ暗ですよね。

馬淵:ええ、押しつぶされそうな恐怖を感じました。完全防護で、許された時間は20分間。頭上は真っ暗闇で、厚さ1.5メートルの床版、コンクリートの塊が覆いかぶさってくる。それが崩れるかもしれない状態で耐震補強でしょ。床版の上には使用済み燃料が1590本も入っている。使用中のものまで混じってね。補強はコンクリート打設の余裕なんてないから、鋼製支柱を床版の梁に林立させて、組むわけです。人力で必死に組んでね、しっかりプールを支えていましたよ。

 作業員には、ほんとに頭が下がりました。と同時に、被災して故郷を奪われ、家族バラバラになっている方々のことを思うと、胸が張り裂けそうだった。この責任は、いったい誰が取れるんだ、と。しかも全国54基に全部燃料プールはあると言うんだからね。いや、とんでもない。そこが出発点でした。

「中断していた原子力政策大綱の見直しが、突然、動き出した」

山岡:昨夏の民主党代表選挙に立候補されて、脱原発依存、バックエンド問題の解決を訴えましたね。

馬淵:代表選でバックエンド問題を言ったのは僕だけでした。だけど泡沫候補扱いされて、24票で敗れました。それが8月29日。で、翌日、中断していた原子力政策大綱の見直しが、突然、動き出した。うわっ、と思った。これは、見ていたわけでしょう。

山岡:……原子力まわりの政治のようすを、ね。ムラの人たちが(笑)。

馬淵:調べたら、原子力政策は大綱見直しだけで動く話じゃなかった。野田政権は、資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会で基本計画を見直して「ベストミックス」をつくるところからやる、とわかった。こっちは需要から組み立てる。でも産業に必要な電力供給の話になれば、原発見直しの機運なんて高まりません。

 ならば、やっぱり大綱のバックエンド。人類の存亡がかかるリスクを抱えて、目を背けることができない課題で、一番重い。これしかないな。ここに焦点を絞って突破して、ベストミックス、発送電分離、東電国有化、原発再稼働の再考などへ戦線を広げていこうと決めました。これが二つ目の理由です。

山岡:核燃料サイクルの一点突破、エネルギー政策への全面展開ですね。だけど、勉強会の立ち上げは簡単じゃなかったでしょう。国会議員の皆さんは、地元で電力会社のお世話になっていますからね。地域随一の企業の方針に逆らうかもしれないのだから。

馬淵:一人ずつお願いしました。イデオロギー的な流れで、反原発の人ばかり集まってもしょうがない。推進派、原発立地選挙区の人にも入ってもらって、地元の合意をとるプロセスを踏んでいかなきゃいけない。そこは大前提でした。とにかく虚心坦懐にバックエンド問題と向き合って、立場を超えて勉強し、議論しようと呼びかけました。

「責任保管の概念が鍵ですね」

山岡:なるほど。14回の勉強会と、茨城県東海村大洗の研究所、青森県六ヶ所村の再処理施設、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」を視察して、一次提言をまとめましたね。検証の基本原則に「受益と負担の公平性」「公的関与の強化」「科学的知見の蓄積」そして「モラトリアム」を掲げています。

 そして「責任保管」の概念を提示した。これが鍵ですね。従来の「中間貯蔵」ではなく、国が中心になって責任保管体制を整備した上で、六ヶ所村の再処理施設は稼動を当面中断、MOX燃料を軽水炉で燃やすプルサーマルも当面中断する、と。責任保管って何ですか。

「核燃料サイクルはフィクションです」

馬淵:一次提言は、結論を書いてはいません。あくまでも問題提起ですが、技術的にも、経済的にも核燃料サイクルはフィクションです。基本的に「立ち止まって考えるべき」だと思う。その時間を確保することが大切です。国際競争の観点からも、複数の政策を可能にする時間が必要です。なので、将来的なメドが立つまで、放射性廃棄物を、50〜100年間くらい、責任をもって保管する体制に転換していきます。具体的には、使用済み核燃料については、その需要者(電力会社)と負担者(自治体)の公平性が保てる状況を築きながら、「ドライキャスク(乾式貯蔵容器)」で保管する。

 案1では、沖縄を除く各都道府県に一か所ずつ、この責任保管場所を設置することを原則としました。ただし、自治体間で合意があれば、ある自治体が他の自治体の保管すべき使用済み核燃料を引き受けることも認める、としています。

「46都道府県で使用済み燃料の保管負担をシェアする」

山岡:要するに46都道府県で使用済み燃料の保管負担をシェアするわけだ。原発の電力を使っている大都市圏の受益者も、それに応じて負担をしなさい、と。原則論としては明解ですが、各都道府県の現場は紛糾するでしょうね。政治がどうコミットできるのか。

馬淵:これは激論が交わされたところですが、実際にやるとなれば、大騒ぎになります。しかし避けては通れない議論です。自治体間取引も認めるとしていますから、お金で解決もアリなんですね。じゃあ、どういう権限で国が公的範囲の関わりを強化しながら、自治体間で、その取り決めしてもらうか。これは大変なことになります。案1というのはある意味、問題提起のど真ん中なんですね。

 それで、案2で、9電力会社の管内で保管する例もあげました。ただ、これは僕自身、書いていてちょっと否定的だったんです。それを認めると9電力体制の是認になりますからね。でも例示としては必要だろう。案3は、国が全国のバランスを考えて、いくつかの国有地を選択し、そこに責任保管場所を設置するというもの。これも実際には難しい。やはり、案1を中心にどう折り合いをつけていくか。

山岡:「3.11」以降、取材で福島県に通っていますが、除染で出た放射能を帯びた廃棄物の「仮置き場」ですら地元では猛烈な反発が起きて、なかなか決まらない。厄介なモノを排除したい欲求と、皆で負担しなくては泥船が沈む現実。これに折り合いをつけるには政治の力が求められますが、やはり説得材料は、お金ですか。

馬淵:もちろん、いずれの場合でも責任保管場所から半径三〇キロ圏内の自治体あるいは住民に対する財政措置は必要でしょう。財源としては、原子力発電を行っている電力会社の顧客への賦課金の創設や、電源三法の見直しなど、いろいろお金の出し方はある。そこは考えなきゃいかん。ただね、大事なのは、どのような原則で、何から議論するかという順番だと思います。まずは、使用済み核燃料の処理は、電力を使う自分たちの問題なのだという原則を、全国で負担を分け合う議論から始めることで確認しなくては。

山岡:実際には、ドライキャスクにせよ、保管先が全国に散らばれば、セキュリティ上の問題なども生じますね。

馬淵:安全保障の観点からは、集約化した方がいいわけです。警備の点から見ても。じゃあ、集約化するには何処がいいかとなると、またすぐに、青森の六ヶ所村があるじゃないかという人が出てくる。でも集約化するから青森では、何の見直しにもならない。そういう話にした瞬間、受益と負担の公平性の大前提が崩れるわけです。

山岡:青森県は、核燃料サイクルの国策に沿って、再処理施設を造ってきました。国と青森県の間には「最終処分場にはしない」という約束があるから、核燃料サイクルをやめるとなった瞬間、預かっている放射性廃棄物が「原発のごみ」となり、各原発に送り返される可能性もある。それはかなわん、青森県さん預かって、という県も出てくるかも。

馬淵:青森県が、じゃあ代わりに保管しようと言う可能はゼロではないかもしれない。案としては自治体間取引も認めています。自治体間取引が現実になる可能性は否定しません。ただし議論の出発点、プロセスが重要です。立地自治体と受益者である自治体が、本当に自らの問題として考えた結果として自治体間で取引されるならいいでしょう。

「受益と負担の公平は大原則」

 しかし、いままでの原子力政策は、そういう原則を決めず、なし崩し的にお金で解決しようとやってきた。その結果が、このありさまです。最初から狭い選択肢で決め打ちするのではなく、広い視野で絞り込んでいくプロセスが必要。悩ましいけれど、受益と負担の公平は大原則だと思う。

山岡:今回の提言は「人」と「組織」の問題にも踏みこんでいる点が目を引きます。実質的に研究開発が凍結中の高速増殖炉「もんじゅ」の関係者は2千人いるといわれます。

馬淵:一直線の核燃料サイクル路線から撤退するとはいえ、科学的知見の蓄積は求められます。今後、廃炉などの技術の確立も欠かせません。もんじゅの研究者は、研究修了というか、いわゆる卒業論文を書かないといかんわけですよ。卒業論文を書いて、卒業証書をもらう段階です。だからと言って、40パーセントの出力実験を認めて、目いっぱいやっていいよという話ではない。それは認められない。

山岡:原子力研究開発機構(JAEA)の改組にも触れていますね。

馬淵:はい。バックエンドの研究と対応の機構を設立し、そこに核燃料の処理の研究や福島第一原発や既存原発の廃炉処理を担当させる。その際、核融合研究など新エネルギーに関連する部分は、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)へ、J-PARC(大強度陽子加速器施設)などの基礎研究部門は理化学研究所などと新たに統合改変される研究開発型法人に、安全研究については、4月に発足する原子力規制庁へとそれぞれ移管していけばいい。

山岡:旧核燃料サイクル機構と旧原子力研究所が合体したJAEAは、組織を維持するのは難しいですか。

馬淵:どう考えても、JAEAはいまのままでは無理ですね。もともと現場に近い核燃料サイクル系と、研究畑の原研では組織間の文化や考え方がかなり違います。連携もよろしくない。だから現場に近い核燃料サイクル系の人たちは、福島第一の廃炉技術開発とバックエンドの研究・対応を合わせた新機構を設けて、そこに集約する。現場と関わった方が、彼らの力も生きるでしょう。原研系の研究グループは、研究テーマに沿って他の組織と統合していく。そう考えました。

「廃炉とバックエンドの開発機構は、新たにつくる」

山岡:廃炉とバックエンドの開発機構は、新たにつくるわけですか。

馬淵:そうです。われわれの議論のなかで、行政改革の流れを重視して、原子力規制庁に統一しろという意見もありましたが、あえてバックエンドの機構を設けようということを提言しています。それほど直面する課題が大きいから。でも、もちろん行革は重要ですから、自分たちの案に固執しているわけではありません。組織の統廃合は不可欠です。

山岡:再処理を中断すれば、事業者の日本原燃は経営に行きづまりますね。

馬淵:再処理が止まれば、原燃の債務超過が発生します。だから、原燃に関しては、提言で、その「会社のあり方・国の関与のあり方を含め、ゼロベースで検討する」と記しています。原燃は、電気事業連合会と日本原子力発電の出資でスタートしましたが、実質的には東京電力の子会社です。東電が原子力損害賠償支援機構の資本注入で国有化されれば、当然、原燃も国有化の道をたどる。そのとき、国の関与のあり方は、公的資金の注入を含めて、どうするか。議論を組み込まなくてはいけません。

山岡:ムラの人たちの抵抗は、激しいでしょうね。

馬淵:福島の教訓を得たわれわれが、少なくとも今後、果たすべき役割は、科学的知見の蓄積とイノベーションで放射性物質の除去、廃炉、核燃サイクルを止める方向にあるでしょう。原子力の平和利用というなかで、平和的収束に取り組まなくちゃ。

山岡:原発の看取りをするわけですね。原発を看取って、一方で、新たなエネルギー源を生み、育てなければいけない時期にきている。

「韓国は、最近、しきりにアメリカに再処理をやらせてくれ、と申しこんでいる」

馬淵:結果的にはね。すぐゼロにできないことはわかっています。ただ、核燃料サイクルは、やっぱり提言でも結論づけましたが、フィクションです。フィクションを永遠に回すわけにはいかない。一次提言を踏まえて、次の課題が見つかりました。その論点整理に、そろそろ入ります。

山岡:次の課題とは?

馬淵:やはり「エネルギー安全保障」に関する部分です。再処理は、とくにそこにかかわってくる。韓国は、最近、しきりにアメリカに再処理をやらせてくれ、と申しこんでいる。北朝鮮の問題があるから。もちろんアメリカは首をタテには振りませんけどね。

(次回に続く)

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2012年04月05日 12:54