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電力改革決戦、春の陣/知恵と情報を結集し自らの頭で考えよう Vol.4

■「大飯原発再稼働」で野田政権がぶち当たる岩盤
「電力不足」「料金値上げ」「原発再稼働」に張られたリンク
山岡 淳一郎

 電力改革をめぐる動きが、乱戦、混戦の様相を呈している。野田政権は、遮二無二に関西電力大飯原発3、4号機を再稼働させようとしているが、「安全対策」「地元の了承」の両面で、巨大な岩盤にぶち当たっている。

 連載初回で「電力改革の見取り図」を示したが、原発再稼働の必要条件である安全対策分野で、4月1日に発足するはずの「原子力規制庁」の設立が大幅に遅れそうだ。根拠となる「原子力安全改革法案」の国会審議入りのめどが立たない。

 この法案には、経産省から原子力安全・保安院を分離し、環境省の外局にすえる組織改革が含まれる。「原発運転は原則40年」「原発立地地域での防災計画づくり」や事業者への安全対策の「新基準」なども盛り込まれている。

 自公両党が審議入りに応じないのは、規制庁は内閣から高い独立性をもつ公正取引委員会などと同等の「3条委員会(国家行政組織法)」にすべき、設立は6 月の国会事故調査委員会の報告を待ってから、などの根強い意見があるためだ。このまま野田政権が政府案に固執して、内閣の関与を残そうとすれば、6月21 日の国会会期末までに法案は成立しないかもしれない。

 今後、原子力規制庁という安全対策の「支え」を欠いたまま、政府と電力事業者が再稼働を進めようとすれば、脱原発、脱原発依存の「民意」という岩盤に真っ向からぶつかることになる。

原発の爆発事故で吹き飛んだ「原発から半径8〜10キロ圏内」の防災対策重点地域

 さらに、「広域化する地元」という岩盤もそそり立つ。これまで国が再稼働を決める際、協議を求める地元は福井県と、立地自治体のおおい町に限られていた。

 しかし、原発の爆発事故で、防災対策重点地域を「原発から半径8〜10キロ圏内」とした従来の防災指針は吹き飛んだ。被害が指針を超えて途方もなく広がってしまった。

 福島第一原発から10キロ以上離れている南相馬市は、かつて国に原発事故への防災計画を立てたいと申し入れたが、「住民の不安をあおる」と拒まれた。

 その拒絶の「盾」になったのが、原子力安全・保安院だった。

 朝日新聞が情報公開請求した文書によれば、2006年3月、国際原子力機関(IAEA)が基準の見直しを示したのに合わせ、内閣府の原子力安全委員会が防災指針の改訂に乗りだした。半径8〜10キロの防災対策重点地域を廃止し、半径30キロ圏内の緊急時防護措置準備区域(UPZ)に拡大することが検討課題となった。

 すると同年4月下旬、保安院は、「社会的な混乱を惹起し、ひいては原子力安全に対する国民不安を増大するおそれがあるため、検討を凍結していただきたい」(朝日新聞2012年3月15日夕刊) と文書で申し入れた。さらに「IAEAの正式な決定と我が国の防災指針の見直しは……リンクさせるべきものではない」「一方的に防災指針について改訂の検討を開始したことは、貴課(安全委事務局管理環境課)の不注意と言わざるを得ず、誠に遺憾」と意見書まで送りつけたという。結果的に防災指針の見直しは行われなかった。

 この保安院の抵抗は、今回の原発事故で完全に裏目に出た。原発防災計画がなかった南相馬市は、政府の避難指示に翻弄される。仮にUPZが導入されていれば、昨年の3月11日夜、原発が爆発する前の段階で30キロ圏の住民は避難、屋内退避ができ、甲状腺被曝を防ぐ安定ヨウ素剤が服用できていた可能性もあるといわれる。

 南相馬市は、原発から20キロ圏内が立入禁止の警戒区域にされ、いまも1万3000人以上の市民が住み慣れたわが家を追われている。皮肉にも被災によって南相馬は「地元」に組み込まれた。あるいは村の大部分が30キロ圏外の飯舘村は、計画的避難区域に指定されて全村民6200人が避難を余儀なくされている。飯舘村も原発被災の地元となった。

 事実上、原発の10キロ圏を防災地域とみなす地元観は、爆発事故によって崩壊した。

 原子力安全委員会が防災範囲を30キロ圏に拡大する方針を打ち出しているのは、当然だろう。福井県の大飯原発の場合、30キロ圏に滋賀県や京都府の一部が入る。関西電力に原発廃止を求める株主提案を準備中の橋下徹大阪市長は、再稼働の同意を取りつける地元の範囲を「関西圏」まで拡げるべきだと主張する。原発の地元は拡大している。

 こうした動きに対して、政府は、防災上の30キロ圏と再稼働の協議対象は連動しないと説明する。だが、原子力規制庁を設置できず、広域の防災計画が「原子力安全に対する国民不安を増大」させると言い続けてきた保安院がそのまま残ったのでは、失われた信用を回復するのは難しいだろう。

 安全、防災面で、原発再稼働の準備が整ったとはいえない。

エネルギー安全保障における「安定供給」と「価格高騰」のリスクが再稼働の根拠

 しかし、野田佳彦首相、枝野幸男経産大臣とも再稼働なしには今夏の電力不足は乗り越えられないと判断している。電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は、稼動原発ゼロのまま昨夏並みの電力需要が発生すれば7〜9月で「41日間の供給不足が生じる」と見通す。枝野経産大臣は、原発停止が続けば代替火力の液化天然ガス(LNG)などの燃料費の増加で、電気料金が上るのは「必然」とも述べる。エネルギー安全保障における「安定供給」と「価格高騰」のリスクを再稼働の根拠としている。

 重要なのは短期的な需給ひっ迫への対応と、中・長期的な原発を減らす筋道をどうつなげていくかであろう。

 信頼性の高い需給見通しに基づいて、この夏の電力が決定的に足りなくなるのが明確ならば、暫定的な安全基準を設けて限定的に再稼働することは議論の的になる。だが、大飯の再稼働を機に他の原発もなし崩し的に動かそうとするのだったら、話は違ってくる。

 電力改革の見取り図で示したように、今夏の需給への短期的な対応策と、エネルギーのベストミックスや核燃料サイクル、発送電分離などの中・長期的な戦略が同時並行的に錯綜したまま論議されている。全体を把握できるのは、多くの審議会や委員会に事務方を送り出している経産省だけだ。だが経産省は、それぞれの論議のかかわりを丁寧に説明してはいない。

 そのような状態では、つい目の前の差し迫った問題に目を奪われ、その背景や中・長期的なテーマを見失いがちになる。あるいは専門性の壁の前で大多数の国民は立ち往生する。

「市場の構造的問題」と「調達戦略の乏しさ」で高止まりする日本のLNG価格

 たとえば、原発の停止とともに存在感が増した液化天然ガス(LNG)価格の高止まり。資源系のビジネスパーソンなら、日本のLNGが高いのは自明のことかもしれないが、他の分野の職業人にとっては疑問だらけだ。なぜ高止まりを当り前のように言うのだろうか。石油会社出身の資源アナリストに事情を聞いてみた。

 その理由は「市場の構造的問題」と「調達戦略の乏しさ」にあるようだ。

 まず前者だが、天然ガスの国際市場は欧州、北米、東アジアの三つに大別できる。石油が地球上でほぼ「一物一価」なのに対して、天然ガスはそれぞれのマーケットで値付けが異なる「地域商品」になっている。

 と、いうのも、天然ガス産業が地域主体で発展してきたことと関係している。最も早く産業化が進んだのは米国では、20世紀半ばにはパイプラインで南部のガス田から大量のガスを東部消費地に経済的に輸送できるようになった。米国政府はガス価格を低く抑えて消費増を図った。米国では長期契約価格ではなく、市場での価格でガスが取引されている。

 一方、欧州ではフローニンゲンや北海沖合のガス開発が進むにつれて大陸内のパイプライン網が整備された。世界一のガス保有国の旧ソ連からも東欧経由で西欧に供給される。さらに北アフリカのガスが液化されてLNGで欧州に届けられ、天然ガス市場が拡がった。ロシア産ガスは石油製品価格とリンクした長期契約価格、英国では市場価格で取引されている。

 日本を中心とする東アジアは、北米、欧州を追う形で市場がつくられた。四方を海に囲まれた日本は、1970年代に公害対策と脱石油から発電用燃料としてのLNG輸入が本格化する。安定供給を最優先した日本の電力、ガス会社は、メジャーと呼ばれる国際石油資本との取引を優先し、原油価格にリンクした長期契約を結んだ。

 その契約慣行が現在まで続いている。日本を含むLNG東アジア市場は、JCC(Japan Crude Cocktail)原油価格とリンクした取引価格による長期契約が主体だ。日本の国別輸入比率をみると、インドネシア、マレーシア、オーストラリアがそれぞれ20%弱で並んでおり、いずれも長期の輸入契約が結ばれている(2009年度)。

 震災前は全輸入量の約9割が長期契約で、短期・スポットは1割程度だった。原発が停止し、需要が増えても長期契約は締結済みなので追加需要に対応しにくい。中東のカタールを中心に、アフリカ、カリブ海諸国からも短期・スポット調達が行われた。11年に中東への依存度は約20%から27%へ拡大。スポット価格は需要増で上昇する。長期契約価格のほうも、投機マネーの流入で高値圏にある石油価格に引っ張られる。需要増と長期契約で日本のLNG価格は押し上げられている。

日本着LNGの平均価格は米国の市場価格の6〜7倍

 世界のLNG生産量が過去5年で約15%増加し、世界経済の減速で需給がだぶつき、欧米とも短期取引の価格は低下するなかで、東アジア市場のLNG価格は高いままだ。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のレポート『LNG、グローバルな視点からの考察』(JOGMEC 石油調査部・坂本茂樹氏) は、「2011 年3 月までLNG需給見通しが供給過剰と見られていたため、東アジアのスポット指標価格と英国市場価格NBPの価格差は$2/MMBtu(※百万英国熱量単位)程度だった。しかし3 月の原発事故以降、東アジア市場のLNG追加需要発生想定の下、両指標の価格差が拡大し、2011年12月上旬時点で価格差は約$8/MMBtuとなった」と記す。

 現在、日本着LNGの平均価格は約16ドル/MMBtuで、米国の市場価格の6〜7倍。欧州の平均は8〜9ドルで、ドイツが長期契約でロシアから輸入している価格でさえ10〜11ドル。船で運ぶLNGに頼りきった日本の弱点が価格に反映されている。

 では、市場の構造的な問題に対して、日本のLNG大口需要者である電力会社は戦略的な調達をしてこなかったのだろうか。東京電力は、「他の電力会社やガス会社と共同して購入するなどにより調達価格の低減に努めてまいりました。化石燃料がほとんど存在しない我が国において安定的にLNGを取得するためには、現在の長期契約を基本とする購入は有効」とHPに記載している。

 が、実際は、高い燃料費も電気料金に反映できる「総括原価方式」に安住し、戦略的な調達は行われてこなかったと指摘する声が多い。たとえば1990年代に日本国内に国土縦貫パイプラインを敷設し、ロシア・サハリン島大陸棚の天然ガスを首都圏に引く「サハリン1プロジェクト」の構想が高まったことがある。メジャーのエクソンモービルは、総延長2500キロの海底パイプラインを引く計画を立てた。

 天然ガスのパイプラインが通れば、各地の都市ガス網につなぐことができる。工場やIPP(独立発電事業者)は燃料を簡単に調達できるようになり、ガスタービンでの自家発電もより身近になる。サハリン1のパイプライン構想は、「安定供給」というエネルギー安全保障上の選択肢の拡大と、自由化への扉を開くと期待されていた。

 しかし、東電はパイプラインでの生ガス購入を拒否する。千葉県の袖ヶ浦などに大規模なLNG受け入れ基地を設けており、パイプラインは認めないという立場だった。と同時に自由化で独占体制が崩れるのを忌避したと伝えられる。サハリン1は頓挫した。

頓挫したサハリン1も、LNG路線で再起動

 日本の電力会社は、長期契約条件の見直しにも積極的ではなかった。ドイツでは2010年8月にメルケル首相が「欧州大陸におけるガス価格は、石油と切り離されるべき」と発言。ロシアに長期契約におけるスポット価格での販売量を、従来の10〜15%から40%へ拡大するよう主張する。11年12月にロシアの世界最大の天然ガス企業ガスプロムは、複数の欧州ガス需要家との間で10%程度の値引きで合意したと伝えられる。

 日本は、天然資源に乏しく、パイプライン網もなく、交渉カードが少ないことを理由に契約条件の見直しには消極的だ。イラン情勢の緊迫化でカタールからの輸入に黄信号が灯ると、調達先の多角化にやっきとなっている。オーストラリアの計画中だった案件が、次々と最終投資決定されている。北米のシェールガスでは韓国の後塵を拝したが、仕切り直しで手を伸ばす。アラスカのノーススロープ、アフリカのモザンビークのガス開発も脚光を浴びる。

 皮肉にも一度は頓挫したサハリン1も、LNG路線で再起動している。

 2月20日、資源エネルギー庁の高原一郎長官は、モスクワでガスプロムのアレクセイ・ミレル社長と会談し、日ロ共同でウラジオストクにLNG基地を建設する計画を確認しあった。サハリンやシベリアの天然ガスをLNGにして日本へ運ぶ算段だ。ガスプロムは、すでに伊藤忠商事と石油資源開発(JAPEX)、丸紅、国際石油開発帝石などが出資する「極東ロシアガス事業調査」と共同事業化調査の合意書を交わしており、政府がお墨付きを与えた格好だ。

 ウラジオストクでの生産は2017年に始まり、その量は20年前後に1000万トンに達し、大半を日本に輸出するとみられる。1000万トンは11年時点の日本の全輸入量の約13%に匹敵する。1兆円規模の7、8年先を見越したプロジェクトでも、LNGなら確実にもとがとれると判断しての投資だ。

 この高原長官の訪ロ直後から、枝野経産相の電気料金の値上げに対する発言が変わった。それまで「(値上げは)徹底した合理化努力の後、議論の俎上に載せるべき話」と慎重な姿勢だった枝野氏が、一転、BS朝日の番組で「電気料金が大きく上がる。これは原子力発電所を使わなければ必然的です。それも1%とか 2%ではなくて、5%とか10%とか15%とかで上がります」と料金値上げと再稼働を結びつけた。

信用失墜がすべてを困難にしている

 政府内で、何らかの「意思統一」が図られたようだ。夏の電力不足、燃料費高騰による料金値上げ、原発再稼働にリンクが張られた。

 が、しかし。4月1日から企業向け電気料金の平均17%の値上げを断行し、年間4000億円の収益改善を図ろうともくろんだ東電は、大失態を演じる。4 月以降に契約満了を迎える顧客は値上げ前の現行料金を継続できるにもかかわらず、「積極的に説明していなかった」(東電)ことが判明。西沢俊夫社長が陳謝した。

 信用失墜、それがすべてを困難にしている。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2012年04月06日 23:05